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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
40/123

視界ジャック7 戦場のガールズトーク

 海底校舎 教室


 海底校舎に再び集まったメア達は、元円卓の騎士団幹部達と打ち合わせをしていた。教室にはメア、氷霧、クイン、ラディリス、藍蘭、スカーレット、田中丸、ハルート、マルートがいる。

 教卓に立つ藍蘭が、現状を説明する。

 「リーダーのジークこと松永順が、目的を達成して騎士団を解散した。けど、解散に異を唱えるプレイヤーが徒党を組んだ……」

 スカーレットは現在の勢力を黒板に図で表す。

 「まず、円卓の騎士団残党はリーダーと幹部全員を失い烏合の衆」

 その状況には田中丸、ハルート、マルートの三人も納得と頷いた。順とこの三人が抜けたため、今の円卓残党にはリーダーがいない。

 「しかし意外だな。お前が残党側にいないなんて」

 クインは元幹部三人に話しを振る。特撮マニアでもあり、秘密組織の仕組みに精通したクインらしい発言だ。

 組織というのは、組織の目的のために尽くした人間を要職に置く。その原則からいえば、目的のために働いてきたであろう三人が目的を放棄するとは思えなかったのだ。

 「俺達は最初から順の真意を知っている。DPO破壊が目的じゃないからな」

 「順の、ため」

 田中丸とハルートはその問いに答える。幹部は初めから、順の『熱地内部に潜入して、ある情報を得るため』という目的を知っていたのだ。

 「私達は順とリアルの方で親交がありましてよ? だからそこいらのアホと違って本当の目的を知っているのですわ」

 マルートが言うには、幹部は順とリアルで面識があるようだ。それも、かなり親しい。

 「ハルート、私とキャラ被る」

 「氷霧も、被る」

 変なところで氷霧とハルートがキャラ被りを起こし、しばし睨み合う。レジーヌも似たようなものだが、舌足らずなだけで喋る時は喋る。

 「友人の私達は被らないのに、このキャラ被りは奇跡でしてよ?」

 「神様だって40億人以上の登場人物を全くのキャラ被り無しで作るのは無理なのかもね」

 マルートとクインは何故か意気投合。クインが社交的であり、マルートがだいたい女性なら仲良くしようと心がけてるせいでもあるが。

 「そうだ、好きな男のタイプを聞いたら被ってねぇかも」

 「それは名案ですわ。言ってみてくださいまし」

 クインが変なことを思いつく。マルートもそれに乗っかって、ハルートと氷霧に聞いてみた。

 「順」

 「わからない」

 ハルートと氷霧はそれぞれ言い切った。ラディリスは幼なじみを好きだと言う女の子が居て安心したようだ。

 「あんなおかしなのでも、ちゃんと好きになってくれる物好きな子がいたのね」

 「姉ちゃんからみたら、エディも物好きに入るさ」

 そこにメアが自分の姉の話を持ち出す。マルートとクインはまるで保護者のような会話に発展していた。

 「ハルートも日本に来た時は大変でしてよ。殿方関係で酷い目にあって、私の殿方嫌いもそっからでして」

 「氷霧も大変だったなあ。ニュータイプみたいな能力のせいで完全人間不信だったからな」

 そこに氷霧とハルートが介入して、さらにカオスな状況になる。

 「クインは裏表がないから、安心」

 「順は研究にしか興味ない」

 「あー、わかる。順はいつも研究しかしてないから、それ以外が無頓着なのよ」

 ラディリスも入り、メアと田中丸はコソコソと隅に寄る。そこへさらに、藍蘭とスカーレットが追加されて男二人は話についていけなくなる。

 「そんな男のどこに惚れるのよ。スカーレットもそう思うでしょ?」

 「藍蘭はまだ子供だからわからない。好き嫌いは理論じゃない」

 「そ、私の彼氏なんてもうすぐ死ぬかもしれないのよ」

 「そんな殿方、捨てればよろしいでございましょう?」

 「それで切り離せないのが男と女。例えれば、一世代古い機体を愛用するパイロットの気持ち……」

 「クイン、わからない。それを言うなら、肴は炙った烏賊」

 「氷霧、余計わからない」

 完全に隅っこに追いやられたメアと田中丸。田中丸は何故メアがガールズトークに入らないのか気になった。

 「お前、入らないのか?」

 「俺は男だからな」

 田中丸は衝撃の事実にしばらく固まった。今までアバターから女だと思っていたのだ。田中丸は初めて戦った時を思い出した。

 「あれが演技なら凄いよなー。嘘泣きとかもできんの?」

 「嘘泣きは涙腺の仕組みが違うから無理。エモーションコマンドはプレイヤーの感情に反応するから、悲しくなれば泣けるな」

 男は男でなにげに盛り上がっていた。


 名古屋市 黒羽ビル地下 賭博場


 黒羽組は日本の裏社会をまとめる巨大な暴力団。暴力団とはいえ、秩序を守るのが役目なので素人に手を出したりしない。

 そんな黒羽組が表の世界と関わる数少ない場所がこの賭博場だ。賭博場は所得の高い者のみに出入りを限り、そこで得た資金を組の運営に当てている。黒羽組は仕事の無い者が構成員になったりするので、言ってみれば賭博場の役割は所得の再分配だ。

 「円卓の騎士団が解散?」

 「そうじゃ」

 そんな賭博場で、ラビットナブコフというゲームをするための扇状になっているテーブルで、大学生くらいのスーツを着たすかした雰囲気の若者と歳老いた男が話をしていた。

 ラビットナブコフというゲームは20世紀少年という漫画でご存知な方もいよう。非常にハイリスクハイリターンなゲームだ。黒羽組はこうしたゲームに加え心理学などを応用して、上手く儲けさせずに楽しませていた。

 「なに勝手なことを松永はやってるんだ!」

 「なに、代わりに志を継いだ者がおる。それに、いざとなれば渦海が法案で対処する」

 若者が苛立つと、老人が落ち着いて諌める。彼らは熱地の関係者らしい。

 「御祖父様、しかし今日は勝てますね」

 「南十郎、我々熱地の科学力を持ってすれば、本来運任せなゲームも思うがまま。これはかつて強大な権力を得た白河法皇にも不可能なのだよ」

 老人は孫の言葉に踏ん反り返る。白河法皇は『私に思い通りに出来ないのは、鴨川の水と賽の目、そして僧兵』と言った。それを受けての発言だろう。

 ただし、熱地が誇れるまでの科学力を持ったのは熱地学院大学設立に関わった平賀源内の死去から大政奉還までのほんの100年以内である。

 明治維新による社会の変動を利用し基礎となる体制を築き上げ、戦後に完成した表五家は、今日の日本にしっかりと根を下ろしている。

 その一角、熱地学院大学の理事長がこの老人、熱地南晴朗である。その孫が熱地南十郎となる。

 「大変だ! 御父様大変だ!」

 そんな二人に一人の中年男性が駆け寄る。太っていて、典型的な悪徳役人というイメージが強い。彼は熱地南太郎。熱地の後継者、つまり南晴朗の息子だ。

 「松永順が、機密情報を持ち出したとのことです!」

 「慌てるな。そんな情報をマスコミにリークしようなら、宵越が潰す」

 慌てる南太郎に比べ、南晴朗は落ち着いている。表五家の力を正しく判断、否、過信してるのだろう。

 「しかし、機密は機密でも最大機密。『地下都市デステアの原発事故』の情報でして……」

 南太郎の口から出たのは、地下都市デステアという単語。漫画でしか見ない地下都市を、表五家は作っていたのだ。そして、原発事故。

 「例の、生存者が子供一人しかおらず、その生存者が既に順と接触している事件か?」

 「そうです」

 南晴朗は南太郎に確認を取る。歳老いた南晴朗の頭では、自分が引き起こした事故すら思い出せないのだ。

 『地下都市デステアの原発事故』。それは南晴朗が安い好奇心で起こした事故だ。原子炉の限界などという、机上の理論で十分な数値を調べるために実際に実験し、原発を爆破してしまったのだ。南晴朗は地下都市の外から遠隔操作していたので無事だった。

 それは綺麗に隠蔽された。被害者が一人しかいないのも大きかった。

 「熱地最大の機密か……。まあ、表五家の権力で潰すのは簡単だがな」

 「ですが、生存者は順と接触しています。さらに、あの順の弟とも接触を!」

 「……いかん! 順の弟だけはならん!」

 順の弟の存在を聞いた瞬間、南晴朗の目の色が変わった。よほどヤバい人間に違いない。

 「御祖父様、そんなに凄いんですか? 表五家は確かに特権階級ですが、それでも我等と同格……」

 南十郎は好奇心から聞いてみた。安い好奇心を持ちやすいのは遺伝子みたいだ。南晴朗は恐る恐る口を開く。

 「あやつは熱地が生み出した化け物! 手首を掻き切り、毒薬を飲ませ、三日三晩水に沈めて生死を確認した上で廃棄したにも関わらず生きていた不死身の化け物!」

 「それは一体……」

 普段は余裕しゃくしゃくな南晴朗がここまで慌てふためく様子を見て、南十郎もただ事じゃないと感じ始めた。

 「かつて熱地が研究した不老不死の研究の副産物じゃ!」

 「御祖父様はきっと、ボケてらっしゃるのね」

 叫ぶ南晴朗に女性が声をかける。黒い着物を着た女性で、年齢はエディや夏恋と同い年に見える。しかし、立ち振る舞いは大人だ。伸びた髪は鴉の濡れ羽と呼ぶに相応しい綺麗な黒色だ。

 「黙れ黒羽椿! 御祖父様に失礼だぞ!」

 南十郎がいきり立つが、椿と呼ばれた女性はさらりと返す。

 「確かに、水に三日も沈めればどんな生き物も死にます。で、南晴朗さんはその様子を見てたのですか?」

 「いや、部下から聞いただけだ」

 「なら、部下の間違いに違いありません」

 椿の言うことももっともで、部下から伝え聞いただけのことで怯える南晴朗は愚かで滑稽といえる。

 「なるほど……、それも一理ありか」

 南晴朗は椿の言葉で落ち着きを取り戻した。若いとはいえ黒羽組を取り仕切る椿はさすがといえる。

 「では、行こう。今日も勝てた」

 南晴朗は南太郎と南十郎を連れて賭博場を去った。ナブコフ台のトランプを手にとりながら、椿はその様子を見て呟いた。

 「全く……、遊人がそう簡単に死ぬわけないでしょ」

 黒羽組は裏社会の秩序を乱したり素人に手を出した者の情報を警察に提供している。そんな縁で、刑事の愛花に保護されてる遊人と出会う機会があったのだ。

 「それに、勝てたというのも幻想」

 彼らは勝てたと思っているが、実際の収支ではマイナスだ。つまり、負けている。勝ち負けもまともに管理できない人間は遅かれ早かれ滅ぶ。

 椿は経験で、それを知っていた。

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