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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第二部
85/123

36.離れない二人

 インフィニティ図鑑

 藍蘭

 能力『感情感染ハートパンデミック

 言わずと知れた学園騎士リーダーにしてDPOのアイドルプレイヤー。インフィニティ達の能力名は松永順の考案であるが、何故彼女の能力名だけ女の子チックなのかと学会で物議を醸している。もしかしたら順は藍蘭のファンなのかもしれないと疑惑もある。

 彼女自身はインフィニティ能力覚醒以前から食欲旺盛でリーダーシップも学園騎士を13歳という年齢で率いる辺り、高い。つまり、随分前からインフィニティ能力の片鱗を見せていた。インフィニティは総じて大食いなのだ。

 宵越テレビ本社 ロビー


 「スカーレット……!」

 藍蘭の叫びも虚しく、刺されたスカーレットは膝から崩れ落ちる。全員が、藍蘭の感情を感じ取って驚愕する。

 「この……!」

 「よくも!」

 特にスカーレットと親しいらしいサイバーガールズメンバーが怒りに任せて、刺した張本人である瑠璃に走り寄る。

 「マズイ……!」

 瑠璃の表情から、遊人のインフィニティ能力が自然に危険を告げる。遊人が極限まで集中したため、インフィニティ能力が次の瑠璃の行動をほぼ完璧に推測した。

 『攻撃行動、殺傷能力100』

 瑠璃の周囲に、赤い柱の様なもの何本も立つのをが遊人は見た。これは彼にしか見えない。DPOでの経験が現実離れした攻撃も推測可能としたのだ。

 「これだ!」

 瑠璃に走り寄るメンバー一人ひとりを止めてる時間は無い。ならば藍蘭のインフィニティ能力を利用するまでだ。遊人はポケットからあるものを取り出して藍蘭に投げつけた。

 「痛っ! 何これ?」

 藍蘭の後頭部にぶつかったそれを彼女は拾い上げる。そして、物凄く驚いた。

 「なっ……!」

 藍蘭の頭にぶつかったのは袋入りの汁粉サンド。愛知県にしか無いお菓子で、ビスケットの間にあんこを挟んだものだ。

 突然食べ物が目の前に現れたため、藍蘭の意識がそっちへ一瞬傾く。それに反応して、瑠璃に走っていったサイバーガールズメンバーも足を止めてそれに意識を傾ける。

 「ちっ、失敗か」

 次の瞬間、瑠璃の周囲に巨大な蔦が、遊人の見た赤い柱と同じ場所に突き出す。もし藍蘭が汁粉サンドに一瞬気を取られてなかったら、瑠璃に走り寄ったメンバーはあれに貫かれていただろう。

 藍蘭は倒れているスカーレットに意識を戻す。彼女は刺されたが、瑠璃の電磁波体としての性質から、出血は服に滲む程度だった。

 「スカーレット!」

 「大丈夫……、私は自分で巻き込まれたんだし……。私のことは、いいの」

 スカーレットは脇腹を押さえ、息も絶え絶えで藍蘭の呼びかけに応える。

 「だから、藍蘭……私の為に無茶はしない……で。あいつは今すぐに……ここにいる……全員を殺す力を持っている……」

 「スカーレット……そんな……」

 藍蘭は俯き加減に呟いた。彼女は落ち込んでるのか、とぱっと見ではそう感じるだろう。だが、周りにいる瑠璃を除いた全員がある感情を伝染させられていた。

 「何年ぶりかな、この感情。そうだ、デステアの事故を調べて、真相を知った時以来か」

 順が静かに呟く。普段の彼から想像が出来ない、重みのある声だ。

 「てめぇだけは……許さん」

 雅が拳を強く握りしめ、歯ぎしりをする。エディが死んだ時でさえ、熱地に対する怒りを抑えてクラスメイトをまとめた彼が、このように感情を現にするとは誰が想像出来ようか。

 「君はそんなに早死にしたいのかね?」

 感情を表に出さない佐原も、瑠璃に凄みを効かせる。

 藍蘭が感じていた感情が周囲に伝染していく。彼女が今感じている感情はまさしく、怒りだった。

 「そんなの……できるかっ!」

 顔を上げた藍蘭は叫んでいた。その瞬間、瑠璃の頭上に無数の弾丸と矢が降り注ぐ。

 「くあぁっ!」

 瑠璃はその直撃を受けて倒れる。そして、瑠璃としての姿を歪め、本当の姿を現す。

 「それがお前の……」

 「本当の姿」

 ロビーに降り立ったのは、アバターの姿をしたクインと氷霧。姿を変えた瑠璃を挟む様に立ち、それぞれの武器を構える。

 「そうだ。人間に憧れても……決して人間に成れぬ私の姿だ」

 フラリと立ち上がった瑠璃の姿は、氷霧やクインのアバターと似た空気を放つ存在になっていた。青い装甲にボディスーツ、青い長髪に青いバイザー付きヘルメット。女性的なラインながら、畏怖すら感じさせる姿だった。

 姉の朱色がオレンジ色のロボットアニメでよく見るパイロットスーツを着た人みたいな姿をしているにも関わらず、妹の瑠璃、SEAはレジーヌの様な機械的な姿をしていた。

 「メンタルケアプログラムの割にナンセンスだな。機械かよ」

 「あら、遊人は忘れたの? 感情を失った貴方のメンタルケアにあたったのは私だったというのに」

 遊人の呟きに反応して、SEAは電子音の名残がある声で喋る。その声からは、遊人以上に感情が感じられない。

 「感情をすっかり失った貴方にはわからないでしょうね。負の感情を事務的に処理したお姉ちゃんにも。私はたくさんの人の、負の感情に晒されてきた。私はもう、限界なのよ」

 SEAは独り言の様に言った。メンタルケアプログラムとして多数の人間が吐き出す負の感情と正面から向き合った彼女の心は、負の感情によってズタズタにされたのだ。

 「メンタルケアプログラムの役目は、主に愚痴を聞いて適切な相槌を打つこと。その愚痴を聞くだけのプログラムにインフェルノは、開発者の楠木渚は私に人間に近い感情を与えた。真っさらな……子供に等しい未熟な感情。相槌の仕方は知識として知ってたけど、私は子供同然の精神力しか持たされていなかった」

 SEAは語気を強めながら、血ヘドを吐き出すかの様に語る。

 「私はただ人間の愚痴を聞くだけで、私のストレスは誰も受け止めてくれなかったの。未熟な私の心は、耐える術もなく破壊された。特に、尋常じゃない憎しみで私を焼いたのは、貴方達、直江姉弟なのよ!」

 「え?」

 「俺ら?」

 直江姉弟、すなわち直江遊人と直江愛花のことだ。二人は顔を見合わせて、特に遊人が首を傾げる。

 「こんなストレス皆無の旗印みたいな姉ちゃんが?」

 「いや、だいたいお前のせいだからな」

 「どちらでもいい!」

 姉の過去に驚く弟、弟に責任をなすりつける姉、その両方をSEAは叱り飛ばした。

 「直江愛花、お前が私の前に現れたのはマスコミに親友を無実の罪を犯したものと報道され、そいつを失った時だ。お前はつい先日までの直江遊人にそっくりだったよ」

 「知らんかった」

 SEAに言われて初めて、遊人は姉の過去を知る。愛花は黙っていたが、とても彼女に敢えて語らなかった理由などあるとは思えない。単純に忘れていただけだったのだろう。

 「それに、私を壊したのは貴様らだが、この凶行に走らせたのはお前だ! 藍蘭!」

 「え?」

 いきなりSEAに名指しされて驚く藍蘭。彼女は今、気を失ったスカーレットの介抱を癒野としていたのだ。

 「私が何の関係が?」

 「とぼけるなよ。お前も私の下を訪れた患者クランケの一人だったんだよ」

 藍蘭が聞くと、SEAも昔話を聞かせる様に教えた。

 「あれは、随分前だったな。お前は海外出張の多い両親について悩んでいた。まあ、そのおかげでヨーロッパにて先行サービスをしていたドラゴンプラネットオンラインをプレイ出来た数少ない日本人プレイヤーとなったわけだが」

 「で?」

 藍蘭は凄くどうでも良さそうな口調で、かなり適当な相槌を打つ。

 「はいはい、もう終わり終わり。どうせその他多数の悪役みたいに『実は主人公が悪』理論したいなら、藍蘭の過去では説明つかないんだよ」

 いきなりゲームマスターの朱色が現れ、話を打ち切る。彼女は妹がしたことをどう思っているのか、見た目では何もわからない。

 「誰かに責任を押し付けても、お前の奪った命は帰ってこない」

 「くっ……、ただゲームしてただけのお姉ちゃんに何が……!」

 SEAは姉の態度に憤りつつも、姿を消した。朱色は彼女より強い権限を持ち、下手をすれば自分が消されかねない。

 宵越テレビのロビーには、真実を知った人間だけが残されていた。


 宵越新聞本社 社会部オフィス


 宵越新聞は宵越テレビと同じ系列の新聞社である。表五家の宵越は、この二つと排他的な記者クラブによって、自分達に不利な情報を隠した。

 そのオフィスは見かけこそまさによくある『新聞社』のオフィスであるが、たいていの机には資料の『し』の字も見当たらない。だが、たった一つだけ資料を整理して机に置いてある机があった。

 「やれやれ、今度は『DPO、全感覚投入システムの恐怖』か」

 その机にいたのは、紳士的という言葉がよく似合う記者、真田総一郎。彼はこれまで、『被害者の心情を踏みにじり、トラウマを作れば高得点』みたいなゲームまでネットで作られ、批判されるような取材を力ずくでやめさせてきた。

 同僚後輩、果てには先輩や上司まで殴った彼だが、どういうわけかクビにならない。それは、『総一郎がいないと社会部に文章を校正できる人間がいない』という真実によるものだ。

 宵越新聞の持つ社会的ブランドは表五家であることで保たれる。そして、これまでたいした努力もせずに就職困難となった表五家関係者の雇用の受け皿となるのも宵越の表五家としての仕事。特に社会部は、熱心に取材する人がいると、社会に都合の悪い情報を隠す宵越的には、逆に困る。

 「次の仕事がこれでは宵越もおしまいだな」

 総一郎は次の仕事依頼を読んで、宵越のオワコンぶりを感じた。多くのネットユーザーの間では、すでに既存マスコミなど『終わったコンテンツ』なのだ。チャンネルを変えても同じニュース、新聞を複数読んでも目立つ違いは四コマ漫画程度。

 「そろそろ潮時か」

 総一郎は立ち上がり、オフィスを出た。一度は大々的に反逆した会社に辞表を出したら呼び止められた、という珍しい体験をした彼は、もう宵越新聞の記者を辞めたい気持ちでいっぱいだ。

 廊下に出て、自販機で缶コーヒーを買う。総一郎の頭の中は、常に一つのことで満たされている。

 「理架、元気でやっているか?」

 真田理架、東京から100キロ離れた岡崎で暮らす娘だ。同僚には話したことなどないが、自慢の娘である。

 「大変だ!」

 娘のことを考える幸せな時間が早速潰された。何事かを叫びながら、社員が社会部のオフィスに向かって駆けた。総一郎もオフィスに戻り、状況を確認する。

 全力で走った社員は息を整え、オフィスの中央で叫んだ。

 「大変だ! SEAが暴走した! オマケに局の社長がこの件を全部報道するって!」

 その言葉に社員全員が動揺する。局の社長とは、宵越弐刈のこと。総一郎は弐刈のことをよく知っていた。表五家には珍しく、形だけではない実績を持つ男。

 表五家の人間はその権力を駆使して何らかの賞を受賞し、実績とする。弐刈の兄、壱植が日本語すら理解不十分な小説を書いて、出版社を『スキャンダルを書いてばらまく』と脅して賞を受賞して、その小説を大量出版させて出版社を潰した話は有名だ。

 その後、しばらくは宵越の報道規制で批判は全て封じられていたが、ネットが発達してからボロクソに叩かれ、通販サイトアマゾンのレビューを見た壱植はショックのあまり自殺した。

 「こうなったら徹底抗戦だ!」

 「宵越テレビの報道は誤報っと……」

 早速社会部の記者が取材無しに記事を作り始めた。今日の夕刊に載せるつもりなのか、やけにハイペースだ。

 「もうやだこの職場」

 呆れた総一郎はそう呟いて、辞表を床に落としてオフィスを去った。


 凍空プリンスホテル 宴会場


 凍空プリンスホテルには畳の宴会場が完備されている。カラオケ付きの宴会場が付いている『ホテル』というのも珍しいだろう。旅館ならまだわからなくない。

 そして驚くべきは、夕刊の宵越新聞を読んでいる全員が腹を抱えての大爆笑をしているという点だ。宴会なら笑いの一つあって当然だが、笑いの種が新聞というのも珍しい。

 「こんな新聞がこの世にあるとはな!」

 新聞を読んで笑ってる筆頭は宵越弐刈。自分がサイバーガールズの件で緊急会見をするという情報を流したら、宵越新聞の夕刊が『会見はデマ』という記事で埋め尽くされたのだ。さらに、緊急会見をドタキャンしたため、その夕刊は内容が現実とそぐわないものとなってしまった。会見が無いのに夕刊だけ発行されたのだ。

 「っ……、……!」

 《ワロスwww》

 弐刈の向かい、遊人の右隣にいる真夏も喋れないながら笑った。声に出来ないせいで苦しそうだった。彼女の持っている新聞は何故か、所々赤ペンで間違いが修正されていた。

 「しかも見ろよこれ。数学の立花先生が直したんだぜ。『数学』の」

 《『数学』の》

 「『数学』……の」

 「ああ『数学』だな」

 遊人がその赤ペンの理由を語った。『数学』の立花凜歌先生が新聞の文章を添削したのだが、それでも真っ赤になってしまった。これを国語教師が直したら恐ろしいことになりそうだ。

 真夏の他に、遊人の左隣りにいた氷霧やクインも『数学』を強調する。数学といえば理系。『文系はA君の気持ちでも考えてろ』という台詞に対して『理系はロボットの気持ちでも作ってろ』と返される理系である。いかに教師といえど、その理系にここまで直されたのでは、宵越新聞のレベルも高が知れる。

 原因は即座に「絶対に(この職場では)働きたくないでござる」と言って逃走した総一郎にあるが、彼に頼らないと校正もろくに出来ない社員もさらに問題だ。その、宵越新聞の実情がさらに笑いを呼ぶ。

 「あれ、スカーレットは?」

 インフィニティ能力を使い過ぎて、運ばれてきた料理をひたすら掻っ込む藍蘭は一応スカーレットを心配した。

 藍蘭のインフィニティ能力は自身の感情を他人に感染させる『感情感染ハートパンデミック』。ちなみにインフィニティ能力の名前はインフィニティ研究者の順が付ける。この能力があれば、会議を支配可能という民主主義の現代では恐ろしい能力であった。

 無意識化では何も起きない能力であり、本能的に能力を発動してる遊人や佐原、氷霧とは違い、かなりコントローラブルな能力といえる。本気を出せば意思の弱い人間を洗脳することも可能で、使い方次第では自殺しようとしてる人に『生きる意思』を感染させて救ったり、議会を支配して独裁者となれる力。

 そんな力を持った藍蘭だが、やっぱり本質は色気より食い気なのか、あまり深く物事を考えないために悪用の心配は杞憂ともいえる。日本が食料危機になったら話は違うかもしれないが。

 食い気に長けた藍蘭が食料危機に直面すれば、感情感染を駆使して世界中の食料を日本に献上させることも可能。

 「さっきまで隣にいたからな、多分トイレだろ」

 クインがおおざっぱに答える。藍蘭はスカーレットを探していた。刺されたスカーレットだが、相手が電磁波だったおかげで傷は驚くほど浅かった。故に犠牲者達はショック死するほどの痛みを与えられたが、スカーレットは一回刺されただけなのでショック死まではしなかった。

 「あ、リディアもいない」

 弐刈は隣にいるはずのリディアもいないことに気づいた。二人はどこへ行ったのだろうか。


 その二人は、同時にトイレに行っていた。特に会話も無く、洗面台で並んで手を洗う。凍空プリンスホテルの洗面台は、掃除の直後なら水滴一つ無い綺麗なもの。従業員がトイレを使用する度に洗面台を拭けるよう、タオルがおかれているのも心憎い。

 「……」

 「……」

 互いに沈黙する。特に接点が無いため、話が出来ない。沈黙が痛くなったリディアは、とりあえずなんとか話題を作った。

 「刺されたとこ、大丈夫?」

 「え? ああ、平気よ」

 「……」

 「……」

 再び沈黙。今度はスカーレットが話を振る。やはり沈黙は痛い。

 「ねえ、秘書って何するの?」

 「スケジュールの管理とか……本来ならもっと激務のはずだけど、社長は勝手に歩き回るし意外とスケジュールも暗記してるから、暇ね」

 「夜のお供、ってのも仕事? 具体的には何を?」

 「誰から聞いたの……?」

 「佐奈さんから」

 「あいつか……」

 スカーレットはアイドルといえども13歳の少女。まだ大人の事情はわからないか。佐奈が余計な方向へ引っ張っていかないか不安だが、思春期になれば誰もが通る道。藍蘭は相変わらずだろうけど。

 「そのうちわかることよ」

 まさか本当のことを教えるわけにもいかず、リディアはお茶を濁した。スカーレットもその理由を察し、追求はしなかった。

 二人は揃って宴会場に戻る。だが、そこでとんでもない光景を見た。

 「藍蘭?」

 「DPOのアバターがなぜ?」

 スカーレットとリディアの二人が叫んだ理由は、宴会場の中央に藍蘭のアバターが存在したからだ。どうも、スカーレットの見慣れた藍蘭とは違う箇所がいくつもある。

 まず、ブレザーだった制服が夏服のブラウスであるということ。そして、露出した腕を覆うのは日本風の篭手。刀も普段とは趣が違い、博物館で本物を見た時の様な厳かさがある。

 「これが強化型の藍蘭。源氏納経を利用して作られた『源氏の篭手』にさらなる強化を加えた『髭斬改』、源氏の亡刀を磨いだ『義経』。そこに先程作った『源氏の髪飾り』を加えよう」

 遊人がスマートフォンを操作すると、藍蘭アバターの頭に時代劇の姫を彷彿とさせる髪飾りが加わった。

 「インフェルノのスマフォにこんな機能があるだなんて……」

 藍蘭は遊人のスマフォから伸びるイヤホンを付けて、自身のアバターを眺めていた。ログインしなくてもアバターの装備を変えれるアプリがインフェルノ製スマートフォン『ドラグーン』にはある。そのアプリを藍蘭が使用するため、彼女がウェーブリーダーを使って脳波を送信しているのだ。

 「これでよし。最終決戦にはお前とスカーレットで行くことになるからな、最大戦力は確保しないと」

 遊人はスマフォを操作して藍蘭に行った。そこでスカーレットも宵越テレビで朱色が言っていたことを思い出す。

 『サーバーを見つけたなら、マスター権限でボクがそこへ送るよ』

 朱色達は普段、人前に出ていない時はサーバーの中に作られた空間にいる。朱色の場合は、遊人達が訪れたテスト施設、インフェルノコロニーがそれにあたる。

 それはSEAも例外ではなく、自前の空間を所有している。敵がなだれ込めないように、一度に入れる来客は二人まで、という制限もあるらしい。朱色をしても、ガチガチに固められたセキュリティの中、二人入れるだけがやっとなので、この制限は解除できなかった。

 「戻ったか、スカーレット」

 遊人は今回、藍蘭とスカーレットのアシストにまわる。ゲーム自体の経験は藍蘭達が上だが、こうしたイレギュラーな事態への対応は遊人の方が慣れている。

 遊人に呼ばれたスカーレットは、藍蘭の隣へ行く。畳に座る彼女の隣にスカーレットも座ると、藍蘭のアバターが引っ込んで立体の地図に変わる。ドラグーンには小型のホログラム装置が付いているのだろうか。

 「これが朱色から貰ったSEAのサーバー内部地図だ。敵が何人いるかわからん、ってのもナンセンスなことにSEAは殺した相手のアバターを奪っているんだよな」

 遊人が説明を続けるも、二人の意識はSEAのサーバー地図にあった。この建物、何処かで見覚えがあるのだ。建物は複数であるものの、藍蘭とスカーレットはその全てに見覚えがある。近くを流れる川と堤防もあるが、そちらは二人の知らないものだ。

 「これ、宵越テレビ?」

 「隣に国会議事堂、渋谷109もある」

 「ああ、この町を仕切る川は矢作川と見て間違いないな。途切れた橋の外観と立てられた看板、堤防の造り。グルッと町を囲むように矢作川が加工されてる」

 川については、遊人が知っていた。遊人の見立てでは町と外界を仕切っているのは岡崎にある矢作川らしい。

 「この町がなんのつもりか俺にはわからん。だが、SEAが作られたのが岡崎ってことが関係してるのか?」

 遊人は岡崎に似た町について考えていた。何か引っ掛かるとこでもあるのだろうか。

 「それはわかんないけど、とにかくぶちのめせばいいのね!」

 「らしいな、藍蘭」

 藍蘭とスカーレットは特に何も考えず、いつも通りにしていた。

 「待ってろ! SEA!」

 藍蘭は拳を天井に突き上げ、最終決戦へ向けて気勢を上げる。その横にいるスカーレットは、もう事件に関係無いからと藍蘭を避けることもしない。

 DPO最強コンビと謡われた二人が、ここに再結成した。

 次回予告


 ついに訪れた最終決戦。藍蘭とスカーレットは凶悪なプログラム、SEAに勝てるのか? そして、総選挙の行方は?

 次回、ドラゴンプラネット。『無限の未来』。

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