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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
37/123

番外 球技大会

 前回までの、ドラゴンプラネット番外編!

 公立桶狭間高校の会長が、合同開催のマラソン大会を利用して長篠高校を潰しにきた。しかし、桶狭間のビーム兵器が設計ミスで自爆、事なきを得る長篠高校だった。

 だが、ホワイトデーの日に会長は雅に告白をする。追い詰められた雅を救ったのは、桶狭間のマルコメくんだった。長篠のレーザー兵器を稼動させたマルコメくんは副会長に射殺されてしまうが、その遺志は読者諸君に受け継がれた!

 長篠高校 第二グラウンド


 「またか……」

 遊人は第二グラウンドにいた群衆を見てため息をついた。野暮ったいジャージを着た桶狭間高校の生徒がいたからだ。

 「今日は桶狭間、長篠合同開催の球技大会だ! 今回こそ我々が勝利するのだ!」

 また桶狭間の生徒会長が騒いでいた。前回のマラソン大会は桶狭間高校がビーム兵器を持ち出し、結果的に自爆して完走したのが長篠高校の生徒のみとなったため、長篠高校の勝ちとなった。

 「まさかまた地雷があるんじゃないでしょうね……」

 マラソン大会以来地雷がトラウマとなり、地雷が埋まってるのは怖いよなという考えに至り、地雷原に住む子供達のためしばらく地雷除去のボランティアに行ってた煉那が慎重にグラウンドを歩く。

 スタイリッシュな長篠高校のジャージを着たクラスメイト達も第二グラウンドに集まり始めていた。

 長篠高校第二グラウンドは街中にある。学校内にある第一グラウンドより圧倒的に広いのだ。

 『それでは競技内容を説明します』

 いつもお馴染みのアナウンスが流れる。球技大会といえばサッカーやドッチが主流だが、かなり大勢でやるのだから競技にも工夫がいる。

 『競技は、サバイバルゲームです』

 「ナンセンス、球技じゃねぇ! 開始500文字目で早速テーマを放棄しやがった!」

 生徒全員がずっこける。会場はしばらく一体感に包まれた。で、そのサバイバルゲームとは一体何をするのだろうか。

 『ルールは単純、生き残れ! 岡崎市を巻き込んだバトルロワイヤルだ!』

 ルールは簡単だった。単に生徒同士で戦い合うだけ。実行委員が変な腕時計を生徒全員に配る。

 「なんだろう、これ」

 「腕時計か?」

 エディと遊人が腕時計を調べた。遊人は上だけジャージで下はハーフパンツのエディの脚が気になりまくっていたが腕時計に意識を集中させた。

 エディは脚綺麗だなー、とか遊人が思ってると、エディが腕時計の仕掛けを発見した。

 「あれ? 変な突起が……」

 「先端にあるのは、コネクタか?」

 エディにつられて時計を見ると、時計は完全な円状ではなく、文字盤の3時の近くに突起がある。突起の先端にはコネクタらしきものもある。

 他にも、時計はデジタル式で画面の下にはボタンがあることがわかった。画面には『00:00』と書かれている。

 『敵を倒した際、時計のコネクタ同士を繋げて負けた方のボタンを押して下さい。それでポイント獲得です』

 「なるほど、ポイントを一番獲得した奴が優勝ね」

 夏恋が納得したように言う。門田はキョロキョロして何かを探している。

 「なあ、雅を見なかったか?」

 「雅? 確かにいないけど……」

 涼子も雅の姿を探したが見当たらない。学校の駐輪場に愛馬デイアフタートゥモローの姿があったから、てっきり雅も来てると思っていたらしい。

 「朝はいたよな? 教室にあいつの鷹もいたし」

 「雅さーん!」

 佐竹と佐奈が雅を探した。しかし雅の姿はない。会長は勝手に話を進める。

 「最終的に生き残った生徒の所属する学校の代表が、ある権利を得る!」

 「ある権利……だと?」

 「君は長篠の代表なのだからしっかり聞いておくといい」

 勝手に代表にされた遊人は雅を探しながら適当に会長の話を流す。今は雅の方が優先だ。長篠、桶狭間両方の全校生徒が探しても雅は見つからない。

 「あれは?」

 エディが朝礼台の上に何かを見つけた。着物を着た女性の姿だ。年は遊人達と同じくらいと思われる。会長はさらに話を進める。

 「ある権利。それは、三好雅さんに交際を申し込む権利だ!」

 遊人達クラスメイトが一同がそれぞれの反応を見せた。

 「俺彼女いるぞ?」

 「雅さん、男ですよね?」

 「会長はそのこと知らないの?」

 「不覚にもかわいいと思ってしまった」

 「雅って女の子でいいよな?」

 「着物とか浴衣とか似合うよね」

 「雅さん、綺麗……」

 「そして、会長は正気か?」

 遊人、エディ、夏恋、門田、煉那、涼子、佐奈、佐竹が口々にツッコミを入れる。会長は雅が男だと知らないらしい。

 「仕方ない。お前ら、絶対勝って雅を助けろ」

 担任の森川は生徒に丸投げした。つまり、雅は今回のヒロインなんですねわかります。

 「おーい、雅。さっさと全部言っちまえよ」

 遊人が雅に言うが、雅は何も言わず、看板を掲げるだけだった。

 『昨日、カラオケで歌い過ぎて喋れない』

 「しまった、昨日カラオケなんか誘うんじゃなかった!」

 佐竹がカラオケに誘った際、歌い過ぎて喉を潰したのだ。そういうわけで、雅を賭けたサバイバルゲームが開始された。

 『それではサバイバルゲーム、スタートです! 10分後に戦闘開始ですので、それまでに岡崎市の好きなところへ移動して下さい』

 時計の文字盤に『10:00』と表示され、数字が減り始めた。

 「行こう、エディ」

 「うん。まず、敵から隠れよう」

 遊人とエディは真っ先にペアを組んで移動する。

 「さて、行きますか」

 「一番敵を倒してやんよ!」

 「焦らない焦らない」

 夏恋、煉那、涼子の三人も移動する。恐らくこの三人が優勝候補だと誰もが予想した。

 「デイアフタートゥモロー!」

 佐奈が呼ぶと、デイアフタートゥモローが早速現れた。最近佐奈にも懐いたデイアフタートゥモローは、自力で駐輪場に繋いだ縄を解ける。

 佐奈はデイアフタートゥモローに乗ってそのまま走り始めた。馬で移動されては、だれも追いつけない。

 生徒達が移動し、サバイバルゲームは開幕した。


 日名橋 高架下


 「これで安心」

 遊人とエディは日名橋の下にいた。日名橋とは、長篠高校の近くにある、矢作川にかかる大きな橋だ。矢作川の川幅が大きいので、必然的に長くなる。

 「これからどうしようか?」

 「とりあえず潜伏しようぜ」

 エディは遊人の提案で橋の下に潜伏することにした。矢作川も川幅一杯に水があるわけではない。前回のマラソン大会で地雷が埋められた場所のように、砂浜になってる場所もある。

 腕時計の時間表示がゼロになり、アナウンスが時計から聞こえた。

 『それでは戦闘開始です。岡崎市の外に出ると、時計は爆発します。制限時間はありませんので、ゆっくり殺し合って下さい』

 「さて、どうしようか……」

 「お弁当にしよう!」

 遊人が暇潰しに何をしようか悩んだ時、エディが意気揚々とクーラーボックスとバスケットを取り出す。ていうか、どこにしまってた。

 料理の上手な遊人に弁当を作ってくるなど、一見すると自殺行為にしか見えない。しかし、遊人は料理人であって美食家ではない。自分の作る料理の味には厳しいが、他人が作った料理の味には甘いのだ。

 「はい」

 「キンキンに冷えてやがる……!」

 エディがキンキンに冷えたコーラの缶を遊人に渡す。お弁当もおいしそうなサンドイッチだ。

 二人は早めの昼食を済ませた。激闘が待ち受けているであろうから、エネルギー補給は必要だ。

 「あ、遊人。マヨネーズついてる」

 エディは遊人の顔についたマヨネーズを舐めてとった。カップルらしい光景だが、モテない連中から見たら爆発しろの一言に尽きるというものだ。

 案の定、遊人とエディ最初の相手はそんなモテない連中だ。

 「リア充爆発しろ!」

 二人は橋の下にいたが、左右両方を謎の大群に包囲されていた。ジャージからして、桶狭間高校の生徒だ。数にして50人ちょい。

 「なんだ桶狭間の連中か。飯ならもう無いぞ」

 「そうではない! 長篠高校一有名なカップルであるお前らは、俺達が相手だ!」

 リーダーらしき眼鏡が叫ぶ。単に遊人達は、妬みから相手に選ばれたらしい。

 「逃げ場はないぞ、観念しろ!」

 「逃げ場なら、あるさ。お前らを倒して逃げ場を作る」

 こんなに敵がたくさんいるのに、遊人は余裕の表情を浮かべている。

 「心身相関って知ってるか? 例えば、緊張でお腹が痛くなったりするアレだ」

 遊人は余裕で語り出した。しかし、遊人には心身相関など無いはずだ。なぜなら、遊人には心身相関の引き金となる感情が無いのだから。

 「最近俺は心身相関が起きるようになった。壊死した感情が少し回復したらしい。そして主治医が言うには、俺の心身相関はかなり特殊で極端だ。つまり」

 遊人の心身相関について事前に聞いていたエディはある行動に出る。それは、

 「遊人頑張ってー!」

 「やる気になれば、凄まじく強くなるってことだ!」

 エディの応援を受けた遊人はパワーアップ。脳から発生するアドレナリンを身体が必要以上に感じとり、めちゃくちゃな身体強化が行われたのだ。

 遊人の手でモテない50人はゴミのように吹き飛ばされた。

 「げふっ……、こんな、リア充にー!」

 リーダーは眼鏡を割られ、戦闘不能。遊人は見事、エディの前でカッコつけることができた。


   @


 『戦況速報。日名橋高架下の戦い、直江遊人VS非モテ眼鏡と愉快な仲間達。勝者、直江遊人。これにより直江遊人の獲得ポイントは53に上昇』


 岡崎市 本宿駅周辺


 「ここまで来れば大丈夫、と」

 デイアフタートゥモローに乗った佐奈は、本宿まで来ていた。岡崎でもかなり田舎の方で、国道一号線が通っているが大きな建物は少ない。

 デイアフタートゥモローに任せていたらこんな場所まで来てしまった。これなら戦いに巻き込まれることはないと佐奈は安心した。

 『ミッション発令!』

 その安心をぶち壊すように、腕時計からアナウンスが鳴り響いた。先程は遊人の勝利を伝えた腕時計だが、今度はミッションを伝えるらしい。

 『あなた達はウイルスに感染しました。そこで我々は感染の広がりを防ぐため、今から2時間後に時計を爆発させます。岡崎市全域にウイルス除去装置を起きました。それのコネクタに時計のコネクタを合わせるとワクチンが打たれます。ワクチンを摂取すれば時計の爆発を防げます』

 「ウイルス……?」

 佐奈は戦慄した。まさか自分が知らぬ間にウイルスに感染していたとは。ていうか、イベント用の設定を佐奈は真に受けていた。佐奈の時計には『120:00』と表示され、カウントダウンが始まる。

 「早くなんとかしないと!」

 佐奈はデイアフタートゥモローを爆発に巻き込まないため、デイアフタートゥモローから降りて散策を始める。

 「どうしよどうしよ……。除去装置がどんな機械かわからないと探せない!」

 慌てた佐奈に、救いの手を差し延べたのは犬だった。赤毛で、額に稲妻のような白い模様を持つ犬。この犬について、佐奈はある人物から話を聞いていた。

 「イナズマ? やっぱり雅さんの猟犬、イナズマだ!」

 イナズマは佐奈に、再びデイアフタートゥモローに乗るように促す。ここまで吠えない犬も珍しいと佐奈は感嘆した。

 デイアフタートゥモローに乗った佐奈は、前を走るイナズマの後を追った。イナズマは自分をどこに連れていく気だろうか、と佐奈は考えた。

 雅曰く、『デイアフタートゥモローが気に入った佐奈の情報は三好家が飼育してる動物全員に渡ってる』とのこと。もしかしてイナズマは、除去装置のありかを知ってるかもしれないと佐奈は希望を見出だす。

 イナズマは舗装された大きな道を行くものの、確実に山岡へ入っていった。

 ついにイナズマと佐奈は、2006年に岡崎市と合併した旧額田町まで辿り着く。

 山岡でありながら、必要最低限の施設は揃っている町だ。その旧額田町唯一の中学校に、イナズマは佐奈を連れてきた。

 「あった、除去装置!」

 佐奈はその中学校のグラウンドのど真ん中にウイルス除去装置を見つけた。イナズマのおかげで命を繋いだ。

 「お前は……、藤井佐奈!」

 しかし、ウイルス除去装置の目の前には佐奈の顔見知りがいた。同じ中学にいたガリ勉眼鏡だ。除去装置の前まで来た佐奈にガリ勉眼鏡は驚いていた。

 「フッ、白髪の奴が非モテ眼鏡を倒したらしいが、奴は我ら桶狭間眼鏡四天王の中では最弱の存在。なぜ四天王にいるのかわからない」

 「お約束……。でも、なんで貴方が……」

 ガリ勉眼鏡はお約束の台詞を佐奈に言う。佐奈はイロイロ戸惑っていた。中学時代は真面目だったガリ勉眼鏡がこんな台詞を口にすること自体、佐奈には想像できなかった。

 ガリ勉眼鏡は佐奈に言い放った。

 「それはこちらの台詞です! なぜ貴女ほどの人が長篠高校などに!」

 「だって、エレベーターがないと体力が持たないから!」

 絶対記憶こそあれ、佐奈は極端に体力がない。ここまではデイアフタートゥモローが気遣ってくれたおかげでなんとか体力は残っているが、正直少しバテ気味なのだ。

 「エレベーターごときになびくなど……!」

 「人には、それぞれ事情がある。そいつには長篠高校がBestベスト Choiceチョイスだった、というだけだ」

 佐奈とガリ勉眼鏡の間に、割って入る影があった。長篠高校のジャージを着た、頭にダンボールを被った変態だった。

 「お前は誰だ!」

 「名乗るほどの者ではない。ちなみに好物はスルメ、ドライジャーキーとかの乾き物だ」

 ガリ勉眼鏡はダンボールの変態との距離を詰める。ダンボールの変態は佐奈の方を向いて言った。

 「雅から話は聞いている。参加出来ない雅に代わって、君をGuardガードするKightナイトってわけだ」

 「雅さんの知り合いなんですか?」

 「まあな、同じ中学出身だ。俺も雅も、この中学出身」

 ダンボールの変態は中学の校舎を指差す。こんな変態と雅の色物二人を輩出する中学とは一体どんな学校なのだろうか、と佐奈は興味が沸いた。

 「時々喋る英語はなんだ! 地味に発音いいし!」

 「中一の頃英語苦手で、それで当時英語担当で担任だった先生に対策方法を聞いて、いろいろ試して今に至る」

 ガリ勉眼鏡が明らかに頭悪そうな英語の使い方にツッコミを入れる。ダンボールの変態はイライラするガリ勉眼鏡と対称的に落ち着いていた。

 「死ね、田舎の落ちこぼれ!」

 ガリ勉眼鏡は大量のボールペンを手にして、ダンボールの変態に襲い掛かる。しかし、ダンボールの変態は平然としていた。

 「これだけ言わせろCrazyクレイジー glassesグラス

 ダンボールの変態はいつの間にか細長い角材を手にしていた。それは、額田の山で木を間伐した時に出来た木材、間伐材だった。そして、それをガリ勉眼鏡に向かって突き出した。

 「挨拶をおろそかにする奴に、勝利は無い! 『間伐材バスター』!」

 「ぐあああああっ!」

 ガリ勉眼鏡は腹部に間伐材の一撃を喰らって倒れた。

 「さて、ではワクチンを手にいれましょうか。一つの装置で10人がワクチンを手にできます」

 佐奈はダンボールの変態に呼ばれ除去装置まで行き、時計のコネクタと装置のコネクタを合わせる。装置はゲームセンターにあるコインゲームの機械みたいに画面があり、画面の『10』という数字が佐奈、ダンボールの変態の時計を触れさせたことで『8』になる。

 これでミッションは終了。時計のカウントダウンも消える。

 「よかった……」

 佐奈は安心して、疲れが一気に来た。


   @


 『戦況速報。旧額田町中学校グラウンドの戦い、藤井佐奈&ダンボールの変態VSガリ勉眼鏡。勝者、藤井佐奈&ダンボールの変態。これによりダンボールの変態の獲得ポイントが2に上昇。藤井、ダンボール両名がミッションをクリアしました』


 岡崎市 イオンショッピングモール


 岡崎市には巨大なショッピングモールがある。次なる戦いはそこで勃発した。一般人巻き添えである。平日なのが不幸中の幸いだった。

 「貴様! 親衛隊隊長の俺にもう一度盾突く気か!」

 「知りませんよ!」

 ゲーム研究部部長と佐竹がまたも同士討ちをフードコートで起こしていた。イオンのフードコートは、ザックリ説明するとたくさん椅子や机があるところに店が並んでるというものだ。

 そしてもう一組、ショッピングモールで戦う生徒がいた。シネマ館のゲームセンターで戦いは発生していた。

 「私は桶狭間眼鏡四天王の一人、眼鏡っ娘!」

 眼鏡の女子生徒が上杉夏恋の前に立ちはだかる。夏恋はやれやれと言わんばかりに背中を見せて逃走する。眼鏡っ娘はみんなジャージの中、一人だけセーラー服だ。

 「待て!」

 走るのが遅い眼鏡っ娘は短髪を揺らしながら夏恋を追う。3階に渡り廊下のあるシネマ館から、本館1階の食料品売り場までチェイスは続く。

 「改めて紹介しよう。私は桶狭間高校風紀委員長、大川橙!」

 「大川って……、インフェルノの緋色と関係あるの?」

 「もやしおじさんは気にするな! 私は私だ!」

 姪にまで緋色はもやしと呼ばれていた。それでも夏恋は少しも緋色を哀れんだりしない。彼女はもやしっ子を『マインクラフトのゾンビ』と呼ぶ。ちなみにマインクラフトとは、ゲームだ。詳しくはググれ。

 その経緯とは『あんたら太陽に当たりだからないよね。太陽当たったら燃えるの? マインクラフトのゾンビみたいに』といった感じだ。もやしよりわかりにくい上に傷つく。

 「戦え! 逃げるな!」

 「それ逃げろー!」

 再び二人はショッピングモールを駆け上がり、屋上の駐車場へ出る。夏恋も橙も意外と体力がある。

 「手錠投げ!」

 「私どっちかっていうとSなのよね」

 橙が投げた手錠を夏恋は華麗に叩き落とす。手には軍隊が正式採用しているコンバットナイフがあった。

 「危険物を持ち込むな!」

 「あーあ、バレちゃった。ウェヒヒヒッ」

 夏恋は気持ち悪い笑い声を上げる。その後、二人は車用のスロープを降りて屋上から1階へ戻る。そして、再びショッピングモールを駆け上がり、シネマ館のゲームセンターへ戻ってきた。

 橙は鉄パイプを振り回し、夏恋を追い詰めた。いくらナイフがあるとはいえ、リーチ的に鉄パイプ相手は分が悪い。

 「無駄な抵抗を! 時間を潰すだけだ!」

 「そう、時間を潰すことが私の目的なの」

 夏恋は突然振り返ると、紐で繋げた大量の腕時計を見せる。数にして50個近く。しかも、今もカウントダウンが刻まれている。そう、この腕時計は遊人が倒した桶狭間高校の生徒から奪ったのだ。プログラムミスで、敗退後もミッションのカウントダウンが行われている。

 「まさか!」

 「そのまさかさ! チェーンマイン!」

 橙は夏恋の投げたチェーンマインに縛られて身動きが取れなくなる。おまけに橙は自身の腕時計のカウントダウンを解除出来てない。

 一方、いまだフードコートで内輪揉めをしている佐竹と部長。そろそろ爆発のお時間だ。元はといえば除去装置の最後のワクチンを巡る戦いだが、今頃最後のワクチンは誰かが使用してるだろう。ていうか、夏恋があのチェイスの最中に使った。

 「ここでのファンの喪失は総選挙に多大な影響を与える! 貴方はそれを理解しているのか!」

 「お前が正しいってのなら、俺に勝ってみせろ!」

 もはや二人の会話は言葉のドッチボール。収まる気配はない。一般人は全員逃げ出した。

 赤野親衛隊二人の戦いは激化し、常人には見えない速度で拳の応酬が行われている。

 「貴方が欲しかったのは、本当にそんな力なのか?」

 「力……?」

 部長は想像した。力、それは誰かを守るためのもの。例えば、男が守るべきは家族。帰るべき家で、今日もおいしい夕食を作ってくれる赤野。

 『今日は、貴方の好物』

 そう言って赤野が作ってくれたのは、岡崎の八丁味噌を使ったあれだ。

 土鍋でグツグツ煮立つ音、味噌の香り、とても美味しそうだ。白い麺も味噌の色に染まり、味が染み込んでいる。

 そう、その正体は……。

 「味噌煮込みうどん!」

 「食いしん坊か!」

 部長の回答に佐竹がツッコミを入れた瞬間、時計のカウントダウンがゼロになって、爆発した。

 シネマ館の戦いも同時に決着。橙は爆発に巻き込まれた。

 「私と張り合うには、少々真面目過ぎたね」

 夏恋はシネマ館を華麗に立ち去った。


   @


 『戦況速報。イオンモールシネマ館の戦い。上杉夏恋VS大川橙。勝者、上杉夏恋。腕時計爆破によりポイント変動はありません。イオンモールフードコートの戦い。部長VS佐竹。相打ち。ポイント変動はありません。現在の生存者、長篠560人、桶狭間356人』


 岡崎市 籠田公園


 岡崎の街中にある公園、それが籠田公園だ。周りがコンクリートジャングルなのに、ここだけ土とか違和感しかない。

 そこそこ広いので、イベントとかできちゃう。長篠高校も度々イベントを開く。屋根付きのステージ完備の公園もなかなか無いだろう。

 そこで皆さんに重要なお知らせ。この籠田公園は、この小説の元となる習作『ドラゴンプラネット第一部』で初の戦闘が行われた場所なのです!

 「はいはい内輪ネタ乙」

 ミッションを終えた煉那は大事な情報を軽くスルーする。まあ実際に戦闘があったのはゲーム世界の籠田公園だから仕方ないね。煉那達は初めこそ一緒にいたが、後に別行動したのだ。

 「そんな記念すべき場所で私と戦えることを光栄に思え!」

 「なんか来たよ」

 煉那はステージの上に馬鹿を発見した。眼鏡をかけたナルシストが現れた。おそらく眼鏡四天王だ。

 「私は眼鏡四天王、伊達眼鏡!」

 眼鏡に指を当てたカッコつけポーズを決める伊達眼鏡。煉那は呆れてテニスラケットとボールを取り出す。

 「ツイストサーブ」

 「ぐぎゃああ!」

 煉那のサーブを顔面に喰らった伊達眼鏡は眼鏡を砕かれて戦闘不能に。

 「アホくさ」

 煉那はさらに呆れて伊達眼鏡の腕時計を奪いにステージへ上がる。

 「これでよしと」

 腕時計を奪い、自分の時計とコネクタで繋いで伊達眼鏡の腕時計のボタンを押す煉那。これでポイントゲットだ。

 「それで終わり、だなんて思ってないでしょうね?」

 「誰だ!」

 しかし、公園のど真ん中に怪しい人物が現れた。学ランの下に緑色のパーカーを来た、何者かだ。フードは被っている。高校生くらいに見える少年だ。

 「眼鏡四天王ごときを倒したくらいで、いい気にならない方が身のためですよ長篠高校。しかしこのステージ、開放感が足りませんねぇ……」

 少年が指を鳴らす。すると爆発が起き、ステージの屋根が壊れた。瓦礫は当然煉那へと降り注ぐかと思われたが、爆風を計算していたのか瓦礫はステージの外へ散らばった。

 「お前は、何者だ?」

 「今は名乗る必要は無いでしょう。ほら、サバイバルゲームにも参加してませんし」

 少年は両腕を煉那に見せ、腕時計が無いことを確認させる。煉那は腕時計が無いことを確認した。

 「なら、私に何の用だ」

 煉那はステージから降りる。しかし、降りた瞬間、カチリという音が聞こえた。

 「言い忘れましたが、地雷埋めました。今回の腕時計も前回の地雷も、僕お手製です」

 「それを先に言えええぇぃ!」

 煉那の絶叫は爆風へ消えた。


   @


 『戦況速報。籠田公園の戦い、都煉那VS伊達眼鏡。勝者、都煉那。その後、煉那はトラップにかかり戦闘不能。ポイント変動は実質ありません』


 旧額田町 小学校


 ダンボールの変態が運転する自転車の荷台に乗った佐奈は、しばらく額田の自然を満喫した。

 中学校のすぐ近くにある額田最大の小学校のグラウンドに来た佐奈とダンボールの変態だったが、そこで驚愕の光景を目の当たりにした。

 グラウンドは風で砂が飛ばないよう、緑色の特殊な土を使っているのだが、そのグラウンドの至る所が真四角に抜き取られているのだ。

 犯人はグラウンドにいた。学ランに目出し帽の変態だ。白い瞳をぎらつかせた、背が高く、手足の長い人物だ。

 抜き取られた土は近くに置かれている。

 「who are you? 答えによっちゃ帰さんが、桶狭間の奴だろ? 制服でわかる」

 ダンボールの変態は果敢に目出し帽に話し掛ける。佐奈は警察を呼ぼうと考えた。

 「そこの貴女、警察を呼ぼうとしましたね?」

 「え? どうして?」

 目出し帽は佐奈の心の中を読んだ。目を合わせただけで、ここまで読まれたのだ。

 「四天王はやられましたが、桶狭間にはまだ我々がいる。私は正義の味方、エンダーマン!」

 「マインクラフト?」

 目出し帽はエンダーマンと名乗った。佐奈はいつも遊んでるゲームの敵キャラを思い出した。

 たしかに、そのゲームに出てくるエンダーマンもこんな感じだ。本当は真四角なんだけど。

 「私はサバイバルゲームの参加者ではない。これでおさらばだ、とう!」

 「消えた!」

 エンダーマンが突然消え、佐奈は驚く。とりあえず、この土なんとかしろよとダンボールの変態は思うのだった。


 岡崎市 イオンショッピングモール


 「また変なの来た」

 ショッピングモールの三階、服売り場まで来た夏恋は、両手にチャッカマンを持ってうろつく少女を見つけた。桶狭間高校のセーラー服を着た、白髪の少女だ。非常に幼く見え、一年生である夏恋より年下に見える。下手をすれば、まだ中学生の理架と並んでも年下に見えるかもしれない。

 「あ! もしかして長篠高校の人?」

 少女は夏恋に気づいた。チャッカマンをかちかちやりながら話しかけてくる。危ない。

 「あれ? この辺灯油臭い……」

 夏恋は少女から視線を反らそうとして、周りの異変に気づいた。商品の服が一つ残らず濡れており、灯油の臭いが漂っている。

 「気づいた? でも、灯油じゃなくてガソリンだよ」

 少女が言うと、服が一斉に火を放つ。売り場が一気に炎上した。流石の夏恋も焦る。

 「ちょ……、何を考えてるの!」

 「デパートって燃えるかな?」

 夏恋は少女を無視して、エスカレーターを駆け降りた。しかし、少女も夏恋を追い掛ける。

 「私ね、人を焼きたいの!」

 「狂ってる……!」

 2階のエレベーター前まで二人は来た。ここなら燃えるものも少ない。エレベーターが到着したが、夏恋はそれに乗る気がしなかった。下手をすれば少女も乗ってきかねない。

 「だからね、エレベーターに仕掛けしといたの!」

 エレベーターが開くと、夏恋は戦慄した。エレベーターの中には火が放たれており、火だるまになった人々が出てきたのだ。

 「あははははっ! すごいすごい! 人ってよく燃えるね!」

 「あんた……!」

 夏恋は珍しく、毒づく気になれなかった。本物の狂人を前にして、平静を保つことなどできない。

 「夏恋!」

 そんな夏恋に救援が現れた。消防用ホースを持った涼子だ。涼子はホースからの高圧水流を少女及び火だるまの人達にかける。

 「こいつめ!」

 我に帰った夏恋はびしょ濡れの少女を掴んで投げる。凄まじい力で投げられた少女は、何処かへ消えた。


 長篠高校 第二グラウンド


 四天王が倒れ、新たな敵が登場した頃、そろそろオチの時間がやってまいりました。

 「げふっ……、この私が負けるなど……!」

 会長は第二グラウンドの真ん中でボコボコにやられていた。負けた相手は、なんと女子。

 「残念だな、実に残念だ。会長対決と洒落込んだ瞬間これだ」

 ロングヘアに切り揃えられた前髪。球技大会にも関わらず制服。彼女こそが長篠高校の生徒会長だ。

 「これが『長篠の闇』、佐原凪の実力か……!」

 「誤解だな、実に誤解釈だよ桶の会長くん。私の実力ではなく、長篠高校生徒全員の実力だ」

 凪は会長にそう言うと、雅の下へ行く。それを会長は止めようとする。

 「待て……! まだ勝負は着いてない!」

 「確かに、私とお前の勝負は着いたが、サバイバルゲームの行方は不明。だが甘い見解だよ、実に甘い検討解釈だ。私がちょっと行ってくれば、勝敗など自由自在。つまり、長篠の勝ちでいいな?」

 会長を軽くいなして凪は雅を探す。雅はずっと、朝礼台の上にいた。

 「あの人は?」

 第二グラウンドに現れた遊人とエディ。会長をボコボコにした凪についてエディは遊人に聞いた。

 「長篠高校生徒会長、佐原凪。長篠の闇と呼ばれる伝説の生徒会長だ。何でも、生徒全員の能力を一人で発揮できるらしいな」

 雅をさらって何処かへ行く凪を見て、二人は生徒会長の恐ろしさを実感したのだった。

 〇出番の無い人達

 氷霧「出番無い」

 クイン「いつからこの小説は異能バトルになったのよ……」

 藍蘭「おー、メタいメタい」

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