23.復活の炎
「エディ! 生きてたのか!」
俺の目の前に、死んだはずのエディがいた。たしかに死んだはずだが? 対戦が終わりログアウトした俺は、エディが死んだのを確認した。
「ワン・ターレンが生き返らせてくれたの!」
エディはそんなことを言う。まさか、漢塾のワン・ターレンが? エディの隣にはお馴染み過ぎてテンプレな顔をした、筋肉隆々な中国人がいた。
「人類は麺類アル」
「お前ラーメンマンだろ」
@
「うーん。なんでラーメンマンが……」
「遊人、起きたか?」
俺はギョッとして隣を見た。たしか俺は、病院から帰ってきた瞬間にやる気を無くして寝たはずだ。ベッドに吸い込まれるように倒れ、そのままグースカだ。ここは自宅だから、ワン・ターレンもラーメンマンもいない。
もちろんエディも。
そんな俺の隣に、知らない奴がいた。いや、正確には名前くらい知ってる奴だ。切り揃えられた前髪。そう奴は長篠高校生徒会長、佐原凪だ。
「悩みがあるなら会長さんが聞いちゃうぞ☆」
「☆っていうな! どっから潜り込んだ!」
布団に潜ってる佐原会長が起き上がった。なんと、Yシャツしか着てない。何を考えているんだコイツは。ベッドは勿論シングルだから、狭いし
「君は鍵をかけたけど、私にかかればちょちょいのちょい。生徒の中にピッキングの天才がいてよかったよ」
「そういう能力だったな……」
順から聞いた佐原の能力は、他人の個性や特技をコピーする能力。競争社会において、相手のアドバンテージを一切許さない能力だ。まさに、人間が作った競争社会に適応した進化といえる。
「で、なんの用ですか?」
佐原会長は用事があったに違いない。だが、この人は用事を忘れてふざけるので注意が必要だと雅が言ってた。
「君の寂しさを癒そうと思ってね。無論、躯で。そういえば、からだって躯と書くと卑猥だよね」
「何……まさか……」
佐原会長はゾッとするようなことを言う。まさか、エディともまだなのに……
「お、ビックリしてる。かわいー。冗談なのにね」
「マジでビックリしたよこのアマ」
佐原会長は冗談を言っただけだった。心臓に悪りぃな。佐原はふと、Yシャツのポケットから鍵を取り出して俺に渡す。
「エディの部屋の鍵だ。君に渡す」
「いいのかよ」
とりあえず、俺は鍵を受け取る。佐原会長のことだ。絶対面白半分だ。
「君の能力は優れた観察能力だが、人のすべてがわかるわけではない。もしかしたら意外な発見があるかもね」
「適当な……」
俺は鍵を持って部屋から出た。そういえば、服装は制服のままだったな。
エディは死んだ。だが、俺はエディから頼まれている。熱地を崩壊させる手助けをしてほしいと。
とりあえず順を探そうとしたら、すぐ見つかった。リビングのソファにいた。弟なのに、同じ部屋にいるのは初めてだ。
「順。熱地を倒すぞ」
「そう来ると思ったよ。ではまず僕達の出生の秘密から教えよう」
出生の秘密? まさかそんな漫画みたいなことが自分にあるとは。まあ、緋色がクローンなんたらと言ってたから内容は予想できる。
「僕達は太平洋戦争で活躍した軍人、新田遊馬のクローンだ。新田遊馬は優れた洞察力を持っていたそうだ」
順は話した。特殊な染色体、インフィニティ細胞のことから進化した人類、インフィニティのことまで。
要するに俺達は、進化した人類を研究するために生み出されたのだ。
「インフィニティ細胞は二つないとほとんど力を発揮しない。兄さんの観察能力は一つである程度発揮されたけど、二つ揃った方が強力だ。渚がもう一つのインフィニティ細胞を持っていて、それを輸血で渡されたから兄さんは二つ持ってるね」
「輸血で細胞が受け渡しできるのか……」
「インフィニティ細胞は転移しやすいからね」
なんという科学法則無視。
順曰く、俺はインフィニティ細胞とやらを二つ持ってるらしい。テストの時目覚めた能力の理由がそれか。インフィニティ細胞を二つ持ってても、結合するのには時間がかかるようだな。
「兄さんや遊馬のインフィニティ細胞が観察力、渚のインフィニティ細胞が演算能力を担当してるとすれば、兄さんは観察した情報をより多く捌くことができるってことだね」
「シャーペンの音で書いてる文字を特定とか、明らかにやり過ぎだがな」
俺はある程度順の話を聞いたら部屋を出る。知るべきことは知った。俺が生まれた理由。進化した人類のこと。
俺の寿命が短いのは、細胞調整の失敗のせいらしい。順は渚が死んだ事件の前、俺に細胞調整の薬を投与したが、渚にお釈迦とされた。そんなことを前、公園で会った時に話してたな。
俺はマンションから出て、適当に道をぶらつく。佐原会長からエディの部屋の鍵を貰っていたが、上がる気にはならなかった。
すっかり夕方、いや夜だ。今は7時くらいか? 今日を振り返ると、なにげに長い一日だったとわかる。学校帰ってきてすぐ円卓の騎士団と決着付けて、エディと最後の対戦をした。
DPOにはゲーム内の時間を現実の5倍に引き延ばす、待ち合わせが面倒臭さそうなシステムがあったな。例えば、現実で1分遅れれば相手を5分待たせることになる。衛星兵器での戦いは、現実時間に直すとあんまり時間かかってない。
とりあえず緋色の顛末でも聞こうかと、インフェルノ本社に行くことにした。
インフェルノ本社へ行くには、矢作橋という橋を渡らなければならない。これがまた無駄に長大な橋なのだ。車道と歩道に別れてる時点で相当デカイ橋に分類される。
そんな橋の上で、二人の女子中学生が地図を見ながら話をしていた。制服は夏服。やはりセーラーだが、見覚えがない。少なくとも、俺が昔通っていた関ヶ原中学のものでないのは明らかだ。
女子中学生の制服で学校を特定できるほど、俺は変態ではない。
「あの、すみません」
俺が何気なく通り過ぎようとすると、女子中学生の一人が声をかけてきた。髪をポニーテールにした、いかにも社交性がありそうな女子中学生だ。
もう一人は、そいつの後ろに隠れていた。眼鏡で前髪が長いから、素顔が解らん。後ろ髪はセミロングくらいか。
「インフェルノ本社って、どこにありますか? あたし達、なんか道に迷ったみたいで」
「俺もインフェルノ行く途中なんだ。よかったら一緒に行かない?」
女子中学生はインフェルノ本社を探していたみたいだ。なんか初めて話した感じがせず、つい俺も道案内を申し出る。
こんなとこ知り合いに見られたら、彼女が死んだ直後にナンパするダメ男と思われてしまう。
「道案内申し出たらヤバいって、兄貴が言ってた」
そこへ後ろに隠れていた女子が何か言った。まあ確かに、間違ってはいないな。
「大丈夫。いざとなったらこれで音立てるから」
そう言って、ポニーテールの方がモデルガンを取り出した。
モデルガンはスミス&ウェッソンM29。たしか、クインが使ってたっけ。【ヒートスナイプ】でレジーヌ撃つ時に。少なくとも、女の子が持ち歩く品物ではない。火薬で音が鳴るタイプなので、鳴らされたらうるさいに違いない。
「そんなゴツい防犯ブザーがあれば安心だな。俺はインドア派だし、大人に来られたら一たまりもないぜ」
大丈夫であることをポニーテールの方が証明したので、道案内することになった。
「さて、インフェルノまで行くよ」
「この人、嘘はついてない」
ポニーテールが促すと後ろに隠れてる方が、何か電波でも受信したみたいに俺を信用した。大丈夫かコイツ?
とりあえず、奇妙な混成パーティーを組んだ俺はインフェルノ本社に向かった。そこそこ距離があるので、無言は厳しい。なのである程度話をする。
「どこの中学だ?」
「九州の方です」
ポニーテール曰く、九州の方から来たらしい。それなら制服に見覚えがなく、道に迷っていても不思議ではない。先程得た情報から話を広げていく。いくら進化した人類の観察能力があっても、会話力まで上がるわけではない。一目で身長からスリーサイズまでわかったのは黙っておこう。
それこそ変質者だ。厄介な能力だよ。
「銃が好きなのか」
「それはもう」
「ゲームの中だけど、似たような知り合いがいてね」
コイツと話すと、どうもクインの姿がちらつく。氷霧とクインは今頃何をしてるのか。
「ゲームって、もしかしてドラゴンプラネットオンラインですか?」
「それだ」
「あたし達もやってるんですよ」
ゲームに引っ掛かったポニーテールは、DPOの名前を出す。九州でも人気だな、DPO。きっとコイツのアバターはクインみたいな奴に違いない。
「私……弓使い」
「俺は双剣使いなんだ」
後ろに隠れてる方はそんな情報をボソッという。コイツは雰囲気こそ氷霧を思わせるが、これではサブリーダーなど務まらない。
「ゲームだと、もうちょっと人見知り治るんですけどね」
「だよな」
ポニーテールが言うには、ゲームだとここまで人見知りではないらしい。つまり、自分に自信がないのか。
「お、着いたぞ」
「ありがとうございます!」
初めて会う同士とは思えないくらい話が弾み、いつの間にかインフェルノ本社の前に着いていた。しかし、こいつら絶対どっかで会ってるはずなんだよな。
「インフェルノに何か用事か?」
「電磁波強くなった」
「いや解るかよナンセンス」
インフェルノに来た用を二人に聞こうとすると、後ろに隠れてる方が電磁波を感じた。いや、感じるはずない。電磁波で人の神経に干渉する朱色の仕組みを利用したジョークなのか?
「コイツは電磁波とかに敏感でね。電子レンジが回ってるだけでも体調崩すんだ」
「新たなるインフィニティか……」
ポニーテールは相方の体質に関して説明を入れる。インフィニティという単語には二人共ハテナマークが浮かんでいた。
そりゃあそうだ。インフィニティなんて概念、順が身内にだけに発表したんだから。
なんだかんだ、俺達はインフェルノの本社に入る。するといきなり、朱色が何もない空間から出現した。とんだ歓迎だ。
「やーやー。遅かったね三人とも。もうちょっと早かったら緋色の連行シーン見れたのに」
「警察に連れていかれたのか、あいつ」
緋色は逮捕されたらしい。朱色には俺達が来ることがわかってたみたいだな。
「で、一緒に来たみたいだけどリアルで会ってどう思う? ゲームなら腐るほど顔を見てるだろうけどね」
「ちょっと待て、俺達は初めて会ったんだぞ?」
「あたし達は偶然この人に道案内を頼んだんだ」
朱色の発言には不適切な場所がある。それはポニーテールも気づいたみたいだ。俺達はさっき会ったばかりなのだから。
「気づかないなら、教えてあげるよ」
朱色はそう言うと俺達三人の頭上に橙色のリングを出現させ、リングを頭の先からつま先まで下ろし、スキャンした。そう、エディと前にインフェルノ本社を訪れた時みたいに。
そして、出現したアバターを見て俺は愕然とした。
「氷霧! クイン!」
「え? 墨炎?」
目を伏せて浮かんでいるアバターは、氷霧とクイン。俺の墨炎もある。
墨炎に驚いたポニーテールは、クインだったのだ。電磁波干渉でスキャンされて完全に体調を崩してるのは氷霧か。
「しかし氷霧は電磁波に弱いなー」
「気分……悪い」
クインが近くの椅子に氷霧を座らせる。体質なのかインフィニティなのか、前者なら特に利点もないのでかわいそうである。
「昔から電磁波とか電波とか敏感でね、この子。生身で電話とか無線とか、挙げ句メールも傍受できるのよ」
「すげえな。順にでも相談してみるか。電波を読み取るってのは、情報化社会に対する進化の可能性もある」
しかし、氷霧の能力にも興味がある。そこで俺はこんな実験を申し出た。
「クイン、携帯あったらメアド教えてくれないか? 氷霧はあの様子じゃ持てないだろうし。赤外線でメアドくれれば俺がメールするよ」
「え? あるけど……」
クインは携帯を取り出し、俺の携帯に赤外線でメアドを渡す。さすがに赤外線みたいな弱い物は傍受できないのか、氷霧に変化はない。
「よし、メール送るぞ」
俺はメールにこう打ち込んでクインに送信した。
『次の文章を朗読。朕は、日本国民の総意に基づいて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる』
そのメールをクインに送信。クインはわけがわからないというような表情をしたが、何故かメールを見てないはずの氷霧が意図を理解してメールの指示に従う。
「ちんは、日本国民のそーいにもとづいて、新日本建設のいしずえが、さだまるにいたったことを、深くよろこび、すうみつ顧問のしじゅん及び帝国憲法第73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正をさいかし、ここにこれをこーふせしめる?」
「なにそれ! 日本国憲法?」
「力は本当のようだな。なるべく正確な情報があれば順も診断しやすいだろう」
氷霧の能力は理解した。順に氷霧に関してのメールを打つ。順なら『インフィニティ細胞の有無が解らないとなんとも言えない』と言いそうだがな。
「なるほど、そういう専門家が知り合いにいるのね」
「九州にはいないのか?」
どうも、九州には進化した人類に関する研究をする人間はいないらしい。もしかしたら、エディの部屋にラディリス・ソルヘイズ博士のレポートがあるのかな?
「うーん。いろいろなお医者さんには見てもらったんだけどね……」
「熱地学院大学はクローンまで作ってインフィニティを研究したのに、天然のインフィニティである佐原会長のことも気づかなかったらしいな。地方はあまり調べてないのか?」
熱地学院大学は新田遊馬のクローンを作ってまでインフィニティを探したのに、岡崎には佐原凪が、九州には氷霧がいた。
ざる過ぎねぇか? 熱地の皆さん。
「そうそう、緋色の部屋からこんなものが見つかったよ」
朱色が取り出したのは、補聴器らしき機械。これはなんだろう。朱色がラジコンのカートを操って持ってきたとこを見ると、朱色のような電磁波で誤認させられてる存在、ホログラムではないらしい。朱色は仕組みの関係で、生き物にしか触れない。
「これが墨炎の正体を探る秘密だよ。補聴器型無線機、ウェーブリーダー機能付き。楠木渚はこれで人格データを墨炎に写してたんだ。時々墨炎に現れた人格は渚のものだよ」
「マジ?」
「でも、記憶はないけどね。記憶データはボクの妹が持ってるね。緋色や表五家の連中に悟られないように分けたんだろうね」
なるほど、渚が生きてるのか。熱地倒したら、朱色の妹を探しに行くか。大方、妹もAIだろうし。
朱色はさらに、こうも付け加えた。
「で、エディとの対戦はリベレイション=ハーツのリミッターを解除した特別なものだったからね。メアが限界超えちゃった。だから、このアバター使って」
朱色が指を鳴らすと、墨炎が現れた。しかし、墨炎は氷霧やクインのアバターと並んでいたはず。よく見ると、墨炎が二人いる。
さらに、服装が違う。パーカー付きワンピースなのは一緒だが、前開きで水色だ。さらに、赤いアンダーリムの眼鏡もかけている。髪型やスパッツ、ブーツなど共通点もあるが、違った印象を感じる。
「墨炎の外見をコピーしたアバターだよ。人格が現れることがないから、安心して戦ってね」
成る程、人格を抑え込めないなら、外見だけ同じアバターを用意してしまえということだな。
「墨炎。つまり、復活の炎か」
俺の手元に墨炎は帰ってきた。憎しみの黒い炎。俺の憎しみと共に、墨炎は戻ってきたのだ。
そこで俺は、ふと氷霧とクインのことを思い出す。なんでコイツらわざわざ九州から来たの?
「あれ? 氷霧とクインはどうして来たんだ?」
「そうそう。あたし達はこれのために来たのよ」
クインが取り出したのは一枚の紙。そこには、『熱地学院大学による長篠高校視察会』と書かれていた。
「そこの会長である佐原凪さんが、熱地のじいちゃんをボコッたらしくてね。学校を潰す理由探しの視察会だって。でも夏恋先輩が、なんかレクリエーションとしてゲーム大会開いたらしいよ。それで夏恋先輩に呼ばれたの」
「お前、夏恋を知ってるのか?」
クインは夏恋を先輩と呼んだ。聞き間違いではない。たしかにそう言った。夏恋の出身は九州だったな。
「中学の先輩だよ? ちょっとした事情でこっち来てるけど」
「……いやな事件だった」
成る程、氷霧が言うには何か事件があったんだな。
「夏恋の話は置いておこう。今はその、レクリエーション大会の話だ。ゲームって何するんだ?」
「もちろん、ドラゴンプラネットオンライン。だからあたし達が来た」
「私は墨炎の、パートナー」
夏恋はDPOで熱地とケリを付けるつもりなのか? そんなんで奴らが懲りるとは思えんが……、順達の暗躍で海外にデステアの事故の真相が漏れたんだっけ?
なら別に、DPOでくじいてもいいのか? かと言って、命賭けのギャンブルなんかあいつら乗らないだろうし。
「仕方ない。おいしいとこ持ってかれちゃったし、ここは俺達でやろう」
俺は仕方なく夏恋の案に乗った。本当はもっとボコボコにしたいが、もう熱地は社会的に死んだも同然だし、俺が出来ることはない。
「そういえば、デステアの事故についてネットじゃ騒ぎになってたよ」
「テレビ、付かない。海外、大騒ぎ」
「ネット見てなかったな。見るか」
クインに言われ、俺は携帯のネットから2ちゃんねるまで行く。こういうとこしか日本じゃ情報は流れていないだろう。
マスコミは宵越に支配され、デステア関連のニュースはタブーなのだ。しかし、インターネットじゃ動画サイトで海外メディアがなんか映像を流したらしい。
カキコミを見ると、熱地が全感覚投入脳なる新たな新説を発表しようとした時、宵越の記者が真実を暴露したらしい。動画のリンクが張ってあったので、俺は動画を見た。
宵越の記者は真田総一郎だった。さらに、知ってる顔ぶれが揃う。発表は今日の夕方だった。俺達が衛星兵器で戦ってるのと同時期か。
テレビでは放送事故として処理され、生中継ながら放送されなかったシーン。熱地の偉い人らしい老人が武装集団を呼ぶが、姉ちゃんと佐原会長に返り討ちされる。
佐原会長が老人の身体を踏み抜く。多分熱地がキレた原因はこれだ。本人曰く心臓マッサージらしいが。
カキコミには興味深い記述があった。ラディリス・ソルヘイズと、デステアのあったソルヘイズ島の関係についてだ。
『ラディリス・ソルヘイズ博士は、代々ソルヘイズ島に住んでいた人間の子孫』
「へぇー。日本でいったら、岡崎に住む岡崎さんみたいなものなのね」
クインの言葉をよそに、俺は掲示板を読み進めた。
『デステアの事故、唯一の生存者は、母親であるラディリスの名前をアバターに付けたんだとよ』
『ラディリスって、あのやらた強い流れプレイヤー?』
『最近は墨炎、氷霧、クインといるよ』
『熱地と長篠高校代表のデュエル、ゲーム内で実況されるらしいな』
『あの三人が代表らしい』
『熱地なんか焼き払え!』
『ラディリスの仇を討て!』
『あいつら同じ学校のクラスメイトなのか』
『違うらしいよ』
『違うのかよwww』
『細けぇこたぁいいんだよ!』
『墨炎は長篠高校の生徒らしい。変に知らん奴でパーティー組まれるより、氷霧とクインで組んでくれた方がいい』
『俺が仇討ちたかった』
『いや俺が』
『じゃあ俺が』
『どうぞどうぞ』
『熱地のお偉いさんなんか初心者でも楽勝だろw』
『お前らこんなくだらないゲームで騒がず勉強しろ』
『と、円卓野郎が言っております』
『プレイヤーは墨炎達の味方。これ総意』
そこまで読んで、俺は携帯を閉じた。これだけ皆が俺達を応援してくれる。負けるわけにはいかないな。
ラディリス、エディの死が、さらに一層プレイヤー達を強く結び付けた。後は俺達が、熱地を叩きのめすだけだ。
ふと気づくと、携帯が鳴っている。俺は誰からの着信音か確認する。
「友達? 女の人の声がする」
俺が確認すると同時に、氷霧も誰からの着信か察知した。俺は着信の名前を確認して苦笑いした。着信は三好雅から。たしかに、雅は声も女の子だっけか。
「俺だ」
『遊人か。皆がなんか言いたいらしい。まずは佐竹……うわっ!』
『しゃらくさい! スピーカーフォンにしちゃえ!』
煉那が雅から携帯を奪って、スピーカーフォンにした。煉那らしい行動だ。ちまちま携帯をパスするのが嫌だから、スピーカーフォンで直接全員が話せるようにしたのか。
『おい遊人! 悔しいがエディの仇はお前に討たせる! 負けんなよ!』
門田の声が聞こえる。まあコイツなら、対戦の後に熱地の奴らを殴りに行きかねないが。
『私も……応援してる』
『俺もだ! 終わったらサイバーガールズのライブ行こうぜ!』
佐奈と佐竹だ。ライブに誘うあたりが佐竹らしい。
『美味しいとこはあげたからね!』
『ヘマしたらただじゃおかねぇ!』
涼子に煉那。仲間達の声が電話越しに聞こえる。DPOの仲間もいるが、俺は現実世界にも仲間がいる。どっちも大事で特別な仲間達だ。
『よし、武士道精神に乗っ取り、正々堂々卑怯者を討ち取れ! 次、ラスト、夏恋!』
雅が短くまとめ、夏恋にパスする。夏恋の声が携帯から聞こえた。
『エディから聞いたよ。あんた、寿命がもうないんだって?』
「あ……ああ」
夏恋の口から発せられたのは、そんな言葉。エディは夏恋にしか話してないらしく、周りでクラスメイトが驚く声が聞こえる。
『まったく、それなのにゲームばかりしてこの廃人ゲーマー!』
「すいません!」
怒られてしまった。まあ、たしかにもうちょい上手い寿命の使い方があるよな。自分でもわかる。
『あんたはエディの分まで生きる義務があるの! サイボーグになっても生きてもらうからね!』
「おいおい……」
普段の毒舌と違い、なかなかストレートな言葉。心なしか、夏恋の声は震えていた。
『あんたの廃人ぶり、学者先生に見せ付けてやりなさい! 頭真っ白は伊達じゃない、ってね!』
「白髪は関係ないと思うぞ」
夏恋は電話を切った。前にも毒舌をやめてストレートな言葉を俺に向けたことがあるが、今回はストレートな感情も伝わった。
「あの毒キノコめ……」
だが、気合いは入った。そこへ朱色が俺達それぞれの武器を持ってきた。多分、電磁波でそこにあると誤認させられているので本物ではないだろう。触れるホログラムだ。
「じゃあ、決起といきますか!」
クインがショットガンを手にする。これはレジーヌとの戦いで使った奴だが、ベネリM4であることが最近わかった。
「私も、何処までも行く」
氷霧は白い弓をクインのショットガンに重ねる。
俺の武器はビームサーベルじゃない。プロトタイプでの戦いで使った、シロクロツインズ。既にツインランスモードだ。
「最高にハイセンスな戦いで、ナンセンスな結末を奴らに味あわせてやる!」
俺はシロクロツインズをショットガンと弓に重ねる。ここに、俺達の思いは一つになった。
「ぶっ放す!」
「……狙い撃つ」
「ナンセンスにな!」
それぞれの思いを重ね、俺達は最後の決戦へ向かう。そしてその先にあるのだろうか?
俺の、憎しみの末路が。
次回予告
遂に訪れた決戦の時。それぞれの思いを抱え、一つの戦いに臨む6人。
氷霧のひたむきな想いが勝るか、南晴朗の醜悪な執着が勝つか。
クインの真っすぐな意思が貫かれるか、南太郎の曲がった精神が貫くか。
そして、
遊人の燃え上がる憎しみが焼き払うか、南十郎の這い寄る執念が焼き尽くすか。
心と心がぶつかる、最終決戦。
次回、ドラゴンプラネット。第一部最終回、『憎しみの末路』
これは一人の少年の、あまりにも純粋な憎しみの物語。