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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
43/123

視界ジャック8 決戦に向けて

 東京都 試写会場


 『ジャッジメント・クロス!』

 「なるほど、年甲斐も無く熱中してしまうな」

 真田総一郎は『劇場版幻界戦線フロントワールド・後編』の試写会に来ていた。無論、仕事だ。宵越新聞は自らが制作を担当する映画を押すために、対抗馬であるこの映画を酷評するつもりらしい。そこで、アニメを見ないであろう総一郎を派遣したのだ。

 しかし、総一郎はアニメを見る。ゆとりやユーモアのない人間になってはならないと昔から見ているのだ。特に娘の理架が生まれた辺りからは女の子向けアニメも見ている。肝心の理架が見ないので、無駄な努力となっているが。

 試写会が終わり、総一郎は会場を出た。後は新聞社に記事を飛ばして次の仕事へ向かうだけだ。総一郎は会場のロビーのソファに座り、ノートパソコンを取り出す。その場で記事をまとめる。

 「これでよしと」

 彼は宵越が望んだ通りの記事を書く。しかし、それは彼が望んだ記事ではない。ただ彼は、娘の理架を育てるために給料の高い宵越にいるだけだ。

 「次の仕事は……、熱地学院大学の新説への取材だな」

 「真田総一郎さんですね」

 総一郎に近づく人影がいた。その人影は松永順だった。何度か取材で面識はあったが、遊人に似てないという感想は変わらなかった。

 「渡したいものがあります。一応他の週刊誌にも出しましたが、内部告発もいいでしょう」

 「これは?」

 順が差し出したのは、一つの資料。表紙には『地下都市デステア消滅の真相』と書かれている。

 総一郎も地下都市の名前くらいは知っていた。いくつもの世界的科学者を集めた研究機関がデステアという地下都市だ。しかし、そのデステアはある日突然消滅してしまう。

 世界では大騒ぎになったが、日本では全く報道されなかった。その地下都市の管理は熱地学院大学が行っており、熱地は宵越のスポンサーである。

 その他の週刊誌などは大々的にすっぱ抜いたが、宵越があることないこと書いてその週刊誌などは廃刊に追い込まれた。熱地も名誉毀損として訴え、その裁判は松永の裁判官が担当し熱地が勝訴。週刊誌側の控訴も認められなかった。

 「長い間、マスコミ業界のタブーとされてきた事件か」

 「他の週刊誌は宵越の制裁を恐れて、記事に出来ないでしょう。ですが、内部告発という形ならば可能かもしれません」

 順に言われた総一郎はしばらく考えた。自分のジャーナリズムは内部告発したいと訴えているが、宵越をクビになり職を失うことは娘の理架に苦労を強いることになる。宵越を敵に回した同僚が、再就職すら妨害される事例も見てきた。

 「もし困ったら、素直に私のところにくればいいのですよ」

 考え込む総一郎に、一人の女性が声をかける。娘と同い年か一つ年上くらいの、黒い着物を着た少女だ。総一郎は一応彼女のことを知っている。

 「黒羽椿か」

 「正直者が馬鹿を見るのは、私としては我慢なりません。心配しなくても、渡す仕事は他の構成員がしてるような犯罪まがいのことではありませんよ?」

 黒羽組は強者をくじき、弱者を救ってきた伝統ある組だ。義理人情という任侠者の基礎を何より大事にするという。正直に生きてきたなら黒羽が助けてくれると人々に勇気を与える存在だ。

 「なら、私も正直に生きよう。でも、その前に娘に電話させてくれ」

 それでも総一郎は迷った。そんなセーフティーネットがあったからといって、この我が儘を通すために娘を苦労させるわけにもいかない。

 総一郎は携帯を取り出し、家に電話する。この時間帯なら理架は家にいるはずだからだ。

 『もしもし、真田です』

 「理架か」

 電話の出方が死んだ妻そっくりだった。総一郎は理架に話しをする。

 「ちょっと相談なんだが、もし私がやりたいことをすると言って、お前はついてくるか?」

 『え? ついていくけど……、いきなりどうしたの?』

 「いや、ちょっと人生の転機に直面してな。失敗したらかなり大変なことになりそうなんだ」

 『お父さんなら失敗しないよ。だから、成功することだけ考えていて』

 理架は言った。総一郎もまさかそんなに娘が自分のことを信頼してるとは思わなかったのだ。

 「そうか。身体に気をつけろよ」

 『うん』

 総一郎は娘に告げて電話を切る。娘がこんなに信頼してくれるのに、自分が自分のことを信頼しなくてどうするのか。

 総一郎は順と椿に言う。自分の決意を。

 「話はわかった。私の次の仕事は、ちょうど熱地へのインタビューなのだ」


 DPO インフェルノコロニー


 その日、緋色は熱地の重役との会談を早めに終え、準備に取り掛かった。

 緋色はログインし、インフェルノコロニーへ降り立つ。インフェルノの社員は全員がDPOユーザーだ。社長の緋色も例外ではない。

 「まさか円卓の騎士団が任務を放棄するとはな。順を舐めていた」

 そう呟いたのは、緋色のアバター。赤い騎士のようなアバターだった。

 「渚の遺した全感覚投入システムをゲーム産業に利用したまではよかったが、熱地に目をつけられるとはな。熱地の飼い犬も楽じゃない」

 緋色は目の前のカプセルを眺めた。カプセルには緑色の液体が満たされており、中には誰かが何も着ないでうずくまっている。

 長い黒髪に小柄な身体、墨炎だ。かつて遊人のアバターだったが、芽生えた自我がプレイを阻害したためにこうして休眠させているのだ。遊人はメアというアバターを借りてプレイを続行している。

 プレイヤーのアカウントは、ログインの際にウェーブリーダーが読む脳波で呼び出される。アバターはプレイヤーの意思を行使する器に過ぎない。

 「でも、このアバターは特別だ。渚が遊人に贈ったのだから」

 緋色はカプセルに付けられたキーボードを操作する。

 この墨炎というアバターは、始めから遊人のアバターとなるようにプログラミングされていたのだ。脳波で遊人を判別し、アバターとして使わせる。渚からの最後のプレゼントだった。

 「全く厄介なことをしてくれるよ」

 緋色はカプセルで眠る墨炎に、彼女の本当の名前を聞かせた。まるで、冥土の土産と言わんばかりに。

 「楠木渚」

 豆知識

 劇中劇として登場する『幻界戦線フロントワールド』は、このサイトで二次創作として級長が連載したものだ!

 次回作、『幻界戦線フロントワールド0』の連載予定は未定だぞ!

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