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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第二部
75/123

潜伏四日目

 7月28日。サイバーガールズ総選挙まであと4日。晴天。今日の服装、スーツ。

 宵越テレビ本社 ロビー


 夕方、私は弐刈社長を待つ間、録音に成功したレコーダーを聞いて、それに証拠能力があるかどうか確認した。

 だが、自分の声を客観的に聞くのは恐ろしい行為だ。ベッドが軋む音と共に聞こえてきた声に、私は何とも言えない気分になった。

 「私、こんな声出してたんだ……」

 こんな、縋る様な声を出していたとは驚きである。私は基本、こういう時に演技をしたりせず、感じたままに声を出している。だから、自分でもどんな声を出してるかわからない時がある。

 感じたままに、と言っても体が、の話。私はどんなにされても、体が反応したことがあっても心は動かない。

 ま、騙して陥れる男にいちいち惚れてたら勤まらないよねこの仕事。

 多分この一回じゃ、『酔った勢い』とか言い訳される。だから、もう何回か既成事実作っておこう。

 レコーダーに記録することを何故か佐奈に話したのだが、彼女は『是非聞かせてほしい』と言っていた。なんで佐奈に話したのか、何故彼女が興味を示したのかは不明だ。

 行動予定を決めた私がロビーを見渡すと、藍蘭が慌てて走ってきた。あいつが慌てるなんて珍しい。こっちから声かけてやれ。

 「どうしたの?」

 「リディア! スカーレットは?」

 スカーレット? ああ、赤野ね。赤だからスカーレット。納得できるあだ名だ。ただ、海原ルナの『ルナっち』っていうあだ名みたいに直接名前と関係がないから少々わかりにくいかも。

 「見てないわ」

 「そう……。スカーレット、どうしたのかな……」

 藍蘭がわかりやすく凹んでる。凄くわかりやすい。絶対気分が態度に現れるタイプだ。

 「バトラーなら探せるんじゃない?」

 バトラー万能説を私は唱える。バトラーならなんだか、何でも出来そうな気がしていたのだ。あいつ正体わかんないし、それのせいもある。そのうち「制御なら最早不要!」とか言って仮面を外すに違いない。

 ダメだ、TSUTAYAで借りてきたガンダム最新作の見すぎだ。ネットじゃ酷評だけど、私はあのネタっぷり嫌いじゃないよ。現に作品全体が強いられてるし。

 そういえばバトラーの声って赤い仮面の人に似てるよね。だから余計にそんなネタが頭に浮かぶ。

 「うう……スカーレット……」

 しかし何だろう。藍蘭が凹んでいると調子狂う。私がロビーのソファーを見ると、既に藍蘭の空気にやられた奴らがいた。

 「あたしって、ホント馬鹿……」

 病院から出て来た佐原凪がソファーでグッタリ寝込んでいる。こいつはこいつで違うアニメ見たな。

 「煉那くんの個性借りたら回復早まるかなんて、肉体が個性に付いてかない『佐原砲☆』の時点で決着が付いたことを実験しようだなんて……。しかも『佐原砲☆』ってなんだよ、☆なんて付けて、ネットにわかのユーザーがモバゲーとかの半値で記号使うのと大差ねぇ……」

 「凹み過ぎだ」

 こちらはこちらで面白いくらいの凹みぶり。声が震えていて、今にも泣きそうだ。

 「これはどうしたの?」

 たまたま近くを歩いていた氷霧とクインを捕まえて、事情を聞いてみる。藍蘭が刺された件で知らない仲ではなくなったからなコイツら。

 「スカーレットが藍蘭に何も告げずにいなくなって、メールも返信しなくなったから藍蘭がグロッキーになってるのよ」

 クインはサラリと現状を説明する。氷霧は何故か、クインに支えられてないと立てない状況になっていたのだが。ちょっと事情を聞いてみよう。興味本位で悪いが。

 「氷霧はどうしたの?」

 「藍蘭に釣られて凹んでる。あんまり親身になる奴じゃないんだけどねー」

 氷霧は喋れないのか、クインが代弁する。なるほど、何故かみんな藍蘭に釣られて凹んでるわけか。多分、佐原と氷霧だけ凹んでる辺り、インフィニティに何かが作用しているのか。

 「他に凹んでる奴は?」

 「佐原さんと氷霧の二人だけ」

 クインによると、やはりインフィニティだけが凹んでいたようだ。そこへバトラーと真夏のコンビがやって来る。バトラーは到着早々、藍蘭からの影響を受けていた。こいつもインフィニティか。

 「負のオーラが流れてると思ったら……原因は貴女ですか」

 《インフィニティ能力かもしれないから、松永さんに連絡します》

 真夏はすぐさま、メールで順に連絡した。インフィニティはあいつの専門だし、任せるか。

 「あれ? なんか皆で凹んでるね」

 役者も揃ったところに、サイバーガールズの木島ユナが来る。携帯でまたツイッターの更新か。奴はこの面白シュチュエーションを呟いているに違いない。

 そういえば、比較的古参だけど影の薄いメンバーもネタにしてたっけ。そいつらの名前は桃川ももかわかなめ青柳あおやぎ魅希みき茶木ちゃきさくら黒田くろだ明見あけみ金鉢きんばち伴回ともえだっけか。覚えとこ。

 「藍蘭さん、赤野から伝言だよ」

 「え?」

 ユナの言葉に、藍蘭が顔を上げる。同時に佐原と氷霧が反応した。コイツらリンクしてるのか?

 「えっと、『しばらく顔も見たくない』って」

 「はぐっ!」

 「なぶっ!」

 「ナン、センッ、ス……!」

 ユナの伝言に一番ショックを受けたのは、何故か藍蘭ではなく佐原と氷霧、それにバトラーだった。ナンセンスの新たな活用まで発揮された。

 藍蘭はしばらく無反応。恐らく、ショックが大き過ぎだのではないだろうか。ま、大事な人が刺されたから、しばらく事件に近寄らせないようにわざと突き放したのだろう。赤野の気持ちもわかる。

 「ううっ……煉那くん、いや、私ごときがくん付けはおこがましいよね、ぐすっ、煉那さん、いや、煉那様……個性のコピーなんて出過ぎた真似してごめんなさいぃ……、うわああああん!」

 佐原がいきなり泣きじゃくる。なんというか、情緒不安定だな。

 「クイン……私の遺骨は海に撒いておいて……」

 完全に殉職した刑事の如く、クインの手を離れて倒れた氷霧。クインはそれを放置した。多分、信頼故の放置なのだと私は信じたい。

 「俺は……、何をしていたんだ……! 夏休みになって、……ぃとの約束も果たせない、果たそうともしないなんて……!」

 バトラーは両手をわなわな震わせ、誰かとの約束を果たせないのを嘆いていた。かなり素の部分出てるね。誰との約束かは、名前のところが掠れていて解らないけど。

 私がカオスな状況に困り果てていると、ようやくインフィニティ専門家、松永順が自転車に乗ってやって来た。ここ建物だよね?

 「大変だ! 藍蘭のインフィニティ能力は『他人に自分の感情を共有させる能力』なんぎゃあああ!」

 しかし、インフィニティ専門家も藍蘭の能力にやられた。自転車ごと倒れ、動かなくなる。だが言いたいことはわかった。藍蘭の能力は『他人に自分の感情を共有させる能力』。

 この能力は、藍蘭が楽しい時は周りも楽しいし、藍蘭が悲しいと周りも悲しくなる。所謂ムードメーカーの能力だ。今は二つのインフィニティ細胞が完全に連結してないせいで、インフィニティにしか効いてないけど。

 佐原は特に、他人に干渉するインフィニティだから効きやすいのかも。

 「生まれてきてごめんなさい、許して、うう……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 だが、佐原のこれはさすがに効き過ぎだ。体がダメージを受けて、若干精神的に衰弱してるせいもあるかも。

 とにかく、今はクインと協力してこの状況を何とかしないと……。

 サイバーガールズメンバーリスト


 河岸瑠璃 生存(第5位)

 稲積あかり 生存(第6位)

 木島ユナ 生存(第2位)

 海原ルナ 生存(第23位)

 黄原彩菜 生存(第3位)

 緑屋翠 生存(第7位)

 赤野鞠子 生存(第1位)

 紫野縁 死亡:溺死

 上杉冬香 生存(第8位)

 桜木小春 死亡:感電死

 秋庭椛 死亡:転落死

 夏目波 死亡:割腹

 泉屋宮 死亡:焼死

 桃川要 生存(第25位)

 青柳魅希 生存(第32位)

 茶木桜 生存(第27位)

 黒田明見 生存(第29位)

 金鉢伴回 生存(第30位)

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