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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
44/123

番外 サイバーガールズ体力テスト

 長篠高校 グラウンド


 私立である長篠高校も体力テストは行う。体力テストの結果は、運動部がそこそこ有名な長篠高校としては貴重なデータとなる。

 しかし、今年はそんな貴重なデータを集める余裕がなくなりそうであった。

 「サイバーガールズの……」

 「体力テスト!」

 グラウンドに置かれたテレビカメラに向かって体操服姿の赤野と冬香がタイトルコールを言う。遊人達長篠高校生はその様子を見ることしかできなかった。

 「なあ、教師よ」

 「なんだ?」

 ボソリと呟いた生徒会長、佐原凪に遊人達の担任である森川が返す。佐原は爽やかな笑顔で言った。

 「あいつら殺していいか?」

 「やめてくれ」

 佐原は物騒なことを言ったので森川が止める。佐原ならそれが可能だからだ。

 佐原は珍しくジャージに着替えて、コピーした長篠高校生徒全員の個性をフル活用し、ぶっちぎりの一位を取るつもり満々だった。なのに、自分の独壇場となるはずのグラウンドがアイドルの茶番によっておとしめられようとしている。

 彼女は自分の予定を外部から変えられることが一番気に入らないのだ。

 「相手の個性をコピーする力か。まるで一人だけ違う小説から出て来たみたいな奴だな」

 それが遊人の佐原への感想だった。実際彼は佐原が、決して弱くないはずの桶狭間の生徒会長を単独でボコボコにしていた現場を見た。あんな身体の細い女子にそんな力はなさそうだが、だからこそ佐原の能力を確信できる。

 「いくら他人の個性を、呼吸法の模倣によって自身に植え付ける力を持つ私でも、心まではコピーしきれない。私にはあんな恥ずかしい真似はできない」

 不満を漏らす佐原に遊人が話しかける。順が言うところの、『人類特有の情報社会に適応した進化を遂げた人類』同士、何気に話が合う。

 「しっかし佐原会長。あんたのせいでこの小説ぶれまくりだな」

 「そうでもないさ。メタな発言をすると、進化した人類自体君の出生に関わる核心的な設定なのだからな。私はその設定の説得力を強めるだけの捨てキャラ……」

 「では、まず50m走いってみよー!」

 空気を読まない木島ユナの声に佐原の言葉は遮られた。佐原は再び爽やかな笑顔で言う。

 「あの女、電車に轢かれて死ぬな」

 「では、長篠代表として遊人くんにまず走ってもらいますね」

 紫野縁がまたも空気を読まず遊人を連れていく。佐原はいよいよ我慢の限界だ。

 「あの女は、電子レンジに入れられて死ぬな。しかし教師、なんでむざむざ宵越などの言いなりになった? 今日は長篠的に貴重なデータを集める日であろう」

 「いや、宵越だからだよ。宵越は自分の言うこと聞かないとこは捏造記事書いてでも潰すからな」

 森川はやれやれと愚痴った。遊人はタータンのトラックに立っていた。冬香はキョロキョロして何かを探した。

 「あれ? 今日お姉ちゃんは?」

 「メタいこと言うと、今回はこれから連載されるサイバーガールズ編に先駆けて、サイバーガールズのキャラを立てたいんだ。だから俺と会長しか長篠側はいない」

 遊人からメタな事情を聞くと、冬香はしょんぼりしてトラックを去った。入れ代わりにジャージを着たユナが現れた。

 「じゃ、50m走るよ」

 「お前が相手か」

 二人は隣合って、形は完璧なクラウチングスタートの姿勢を取る。どちらもこの姿勢を見れば早そうだ。雷管を持った縁がスタートの準備をする。

 「スタートの合図はこの私、紫野縁が……」

 「さっさと始めろ紫頭」

 「ムラサキキャベツってさ、あくまでサラダのアクセントだからメインに添えられるとしつこいよな」

 地味なのを気にして目立つように自己紹介した縁だが、ユナと遊人に一蹴された。

 「スタート!」

 それでもめげずにスタートを切る縁。ユナと遊人は同時に走り出した。

 が、

 「転んだー!」

 ユナと遊人は同時に転んだ。まだ5mも走ってない。縁もこれには驚いた。二人は立ち上がって再び走るが、ペースを取り戻すユナに対して遊人は10mおきに転んだ。

 「私より遅い人がこの世にいたなんて!」

 「余計なお世話だ!」

 ようやくほうほうのていで50mを走りきった遊人にユナが声をかける。遊人は運動がおそろしく苦手だ。

 「次は立ち幅跳び」

 赤野に呼ばれた佐原が砂場の前に立つ。佐原とこの競技を競うのは、黄原彩菜。

 「お前は『もう何も怖くない』とか言って、首を持ってかれて死ぬな」

 「それどこの魔法少女?」

 一部の人しかわからないことを言われた彩菜は戸惑ったが、競技は容赦無く開始された。

 「ならば、陸上部の個性をフル活用だ!」

 佐原は跳んだ。すると2mくらいのところまで跳べた。恐るべき生徒会長。

 「……これ勝てないんじゃ」

 「見たか、これが長篠高校生徒会長の実力!」

 佐原は自分の実力と言っているが、実際は陸上部の2m跳べる奴の実力である。佐原の能力とはそういうものだ。

 それを遠目に見てた遊人に、あかりが近寄る。直江遊人と稲積あかりは、かつて同じ病院で入院していた。昔からの知り合いだ。

 「いきなり行方不明になるから探したよ」

 「行方不明っていうか、名前変わったからな」

 遊人は渚が死ぬと、すぐに施設に送られた。しかし、感情を無くした子供など施設では手に負えず、渚と面識がある愛花が引き取ることにしたのだ。その時、名前も松永優から直江遊人に改名したのだ

 そんな流れのため、あかりは優、つまり遊人の消息を追えなかったのだ。

 あかりはすっかり優の面影がなくなった遊人の顔を覗き込んで言った。

 「総選挙では、私に入れてくれる?」

 「悪いな。俺の一票は既に予約済みだ」

 遊人が後ろを振り向くと、そこには金髪の女子生徒が。エディだ。遊人はエディに向かって駆け寄った。

 「隅におけないなあ」

 あかりは渚に引っ付いていた優の姿を遊人に重ね合わせ、呟いた。

 サイバーガール現在状況


 河岸瑠璃 生存

 稲積あかり 生存

 木島ユナ 生存

 海原ルナ 生存

 黄原彩菜 生存

 緑屋翠 生存

 赤野鞠子 生存

 紫野縁 生存

 上杉冬香 生存


 あなたがこのリストの意味を知るのは、第二部開始以降となるだろう。

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