番外 若鮎祭にて
今回は番外史上初の本編時間軸。遊人がゲーム研究部に入った理由が明らかに?
4月14日 長篠高校 中庭
長篠高校には、若鮎祭という新入生を歓迎する祭がある。しかし、この日はただの祭ではない。様々な部活が新入生を奪い合う、さながら戦争のような日なのだ。
ただ、狭い中庭が新入生及び在校生でごった返すので爆撃を受けたら大被害が出そうだ。戦争いくない。
「あー、暇だ」
中庭には沢山の模擬店が出店しており、賑わっている。そんな中、ベンチに座った遊人は暇を持て余していた。
模擬店に輪投げなどのゲームをやってる店があれば、遊人は店を潰す勢いでやっただろう。しかし、ここの模擬店にはない。
「おい大変だぞ! ゲーム研究部が……」
「勝ったら商品なんだって?」
そんな中、密かな騒ぎが遊人の耳に止まる。ゲームという単語に反応したのは間違いない。彼は人生の大半をゲームに費やした男だ。
「行くか」
「あ、遊人!」
立ち上がった遊人に、夏恋が声をかける。隣には煉那と涼子がいる。遊人は淡々と返事をする。
「なんだ?」
「佐奈知らない?」
夏恋達はクラスメイトの藤井佐奈を探していた。先程から姿が見当たらないらしい。
「図書室だろ」
遊人は予測を呟いて夏恋達の前から去った。
「相変わらず無愛想だなー」
「遊人はあんな感じよ」
無愛想な遊人の態度に煉那が不満を漏らすと、同中の涼子がフォローする。
夏恋に遊人の姿はどう写ったのだろう。感情のない人間など、そういるものではない。
「うーん。なんというか空のペットボトルを叩いたような反応ね……」
夏恋は素直な感想を口に出す。確かに空っぽなのは合っている。
「おやおや、君が夏恋くんか?」
夏恋に後ろから接近する人影があった。長篠高校生徒会長、佐原凪だ。生徒会長といえど、二年生。歳は離れてないが、何やら俗世から離れた雰囲気を感じる。
「あ、佐原会長」
「凄いな。生徒の顔と名前を全部記憶するだなんて」
夏恋が気づき、煉那が感嘆する。人間にはクラスメイトの顔と名前すら覚えれない者すらいる現実で、なかなか凄い。
「いや、絶対記憶に関しては佐奈くんが来てからだな。私には近くにいる人間の能力を行使する力がある」
「いつからこの小説は異能バトルになったの」
佐原の言葉に、涼子がメタ発言を飛ばす。佐原は去り際に能力の種を明かした。
「呼吸法だよ。呼吸を合わせると同じ力が使えるようになる。佐奈くんの絶対記憶も、遊人くんの観察力もそれを動かす動力は呼吸。動力さえあれば人間の内に眠る可能性を使えるってわけさ」
佐原が去った後、夏恋は嫌味に呟いた。
「自転車にガソリン入れても、自動車みたいに走るわけないじゃん」
「「ネタにマジレス乙」」
涼子と煉那のダブルツッコミを受けた夏恋に、さらに近づく人影があった。
「人間と機械を同列に並べるのは良くないわ」
鴉の濡れ羽のような綺麗な黒髪を伸ばした、黒い着物の少女が夏恋の後ろに立っていた。黒羽椿だ。なんでこんなとこにいるかは不明。
「機械は摩耗したら部品を取り替えるしかないけど、人間は摩耗しても自分で治せる……」
「機械と人間が違うから佐原会長の理論も通じるか」
煉那はなにげに納得していた。
ゲーム研究部 部室
「さあ、部長を倒せ! 倒せたら豪華景品だ!」
ゲーム研究部の部室に来た遊人が見たのは、部長(男子)と賞品として置かれているフィギュア。
フィギュアは制服姿でスカートのベルトに三本の刀を差した女の子のものだ。台座には藍蘭と名前が入っている
「見たことないフィギュアだな」
「それは最近話題のゲーム、ドラゴンプラネットのフィギュアだ! 有名なプレイヤーのアバターはフィギュアになるんだぜ!」
遊人すら聞いたことないタイトルのゲームだった。だが、遊人は賞品でやる気を変えるタイプではない。いらないものでもリサイクルショップに売ればゲームを買う資金に出来る。
「で、勝負は?」
ノリノリの部長に対して冷めた態度の遊人。部長はゲームのパッケージを見せて対決内容を言う。
「『機動戦士ガンダム エクストリームVS』だ! 希望があれば、得意なゲームに変えてもいいぜ」
「いや、それでいい」
遊人が了解すると、部長はプレステを起動する。二人はテレビの前に座り、コントローラーを握る。このゲームは、ガンダムシリーズの機体が登場する格闘ゲームである。
「俺はグフカスタム」
「それか、なら俺は無難にエクシア」
遊人がグフカスタム、部長がガンダムエクシアを選ぶ。早速対決開始だ。
「さあ、本気で……」
「言われなくても」
「ちょ……、はやっ、人の動きじゃね……負けたー!」
遊人の人を越えた動きに翻弄された部長はあっという間に敗北。部長の攻撃は掠りもしない。
「ここまで無敗だったのに……。コイツ人間じゃねえ……」
「では賞品は貰っていきますよ」
「待て」
賞品を持って帰ろうとした遊人を部長は止めた。何か言いたいことがあるらしい。
「お前、ゲーム研究部入らないか?」
こうして、遊人はなし崩し的にゲーム研究部に入ることになった。