一般プレイヤーの日常 氷霧編
プレイヤーデータ
アバターネーム:氷霧
アバターサイズ:ライトミドル
使用武器:弓『アルテミスの弓』
スキル:『弓術』『ヒーリング』『遠距離特化』『連動魔法』
所属騎士団:惑星警衛士(サブリーダー、リーダー代理)
ネイチャーフォートレス 惑星警衛士本部
「行ってきます」
氷霧はトートバッグを持って出かけた。これはまだ、氷霧が平メンバーでお使いとかやってた頃の話である。今氷霧が出てきた惑星警衛士の本部も小さなログハウスで、騎士団もさほど大きくなかったことが伺える。
今回のお使いはカレーの材料を集めること。店で売ってるから結構簡単だ。
「何々……。イベントで騎士団戦争が最終日でみんな殺気立ってるから気をつけて、と」
氷霧はメモを読んでトランスポーターに乗る。周りの風景は森からプレイヤーマンションのものに変わる。プレイヤーマンションにはスーパーマーケットがあるのだ。
スーパーマーケットに入ってすぐ、氷霧は見知った顔を見つける。
「うーん。やっぱり夕方のセールで買った方がいいかな?」
「級長」
スーパーマーケットの入口にあるパン屋で考え方をしていたのは、黒いコートが不審者感を煽る作者の級長。
「あ、氷霧じゃないか。イベントには参加してなさそうだな。今回の商品は『アルテミスの弓』なのに」
「興味無い」
級長の言葉に氷霧はサラリと返す。アルテミスの弓は弓の中でも最高ランクの飛距離を持つ武器だ。今、氷霧が持ってる桜色の長弓『桜之弓【散際】』より強いのは明らか。
「随分とフランクだな。惑星警衛士って人数はいるけど、リーダーのセイジュウロウが圧倒的だろ? 誰もあいつをサポートできないんだ。お前なら技術的に可能かもしれないがな」
聞かれてもないことをペラペラと喋る級長。そこへ何か雷の様なものが飛来し、級長を吹き飛ばし、パン屋のパンが陳列された棚に激突させた。級長のHPはゼロになる。
「なんてこった! 級長が殺された!」
「この人で無しー!」
野次馬がザワザワと集まる。これがイベント、騎士団戦争だ。参加した騎士団のメンバーで殺し合い、他の騎士団のメンバーを倒せばポイントが入る。騎士団リーダーなど役職があるメンバーはポイントが高い。
オマケに稼いだポイントは騎士団の本部に設置された『バンク』に預けないと、倒された時に丸々奪われる。かなりシビアな戦いだ。
さらにこのイベントで特徴的なのが、普段はデュエル申請しないと他のプレイヤーに攻撃できないのに対し、このイベントでは申請無しで攻撃可能なのだ。つまり、狙撃暗殺トラップなんでもありなのだ。
「うちのメンバーを狙撃して回ったのはお前か! あと弓で狙撃してたのは先輩か?」
級長を倒したのは氷霧の後輩、藍蘭。級長にメンバーが狙撃されたのを怒っていた模様。絶爪でリベレイション=ハーツを発動して突進技を使ったようだ。
「おつかい」
氷霧は騒ぎから逃れるためにおつかいを済ませようとメモを見る。そして、第一に集めるべき材料を確認した。
『ナン』
ナンとは、カレーを付けると美味いパンである。パン。つまり、パン屋で買う物。そのパン屋は今、どうなっただろうか。
パン屋は藍蘭の技で破壊されていた。
「【ライトニングアロー】」
氷霧は光る矢を藍蘭に向けた。放たれた矢は太いビームとなり、藍蘭に飛んでいった。
「ちょっ……!」
藍蘭は消し炭となった。青白いウインドウが現れ、氷霧にポイントが入ったことを伝える。狙撃でせこせこ稼いだ級長のポイントを貰い受けた藍蘭のポイントはかなり高い。
だが氷霧はそれをスルーして店員NPCに話し掛けた。
「ナンください」
店員NPCはナンを氷霧に渡す。これで最初のおつかいは終了。次のおつかいはジャガ芋、人参、玉葱、カレー粉を買うことだ。まずはカレー粉を買うべく、氷霧は棚へ向かう。
スーパーの棚には大量のカレー粉が陳列されていた。氷霧は辛口が苦手だが、セイジュウロウは辛いのが好きというジレンマ。
間を取って中辛にしようと氷霧は決めた。中辛のバーモントカレーを取るべく、氷霧は棚に手を伸ばした。
瞬間、棚が真っ二つに切り裂かれる。手に取りかけたカレー粉も真っ二つ。アイテムとして存在するカレー粉だが、プレイヤーが購入する前は棚同様、破壊可能のオブジェクトだったようだ。第一、戦闘フィールドでもない場所でオブジェクトの破壊ができるのも、このイベントの特殊さを物語る。
「フハハ! 所詮植民地の文化! 俺様の剣で真っ二つだぜ!」
棚の向こうから現れたのは、白い服を着た集団。彼らはDPOに集まる白豪主義者の騎士団、『ホワイトナイツ』。白豪主義とは、まとめると『白人が一番偉い』っていうやつであり、アパルトヘイトやカレーバッシングなどの原因ともなった。
こらそこ、肌が白いとメラニンの関係でオゾン層に穴開いたら大変とか言わない。同じ白人のセイジュウロウは『それに縋る奴は他に誇れるものが無いのさ』と鼻で笑っていた。
DPOは世界初の全感覚投入ゲームだけに、怪しい団体が売名で騎士団作るのはよくある話。
「カレーが切れたぜ! ふん、どうやらイエローモンキーの侍がいるようだが、邪魔だから斬るか」
その団体の一人が、真っ二つにされたカレー粉を見て震える氷霧を見て言った。氷霧の肌は真っ白で、というかアバターに人種は存在しないだろうに。この時期の氷霧は知らないが、墨炎に至っては人造人間、NPCだがレジーヌなんかはメカ娘である。
「カレー粉……」
氷霧はそう呟いて、弓を引き絞る。矢には、赤いエフェクトが光る。白い服の男も剣を構え、エフェクトを光らせる。
「真っ二つにしてくれる! 【ライジングスラッシュ】!」
「出た! リーダーさんの技コンボ!」
取り巻きがコンボだ昆布だと言っているが、コンボとして認められるのは二連撃から。例えば、墨炎の二刀流による右手ライジングスラッシュからの左手シザーネイルとか。
「【ハンティングアーチャー】」
氷霧が弓を放つと、彼女の後ろからナイフが多数飛んで来る。ホワイトナイツはナイフを避ける手段を知らなかった。
「ぎゃあああ!」
憐れ、後ろに逃げようとしたホワイトナイツ達はナイフの餌食となる。こうした遠距離系広範囲直線技は、真横に逃げるのが正解。
氷霧の目の前にウインドウが現れ、大した量では無いがポイントが加算される。
「カレー粉……」
だが、カレー粉コーナーはナイフも飛んだために全滅してしまった。氷霧は諦め、ビーフシチューを選ぶ。セイジュウロウはビーフシチューが好物なのを思い出したのだ。これなら辛くもない。
次は野菜。野菜が並ぶエリアに来た氷霧は、何かを思い出したかのようにボイスコマンドを発声する。このエリアにはNPCを含む買い物客が多数いる。
「【リベレイション=ハーツ】」
氷霧の背中に氷の翼が生えた。そして、氷で出来た弓に氷の矢をつがえ、放つ。
放たれた弓は分裂し、買い物客を襲う。彼らはたちまち凍った。これが彼女のリベレイション=ハーツ。強力なリベレイション=ハーツには純粋な感情が必ず存在する。
例えば藍蘭。彼女の電気を纏うリベレイション=ハーツは、周囲の金属に磁力を与えて、オブジェクトや武器を引っ付けて場を掻き回すこともある。それは藍蘭の享楽的な感情が強まり、もっと戦いを楽しむためのツールとしてあのリベレイション=ハーツを作り上げたのだ。
そして氷霧のリベレイション=ハーツ。これは彼女のインフィニティ能力が産んだものである。世界への拒絶。電波や電磁波を垂れ流して氷霧を苦しめる世界への停止命令。
「にんじん、玉ねぎ、ジャガ芋」
氷霧はプレイヤーの氷を砕きながら、野菜を入手。中にはこのイベントのハイランカーながら、意外な奇襲に対応できなかった者もおり、氷霧のポイントがうなぎ登りとなった。
次は肉。肉が売ってる場所へ向かう氷霧は、ある人物を見かけた。弓に袴と胴着の女性アバター。髪も黒く、ゲームらしい現実離れした装飾もない。
「見つけたぞ、氷霧! 中学最強の弓使いである私を差し置いて大活躍とはけしから……」
「【ライトニングアロー】」
どうやら中学で弓道の全国大会に出た人間らしいが、ここはDPO。自己紹介の間に極太レーザーで蒸発した。
藍蘭が言ってた『弓で狙撃してたプレイヤー』は彼女らしく、氷霧にかなりのポイントが入る。どいつもこいつも、ポイントをバンクに預け忘れ過ぎである。
肉をゲットした氷霧は、買い物を終えてスーパーから出る。
『イベント終了!』
その瞬間、アナウンスが鳴り響く。どうやら騎士団戦争が終了したようだ。氷霧も一応、近くの電気屋でテレビを見る。テレビではポイントの集結をしていた。
『一位は、惑星警衛士! MVPの氷霧さんには賞品として、アルテミスの弓が贈呈されます!』
「……」
氷霧はいきなり自分の手元に現れたアルテミスの弓を見て、沈黙のまま驚愕する。
「帰ろ」
氷霧はトランスポーターへ歩き、帰宅した。
「と、いうことが」
そのイベントからしばらく後、アルテミスの弓を入手した経緯を墨炎、クインに氷霧は話した。
氷霧がセイジュウロウのアシストに回ったことで、惑星警衛士は大きな騎士団へ成長した。今三人がいるのは城と化した騎士団ホームの茶室。真ん中の茶釜は湯気を立てている。
「で、今日からまた騎士団戦争あるんだろ?」
墨炎が口を開いた。騎士団戦争が再び始まるため、セイジュウロウが抜けた穴を埋める目的で氷霧は墨炎とクインを呼び寄せたのだ。
「うん。一時的に騎士団に入ってほしい」
「任せろ」
墨炎は氷霧の頼みを請け負った。クインも最初から申し出を受けるつもりだった。
こうして、騎士団戦争は新たな顔ぶれを迎えて激化した。
〇お知らせ
級長「受験あるんでしばらく投稿できん」
クイン「そりゃ珍しい」
級長「運が良かったら来週復活だ」
クイン「試験は受けたんだな」
級長「しかしあの人数はなんだよ……。仮にもまだ就職実績のない学部だぞ?」
クイン「みんな諦めたんじゃね? 就職」
級長「まあ俺はあの学部が目指す将来像にパンフレット曰くドンピシャだし、友人の太鼓判もある。安心はできないが」
クイン「AOってとりあえず挑戦、って奴が多いのか?」
級長「売り込むネタがあるって先生に言われなきゃ俺は考えもしなかったよ。落ちたら公募推薦の勉強遅れて不利になるし」
クイン「ま、一年もダラダラ書く奴はお前くらいだろ」
級長「最終回はクリスマスにしたい」