第11章忍び寄る魔の手2
朱く染まった空ぼんやり眺めてポニーテールの先っぽを何度か触る。
真理は一人で椿の家の裏庭にいた。
椿の家の壁に背中をくっつける。
目の前には音原家の綺麗に手入れされた庭。
ちらっと横を見るとガラス越しに家の中がみえる。
ガラスの向こうの部屋では椿と椿の叔母さんの菖が向かいあっている。
あぁ、緊張するなぁ。
私にできるのかな…
私は真っ赤な空を見ながら昨日の話し合いを思い出していた
昨日の話し合いの結果、
明日の土曜日に皆が椿の家に来ることになった。
遊びに行くという口実で。
叔母さんは嫌そうな顔をしたが、薊さんは笑顔で了承してくれた。
椿の家で事件の証拠を探すらしい…
でも、作戦はもう一つある。
私(真理)が夕方椿の家に忍び込んむ。
私が来る時間帯を見計らって椿が叔母さんに相談を持ちかける。
私はその会話を盗み聞きして椿が危ない目に遇わないか監視する。
正直、気が進まなかった。
盗み聞きなんてそんな悪いことできない!
っていうのもある。
もし椿が危ない目にあったとき、私じゃどうにもならないのでは…というのもある。
色んな不安要素が頭の中をぐるぐるしていた。
お腹が痛くなってきそうだ…
ダメだ、集中しないと、会話を聞かないと…任されたんだから。
ガラスの中では叔母さんが困った表情で椿の質問を受けている。
「そんなこと聞かれても…
…あなたには関係ないことで…」
どうやら椿のお母さんの昔の話を聞いているらしい。
聞き取りにくくてガラスにもっと近づく。
その時。
「何してるの」
冷たく澄んだ声がした。
真理はビクッとして振り向く。
「雪ちゃん…!」
如月雪だった。
雪はまっすぐ真理を見据える。いつもと違う冷たい目線に真理はしどろもどろになる。
「いや別にその…えっ…雪ちゃ…なんで」
雪はうたぐり深そうに目を細めた。
雪ちゃん、怖い…
こんな顔もするんだ…
思わず後ずさりして、
近くにあった花壇に気付かずに転んだ。
とんっ、と音がした。
まずい、気付かれる…
ガラスを見ると案の定、椿の叔母さんがこっちを見ていた。椿が心配そうにしている。
一気に青ざめる。
数秒か何も言えなくなっていると、急に雪に手を掴まれた。冷たい。
雪が凜とした声で言う。
「菖蒲さん、勝手に入り込んでごめんなさい。彼女は僕の友達で間違えて入ってきてしまっただけなんです」
真理の顔を覗き込んで
「ね?」
真理は無言で頷く。
雪はまた叔母さんの方を見て「大変失礼しました。じゃあ、これで」
そういうと、
呆然としている椿と菖蒲さんをよそに真理の手を掴んだまま歩き出した。
雪の手には力がこもって痛い。そして、ずっと外にいて冷えていた私の手より冷たかった。
よくわからないけど…助けてくれたのかな?
雪は無言で真理も話しかけづらくなり二人で長い間黙っていた。
その間に混乱した頭を整理する。
いくつか違和感があった。
一つ、雪はなぜ椿の家に来たのか。親戚だと言ってたし、家が近所なのかな?
二つ、いつもと違う様子。いつもは穏やかに笑っていて静かで優しそう。
さっき、私を冷たい視線で私を突き刺すように見ていた雪ちゃんはまるで別人だ…
そして、三つ、雪ちゃんは自分のことを僕…って言ってた?
今着ている雪ちゃんの私服はジーンズにパーカー。
女の子でも普通に着る服装だ。しかし私が持っているものより大きくて生地が硬い気がする…もしかして雪ちゃんは…
真理の疑惑の目に気づいたかのように、雪が振り向く。
真理は思わずビクッとするがどうやら違う。
目的地に着いたらしい。
その瞬間、聞き慣れた声がした。
「おねぇちゃん!」
その声の持ち主を理解するのと雪の両手が私の方へ伸びてくるのが同時だった。