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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第二部
66/123

29.伝説のプレイヤー

 アイドル名鑑

 黄原彩菜

 総選挙中間3位のサイバーガールズメンバー。河岸瑠璃と共にメンバー最年長の17歳。副リーダー的ポジションに付く。

 DPOプレイヤーとしての腕も一級で、流れプレイヤーをしていけるだけの技術とコミュニケーション能力を持つ。

 凍空プリンスホテル 会議室


 凍空プリンスホテルには広い会議室がある。ここは宿泊客が使用することが出来、研修などでよく使われる場所だ。

 「では皆さん、早速話し合いを始めましょうか」

 バトラーはその会議室で司会をしていた。今回は三人目の犠牲者が出たため、情報を持ち寄って対策を話し合うのだ。

 出席者は藍蘭、氷霧、クインと彼女達のクラスの委員長。それに雅と佐原がいる。彼らは会議室の机に座っていた。

 「で、なんでアンタまで……」

 「みんなの安全を確保するためよ」

 クインが委員長の存在に異議を唱えると、委員長は即座に返した。この委員長は責任感が強く、本来無関係な事件にまでクラスメイトが関わってるというだけで参加したのだ。

 「まず、三人を殺したのが朱色の妹だという確実な証拠です」

 「それについては、僕が説明するよ」

 バトラーが議題を上げると、雅が説明に入る。三人目、泉屋宮の殺人は彼が目撃している。雅としても、事件の真相を解かなければ悔やんでも悔やみ切れないのだ。

 「まず、縁さんの死。これは直江刑事が言うように、首に付いた手の跡が浅くて窒息には至らない。それに、人の手らしき指紋や汗、皮脂の跡もなかったらしい」

 雅は直江刑事から渡された資料を読みながら言った。本来なら流出禁止の資料だが、未だ地味に表五家の影響が残る警視庁本部では捜索がやりにくいので、バトラー達に情報を流して宵越の情報操作などに対策をしたのだ。

 それに、電磁波で死因を誤認させて殺すなんて方法、警察が理解できるわけがない。

 「さらに、僕もこの資料を見て始めて知ったんだけど……縁さんの携帯に不信な点があったんだ」

 「あの『首を絞められてる』ってメールの携帯?」

 藍蘭がそれを思い出して言った。雅も頷く。その話を藍蘭は、泉屋の控室で聞いていたのだ。

 「あれが、実は警察が携帯を回収した時、あの未送信のメールが消えて、別のものになっていたんだ。『溺れている』って内容にね」

 「まさか……メールの内容を誤認させられていた?」

 「そう。警察はウッカリメールを消したと思って隠したんだ。普通ならメールを打って内容を改変すればいいのに、それができないから誤認させるしかなかった。つまりメールを打てない、物を持てない朱色と同じデータ体の、朱色の妹が犯人だ」

 雅は断言した。確かに普通の人間なら、例え様々なものを誤認させる能力のあるインフィニティだとしても、メールの内容を改変しようとしたらメールを打ち直すはずだ。そちらの方が確実だ。

 それができないから、誤認させるしかないのだ。朱色やその妹はデータ体で、人体や生き物に干渉できても物体に干渉できない。電磁波を使うから、電磁波で感覚を誤認させられない物体には触れられない。

 朱色の妹を犯人とするには、かなり有力な情報だ。

 「椛さんの落馬も問題だ。馬が驚くような大きな音も無かった」

 雅は椛の落馬にも言及する。椛が落馬した現場には、多数のスタッフ、馬の専門家、雅がいた。誰ひとり大きな音も何も聞かにも関わらず、馬が暴れだしたのは、どう見てもおかしい。

 馬が何に驚いたかはわからないが、朱色は対象にだけ電磁波を送って物事を誤認させることが可能なので妹も同じことができるとすれば、朱色の妹の犯行とする理由も十分だ。馬にしか聞こえない音を出せるのは、朱色か彼女しかいない。

 「泉屋さんの司法解剖は癒野さんがしてるよ。でも、泉屋さんが殺される前に僕と氷霧が見たよ。電磁波で誤認させられ、その場にいる様に見えた墨炎を」

 雅が言うに、泉屋の司法解剖は進行中らしい。これが終われば、朱色の妹が犯人である確証が高まるだろう。

 「私と雅さんが見た。クインと藍蘭は見えてなかったから、攻撃を受けても無事だった」

 「氷霧は電磁波に敏感だから、近くにいれば対象になっていなくても電磁波の影響を受けるよ」

 氷霧のインフィニティ能力があれば、クインのいう様な判別方法も可能だ。

 「では、犯人は決まりですが……。縁さんによればその犯人がサイバーガールズのメンバーに成り済ましています。各々お気をつけて」

 バトラーが話をまとめる。そして、最後にそれぞれの行動予定を伝える。

 「委員長さんは待ち人がいますのでお残り下さい。それ以外は各自解散となります」

 やれやれと堅苦しい空気から解放された様に、委員長を除く全員が会議室から出た。委員長はバトラーに言う。

 「待ち人?」

 「貴女も、ゲームではよく知る人物です」

 バトラーはぼやかして伝える。委員長はバトラーのこういうところを信頼できなかった。素顔を晒さないというだけでも、十分怪しいのだから。

 「やあお待たせ」

 会議室に入ってきたのは、大学生くらいの青年。ゲームではよく知るというからには、バトラーはすでに委員長の正体に気づいてるはずだ。

 委員長が紅憐だということに。

 「こうして会うのは始めてかな? 妹の方なら君はよく知ってると思うけど……。クイズだ、僕の妹は誰か当ててごらん」

 青年は紅憐に言った。紅憐は記憶の中から小学校から一緒のクラスメイトを捜索し、女子を絞り込んだ。そして、青年の雰囲気に似てる人間を探す。

 「何処となく……、氷霧に似てる……」

 「正解! さすが委員長!」

 紅憐は青年の妹を当ててみせた。そして、青年の口ぶりから彼の正体を当てる。

 「そしてそのクイズ好きはf!」

 「さらに正解!」

 青年の正体は、f。以前墨炎がチートプレイヤーに襲われてピンチに陥った際、『妹が風邪で来られないから』という理由で助けにきたプレイヤーだ。その時、確かに氷霧は風邪をひいていた。ついでにクインも。

 fがクイズ好きというのはその時にあった、ほんの少しのやり取りでは見られなかった事実だ。クイズ好きとはいえ、見ず知らずの人間に、会ってすぐに、クイズを出すほど馴れ馴れしい人間ではないようだ。

 「僕が来たってことは、もうわかるよね。妹達じゃ解決出来ない問題がDPOて起きた。ログイン用の部屋をバトラー君が用意してくれたよ」

 fは手短に用件を伝えた。紅憐も、スイッチを委員長モードから猟奇モードに入れ替える。

 「わかりましたぁ。久しぶりに事件って、アタシも暇してたんですよぅ」


 DPO ショッピングモール


 プレイヤーマンションに併設されたショッピングモール。プレイヤーマンションの作りがどの惑星でも同じだけに、ショッピングモールも間取りは同じ。だが、若干並んでる店が違う。

 「見ろよ。水中で撃てる銃だぜ!」

 そんな惑星固有の商品にクインは興奮していた。ここはアトランティックオーシャンのプレイヤーマンションである。水に関するアイテムがよく並んでいる。

 「それ、目的、違う」

 氷霧は相方のいつもの調子に冷静だった。そんな相方をほかって、氷霧は隣にいる二人を見る。藍蘭とスカーレットだ。

 「なんで……ゲームのプール?」

 「それには、秘密があるのさ!」

 スカーレットは藍蘭の突拍子もない思い付きに戸惑う。夏なら、リアルのプールに行けばいいのに藍蘭はゲームのプールに行こうと言い出した。

 「秘密?」

 「秘密はウェブで公開!」

 その理由をスカーレットは聞き出そうとしたが、藍蘭は曖昧な答え、というかツッコミどころ満載の答えでごまかす。

 藍蘭はスカーレットをなるべく安全な場所にいさせるために、DPOへのログインを決めた。プールはその理由作りに過ぎない。

 安全な場所、朱色の妹が電磁波で干渉できない場所である。本来ならテレビ局を出ればいいのだが、スカーレットは仕事の都合でそれが出来ない。だから、DPOに来た。

 氷霧は電波と電磁波を読み取るインフィニティだ。しかし、そのインフィニティ能力はDPOにいる間は使えない。DPOには電波も電磁波も無いのだ。だからこそ氷霧はDPOに入り浸り、トッププレイヤーにまで成長できたのだが。

 つまり、氷霧の件から藍蘭はDPOにいる間は安全と考えたのだ。確かに、意識がゲームにあれば電磁波でリアルの体に干渉しても、何も誤認することはない。

 リアルの体の感覚はウェーブリーダーがシャットダウンしている。そうでなければ、今頃藍蘭達はホテルのベッドに寝てる感覚が背中に広がっているはずだ。スカーレットなんかは控室の畳に寝てるものだから、長時間ログインすると背中が痛くてプレイどころではなくなるだろう。

 そんなわけで、リアルの体が電磁波によってなんらかの感覚を誤認させられても、それはDPOにいるスカーレットに届かない。現実で朱色の妹が必死こいて電磁波の刃物でスカーレットをグサグサ刺しても、スカーレットは痛くも痒くもないのだ。痒くはならんだろうけど。

 ただ、そんな真意を藍蘭が伝えないのは、スカーレットになるべく事件のことを思い出してほしくない故だ。

 「そういえばよ。氷霧のお兄さんってプレイヤーなんだって?」

 クインの言葉に、藍蘭とスカーレットを見ていた氷霧が頷く。三年前、氷霧は兄の紹介でDPOを始めたのだ。兄も、氷霧になるべく苦しい思いをさせたくないから、このゲームを紹介したのだ。

 「兄貴、最初にクイズ出した。『自分のアバターを見つけろ』って」

 「まだ見つからないのか?」

 氷霧がゲームを始めた時のことを思い出す。クインは三年前、そんな話を氷霧から聞いたことを思い出して言った。だが、氷霧は首を横に振る。

 つまり、氷霧は兄がfであることを知らないのだ。

 「探してない。こっちくらい、兄貴に頼りたくないから」

 「お兄ちゃん泣いちゃうぞ。兄はかわいい妹に頼られたいんだからな」

 実はというと、そう言うクインは氷霧の兄がfであることを知っている。そして、fは妹がゲームで自分に頼ってくれるのを待っていたのだ。

 「お前のお兄ちゃん。すげえプレイヤーなんだぞ?」

 「知らなかった」

 氷霧は兄のDPO生活を一切知らないようだ。fは氷霧が大規模騎士団、惑星警衛士で高い地位についたことを知ると、猛特訓して腕を磨いた。妹が頼ってくれる様に。

 ちょうどその時、あるイベントがあった。ドラゴンプラネットオンラインサービス開始初期に行われたイベント、第一回の『キラートレイン』イベントだ。

 そこでfは見事、ランキング1位に輝いた。だが、妹は始めから兄に頼るつもりはなく、探すことすらしてくれない。fにとって、妹が自立しようとするのは嬉しくもあり寂しくもあった。

 「見つけてあげろよ」

 「やってみる」

 クインの言葉に氷霧は、見つけるだけならという感じで答えた。見つけたら見つけたで、放置するのであろう。

 インフィニティ能力のせいで兄に頼り切りだった氷霧は、インフィニティ能力が邪魔をしない世界だけでは兄から自立したいと思っている。クインもそれをよく知っていた。

 「見てよスカーレット。ナイチンゲールさんの動画更新されてるよ! 七夕の日に出した『バイオハザードシリーズぶっ通しでタイムアタック』以来の新作だよ!」

 「サイバーガールズにもファン多いよ、ナイチンゲールさん。バトラーって仮面の執事が、ナイチンゲールさんに声似てるって噂になってる」

 藍蘭とスカーレットは、店のモニターに映し出された動画サイトの動画を見る。動画には、ブルーベリー色の巨人から逃げるゲームをプレイする様子が映されている。

 「とりあえず水着選ぼうぜ」

 クインは三人に呼びかけ、水泳関連の店へ入った。


 凍空プリンスホテル リディアの部屋


 豪華な部屋のダブルベッド、そこに着衣を乱してリディアは寝ていた。手には弐刈からの伝言が書かれたメモが握られている。弐刈はリディアが起きるより早く、仕事に行った。

 「つまんない」

 リディアは慣れない仕事に疲れて、彼女があれだけ誘惑したにも関わらず、何も手を出さずず即座に寝てしまった弐刈にぶーたれた。

 リディアと弐刈は同じベッドに寝ていて、始めは上手く弐刈を誘惑出来たとリディアも感じていた。だが、弐刈は抱き着いてすぐに眠りこけていた。

 リディアの狙いは弐刈と『既成事実』を作ること。秘書と関係を持ったなんて知れれば、弐刈の立場を危うい。リディアはそれを利用して宵越テレビを操るのではなく、極秘情報を聞き出してそれを売り飛ばし、宵越テレビを混乱に陥れようとした。

 「んーっ、もしかして西洋人はタイプじゃないのかな?」

 リディアはベッドから降りて、その下を探る。すると、コンビニでよく見かける、18歳以下の子供が買えない漫画が出てきた。

 「ジャパニーズカートゥン?」

 リディアはその漫画を読み進める。漫画は詳しくないが、内容がいかがわしいことくらい理解出来た。リディアがターゲットの男を落とす時、こうした本を必ず探す。そこにターゲットとなる男の好みがあるはずだからだ。

 「ジャパニーズナショナルユニフォーム?」

 リディアはその漫画にある傾向を見出だす。漫画に出てくる女性が着物を着ていることだ。

 リディアは海外をメインに活動していたためか、着物を利用して男に接近したことはない。もし男の好みが着物なら、それ以外の好みを探していた。

 着物など、リディアは着られないのだ。

 リディアは弐刈のPCからデータを吸い出した時のことを思い出す。無論、やはり男のPCというべきか、そうしたいかがわしい画像が大量にあった。だが、さすがのリディアも画像に傾向を見出だせず、苦労した。

 漫画の絵であるのは理解できたが、リディアにはそれが特定の絵師による作品だとわからなかった。

 「着物……どうやって着よう」

 どうせ脱ぐのだからと思いつつ、衣装は正確に着なければ釣れる相手も釣れないという事実を知るリディアは悩んだ。そして、ある人物を思い浮かべて、身支度を整え出かけた。

 スーツ姿で向かった先は、一般の客室。そこの部屋の一つに、リディアは辿り着いた。

 扉をノックする。中からは、一見すると少女の様に見える少年が姿を現した。

 「何か?」

 三好雅だった。


 DPO ネクロフィアダークネス 真実を名乗る偽りの城


 紅憐とfが朱色に言われて訪れたのは、ネクロフィアダークネスのテレビ局。宵越テレビ本社を真似た、球体が付いた建物が特徴的だ。

 その建物のロビーにいるのは、奇妙な二人組だった。

 「先日、藍蘭達がエネミーに花を付けてる犯人を倒した。だが、それはまだ生きていた」

 「驚くべきしぶとさじゃないですかぁ」

 長い太刀を持ったスーツ姿の男に背が高く赤い軍服を着た女性。妙な二人だった。どちらも長身で、fの方が紅憐より高い。

 「でも、ここで終わりですよぅ」

 紅憐は後ろで縛った赤い髪を撫でながら、舌なめずりをした。fは紅憐の頭上に浮かぶ名前を見て、赤尽くしの外見はまさしく名前に相応しいと感じた。

 たいていのプレイヤーは他のアバターの頭上に、それを操作するプレイヤーの名前が浮かぶ機能をメニュー画面でオフにしている。だが、fは律儀にオンにしていた。だから、fの目線では紅憐の名前が頭上に浮かんでいるのだ。

 紅憐が有名になったのは、実力はもちろんのこと、その特異なキャラクター性だ。

 紅憐とf、そして惑星警衛士のリーダーであるセイジュウロウ、この三人はよくチームを組む。

 イベントでは圧倒的な強さを見せるため、最強クラスのプレイヤーと名高い。

 二人は建物の中を歩く。途中、花を咲かせたエネミーが出た。

 「エネミーはライライガか。労力の割に合わないよ、この素材は」

 fは黄色い狼の様なエネミー、ライライガを見て言う。ライライガの背中には立派な花が咲いている。ライライガはfに飛び掛かる。だが、fが太刀を抜いて居合で斬る。

 ライライガは床を転がったが、花のせいかダメージは少ない。

 「終わりですぅ!」

 そこへすかさず、紅憐が赤い火の玉を撃つ。ライライガは爆発に呑まれ、跡形もなく飛び散る。紅憐の『ファイアボール』スキルだ。

 ファイアボールはエネミーの防御力を無視してダメージを与えるが、これでエネミーにトドメを刺すとこのようにエネミーが吹き飛び、素材を得られない。

 「普通に倒そうよ、っと。【鎧袖尖解】!」

 fが居合を、いきなり現れたライライガに放つ。ライライガは花から解放された。鎧袖尖解はエネミーの部位破壊、装備破壊技でダメージは与えられない。だが、fは返す刀でライライガを斬る。

 ライライガは倒れた。そして、死体の上に青いウインドウが現れる。本来ならこれに触れるとエネミーが落とすアイテムや武器の製造や強化に必要な素材が得られる。

 紅憐はサーベルを赤く光らせ、次々に現れたライライガを切り裂いていく。この『デスサイズ』スキルもまた、防御無視のスキルだ。斬られたライライガは真っ二つになった。

 「どうせ取らないならいいじゃないですかぁ」

 紅憐のファイアボールやデスサイズはその威力故に、これで倒すと素材が得られないものだ。

 fは自分の鎧袖尖解で花を破壊できること、紅憐のスキルが貫通することから、花が防御力を高める装備品であるという答えに辿り着く。

 「さあ奥へ行こう。ボスは倒さないとね」

 「アタシに任せて下さいよぅ」

 fと紅憐は物凄い速度でテレビ局を駆け上がる。ボスはおそらく、最上階の社長室にいる。fは何となく、そう感じた。

 ボスは高いところが好きだと相場決まってるからだ。

 「気にならないか? 花の色」

 「たしかに偏りがありますねぇ」

 fはエネミー達に生えていた花の色を思い返すと、あることに気づいた。紅憐も気づいていた。

 今まで藍蘭達は花の色に注目していなかった。色がバラバラで、手がかりになるとは思えなかったからだ。それはfも同じだったが、花の色に偏りがあることがわかった。

 fはいつも通りクイズを出す。

 「さてクイズ。どの色の花が一番多いでしょうか」

 「アタシも見ていましかたら、クイズにならないじゃないですかぁ。黄色ですよぅ」

 紅憐が言った通り、黄色が若干多い。逆に、何故か青色は無い。

 「青は……無いね」

 「この花が薔薇に似ているからですかぁ? 青い薔薇は花言葉にも『不可能』ってあるくらいですしぃ」

 「いや、でも近年の遺伝子改良で青い薔薇が咲いて、花言葉に『奇跡』とか『神の祝福』が追加されたらしいよ」

 fと紅憐は青い花だけが無い理由を考えた。本来不可能な緑の花すらある状況で、パンジーなどからポピュラーな青い花が無いのは奇妙だ。

 「青い薔薇といえば、最近人気の『Ib』っていうフリーゲームに、青い薔薇が出てくるね」

 「それなら知ってますぅ。なんかぁ、アタシがファンのゲーム実況者さんがぁ、次これやるっていってましたぁ」

 fと紅憐は有名なフリーゲームの話を、非常階段を上りながらする。紅憐は氷霧やクインに黙っていたが、ナイチンゲールという実況者のファンだ。サイバーガールズ及びクラスメイト内でも噂されている、仮面の執事とナイチンゲールの関係性にも密かに注目している。

 「では、社長室までもう一息だ」

 「犯人を挽きちぎるのが楽しみですぅ」

 fと紅憐は話を止め、社長室を目指す。紅憐の口調からは、猟奇度が5割増だった。挽いてからちぎるとは狂暴だ。

 電磁波を読み取るインフィニティ、氷霧。犯人は彼女も始末する恐れがある。クラスメイトの命を脅かすかもしれない犯人を紅憐は許さなかった。

 ゲームの中で狂気に満ちたキャラを演じても、紅憐の本質は『委員長』なのであった。


 宵越テレビ本社 ロビー


 「で、なんで僕がこんなこと……」

 「社長の命令です」

 雅は浴衣姿で、リディアと歩いていた。スーツで決めたリディアは髪を結い、眼鏡をかけて『できる女』に変身していた。

 ことの始めは、リディアが浴衣の着付けを教えてもらおうと雅を訪れたことだ。リディアはホテルで、雅がそういうことができると女子が噂していたのを聞いたのだ。

 雅もクラスメイトに似てるリディアの頼みを蔑ろにできなかったようだ。

 エディには何も、遊人だけが特別な感情を抱いていたわけではない。雅は学級長であった上、エディに『雅くんと呼んでいいですか』なんて初対面で男性扱いされたため、少し気にかけていたのだ。

 そんな理由からエディにそっくりなリディアの頼みを断れない雅は、リディアに着付けを教えたのだ。

 リディアはすぐに着付けを覚えたが、電話がかかった。リディアの携帯だった。電話は弐刈からで、泉屋の死を隠したいから雅を呼んでこいという話だった。

 「それで、泉屋さん。段取りはOKですか?」

 「歌わなければバレない」

 リディアに聞かれた雅は答えた。雅は渋々承諾したが、泉屋の仇に近寄れると考えて泉屋の替え玉になったのだ。

 前を行くリディアに、エディの面影を感じながら雅は言った。

 「リディア。君は何で宵越社長の秘書なんかしてるんだ?」

 「世界を混乱に陥れるため」

 妙な答えしか帰ってこなかったため、エディの面影は雅の目の前から消え失せた。エディならこんな黒幕じみた台詞は言わない。

 雅がロビーを見渡すと、バトラーとあかりが話しているのが見えた。そういえばあかりは遊人の幼なじみだったと、何故かこの組み合わせを見て思い出す。

 距離が離れているので、何を話しているかは解らない。だが、親しげに話している様子だった。本来バトラーとあかりは初対面のはず。だから雅にはこの光景が不自然に見えた。

 バトラーとあかりは、まるで幼い頃からの知り合いかの様だった。


 DPO ネクロフィアダークネス 真実を名乗る偽りの城


 いよいよ最上階の社長室に辿り着いたfと紅憐。社長室の立派な扉の前で、しばらく作戦を練る。

 「アタシがいきなりファイアボールを連発しますぅ」

 「無理は禁物だよ。魔法と同じで、使えば使うほど、システムに疲労感を感じさせられる」

 紅憐が身も蓋も無い作戦を立てるので、fは心配になった。DPOには明確なMPマジックポイントは存在しないが、疲労感という形で魔法の代償はある。

 紅憐は先程からファイアボールを連発しているが、まるで疲れていない。ファイアボールはその強さから、常人なら一発で息が上がるほどの疲労感を感じる。紅憐はアドレナリンでも全開にして、疲労感を吹き飛ばしているのだろうか。

 魔法の代償としての疲労感は、肉体由来ではない。脳にシステムが疲労感を錯覚させているのだ。肉体とリンクしてない疲労感だけに、アドレナリンでかなり簡単に吹き飛ぶ。

 DPOで強いのは魔法の代償である疲労感をアドレナリンで消せる、つまりゲームを楽しんでいるプレイヤーである。紅憐は確かに、ゲームを楽しんでいるだろう。

 「じゃあ、行くよ」

 「行きますぅ!」

 紅憐はファイアボールを手の平から連発。社長室の立派な扉は跡形もなく吹き飛ぶ。

 「中は?」

 fが社長室に乗り込んで確認する。現実では弐刈の手でバブル期のディスコみたいにされていた社長室だが、DPOでは何者かによって黄色い花で埋め尽くされていた。

 社長室の、社長の机があるべきところには、蔦でできた繭があった。

 「まったく……藍蘭ってのにしても貴方達にしても、焼くのが大好きね」

 その繭から、女の声が聞こえる。繭を破って出てきたのは、金髪の黄色い瞳が特徴的な、黄色基調の衣服を纏った少女。

 fは顔立ちや頭上に表示される名前から、ある事実を読み取る。

 「パープル。縁さんのアバターを使っているのか」

 「悪い? 私が狩った獲物よ?。でも、紫は嫌いでね。青系の色が基本的に嫌いだから、変えたの」

 目の前の少女は縁のアバターを使用している。縁の脳波が完全に消え、ようやく乗っ取れたのだ。髪色と瞳の色は変えたようだ。fは単刀直入に聞く。

 「君は朱色の妹だな?」

 「あら、わかってるくせにいちいち確認だなんて」

 少女は答えた。どうやら、何も言うまでもなく朱色の妹らしい。f達が何処まで自分の正体に辿り着いたかも知ってるようだ。

 「お前はサイバーガールズの誰になりすましている?」

 紅憐が演技を止めて真剣に聞く。放置すれば氷霧の、クラスメイトの命を奪う危険がある相手だ。

 「さあ? もしかしたら、趣味趣向でバレるかもね」

 少女は真面目に教える気などなかった。明らかに瑠璃か彩菜のどちらかだが、紅憐達が犯人をその二人に特定してることは少女もわかっているだろう。

 「さ、こんな怖い人、かわいい番犬ちゃんに喰い殺してもらわないと」

 少女が手を叩くと、何か空で流れ星の様なものが光る。それも二つ。そして、その流れ星はこちらに向かってくる。

 「なっ……!」

 「メテオドラゴン!」

 流れ星がテレビ局に直撃した。紅憐の見立て通り、それはメテオドラゴンだった。二人が驚いてる隙に、少女はいなくなっていた。

 「仕方ない、僕はこっちをやっつけるよ」

 「私はこっちですぅ」

 二人は社長室を出て、左右に別れる。廊下は途中で寸断されており、そこから飛び下りるとすぐにメテオドラゴン専用ステージに到着した。

 クレーターが一本の道を作る空間。二つ作られた空間に、それぞれ紅憐とfがいた。

 「さて、瞬殺しないとね」

 まず、一匹のメテオドラゴンにfが一人立ち向かう。メテオドラゴンは基本、歩いていく場所が熔岩になるので剣士が近寄れない。なので、fは接近できるようにする。

 「い出よ! 水の精霊、【ウンデーネ】!」

 fのスキル『使役精霊(水)』だ。DPOは全感覚投入システムを導入したゲームのテストヘッド的役割を担う。だから、剣あり魔法あり銃器ありのめちゃくちゃな世界になっているのだ。

 fの背後から現れた、少女の姿をした水の精霊がメテオドラゴンの足元に水を撒く。足元の熔岩が冷え、歩けるようになったのだ。

 メテオドラゴンの腹の下に、fが忍び込む。

 「行くぞ。【血飛沫】、【失影しつえい】、【斬解ざんげ】!」

 fはアナウンサーもビックリの早さでボイスコマンドを入力。早口言葉の次元を越えた所謂『高速口言葉ワードバイフルスピード』によって入力されたボイスコマンドは、そのまま目にも留まらぬ連続攻撃として現れた。

 連続突きと連続斬り、そしてトドメの一。メテオドラゴンは致命的なダメージを受けた。

 メテオドラゴンは基本、斬撃に弱い。斬撃がメテオドラゴンの性質上当たり難く、弓や魔法、銃との兼ね合いを考えたステータスだ。だが、この様に何らかの方法で接近して斬撃を喰らわせれば、あっという間に大ダメージを与えられる。

 fが数回斬ってトドメを刺すだけで、メテオドラゴンは崩れ落ちた。青いウインドウが現れる。あれに触れれば素材が手に入るだろう。

 「さて、あの子を追うか」

 fは土手みたいなクレーターを上り、メテオドラゴンから素材も取らずに専用ステージを出た。


 一方、紅憐も別のメテオドラゴンと戦っていた。紅憐は何を思ったのか、土手みたいなクレーターを駆け上がってメテオドラゴンの背中に飛び乗る。

 あまりに単純過ぎて、今まで誰も思い付かなかったことだ。フィールドの壁を使って背中に飛び乗るなど、ゲーム的に通常ありえないからだ。

 人気ゲーム『モンスターハンター』に登場する巨大モンスター、ラオシャンロンの背中に乗る時だってそれはしない。だが、大半のゲーマーがメテオドラゴンのラオシャンロンを狙った様なデザインと、ゲーム的な常識のせいで、紅憐の行動を実行に移さない。

 実行した人間はいるだろうが、歩く場所を熔岩にするドラゴン相手に成功させる度胸と、ジワジワ動く目標に飛び乗る技量を兼ね備えた人間はなかなかいない。

 紅憐はゲームそのものをあまりしないから、現実的な目線でこの策を思い付いた。そして、彼女にはこの策を成功させる度胸と技量があった。

 「弱点はここですぅ!」

 紅憐はメテオドラゴンの背中に飛び乗ると、ファイアボールを撃ちながらデスサイズを発動した剣で背中を切り付ける。メテオドラゴンの性質上やはり、背中は弱点に設定されている。

 今日の紅憐は、常人なら疲労で吐き気すら催すレベルでファイアボールとデスサイズを連発している。ファイアボールは25発程度、デスサイズは約30分で普通の人なら立っていられないレベルの疲労を感じるはずだ。

 炎魔法の基礎魔法フレイムボールが100発、墨炎が多様したフルフレイムが2時間で同じ状態になるというのだから、ファイアボールとデスサイズのコストを考えると、それぞれの威力は凄まじいものだ。

 「あははははははははっ!」

 紅憐は楽しそうにメテオドラゴンを攻撃する。紅憐みたいにゲームを楽しみ、アドレナリンが常に全開なプレイヤーは基本として、魔法の代償である疲労感など感じない。

 ゲームを楽しむか否か、そんなことがプレイヤーの優劣を分ける。DPOは楽しんだ者勝ちなのだ。

 メテオドラゴンが崩れ落ちるのに時間は掛からなかった。紅憐はメテオドラゴンから飛び降り、すぐに土手を駆け上がった。


 宵越テレビ本社 ロビー


 「さて、これからどう致しましょう」

 バトラーは暇だった。本来仕えるべき主、凍空真夏は藤井佐奈、上杉夏恋、元円卓の騎士団幹部にして順の友達であるマルート、そしてリディアと遊びに行ってしまった。

 バトラーも行くつもりだったが、夏恋に『女子会だから性別すら怪しい執事は来んな』と言われてしまったのだ。バトラーは仕方なく宵越テレビの本社なんかにいるのだ。

 「しかしナンセンス。こんなイベント人が集まるのか……?」

 バトラーは近々行われるイベントのビラを見て言った。『お台場夏祭り』というイベントらしい。しかしデステアの件が海外にバレて以来、宵越は資金不足に悩まされており、まともなイベントにはならなそうだ。

 バトラーがチラシをざっと見るだけで、『どこの国のイベントだよ』というツッコミが出そうな内容しかない。

 「まあ、宵越は資金難で某国から安く買えるコンテンツを揃えるしかないようですね」

 バトラーは某国についてぼやかして言った。某国について言及するとある団体の人が五月蝿いので止めた。そういう団体の面倒臭さをバトラーは知っていた。

 「ん?」

 バトラーがチラシから目を離すと、サイバーガールズのメンバーがいた。バトラーの記憶によると、彼女は桜木小春。ピンクのツインテールが特徴だ。サイバーガールズのメンバーは、自身のメインカラーで身を固めるのが慣例なのか、衣服は全てピンク色。

 桜木小春はゲーマーのアイドルであるサイバーガールズの中でも、ホラーゲームを好むことで有名だ。だが、某ゲーム好きのアナウンサーと違い、今までプレイの様子をテレビで見せたことはない。

 辺りを見渡して、何やら落ち着かない様子だ。バトラーは彼女の言葉に耳を傾けた。

 「ここまでくれば……大丈夫。人多いし」

 小春は息を切らしていた。走って来たのだろう。だが、後ろを振り返ると悲鳴を上げた。

 「いや……なんでっ……!」

 バトラーには何も見えなかった。小春が何に怯えているのか、周りの人間にはわからない。

 「どうしました?」

 「化け物が!」

 バトラーが駆け寄って聞くと、小春は何もない空間を指差した。その怯えようから、バトラーはよっぽどの化け物だと予想した。彼はせっかくなので化け物の概要を小春に聞いてみた。

 「具体的にその化け物の様子を」

 「黒いコートを着て、『スターズ』とか言ってる!」

 その言葉を聞いてバトラーは思わず吹き出した。その化け物はバイオハザード3に登場するネメシスというもので、ホラーゲーム界隈では有名なはずだ。それをホラーゲーム好きで通ってる小春が知らなかった。

 小春は自ら、自身のホラーゲーム好きが単なる設定であると暴露したのだ。

 「ちょっ……何笑ってんの!」

 「ひー、こりゃおかしい、ナンセンスナンセンス」

 バトラーが笑うものだから、小春が怒った。普段のクールな執事キャラは、作ってるものなのだろうか。

 恐らく小春は、電磁波で化け物の存在を誤認させられている。電磁波発生装置の効果範囲は、宵越テレビ本社敷地内だけ。

 それを踏まえてバトラーは小春に指示を出す。

 「では、逃げて下さい。敷地の外まで!」

 「わかった」

 小春は走り出した。だが、すぐに捕まったらしく、首を押さえて苦しみ出す。

 「ううっ……」

 バトラーには助けられない。小春は電磁波でネメシスの存在を誤認してるだけなのだから。

 「詰んだ」

 バトラーは諦めた。相手に触れられないのではどうしようもない。バトラーには、小春の冥福を祈ることしかできない。

 「諦め早過ぎ」

 だが、バトラーがお経の書かれた本を背広から取り出した時、声がロビーに響いた。明らかなアニメ声。現実の人間が発してるとは思えない声だ。

 同時にネメシスの姿が現れる。黒いコートをきた巨漢が、紫色の触手を伸ばして小春の首を絞めていたのだ。

 「オリジナルを追い掛けていた頃の私なら、この程度じゃ諦められなかった」

 声の主がロビーに降り立つ。長い白髪を靡かせ、紅い瞳でネメシスを捉える。茶色いニットのワンピースに同色のマフラー、ブーツ。丈は短いが長袖なので暑そうだ。

 「お困りならば、電話一本で駆け付ける! 弱きの味方、白い残像! プロトタイプ、参上!」

 少女、プロトタイプは堂々と名乗りを上げた。バトラーはそれを見ているだけだった。

 「がふっ、がぁっ……!」

 「おっと、今助けるよ」

 苦しそうな小春を、プロトタイプは手にした白い大鎌で助ける。触手を切り裂いて小春を解放した。

 「けほっ、けほっ……」

 「さあて、次はデカブツだ」

 プロトタイプはネメシスに向き合う。だが、ネメシスは何もせずに消えた。だが、プロトタイプは動揺しない。

 「ふん、逃げたか。朱色に電磁波発生装置をハッキングしてもらって、ここまで来た甲斐はあったわね」

 「朱色さんの手引きですか」

 バトラーはプロトタイプの横に立つ。とりあえず犯人に一泡吹かせられて、二人とも満足していた。

 「しかしなぜ貴女が?」

 「朱色にドラ焼きで雇われた」

 バトラーが聞くと、プロトタイプはすんなり理由を答えた。この二人、初めて会った様な雰囲気ではない。

 「報酬がナンセンス……」

 「ドラ焼きおいしいじゃん」

 プロトタイプはドラ焼きで雇われた。どこぞの猫型ロボットみたいである。というか、プロトタイプみたいなツンデレとかクーデレ気味な女の子は鯛焼き好きと相場決まってるものだが、なぜドラ焼きなのだろう。

 「で、こっちの姿を見るのは初めてのわけだけど……」

 「朱色さんの手引なら、ネメシスの姿が見えたのも納得です」

 「ひぐぁあああっ……!」

 呑気に話していた白髪二人は、突然の悲鳴に振り返る。後ろにいた小春が、突然身体を痙攣させて苦しみ出したのだ。

 「しまった!」

 「奴は電磁波でなんでも出来るんだった!」

 バトラーとプロトタイプが気づいた時には遅かった。相手は電磁波。わざわざネメシスなんか使わなくても、人を殺せる。

 「あぐっ……!」

 小春が短い断末魔を上げると、肌の至る所が焦げていた。その死から、バトラーは死因を予測する。

 「感電死か」

 「くっ、結局無駄じゃんか!」

 自分がしたことが無駄に終わり、プロトタイプは歯噛みした。握った拳が震える。プロトタイプは二度と、目の前で人を死なせたくなかったのだろう。

 ドラ焼きは建前。本音は、これ以上誰かが死ぬのが耐えられなかったから朱色の頼みを聞いたのだ。

 プロトタイプの気持ちを察したバトラーは、黙ってその場を離れた。


 DPO ネクロフィアダークネス 真実を名乗る偽りの城


 右腕を失った金髪に黄色い衣装の少女が、息を切らして驚いていた。

 「まさかこんな早くね」

 少女は若干驚いていた。fと紅憐があまりに早くメテオドラゴンを倒したからだ。少女もすぐに逃げようと、メテオドラゴンが落ちた後に走り出したが、すぐに止めた人物がいた。

 「ターゲット捕捉。ビットシステム展開。ここはわたしがとおさない」

 機械のアナウンスと、繋ぎ合わせた様な声。レジーヌだ。新たな装備で現れた。装甲は開くようになっており、そこからは青い光が見える。

 レジーヌの周囲には小さな青い光の玉が浮いている。ビームを固定化し、自在に操るビットシステム。これで少女の右腕は切断されたのだ。

 fと紅憐が追いつき、レジーヌと共に少女を囲む。

 「ここは引くわ」

 少女は衣装が破れるのもいとわず、背中からトンボの様な羽を生やした。そして、そのまま空を飛んで逃げた。

 「にがさない」

 レジーヌがビットを操り、少女を追う。青い光の玉が少女の周りを飛び回る。しかし、少女はすでにビットが追いつけない速度で飛んでいた。

 「逃げたか」

 「残念ですぅ」

 fと紅憐はレジーヌに目もくれず、ログアウトした。レジーヌも装甲を閉じ、ビットシステムを終了した。

 「戦闘終了、スタンバイモードに移行。つかれた」

 レジーヌはてくてく歩いて、メテオドラゴン二匹の直撃を受けて崩壊したテレビ局を去った。

 その救いようの無い様は、これから宵越テレビが辿る運命を暗示しているようだった。

 次回予告

 レジーヌ、次回予告モードに移行。

 次回予告起動。来週の『ドラゴンプラネット』、データダウンロード。ダウンロード終了。ファイル解凍、自動再生。

 次回の予定。藤井佐奈、両親と再会。上杉夏恋、上杉冬香、それに追従。切り裂き魔事件被害者の共通点、露呈。

 次回『ドラゴンプラネット』。『切り裂き魔 東京編』。

 次回予告終了。通常モードに移行。

 らいしゅうもみないと、こうげきします。


 サイバーガールズメンバーリスト


 河岸瑠璃 生存(第5位)

 稲積あかり 生存(第6位)

 木島ユナ 生存(第2位)

 黄原彩菜 生存(第3位)

 緑屋翠 生存(第7位)

 赤野鞠子 生存(第1位)

 紫野縁 死亡:溺死

 上杉冬香 生存(第8位)

 桜木小春 死亡:感電死

 秋庭椛 死亡:転落死

 泉屋宮 死亡:焼死

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