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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
98/123

41.機械惑星の激闘

 プレイヤーデータ

 アバターネーム:ジャンヌ

 プレイヤー:平和

 アバターサイズ:ミドル

 使用武器:片手剣『ミスリルソード』

 スキル:『片手剣術』『騎士道』『ステップ』『索敵』

 所属騎士団:無し

 8月22日 関ヶ原中学 教室


 昨日は大変だった。まさか切り裂き魔に襲われるとは。あのDPOで戦った人は本当に切り裂き魔なのだろうか。

 幸い、直江先輩の処置が早くて椿さんは病院で解毒剤を飲むだけで済んだ。黒羽組による警備もまだ行われている。お父さんは熱地学院大学に対する内部告発の際、既に椿さんと面識があった。

 今私は、教室で文化祭の準備を進めている。ナハトさんと一緒に、である。

 「楽しみだね。文化祭」

 「随分先だけどね」

 二人で文化祭のポスターを作りながら話していた。これは夏休みが終わった後、文化祭の実行委員を募るためのものだ。

 「理架は高校、どこ行くの?」

 「うーん。まだ考え中」

 ナハトさんに行く高校を聞かれたが、まだ決めてない。一応体験入学に行ったけど、やっぱり一番この辺で進学校の北高校に行くかも。

 「じゃ、将来の夢は?」

 「それはあるよ。薬剤師とか」

 ナハトさんに将来の夢を聞かれた。私は薬剤師になりたいのだ。というのも、私は母が長く入院してた経験があり、そうした負担を減らそうと医療関係の仕事に付きたかった。

 「看護師も考えたけど、私体力無いし何より血がダメだし、薬剤師の方が向いてるかな、って」

 「理架は克服よりも折り合いを付けるタイプだね」

 ナハトさんに言われて気付いた。私は多分そっちだろう。直江先輩なんかは壁を破壊していくタイプだろうけど。

 「おっと、薬薬」

 ナハトさんは私の話で思い出したのか、薬を飲み始めた。ピルケースの中にはカラフルな錠剤が複数種類入れられ、ナハトさんはペットボトルの水でそれを一気に押し流す。

 「私が薬剤師になれば、その薬も数減らせるかな?」

 「さすがに無理よ。あの松永先生が頑張ってこれだもん」

 私の言葉にナハトさんは笑っていた。松永先生、つまり順さんか。あの人は遺伝子の組み替えで寿命が少なかった直江先輩を治す薬作ったり、副作用の無い抗がん剤作ったりする人だから、あの人が無理なら無理だろう。

 ふと、お母さんもたくさん薬を飲んでいたことを思い出す。

 「ま、でも松永先生は『天才的な助手募集』って言ってたからね。模試で全国一位の貴女ならあるいは……」

 順さんはエディさんがいなくなってから、家事手伝い兼助手がいないのか。一人じゃ無理なことも二人なら可能かもしれない。直江先輩も熱地を倒せたのはクラスメイト、そしてDPOの仲間のおかげだと度々口にしている。

 「あ、そうだ。あんた、凍空真夏と知り合いなの?」

 「へ、そうだけど?」

 いきなりナハトさんが真剣な表情で言う。表五家は恨みを買うもの、と真夏ちゃんが病院で言った言葉が脳裏に過ぎる。

 「何か用が?」

 「墨炎の妹になった、と言っていたが……本当か?」

 ナハトさんはこれまた複雑な表情で喋る。やはり、表五家の凍空財閥に何かあるんだ。

 「本当。真夏ちゃんは凍空財閥を解体するために親族を滅ぼして、今は直江先輩の家にいるよ」

 「そうか、松永先生の話は本当だったか。普段がいい加減なだけに、これだけは確かめたかった」

 ナハトさんは順さんが普段いい加減なため、聞いた話を信じられなかったのだ。おそらくナハトさんは順さんから真夏ちゃんが直江先輩の妹になった経緯を聞いているはずだ。

 しかし、順さんは技術知識共に天才だが、なんかいろいろいい加減なのだ。直江先輩もインフィニティ能力を使いこなすためにアドバイスを順さんから貰ったけど、『能力発動時は能力の名前を叫ぶ』など実にいい加減な物であったらしい。

 適当に言ってる順さんは嘘をついてないため、直江先輩はそれを見抜けず実行。結果、凍空財閥の親族一同を滅ぼすまで叫び続けた。そして、そのアドバイスに大した効果が無いことに気付いた。

 「そうか、真夏は無関係か。いや、こっちの話だ」

 ナハトさんは安心した様な表情になる。直江先輩がDPOで表五家廃絶を掲げた以上、その表五家である真夏ちゃんを妹にしたことを疑問視されても仕方ないだろう。

 「そうだ。今日はギアテイクメカニクルに行こう。最近、祭が催されてるらしいな」

 「祭? ゲーム内のイベントですか?」

 「いや、プレイヤーと防衛大臣が喧嘩してるらしい」

 ナハトさんはウキウキとした表情で詳細を語る。防衛大臣、つまりは渦海党の人間。今の政権で渦海党以外の大臣は少子化担当大臣の藤井佐上を除いて他にいないのだから。


   @


 今の防衛大臣、平和。名前苗字共に一文字。故に、フルネームで書かれるとたいてい、一つの熟語にしか見えなくなる。

 防衛大臣にも関わらず、かつての大日本帝国軍と自衛隊の見分けが付かないらしい。いや、防衛大臣以前の問題だ。そもそも、軍事行動のポジティブとパッシブ、このスタンスの違いは大学を出た人間なら知っているべきことだ。自衛隊は国防にしか動かない。

 また自衛隊を違憲と叫び、解体を目指しているらしい。確かに戦争はいけないことだ。だが、歴史を見ると黒船の時代然り、軍事力に開きがある国同士で対等な外交ができた例があるだろうか。日本は軍事力を背景に不平等な条約を押し付けられ、また押し付けた経験がある。軍事力が外交にもたらす影響は計り知れない。

 どう考えても国益、ひいては表五家の権益を損なう人選。だが、声の大きい人間というのは集団の中でも格別に面倒。つまり、渦海はこの人を黙らせる為に防衛大臣にして、実権は別の人に握らせてるのではないだろうか。

 DPOのリアルなシステムを見ればこの人が出てきた理由も察しが付く。かつて米軍は訓練の際、人の形をしたプレートを的に用いた。それまでは敵兵と対峙しても引き金を引けない兵士が続出していたが、この訓練を採用して以来はそうした事例が少なくなったらしい。

 人の形をした物を撃つのに、慣れてるか慣れてないかの違い。スポーツには『練習は試合の様に、試合は練習の様に』という言葉があるくらい、練習と試合の差異は小さいにこしたことはないのだ。

 つまり、DPOのリアルなシステムは人殺しの訓練になるとでも防衛大臣は言うのだろうか。ゲームといえ、人の姿をしたエネミーくらい、いる。そして、何もかも現実に似たあの空間。DPOで訓練を受けた兵士は、実際の戦場で何を思うのか。


 ギアテイクメカニクル シルバーツンドラ


 半分以上お父さんの受け売りである推察を頭で反芻しながら、私は目的の場所に来た。雪山、としか感想の持てない場所だった。

 寒いという感覚は無い。ただ、クーラーの効いた部屋にいるという感じだ。DPOのペインアブゾーバーは命に関わる暑さ寒さも防ぐみたい。今の私には助かる機能だ。何故なら、今日は動き易いように着替えてきたからだ。

 デニム生地のジャケットに同じ素材のホットパンツ。ジャケットの中はお腹が出ちゃうくらい短いタンクトップで、脚もあれだけ出すのは恥ずかしいからニーソックスをはいている。お店で名前を初めて知った。ベルトにポーチを留めて、この中に私の『新兵器』を入れた。ナックルも少し強化。

 DPOの服には防具になる物と、ただの服の二つがある。私が最初に着ていたのはただの服で、今着てる服やナハトさん達の学ラン、真夏ちゃんのドレスは防具になるやつ。

 服はショップで買うけど、防具は素材で作ってもらうしかない。これは防具屋に適当な素材を渡して作ってもらったものだ。

 私達は雪の中を、ある場所を目指して歩いていた。雪が深くて足を取られる。やたら青太郎さんだけ歩みが早く、赤介さんが遅かった。

 「この差は?」

 「青太郎は北海道出身、赤介は九州出身だ。雪に慣れてるかどうかの差だろう」

 ナハトさんはそう言った。私も慣れてるとは言い難いが、岡崎もたまに雪が積もる。それだけでも違うのかな?

 「見えましたぜ!」

 緑郎さんが叫んだ。目の前には町がある。そこに辿り着くと、何やら異様な光景が広がっていた。

 町は町だが、道には雪が積もっていて、どうやら舗装されていないようだ。しかし建物は現実にありそうなデザインで、自動ドアが付いてるものすらある。

 「まるでスキー場の休憩所だな」

 青太郎さんはこの町をそう評した。私はスキーなどしたことが無いから、わからないのだけど。でもオフシーズンのスキー場くらい行ったことがあるから納得は出来る。

 お父さんは休日くらい休めばいいのに、私をいろいろなとこへ連れてくのだ。多分、普段話せないのと私が平日部屋に篭ってるのを心配してだろう。だけど、私だって休日も休まない父親が心配なのだ。霧隠さんも「父親は休日に昼まで寝るもの」と言うし、そんな旦那を昼に起こすのが夢とも言う。

 なかなか思いというのはすれ違う。今度、みんなとお父さんを休ませる方法を考えてみよう。私一人では何ともできない。

 「で、お祭りって何です?」

 「あれさ」

 ナハトさんが指さす先に、ここに来た理由があった。銃器を持った集団が集まり、何かの準備をしていた。リーダーらしき女性がビールケースの上に立って、話をする。

 その人は腰の下まで伸びた、赤みのある茶髪をポニーテールにしている。つなぎを着て、寒いのに上半身は脱いで、腰の辺りでまとめていた。つなぎの下は黒いタンクトップ。長い銃を背負い、スタイルもよい。

 「クイン隊長! 防衛大臣討伐部隊、準備完了です!」

 「ご苦労」

 クインと呼ばれたその女性プレイヤーは、部下の報告を満足げに聞いた。

 「クイン! 来たよ!」

 「ナハトか。よく来てくれた」

 ナハトさんはクインさんと知り合いらしく、声をかけた。クインさんの隣には白いコートを着た、黒髪の綺麗な赤い瞳の少女がいた。以前会った墨炎ちゃんだ。赤い眼鏡もかけている。

 「おいおい墨炎、お前銃で大丈夫か?」

 「やりたかったんだよね、一度。こんだけいれば俺がネタプレイに走っても大丈夫そうだし、あいつら強くないだろ?」

 クインさんが心配そうに言うが、墨炎ちゃんは軽く答えるだけ。一見、文章にすると軍勢を過信して相手を侮った台詞に聞こえる。だが、よく聞けば冷静な判断だ。

 先程、部下が『防衛大臣討伐部隊』と言った。すると、まさかとは思うが防衛大臣の平和が相手なのだろうか。

 「ナハトさん、さっきの部下さんの言葉もしかして……」

 「ああ。昨日、そこのクインと防衛大臣の奴がトラブってな。無謀にも防衛大臣がDPOで戦いを挑んだのさ」

 やっぱりそうだった。多分、強いDPOプレイヤーは直江先輩が長篠高校のレクリエーション大会で熱地を倒したのもあり、金を積まれても協力はしないだろう。つまり、DPOに慣れた人間がいないだろう防衛大臣は不利。

 「実際、お前らこれより少ない人数であいつらを何度も倒したんだろ? 向こうさんも増援呼ぶかもだけど、仮面被ってたってことは増援は新生円卓のメンバーか。この時間帯なら新生円卓メンバーの大半は塾だろうし、いたとしても弱い」

 墨炎ちゃんは冷めた表情で分析していく。まるで直江先輩。そういえば直江先輩のアバターってどんなのだろ? 中継されたらしい長篠高校のレクリエーション大会だって、私も存在を当事者から聞いただけだし、実は直江先輩のアバターって知らないんだよね。

 「さあて、早く始めろよ」

 赤い髪の男性プレイヤーが懐かしの丸いポストの側で、フェンシングに使いそうな細い剣を手入れして喋る。この剣、昨日戦った赤いドレスの人も持ってたレイピアって剣だ。

 「あ、そういえば今日、マイルームのポストに手紙入ってたんですよね」

 ポストを見て、出掛ける前の事を思い出した。ポストに手紙が入っていたのだ。まるで私がポーチに入れた『新兵器』の中身を見透かすみたいに。

 「手紙?」

 「ネイチャーフォートレス薬学委員会、ってところからです」

 私はナハトさん達に手紙を見せた。一応、持って来たのだ。

 『リスティ様。我々ネイチャーフォートレス薬学委員会は貴女様を惑星薬剤師試験の受験資格者として認めます』

 手紙の内容はこの通り。ナハトさんや赤介さん達は、この手紙の内容に何やら納得して頷いていた。

 「プレイヤークエストだな。プレイヤー一人ひとりに用意されたシナリオだ」

 ナハトさんがその答えを言う。プレイヤークエスト。よくプレイヤー全員にこんなものを用意したものだ。

 「それって、大変じゃないですか? 特にシナリオ書く人」

 「このプレイヤークエストはDPOのシステムが作るんだ。だから、シナリオライターはいない」

 緑郎さん曰く、プレイヤークエストはDPOのシステムが自動で作ってくれるらしい。

 「脳波読み取ってるから、シナリオはプレイヤーの状況を反映したものになるよ」

 「なるほど」

 ナハトさんの説明で納得した。だからこの手紙は私の薬剤師に成りたいという夢とポーチの『新兵器』に関わっていたのか。

 「第一の関門は薬の材料集めか。ギアテイクメカニクルに自生する『白油草しろあぶらくさ』の採集。ここにありそう出し、探すか」

 ナハトさんの言葉で、私達はその白油草を探すことになった。防衛大臣討伐部隊は出発していた。

 「その草は雪山に生えてる。向かおう。防衛大臣の一団もついでに殺っちゃおうか」

 「いいんですか? 私のクエストに付き合ってもらって」

 「プレイヤークエストってのはそうそう参加できん。やらせてくれ」

 赤介さん、青太郎さんと話ながら私は雪山に向かうべく、町を出た。町に調度、雪山の遊歩道への入口があったのでそこからスタート。

 雪山はかなり幻想的で、しばらくノンビリ歩きたいくらいだが、今は我慢。走り抜けて白油草を探す。

 「プレイヤークエストの重要アイテムなら目立つ置き方がされてるはずですぜ!」

 「そうだな。私もあれを見た時は驚いた」

 緑郎さんのアドバイスでナハトさんが何かを思い出した様だ。なかなか緩やかながら長い斜面を駆け上がりながら、私は耳を傾けた。

 「私のプレイヤークエスト、キーアイテムの生徒手帳が光り輝いていたんだ。純金製で。まあ金持ち学園への潜入に使うし、納得だよな。多分、白油草もなんらかの理由で光り輝いているはずだ!」

 「多分油でテカってる……」

 私は嫌な予感を感じながら、カーブの多い道を駆けた。山道というのはよく、斜面の角度を和らげるためにグネグネ曲がって遠回りになっている。

 そこをゴロゴロと、私達に向かって道を塞ぐほど巨大な雪玉が転がって来た。嫌な予感が別方面で的中した。

 「【ヒートキック】!」

 ナハトさんが右足に炎を燈しながら飛び上がり、雪玉を破壊した。しかし、しばらく真っすぐなこの道、また雪玉が現れた。

 「【漢気ラッシュ】!」

 赤介さんが木刀で雪玉を粉砕。また雪玉は現れる。そこを緑郎さんの金属バットが狙う。

 「【バスターホームラン】!」

 雪玉は豪快に吹き飛んだ。空高くホームラン。しかし、現れたのは第三波。次は青太郎さんのチェーン。仲間は頼もしい。

 「とう!」

 「へ?」

 青太郎さんはチェーンを木の枝に引っ掛け、スパイダーマンの如く横に飛んで逃走。私達は全員雪玉に潰された。HPの減少は大したこと無く、雪玉に巻き込まれてスタートからやり直しということも幸いなかった。

 潰されたけど私達はペラペラにならず復活。再び走り始める。

 「今の流れなら確実にお前が雪玉破壊だろ!」

 「無理言うなチーム脳筋!」

 赤介さんと青太郎さんはしばらくケンカモードだった。互いに本気で怒ってはないだろうけど。

 そんなこんなでようやく頂上到着。頂上は広場になっており、白く輝……テカる白油草が真ん中にあった。何故か山の頂上に巨大なイカダが置いてあることについては触れない方が良さそうだ。

 「見つけた!」

 私はそれを摘んで、メニュー画面に入れる。白い草なのだが、手に白濁した油がめちゃめちゃ付く。これでここの用事は終わり。次は『アトランティックオーシャンで止水の入手』。その止水とやらさえ手に入れれば第一の関門はクリア。それより、さっきから銃声が聞こえているのが気になる。

 「なんか銃声が聞こえる」

 「あ、あれか」

 ナハトさんは銃声の正体を見抜いた。私達がこの頂上広場に来たのとは違う道から、鎧を着た女性とそれを追うクインさんがやって来た。

 「死にさらせ!」

 「ぎゃあああ!」

 クインさんはやたらとデカイ筒を抱え、それからミサイルを飛ばして鎧を着た女性を爆撃した。

 「防衛大臣、討ち取ったりー!」

 「これが?」

 クインさんが高らかに宣言すると、青色のウインドウが現れて防衛大臣討伐部隊の勝利を告げる。クインさんが来た方から、レイピアを持ったさっきの赤い髪の男性も来た。

 ナハトさんは鎧の女性をゲシゲシ蹴り、防衛大臣かどうか確認していた。

 「遅かったではないか田中丸くん」

 「おいおい、ロケランをこんなにぶっ放されちゃ出番無いよ」

 クインさんに田中丸と呼ばれたこの男性は残念そうに、手にした剣を鞘に収めた。扱いが赤いドレスの人より手慣れている。

 「貴様ら……、この平和に対する反逆者め!」

 なんとか鎧の女性は立ち上がろうとするが、赤介さん達が雪を被せて埋めているのでそれもできなかった。

 「この人が防衛大臣の……」

 「平和。国を守る気の無い防衛大臣さ」

 クインさんによると、この人が渦海親潮内閣の防衛大臣、平和らしい。

 「武力を持てば戦争になるぞ!」

 「武力無いとあっという間に攻められて終わりだよ。言い換えれば防衛力」

 平は何か言ってるが、クインさんの言う通りだと思う。かつて日本がモンゴルに襲撃された際、武力で劣ったから不利になったのだし。

 「さて、コイツの処分をどうするかだな」

 「待てクイン。何か聞こえないか?」

 平の処分を考え始めたクインさんをナハトさんが止める。確かに、何かうごめく様な音が足元から聞こえる。

 「下だ!」

 田中丸さんが叫んだ。広場の地面が砕け、中から巨大な白い蜥蜴が姿を見せる。手足がスキーの板みたいになっている。背中は巨大で肉厚なひれがついている。広場は破壊され、山が崩れた。幸い、私達が登って来た方向、つまり町がある方向とは逆に雪崩ていった。

 「ちょっと……これ……?」

 私達は全員、いつの間にか頂上にあったイカダに乗せられ、雪崩をサーフィンしていた。そのおかげで雪崩には呑まれてないが、蜥蜴もイカダを追っている。

 しばらく風景が霞む。それはすぐ晴れたが、すでに場所が変わっていた。さっきの頂上より高い雪山から私達は滑り落ちていた。雲が下に見える。

 「乱入されたか。ツンドラドラゴン。コイツはこのイカダで雪の斜面を下りながら倒す」

 ナハトさんの言葉を聞いて私は愕然とした。なんて無茶をやらせるんだ。とにかく、ツンドラドラゴンを倒さなければ死ぬ。

 「落ちるとだな」

 「ちょま……」

 クインさんは平をイカダから落とした。平はそのまま高速で後ろへすっ飛んで行き、後ろを追うツンドラドラゴンに衝動してHPを全て失った。物凄く鈍い音がしたけど、現実なら全身骨折で済めば幸運だ。

 これでイカダにいるのは私とナハトさん、赤介さんに青太郎さんと緑郎さん、クインさんと田中丸さんだけだ。

 「落ちなきゃいいのね……」

 「さあ、攻撃攻撃」

 クインさんは何やら長い銃を取り出して撃つ。スコープ覗いてるからスナイパーライフルだろう。クインさんが引き金を引く度、ツンドラドラゴンに赤い点が現れる。

 「私達は……」

 「奴が隣に付けたら飛び乗る!」

 ナハトさんの指示で、私達はツンドラドラゴンがイカダの横に付けるのを待つ。ツンドラドラゴンはイカダとの距離を詰める。ついにツンドラドラゴンはイカダの隣に辿り着いた。

 「今だ! 乗れ!」

 私達近接武器チームは一斉にツンドラドラゴンの背中に飛び乗り、攻撃を開始する。ツンドラドラゴンの背中は太いひれが付いていて、そこを攻撃するようになっている。

 「なるほど、モンハンのジエンモーランみたいなもんか」

 「最近のモンハン、わかんないんだよなー」

 赤介さんと青太郎さんはそのひれを叩く。緑郎さんも追撃を加えていく。

 「ついて来い、元円卓幹部!」

 「あれは黒歴史だ……」

 ナハトさんは田中丸さんを率いて、尻尾の方へ向かった。田中丸さんは元円卓の騎士団幹部だっけか。ナハトさん達から話は聞いたことがある。

 「理架は頭だ!」

 「わかりました!」

 私は頭に向かう。ツンドラドラゴンの頭は隙だらけ。背中から首に乗り移り、後頭部に打撃を加える。

 「固い!」

 しかし、手応えが無い。鱗が相当に固いのだ。だが、こんな時のための『新兵器』。今使う。私はベルトに留めたポーチから、試験官を取り出す。その中には赤い液体がたっぷり入っていた。

 「【増力剤】!」

 『製薬』スキルで作った薬、増力剤。これを飲むと攻撃力が上がり、防御の固い敵にも攻撃が通るのだ!

 「【ラッシュ】!」

 それを飲み干した私は、ツンドラドラゴンの後頭部にラッシュを浴びせる。さっきと違い、鱗に陥没した様な痕を残せた。

 背中サイドでも騒ぎが起きており、ひれは殆ど削り取られていた。

 「待て、まだ尻尾が! 【ザン・レイジ】!」

 田中丸さんが慌てて尻尾を切り落とす。何かあるのだろうか、尻尾に。

 「理架! 頭もぶっ壊して!」

 ナハトさんに言われ、私は頭に攻撃を加える。ストレートやラッシュを大量に放ち、増力剤の効果が切れる前にダメージを与えていく。

 『技を習得しました! 拳術【ハイキック】』

 なんかきた。とにかく使ってみよう。話はそれからだ。

 「【ハイキック】!」

 この技は強力な上段蹴りだったらしく、私は跳び上がってツンドラドラゴンの後頭部に蹴りを喰らわせた。

 「な、何……?」

 すると、何故かいきなりツンドラドラゴンが体勢を崩した。私達も背中から投げ出された。あ、死んだかも。

 しかし、気付いたら私達は雪が積もっているが平面な場所にいて、ツンドラドラゴンは倒れ、事切れていた。尻尾も切れてる。

 「素材、素材っと」

 クインさんが真っ先にツンドラドラゴンの素材を取りに、死体へ走り出した。私達も素材を取りに行く。死体の頭、首、体、切れた尻尾に青白いウインドウが現れた。あれに触れるとツンドラドラゴンの素材が手に入るに違いない。

 まず頭、出て来たのは『ツンドラドラゴンの角』二つ、『ツンドラドラゴンの甲殻』、『ツンドラドラゴンの鱗』。次に首、出たのは『ツンドラドラゴンの甲殻』が三つと『巨龍の血』。今度は背中、『巨龍の骨』が二つと『ツンドラドラゴンの氷』が三つ。身体が大きいだけに取れる素材が多い。

 切れてる尻尾にもウインドウがあるので、それにも触れて素材を回収する。手に入ったのは『ツンドラドラゴンの尻尾』。

 「やったー、宝玉ゲット!」

 「いいなー」

 「あたしいらないからやるよ」

 赤介さんがさらにレアらしき素材を手に入れて喜び、青太郎さんがうらやましがるとクインさんが宝玉を渡した。とにかく、私は素材云々より生きてたことに感謝した。

 「全く防衛大臣も馬鹿な奴だぜ。あたしら、現実で人撃つ勇気なんて無いよ」

 クインさんが倒れている防衛大臣をゲシゲシ蹴りながら言った。私はそんな彼女の隣に立って、賛同した。

 「ですよね」

 「このゲームやってると尚更さ。反動も感じられるし、撃った奴が血を流して倒れる光景も見た、これがゲームでよかったよ」

 平和が思うほど、DPOプレイヤーは愚かじゃない。ゲームだからこそできるんだ、そういうこと。私だって、こんな寒い所にこんな薄着でいるなど、ゲームでなければしない。

 「触れてないからこそ、アホ考えるのさ、こいつらは。滅んだからいいものを、凍空財閥の製薬部なんて海外から自分の儲けのためだけに渦海ぐるみで薬をシャットダウンしてたんだよな。難病の患者が薬を手に入れられずに苦しんだそうだ。真夏の奴が自ら潰したわけがわかるよ」

 真夏ちゃんだって、親戚に手を出したくなかっただろう。だけど、そんな事情があるなら潰すしかない。あんな幼い子が、大きな決断を迫られたんだ。

 「おーい、理架! 松永先生がお呼びだよ!」

 私がいろいろ考えていると、ナハトさんが私を呼んだ。松永先生が呼んでる? どういうことだろうか。

 次回予告


 久しぶりの次回予告だね。クインだ。

 墨炎の弟がリスティに用だとか。あいつも忙しいね。奴がリスティを助手にしたいってなら、越えなきゃいけない壁が二つある。

 親父とナハトだ。え? それより切り裂き魔は誰かって? 次回解るんじゃね?

 次回、ドラゴンプラネット。『立花凜歌』。


 ドラペディア

 理架「ツンドラドラゴンみたいに、たまに乱入してくるエネミーがいるらしいの。ツンドラは『雪山の頂上に到達した時ランダムに出現』って条件だからいいけど、メテオドラゴンみたいにいつでも乱入できるのもいるみたい」

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