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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
45/123

21.命の火花世界に散って

 ドラゴンプラネット チュートリアル

 衛星兵器

 ラグランジュポイントと呼ばれる場所に工作スキルで作れる兵器。騎士団ホームとして機能はしないし、立地ではドラゴンプラネットという扱いになるため、PKし放題。

 ギャグで入れられたため、本来は制作不能。必要素材が多過ぎて実質作れないも当然だった。

 しかも、破壊力もゲームバランス上ヤバいので完成時の祝砲以外撃てないようにされてるのだが……

 ギアテイクメカニクル アイアンツンドラ


 「ポータルは各惑星に一個ずつ作らなければならない」

 クインは出現した紋章みたいなポータルを眺めて言った。俺達は今、雪山にいる。衛星兵器は惑星に一個ずつポータルが出現する。俺達がネクロフィアダークネスで見たのはその一つだ。

 他のポータルには、藍蘭や紅憐、田中丸などそうそうたるメンバーが待機している。レジーヌやプロトタイプも来てるらしい。順がいないのは、先日得た情報で熱地をリアル方面で揺さぶる作戦を実行するためだ。

 順が円卓の騎士団を作って、熱地の信頼を得ようとしたのは、揺さ振りに使う情報を得るためだった。だが、熱地は弛んでいたのか、順が仕事を完遂する前に情報を掴ませてしまった。結果、極秘情報は持ってかれるわDPOも潰せないわのてんてこ舞い。何たるマヌケ。

 このポータルにもたくさんプレイヤーが集まっていた。

 雪山の景色を楽しむ余裕は今はない。もうすぐで円卓の騎士団と完全決着なのだ。

 空にはドラゴンプラネットと衛星兵器が見えている。

 「作戦は、完成と同時に全てのポータルから一斉に襲撃をかけるというものだな」

 「さて、楽しみだね。殲滅戦」

 俺が作戦の内容を確認すると、エディが凶悪な笑顔を浮かべる。それは太陽のような笑顔だったけど、太陽は太陽でもプロミネンスとかそんな感じだ。

 あの土曜日のデートから二日、月曜日となった。学校には行ったが、クラスメイトのDPOユーザーはこの作戦のことで持ち切りだった。そして放課後、この作戦の時間がやって来た。

 俺達のパーティーは割り当てでこのポータルから。後は衛星兵器からの完成の祝砲が出れば、作戦開始だ。衛星兵器は完成と同時に祝砲を撃つらしい。しかも、それ以上ビームを撃てない。

 「なんだ、全然大したことないや」

 「ここまで戦い抜いた君なら楽勝だ」

 俺が素直な感想を言うと、横からスーツのアバター、fが登場する。随分久しぶりだ。ていうか、メアと墨炎を同じプレイヤーが動かしていることに気づいているのか?

 fはサラっと種明かし。

 「アバターが変わっても使ってるアカウントは一つだ。プレイヤーIDを見ればわかる」

 fがいうには、アカウントを判別する方法があるらしい。まあ、仲間にしたNPCをアバターとして使えるシステムがあるから本人判別の方法くらいあって当然か。

 「来た、祝砲」

 氷霧の視力が衛星兵器からの祝砲ビームを確認した。ポータルも様子が変わる。ポータルが輝きだした。

 「行くぞ!」

 「狙い撃つ!」

 「殲滅……!」

 「露掃いは任せて!」

 俺、クイン、氷霧、エディの順でポータルへ足を踏み入れる。DPOを守る最後の戦いが始まった。

 ポータルを踏むといきなり風景が変わる。雪山の銀世界から近未来の機械的な風景になった。廊下みたいな場所だ。壁の片側に窓が付けられている。窓の外はビームを撃つ砲口のようだ。廊下は砲口に沿って螺旋状になって、衛星兵器の上部に向かう。窓から見えた、窓ガラスの並びからそう判断できる。

 ここが衛星兵器か。

 「来たぞ!」

 「日本の腐敗を正せ!」

 円卓の騎士団メンバーと思われるプレイヤーが数人こちらへ向かって来た。むしろお前らが日本の腐敗だよ、腐った蜜柑共。

 生憎衛星兵器はシステム上、ドラゴンプラネットに存在することになっている。つまり、面倒な手続きなしでPKし放題だ。

 「【イーグルアイ】!」

 クインが狙撃銃を手にして技名を言う。銃口にオレンジの標準の様なエフェクトが現れ、敵を撃つ。クリティカルダウンを起こした敵は倒れた。

 「狙撃スキルって、ミリタリー色薄めるから使いたくなかったけどな。これは、クリティカルダウンをする場所に当たれば疲労度に関係なく、ほぼ確実にダウンさせられる技だ」

 「強いな」

 クインは余裕で狙撃していた。だが、まだ敵は多数来る。氷霧が弓を引き絞って、技を出す。

 「【ガストアロー】」

 敵の一軍を矢が抜け、突風を起こす。突風で敵は体勢を崩す。敵はチートで手に入れた装備をしていたが、みんな鎧ばかり着ている。軽い革装備なら突風が吹いてもバランスを崩すことはなかったのに。

 「【ラヴァ・ウェーブ】!」

 エディの炎魔法が体勢を崩した敵を狙う。マグマの波が敵を飲み込んだ。防御力低下と大ダメージの効果がある。ガストアローの突風にもダメージ判定があったため、大半の敵は倒した。

 だが、まだ敵は残ってる。ここは俺の出番だな。そこはあの技を繰り出そう。目立つし。

 「【ジャッジメント……」

 俺はビームサーベルを交差させる。これは集団向けの双剣術だ。先日のデートで見た映画の主人公の様に、爽快感溢れる無双プレイを見せてやるよ!

 と、そこへ空気を読まない円卓野郎が飛び出してくる。

 「その技は、ジャッジメントクロスだな! 貴様らがやりそうな技くらい予習してる! くだらない映画を耐え忍んで見た甲斐があった!」

 「ブレイズ】!」

 俺は交差した剣を振り払い、炎を飛ばす。これで空気読めない奴含め大体の敵は炎の餌食となった。やれやれ、双剣術にジャッジメントクロスなんて技ねぇよ。しかもあれ、映画だと一刀流だったじゃん。

 間違った予習をした空気読めない奴は案の定驚いていた。あれ? もしかして、システムにない技をカッコつけのために撃つと思ったの?

 「何っ!」

 「ジャッジメントクロスが飛ぶかと思ったか?」

 俺は燃えてる敵に駆け寄り、トドメを刺す。このダメージなら通常攻撃でも充分に倒せるはずだ。

 「甘めぇよ。【ダブルトルネード】!」

 だが、それをしないのが俺。駄目押しに双剣術の集団向け技をもう一度使う。DPOは技に消費するポイントとかなくて、リスクといえば一時的な硬直だけだし、駄目押しは基本だ。

 両手の剣から竜巻が発生し、身体を捩って回るとそれは一つの巨大な竜巻になった。

 「見て、何か様子が変……!」

 大体の敵を蹴散らしたあと、氷霧が何かに気付いた。戦闘の余波で粉砕した窓の外に身を乗り出して、上を見ている。クインも同様に上を見て、ライフルのスコープを覗いた。

 「あれって、ビームチャージ中?」

 「マジで?」

 俺も窓から身を乗り出して上を見たが、何か上が光ってる。明らかにチャージ中だ。

 「演出かなんかじゃないの?」

 『そんな演出は未実装だよ!』

 冷静なエディの意見に、朱色の指摘が飛ぶ。姿は現さずに声だけだ。どうしたことだ。

 「朱色か?」

 『あのもやしがボクを封印したんだ! 消去にはインフェルノ役員全員の承認が必要だから免れてるけど……』

 あのもやし、何考えているんだ? 考える間も無くクインがチャージ中のビームについて触れた。

 「あれは本当にチャージ中なの?」

 『本当にチャージ中。宇宙に向けての祝砲と違って、ターゲットは惑星だよ。しかも、ドラゴンプラネット』

 どうやらドラゴンプラネットに標準を向けてるらしい。もしビームが当たったらどうなるのだろうか。朱色はそれについても教えてくれた。

 『あれが惑星に当たっても、当たり判定なんてないけど、それは通常ならの話。緋色が当たり判定付きのビーム撃てるようにしちゃって、あの規模のビームを全感覚投入空間で再現すると光の強さや温度、オブジェクトやエネミーへのダメージを計算しきれずにサーバーがダウンする。ううん、ダウンなんて生易しいものじゃなくて、オーバーヒートする』

 「サーバーのバックアップは?」

 氷霧の言う通り、サーバーにバックアップがあるはずだ。しかし、朱色は首を横に振る。

 『バックアップはあるけど……、リアルタイムで同期、データを更新するサーバーだ。ビーム発射と同時にバックアップのサーバーも更新に耐えられずにオーバーヒートする』

 「なら、ビームが出る前に潰すしかない!」

 エディは翼を広げて、窓から身を乗り出す。エディには飛行スキルがあるんだった。砲口を上れば確実に大事な動力に着けるはずだ。

 「よし、別行動のレジーヌも向かわせる」

 「私達は通常のルートで向かう」

 ここでパーティーを分ける。通常ルート組と砲口組。万が一、砲口を上っても着かない場合は氷霧とクイン頼みになる。

 「行くよ、遊人」

 「よし来た!」

 エディは俺の手を掴むと飛翔した。戦力は多い方がいい。レジーヌも合流するし。

 俺とエディは砲口を上る。空を飛ぶのは始めてだが、エディがいるなら安心だ。

 通常ルートとは比べものにならないくらいの速度で上昇している。それは壁に取り付けられた、通常ルートを示す窓が教えてくれる。本来なら螺旋状に上らなければならないが、エディなら一直線だ。

 「ふぅ……」

 「どうしたエディ? 調子悪そうだぞ?」

 「何でもない」

 だが、エディは調子が悪そうだ。現実の体調がゲームに影響するのか? というか学校ではいつも通り元気だったぞ?

 「あ、なんかいる」

 「あいつも飛んでるぞ」

 エディの体調について考える暇なく、俺達の頭上に謎の飛行アバターが現れた。赤い騎士のような姿だ。翼の色や見た目がエディと同じということは、同じスキルを使っているのか。

 「来たか、直江遊人。渚の置き土産!」

 「その声は、緋色か!」

 アバターはボイスエフェクトを使用しておらず、声から緋色と判断できた。緋色は赤い剣を振りかざしてこちらへ飛んでくる。

 「社長が自分の会社のゲーム潰すとか、ナンセンスだな!」

 「そうしなければならない理由が、こちらにはある!」

 俺は緋色の剣をビームサーベルで受ける。あの武器はなんだろうか。おそらく並の武器ではないな。

 「あれは……、伝説級武器レジェンダリィウエポンレーヴァテイン!」

 「知ってるのか?」

 「知ってるも何も、私持ってる!」

 数多くのレア武器を手にしたエディが言うなら間違いない。ていうか、一つしかないはずの武器が何故二つも?

 「僕は社長だよ?」

 「管理者権限で伝説級武器とか……ナンセンス極まりない!」

 しかし緋色は何故そこまでしてDPOを破壊しようとするのだ? 文字通り愚行としか思えない。緋色は笑って真相を話した。

 「僕は熱地学院大学と始めから繋がっていた。熱地から渚抹殺の依頼が来たから渚を松永のSPと共謀したのだよ! このDPOも渚が遺した物で金儲けしようとして始めたが、飼い犬も楽じゃない」

 「どおりで順の発言とお前の発言のつじつまが合わんわけだ!」

 順は研究結果をノートのみにまとめた。しかし、緋色は順が違法な研究をしていると『サーバーをハッキングして』確かめた。つまり、緋色は渚に嘘を言って松永と敵対させた。

 結果、渚は無謀な行動に出て死んだ。松永のSPとは口裏を合わせて、渚を殺すよう指示したんだ。

 「せっかくAB型の血液をこっそり廃棄したり、医療漫画を沢山読ませて交換輸血のアイディアを伝えたりして成功率を高めたんだ。全感覚投入システムくらい頂いてもいいだろう。だが、それが出来ないのが飼い犬の悲しき運命さだめ。DPOはインターネットコミュニティーとして機能し、より手軽に宵越の情報統制をくぐり抜けた情報が人々に渡ってしまう」

 「ちっ、信念のカケラもない奴が渚の遺産を利用すんな!」

 エディは俺を掴んだまま、緋色に向かって飛行する。俺の意思を汲んでくれたのだろう。片手しか使えずビームサーベルも一本だが、ゲーム慣れしてないであろう緋色を倒すには充分だ。

 「信念など無意味だ! そんな若気のいたりを大人が引きずるわけにもいかん」

 「飼い犬なんて楽なポジションに収まりゃ、そんな妄言も吐けるってもんだ!」

 俺の攻撃は緋色にヒットしたが、全くHPが減らせてない。防具が強すぎるか。

 「一旦、ビーム止めるぞ!」

 「わかった……くっ」

 エディは俺を引き上げて飛翔するが、苦しそうだった。俺を掴むエディの腕がノイズの様に揺らいだ。

 「うっ……ゴメン……。私……」


 そして、エディの姿が消えた。


 「おいエディ!」

 エディの手から離れた俺は、そのまま砲口を落ちていく。なんでエディは消えたんだ?

 随分懐かしい記憶だが、ログイン前にDPOについてしらべた記憶から情報を引きずり出す。そして、一つの心当たりにたどり着く。

 『プレイヤーの身体に命に関わる異常が見られた時、そのプレイヤーは強制的にログアウトされる』

 「まさか、エディ……!」

 エディはたしか、薬を飲んでいた。命に関わる病気だったのか? 薬飲んでたけど、余命とか話したことないし……ていうか、これ落ちたらどうなる?

 だが、俺は考えを強制的に中断させられた。誰かが俺を引き上げたからだ。

 「メア、回収完了。これより迎撃シークエンスへ移行」

 「レジーヌ!」

 レジーヌが俺を引き上げた。レジーヌは騎士を思わせる青いアーマーに身を包んでいて、背中にブースターもある。殺人的な加速が出来そうだ。レジーヌはコートを掴んでいるから、俺も両手を使える。

 だが、緋色が立ちはだかる。邪魔だなこのもやし!

 「君もそろそろ大人になったらどうだ? こんないつ終わるかわからないオンラインゲームなどにしがみつくなど……」

 「ゲーム作る奴が言ったら終わりだろ!」

 緋色と俺の剣が交差する。ビームサーベルの切れ味相手に互角とは、伝説の武器は厄介だ。

 レジーヌは緋色より高度を上げて、俺を離した。重力を利用しての攻撃か。

 「大人はずるくなければならない。己の信念など曲げ続けなければならない。それは若いうちから学んでも損はないだろう!」

 「損だ! 若いうちくらい、派手に信念突き通す! 【ライジングスラッシュ】!」

 重力込みのライジングスラッシュを、緋色は剣で受ける。だが、防御を崩し切れない。すぐにレジーヌが俺を拾い、急上昇する。

 「君達最近の若者は学ぶのが遅すぎる! 僕など中学の頃、渚の力を見せつけられ、熱地の権力に屈した時既に悟った!」

 「その程度で諦めんな! 諦めの早いことなんか自慢すんな!」

 急上昇の力を加えても緋色の防御は崩せない。レジーヌはある程度上に行ったら、急降下を始める。

 「諦めの悪い者ほど醜い者はいない!」

 「諦めんのがカッコイイなら、俺は醜くて一向に構わん!」

 緋色はこちらの攻撃を回避した。わざわざ死ぬ気はないのか。なら、作戦変更だ!

 「レジーヌ、もやしは無視だ。一気に動力を叩く!」

 「わかった」

 レジーヌは上昇を開始。だが、すぐにシャッターのようなものが行く手を阻む。

 「僕を倒さない限り、ビームは止まらん!」

 「最高にウゼエ!」

 もやしはまだ抵抗を続けるつもりらしい。諦めの悪いのは醜いんじゃないんかい。

 「僕はプログラマーを志して、多数の企業のサーバーを破壊するハッキング技術を持つ渚の部下となった。だが、そこで知ったのは現実だ! 世界は才能のある人間だけが回すという現実!」

 「渚一人で世界を悟んな!」

 緋色は剣を振りかぶり、朗々と挫折談を語る。この程度で挫折する人間がいたとは驚きだ。そんな人間が余命わずかなどと宣告されたらどうなるのだろうか。

 渚の様に開き直って世界を混乱させようともできないし、俺の様に残りの人生で何かしようとも思わないだろう。

 「だから熱地に入った! だが、熱地では毎日権力闘争! これが現実だ! 綺麗事で世界は動かせない! 現実を知らない、能力のある君に、何がわかる!」

 「俺だって、ただの廃人ゲーマーだっつうの!」

 緋色は剣に意識を集中させているようだ。だが、こんな最速挫折人間が何をやったとこで上手くいくはずない。

 「いいや、君は能力がある! あの熱地がクローンまで生み出して欲しがった力が! 【レッドシュート】!」

 「クローンだとか、SFかぶれか。ナンセンスだな!」

 緋色が剣を振るうと、赤い斬撃がいくつも飛ぶ。レジーヌはブースターを巧みに操り、それを避ける。だが、レジーヌに異常が出た。何やら焦げ臭い匂いがする。

 すると、レジーヌが何やら難しい言葉を言い出した。

 「ブースター限界温度到達、バッテリー臨界、全電源ロスト、『トールギスシステム』オーバーヒート。システムダウン」

 「つまり?」

 「おちる」

 レジーヌと俺は推力を失って落ちた。今日はよく落ちる日だな。ていうか、クインはガンダムWに出てくるモビルスーツ、トールギスをモデルにこの装備を作ったのか。

 「それより落ちる! 武器も落とした!」

 俺はだんだん落下していった。落下を実感できるほど高い場所にいたのか? だいたい落下って、あっという間で気づいたら地面に直撃してるんだが……。

 「【リベレイション=ハーツ】!」

 もしかしたら飛べるかもしれないと発動したリベレイション=ハーツは不発。読み取る感情がなければ出せないよな、そりゃ。心なんて、すぐできるものじゃない。一体どうすれば……

 「なら、誰かから心を借りるしかねえ! みんな、俺に心を貸してくれ!」

 俺は叫んだ。この叫びは誰にも届かないかもしれない。だが、それでも諦めるわけにはいかない。

 『メア……!』

 『あたし達のでいいなら、利子三倍で貸すよ!』

 「氷霧、クイン!」

 氷霧とクインの声が届く。叫びはちゃんと伝わった。まだまだ声は響いてくる。

 『私が倒すまで負けないでよ!』

 『特にライバルでもないのに……』

 藍蘭とスカーレットだ。当然、来てはいるか。みんなの声が届く。大半は知らない奴ばかりだが、ありがたい。そんな中、fの声もあった。

 『心なら借りる必要はないよ。なあ、セイジュウロウ』

 『おうよ。うちのサブリーダーのハートを射止めたんだ、お前のサムライソウル見せてやれ!』

 『メアちゃんみたいな可愛い子に、心がないはずないですぅ』

 セイジュウロウ、名前しか聞いたことない惑星警衛士のリーダーか。紅憐もちゃっかりいる。

 『お前のリベレイション=ハーツ、凄いじゃんかよ!』

 『順の兄らしく、シャキッとなさい!』

 『がんば』

 田中丸、マルート、ハルート。順はさすがにいないが、元幹部勢の言葉も受け止めた。

 『ゲーム研究部の名に恥じない戦いをしろよ!』

 『ゲームしか取り柄のない廃人なんだから、勝ちなさいよ!』

 部長に夏恋。ここまで言われちゃ、勝たなきゃいけないな。だが挫折人間は状況に水を差した。

 「リベレイション=ハーツは君には使えない。憎しみを失った君にはな!」

 「憎しみだけが、俺じゃない! 【リベレイション=ハーツ】!」

 俺はリベレイション=ハーツを発動させる。背中にあるのにハッキリと見える。赤みを帯びたオレンジの翼。さながら、龍の翼だ。これが、俺の心。

 俺は急上昇して緋色に接近する。

 「馬鹿な!」

 「みんなからは、もう心を貰っていたんだ。これが俺の心だ!」

 だがそこで、肝心なことに気付く。武器がない。さっき落としたんだっけ。

 「武器がないとはな! 諦めろ、これが現実だ!」

 「いざとなりゃ、素手でお前を倒す!」

 「オリジナル……の中の奴!」

 俺は聞き覚えある声に振り向く。プロトタイプが窓から顔を出していた。手には武器の大鎌を持っている。

 「受け取れ!」

 「おう!」

 プロトタイプは武器を俺に投げ渡す。だが、俺は右手で受けとった武器を見て愕然とした。

 「な、何これ……」

 長い棒に付けられた米を潰したような何か。俺は料理人としてはイタリアン専門だがこれの名称くらい一般教養として知っている。

 きりたんぽだ。

 あのきりたんぽが剣になってやがる。ていうか……、

 「こんなギャグ武器じゃなくて、その鎌を寄越せよ! 俺は秋田のご当地ヒーローか!」

 「これは私の大事なキャラクター性なんだ。誰が渡すか! 私がエネミーから偶然手に入れたそれで我慢しろ!」

 「知るか!」

 そんなギャグをやっていると、緋色がこっちへ飛んでくる。たしかきりたんぽって、ギャグ武器にしては攻撃力あったよな……。

 「もう一本だ。双剣術使うにはもう一本剣がいる。真面目なの寄越せ」

 「へいへい」

 俺は飛びながら、プロトタイプが投げたもう一本の剣を受け取る。この重みは……、真面目な武器か?

 俺は左手で受けとった武器を見る。それはこんにゃくに味噌を付けたものだった。たしか岡崎って、味噌有名だったよな。

 「味噌田楽だ! 結構レアだ」

 「地元関係になればいいって問題じゃねえよ! 後で覚えてろよ!」

 だがこれで決着をつけるしかない。きりたんぽと味噌田楽はスタッフが後でおいしくいただきます。

 「そんなふざけた武器で……」

 「ふざけたくてふざけてるわけじゃねぇ!」

 緋色は俺を正面から狙ってくる。なら、俺も正面からかっ喰らうまで! 俺はやけくそ気味に緋色に突撃する。

 「【ライジングスラッシュ】!」

 緋色がライジングスラッシュを放つ。だが、動きは見え見えだ。俺は味噌田楽で緋色の攻撃を止める。ギャグ武器でも性能はいい。もしかしてプロトタイプは、外見度外視で一番高性能な武器を選んだのか? 鎌を使うプロトタイプが、わざわざ剣を作るとは思えないし、そもそもNPCが店を利用出来るか怪しい。エネミーからドロップしたアイテムやランダム出現の宝箱なら、NPCのあいつでも拾えるからな。実際、この前から着てる服も拾い物だし。

 なら下手な剣よりこっちの方がいい。

 「【ソニックレイド】!」

 俺は両手の剣を振り回して突撃するソニックレイドを使う。緋色はライジングスラッシュを弾かれた直後だったから、反応しきれなかった。技の後にある微妙な硬直時間が勝負の分かれ目だった。

 「ぐおっ……」

 「でえあああああぁぁぁっ!」

 緋色に突撃した俺は、緋色を上方向へ弾く。そして、翼を羽ばたかせて最後の技を出す。

 「【シザーネイル】!」

 シザーネイルで緋色ごと俺は急上昇する。上に待っているのは、緋色が閉じたシャッターだった。俺はシャッターを強引にぶち抜いた。リベレイション=ハーツのおかげで威力が上がっていたのだ。

 「行け!」

 「そこまでして……お前に何の得がある? オンラインゲームなど、いくらでもある! たかが仮想世界じゃないか!」

 緋色は技を受けた衝撃で剣を落とし、抵抗できなくなっていた。俺は上昇を続け、目の前にビームの発生装置が見えるようになっていた。

 ビーム発生装置はカメラのレンズみたいなやつだ。ビーム兵器の中身ってあまり見たことないから、不思議な気分だ。

 「だから社長がそれ言ったら終わりだろ……」

 相変わらずの緋色もやしに俺はため息をついた。お前は身体ももやしだが、まず何より心がもやしだ。ビーム発生装置はすぐ目の前だ。

 「だから現実は違うと……」

 「夢を届けるのが、ゲームだろ? それを売り物にする会社の社長が現実現実と……」

 俺はビーム発生装置に緋色ごと激突する。レンズにヒビが入り始める。

 「ナンセンスだな!」

 俺はレンズをぶち破った。俺の上昇はそこで止まったが、緋色は余波でビーム発生装置にめり込んだ。

 「失敗するだと? 何故だ!」

 緋色の叫びは虚しかった。壊れたビーム発生装置は貯まったエネルギーを制御できず、ヒビから光が漏れ出した。そして、巨大な光が俺の視界を覆った。

 ていうか、爆発に当たり判定があったらどのみちサーバーはオーバーヒート……。

 「まずっ……、爆発する!」

 『大丈夫だよ。緋色が当たり判定を追加したのはビームだけだから』

 朱色の声がする。せめて『装置が爆発してもビームは発射される!』くらいしてもよかったのに。詰めが甘い。

 爆音が響き、衛星兵器が砕ける音がする。衛星兵器はステージ自体が工作スキルで作られた兵器。そういえば破壊された場合どうなるんだ?

 「眩しいな……」

 光が晴れた時、俺は雪山にいた。突入前に集まった、ギアテイクメカニクルのアイアンツンドラだな。一応まだ飛んでいるが……、翼は消えかけていた。

 「メア! やったんだな!」

 「メア……!」

 下からクインと氷霧の声がする。俺はリベレイション=ハーツを解除して雪に降り立つ。だが、足に力が入らず仰向けに倒れた。雪に身体を受け止められる。

 アイアンツンドラの空は澄み切っていた。空気が乾燥していると、空は綺麗に見えるらしい。俺達はこのDPOの、仮想世界の空を守り切ったのか。空には衛星兵器らしきものなどない。竜達の住む、ドラゴンプラネットが見えるだけだ。

 「やったなメア!」

 クインと氷霧が駆け寄ってくる。だが、それより何故緋色がDPOを潰そうとしたのだろうか。入ったポータルが違うらしく、他の円卓の騎士団がいるのに緋色だけいない。

 聞けないなら、戦闘中の緋色の発言をまとめて推察するしかないな。

 「しかし社長が自分の会社のゲーム潰すとか……。あたしの常識じゃ理解できね」

 「驚き」

 一応二人は、俺と緋色が戦っていたことを知ってたのか。俺は緋色の真意をなるべくまとめて説明した。

 所属していた熱地学院大学の命令で渚を殺したが、遺された全感覚投入システムを持て余した緋色。そこでゲーム会社を設立して金儲けを目指した。

 だが、熱地及び表五家にとって『ドラゴンプラネットオンライン』は都合の悪いものになっていた。それはそうだ。宵越を使い情報統制をしていた表五家にとって、アバターとはいえ顔を合わせて普通に話をできるDPOは、掲示板サイトよりコミュニティーとしての敷居が低かった。だからネットをする一部の人しか今までは知らなかった、表五家に都合の悪い情報も簡単に伝染してしまう。

 ただの掲示板なら、『ネットのデマ(キリッ』や『ネット掲示板は有害(キリッ』と宵越が書き立てたりすればテレビや新聞しか見ない一般人は引き離せる。しかし、言ってることは掲示板と同じなのに、全感覚投入システム特有の『普通に会話する感覚』が人の意識を変える。

 そんな現実となんら変わらない感覚が、いくら宵越が嘘と書き立てる情報でも信用する様に仕向けてしまう。つまり、通常の文字だけでやり取りをするネットコミュニティーよりDPOは厄介なのだ。情報を操作する側として。

 感情の無い文字より、感情の篭められた言葉の方が人を揺さぶる。ついさっきまで心が無かった俺が言うと変だな。

 「あ、ラディリスは……?」

 説明の途中、氷霧はラディリス、エディがいないことに気づいた。エディは戻って来ていない。ログアウトした後、何があったのだろうか。

 「そうだ。ウェーブリーダーの故障かもしれないが……、なんか気掛かりだな……」

 「大変だ、兄さん大変だ!」

 雪をザクザク掻き分け、順のアバターであるジークがやってきた。たしか、熱地を揺さぶる作戦のためにいなかったはずだが……?

 「お前の方は上手くいったのか?」

 「熱地どころじゃないよ! エディが……」

 順が慌てているのはエディのことらしい。順とエディは幼なじみだしな。この慌て様は当たり前か。

 「エディがどうした?」

 「エディが……死んだ」

 順からの言葉を聞いて、俺の目の前は真っ白になった。今……、なんて?






 エディが……死んだ?

 次回予告

 プロトタイプだけど、ラディリスどうなっちゃうのかなあ? まさかホントに死んだりしてない……よね? ラディリスって強いし、そう簡単に死ぬような雰囲気じゃなかったし……。

 私、もう人が死ぬのを見るのは嫌だよ……。

 次回、ドラゴンプラネット。『日没』。一つの恋が、ここに終わりを告げた。

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