表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
35/123

18.反逆の墨炎

 インフェルノコロニー


 「どういうことだそりゃ!」

 俺とエディは朱色に呼ばれ、インフェルノコロニーに来た。俺のアバターはいないので、ログインする時に代理のアバターを使わなければならない。

 そこで選ばれたのがプロトタイプ。手持ちのNPCをアバターとして使うことが可能らしい。

 プロトタイプの意識は残っているので、話し掛けられることもある。

 『なるほど、お前は意識だけの生き物で、オリジナルに取り付いていたと?』

 「そういうことだ」

 プロトタイプにはこの前と同じく、適当な説明をしといた。

 プロトタイプは墨炎より背が高く、目線も高い。しかも、胸は墨炎より大きい。いや、うれしいのやら面倒臭いのやら複雑な気持ちだ。動く時に邪魔じゃね?

 「しかし、さっきから俺の過去らしき記憶が脳裏を過ぎるな」

 「プロトタイプは遊人の憎しみから生まれたからね。その憎しみの元となる記憶にどっぷり浸かってるようなものだよ」

 朱色の説明からすると、これは俺の憎しみの元だった記憶らしい。たしかに、渚が死んじゃいるが、渚を殺したのはSPであって順じゃないんじゃね? 馬鹿だなー昔の俺は。

 一度記憶を無くしてるからか、自分の過去を客観的に見られる。特に驚きもない。俺には昔の写真をアルバムで見るような感覚しかなかった。

 「しかし、所持品の大半を持ち去られたのは痛いな」

 今の俺は、剣しか持ち物がない。プロトタイプの着ている茶色のワンピースにマフラーも、大した防御力は持っていないだろう。

 「プロトタイプ、前に着ていた服はどうした?」

 俺はアイテムストレージにプロトタイプが以前着ていた白い衣装がないか探したが、なかった。

 『それか? 売った。マフラーとブーツ欲しかったし』

 「おいおい、非売品のレアアイテムだぞ?」

 なんと、プロトタイプは自分専用の装備を売ってしまったらしい。これではどうしようもない。

 「ぷーちゃん?」

 レジーヌがいきなり口調を変えたり、独り言を言い出した俺、プロトタイプに疑問を持ったらしい。

 プロトタイプの身体には俺とプロトタイプの二つの意識がある。プロトタイプの意識は身体に干渉できないが、俺に話しかけることができる。ていうか、墨炎の時も身体に干渉されないようにしてくれよな。

 「お前、怪我治ってないんだな」

 『火傷は時間かかるのよ』

 プロトタイプの身体になってみて初めて気づいたが、コイツは俺と戦った時の傷が癒えてない。身体に包帯を巻いてる感覚がしっかりある。

 「惑星警衛士の本部で別れてから、随分経ったのにな」

 『わかったら、私の身体を大事にしな』

 「墨炎……!」

 「おいどういうことだこりゃ!」

 トランスポーターから、氷霧とクインが現れた。朱色から連絡をもらったのだろう。

 「墨炎は?」

 「おう、俺だ」

 氷霧が心配そうに俺を探すので答えてやる。今、俺はプロトタイプの中だ。しかし、案の定氷霧とクインは信じられないという表情をする。

 「え?」

 「おいおい、冗談言うなよぷーちゃん」

 『ぷーちゃん言うな』

 ぷーちゃんはクインにも伝染していたのか。プロトタイプ的には、ぷーちゃんと呼んでいいのはレジーヌだけらしい。

 「ぼくえんは、ぷーちゃんにとりついてる」

 「なるほど、アバターがいなくなったからNPCを代理にしたのか」

 事情を朱色から説明されたレジーヌが、それをクインに伝える。クインはレジーヌの説明で納得した。

 俺には聞き取ることすら困難なんだがレジーヌの声。レジーヌは登録された音声を切り貼りして喋ってるらしい。

 「でも、どこに行ったのかなあ、墨炎」

 エディの心配も最もで、緋色もやしの阿呆野郎が墨炎を逃がしてしまった。どこに行ったかもわからないので探しようがない。

 「困ったな……」

 「あ、藍蘭からメール」

 氷霧がメニュー画面を開いてメールを確認する。登録してあるプレイヤー同士ならメールをやり取りできる。

 丁寧にボイスメールだ。いや、単に文字打つのが面倒なだけか。氷霧はメールを開いた。

 『ヤッホー氷霧先輩! なんかさ、墨炎ちゃんが迷子になって今うちで預かってるの。とりにきて』

 「なるほど。よし、行こう」

 藍蘭曰く、墨炎は学園騎士の本部、海底校舎にいるらしい。場所もわかったし、早速迎えに行くか。

 「だけど、なんでそんなとこに?」

 「緋色もやしの馬鹿野郎が飛ばしたみたいだぜ」

 クインの疑問も頷けるが、緋色はなんで墨炎をアトランティックオーシャンに飛ばしたんだ?

 「緋色の奴は君の憎しみにこだわりを持っていたみたいだよ。多分、プロトタイプの身体に遊人の意識を入れて、憎しみの元になった記憶を取り戻そうとしたんだ」

 「なるほど。記憶は戻ったけど、憎しみの感情は戻らなかったがな」

 朱色の説明では、緋色が俺の憎しみにこだわりを持っていたらしいな。俺が憎しみを持っていると都合がいいのか?

 俺が憎しみのまま、復讐したら滅ぶのは松永順、順の所属する熱地学院大学、松永家……。そして下手をすれば俺自身も滅ぶ。

 「つまり、緋色は熱地学院大学もしくは松永家を滅ぼしたいのか?」

 「そういえば、熱地からたくさん客が来てた時期があったよ。チートプレイヤーが増え始めたのもだいたいその時期と一致するね」

 俺の予想に朱色が付け加える。まさか熱地と松永が仲間割れとも思えないし、なんだろうなホント。

 「考えても仕方ないね。行こうよ、海底校舎」

 エディが槍を振り回して方針をまとめる。こうして俺達は海底校舎へ行くこととなった。

 というわけで、いつもの様にシャトルに乗ってアトランティックオーシャンを目指す。シャトルの窓から見たアトランティックオーシャンは真っ青だった。陸地が全部沈んでるから当たり前か。

 シャトルは埋め立て地の空港に着陸、周りは海。

 「さて、あの潜水艦を使って海底校舎へ行くか」

 アトランティックオーシャンに降り立ったメンバーは俺、氷霧、クイン、エディ、レジーヌの5人。近くに停泊してるレンタル潜水艦で海底校舎を目指す。

 「これゲームだよな?」

 あまりのリアルさに俺はついゲームであることを疑いたくなる。

 潜水艦に乗り込む。中は広く、5人が乗っても広々としている。窓から海が見えた。熱帯魚がたくさん泳いでる。

 「行くか」

 俺は操縦席に座り、潜水艦を動かす。道は覚えている。一度俺と氷霧は海底校舎を訪れたことがある。

 操縦席のフロントガラスから海底校舎が見えてきた。海底校舎はそのまま校舎を沈めたような場所だ。

 海底校舎の潜水艦入口に潜水艦を入れる。潜水艦を止めて廊下を歩けば教室だらけの海底校舎に到着だ。

 海底校舎は海底にあるだけで、他はたいして普通の学校と変わらない。前に来た時も実感したが、プロトタイプの目から見るとまた違う感覚だ。

 しかし、何か様子が変だ。プロトタイプの耳は墨炎よりいいみたいだが、爆発音が聞こえる。教室の並ぶ場所に来たら、爆発の正体がわかった。

 俺達の前方にある教室が突然爆発したのだ。

 「なんだ?」

 クインが教室の爆発に驚く。煙が晴れた時、誰かが倒れているのを見つける。見覚えのある赤いツインテール。

 「……スカーレット?」

 「うっ……、氷霧さん……?」

 氷霧は倒れているスカーレットに近寄り、回復魔法を唱える。魔法か、そういえばプロトタイプのスキルを見てなかったな。墨炎と同じものが使えるのか?

 「スキル……は」

 俺はメニュー画面を見てプロトタイプのスキルを確認する。スキルスロットは4つ。鎌の技を覚える『死神』、初めて見掛ける攻撃魔法スキル『暗黒魔法』、後は墨炎と同じ『ステップ』と『索敵』。

 「暗黒魔法……。珍しいね。私の『炎魔法』と違っていろいろな属性の魔法が使えるのね」

 「他にも、『属性攻撃』みたいな武器攻撃に属性を与えるものや、『使役精霊』みたいな珍しいスキルもあるみたいだな」

 エディとクインが画面を見る。そんな珍しいスキルがあるのか。

 「私、使役精霊使えるよ」

 「マジか?」

 エディは使役精霊使えるのか。エディはメニュー画面を見せてくれた。エディのスキルは『槍術』『使役精霊(炎)』『炎魔法』『天使皇ウリエル光翼ウイング』。炎中心のスキル構成だな。

 「円卓の騎士団が……来た」

 回復したスカーレットが口を開く。先程までの爆発音は戦闘の音だったのか。

 「よく見たら……集団戦に巻き込まれてる」

 メニュー画面を見た氷霧が言うに、俺達はいつの間にか学園騎士と円卓の騎士団の集団戦に巻き込まれたらしい。

 「つまり、俺達はこの前のfみたいな立ち位置ってわけか」

 「あと、紅憐ぐれんが来た」

 紅憐というプレイヤーの名前を聞いた瞬間、氷霧とクインが絶句した。俺とエディ、レジーヌは『凄い奴が来たんだなー』程度にしか思わなかったが。

 「……帰ろう」

 「帰ろっか」

 氷霧とクインは口を揃えた。

 「紅憐って、そんなヤバい奴なのか?」

 俺は何と無くエディに聞いてみた。この二人が帰りたくなるほどのプレイヤーなら、エディがなんか知ってるはずだ。

 「ヤバいっていうより、強いみたいね。だって紅憐って、セイジュウロウやfと並ぶ伝説級プレイヤーよ?」

 エディは知っていた。紅憐が伝説級プレイヤーということを。氷霧やクインも強い部類に入るのだが、その二人が帰りたくなるくらい強いって、かなり強いんじゃないか紅憐。

 「でも、セイジュウロウとfが『強さ』で伝説級なのに紅憐は『特殊さ』で伝説なの。遠くで見てる分には楽しいけど、私も出来れば関わりたくない」

 「特殊さ?」

 エディは嫌そうに付け加えた。エディもゲーム歴の長いプレイヤー。そのエディが関わりたくないというほどなら相当ヤバいんじゃね?

 「とりあえず会ってみようか……」

 「急げ、奴が来たってことはヤバいぞ墨炎が!」

 「……貞操の危機」

 俺が歩き出すと、クインと氷霧が全力で走り始めた。貞操がなんやら言っていたな。かなり慌てた様子だ。

 『なあ、紅憐は男なのか?』

 「プロトタイプが紅憐は男なのか、って」

 「女の子だけど?」

 『なら大丈夫か』

 プロトタイプは紅憐の性別をエディから聞いて安心していたが、世の中には同性愛も存在するってことを学んだ方がいいなこいつは。

 俺、エディ、レジーヌは先に行った氷霧とクインを追い掛けた。


 海底校舎 体育館


 会長の藍蘭は体育館にこだわりのある人物らしい。バスケ、バレーなど競技ごとに体育館があり、武道場も充実している。海底校舎の面積の半分を体育館が占める。

 そんな充実した体育館は円卓の騎士団メンバーの残骸まで充実していた。倒れているのでも、死体でもない。残骸としか形容できないものになった円卓の騎士団メンバーが散らばっていた。

 渡り廊下から体育館の通路、そしてこのバスケ用体育館に至るまで、いくつもの焼け焦げた残骸が目についた。プレイヤーだと思うが、魔法で復活できるのだろうか。

 「あ、氷霧先輩。墨炎ちゃんなら室内スタジアムに……」

 「残骸の野原でピクニックか……」

 藍蘭はバスケ用体育館の中央でビニールシートをひいておにぎりをほうばっている。顔ほどある巨大おにぎりが入った重箱が10段重ね。どんだけ食うねん。

 「紅憐が、来たのね?」

 「そうですよー。汚い花火打ち上げてくれました」

 氷霧が確認をとる。どうもこの残骸は紅憐の仕業らしい。相手をぐちゃぐちゃにするスキルの持ち主か。エネミーに使うと、素材が手に入らないデメリットがあるスキルなのか?

 「ぷーちゃん、いそぐ」

 『そうだな』

 「おう。なんか紅憐がヤバい奴って気がしてきた」

 レジーヌに急かされ、俺はプロトタイプの身体で急ぐ。やはり歩幅が広くて早いな。

 とっとと歩いて室内スタジアムに。普通のサッカースタジアムに天井が付いただけの場所だ。

 芝生は赤く染まっていた。とりあえずフィールドに入ると、片方のゴールに大量の首が放り込まれているのを見掛けた。

 「なんという山田悠介……」

 俺はこの前読んだ小説を思い出した。相手選手の首を落として、首をゴールするというサッカーをする小説だ。

 「経緯を説明しよう!」

 氷霧、クインと共に追いついた藍蘭が説明する。首が入ってない方のゴールを見ると、誰かがゴールポストの上に立っていた。

 「円卓の騎士団は偶然海底校舎に来てた紅憐を焚きつけるため、墨炎ちゃんをズタ袋に入れて景品にしたの。かわいい女の子が景品と聞いた紅憐は狙い通り戦いに参加したけど、やる気出し過ぎてうっかり殲滅しちゃった」

 藍蘭によると、紅憐はかわいい女の子狙いで円卓の騎士団を殲滅したようだ。とんでもない好色だな。特殊さで有名なのも頷ける。

 「さてさて、景品のかわいい女の子はどこですかぁ?」

 紅憐と思わしき人物がゴールポストから飛び降りる。周りを見渡すと、観客席にズタ袋が置いてあるのを見つけた様子。

 紅憐は背中まである赤い髪を後ろで縛っている。紅い軍服に白い手袋。武器はナイトと同じくサーベル。よく見たら女性だ。

 「かわいい女の子っと、楽しみですぅ」

 紅憐はわざわざフィールドの真ん中まで戻り、ズタ袋を開けた。中には案の定、墨炎が入っていた。

 「わーい、かわいい女の子……」

 紅憐は喜び勇んで、意識を失った墨炎を撫で回そうとしたみたいだが、ある場所を見た紅憐の動きが止まる。

 「……かわいいけど、胸はちっちゃいですねぇ」

 紅憐はこちらを見た。氷霧とクインが警戒を強めたのが、気配でわかる。

 「さてと、墨炎に触れれば俺の意識は元に戻るわけだ」

 朱色からはそう説明されている。俺は墨炎に意識を戻すため、紅憐に抱かれた墨炎まで向かった。

 「特に危険そうな人ではないけど? まあ、変わり者には違いありませんが」

 エディは氷霧に話し掛けた。確かに、変わり者だが氷霧達が警戒するほど危ない奴とも思えない。

 「あんたは……鎧着てるからそんなこと言えるんだ……!」

 クインがエディの格好を見て語気を強める。ますますわけが解らない。

 「とりあえず墨炎を返してもらうか……っと」

 俺は墨炎に触れて、意識を移す。少し世界が回るような、全感覚投入した時に似た感覚を感じて俺の意識は墨炎に宿る。

 「よし、一件落着……あああああっ」

 俺が一件落着と言おうとした時、紅憐は抱き抱えた俺を盛大にぶん投げた。垂直トスだ。スタジアムの天井に手が触れるスレスレまで投げられた。

 よく見ると天井って透明で海が見えるんだなぁ、ということを確認した瞬間、そのまま落下。

 「のおおおおおっ!」

 俺はスタジアムに叩きつけられる。死ぬっていうか、落下ダメージで体力が殆ど持ってかれた。

 「かわいいっ! アタシのタイプですっ!」

 紅憐はいきなり黄緑色の瞳を輝かせてプロトタイプに抱き着く。墨炎はタイプじゃないと?

 プロトタイプも自由を取り戻していきなりこれだから、戸惑い気味だ。

 「かわいいなんて、初めて言われたが……」

 「照れてるですぅ! 尚更かわいい!」

 何故かまんざらでもないプロトタイプ。しかし、その後の紅憐の行動のせいでその余裕は消え失せた。

 「わあっ、凄くフカフカじゃないですかぁ」

 「ちょ……、どこ触って……」

 紅憐はプロトタイプの胸やら太ももなどを撫でるわ揉むわで、プロトタイプが大変そうだ。よかった、墨炎にさっさと意識を移しといて。

 なるほど、鎧を着てれば確かに安全だ。クインや氷霧のような装備ではキツイな。

 「お待ち! この惨状の主犯は誰ですの!」

 そこに円卓の騎士団幹部、マルートが現れた。手にしている物を見る限り、武器は扇子らしい。スタジアムの観客席からバタバタ現れた。雑魚軍団も率いている。

 「アタシですけどぉ、邪魔しないでくれる? 今いいとこなんだから……」

 紅憐はそうマルートに言うと、プロトタイプに顔を近付ける。そして、強引に唇を奪う。

 「んっ……?」

 プロトタイプが声を出すも、紅憐はお構いなし。あの様子では舌まで入れられてるな。紅憐は息が切れたのか、唇を離す。唇と唇の間には唾液が糸を引いていた。

 「唇……、とっても柔らかいですぅ」

 「あ、あんたんむっ……?」

 まさかの息継ぎ。プロトタイプはなかなか紅憐から解放されず、ファーストキスどころかセカンドまで紅憐に奪われた。

 こんな百合百合しい光景に、オーバーヒートを起こした奴が一人いた。

 「攻撃対象決定。紅憐をエネミーに指定。サテライトシステムに座標データ送信」

 「レジーヌ……?」

 クインが恐る恐るレジーヌの方を見る。レジーヌは戦闘モードに突入。目が紅い。

 「でもぷーちゃんがまきこまれる。エネミーロックオン。でもぷーちゃんが……」

 レジーヌの頭から煙が上がる。これが俗にいうオーバーヒートか! とくこうがガクッと下がるぞ!

 「回路オーバーヒート。サテライトシステムに従い、サテライトキャノン稼動」

 レジーヌが空間からアーマーとキャノン砲を取り出す。ロケットランチャーに似たキャノンだ。後方にはバツの字を模ったリフレクターがある。

 胸アーマーには光るパネルみたいな物がはめ込まれている。そこに空から来たレーザーが当たり、エネルギーが充填された。

 「サテライトキャノン、発射」

 レジーヌはキャノンを上空に放った。天井が激しい音を立てて壊れた。水がダバダバスタジアムに侵入する。

 「逃げろ!」

 クインと氷霧が真っ先に逃げ出した。俺も逃げようとしたが、エディに捕まって、

 「ヘイパス!」

 紅憐にパスされた。ついでにエディはボイスレコーダーもパスした。

 「ふぇ?」

 「後よろしく! 声をレコーダーにね。私女の子をイカす自信ないし」

 「任せるでありますぅ!」

 みるみる水嵩が増す中、エディは紅憐にそれだけ伝えると、プロトタイプを抱えて上空を飛んだ。白い翼がエディの背中に生える。

 「さあて、仕事が報酬、仕事が報酬っと!」

 紅憐は水を得た魚のように元気一杯、俺を連行した。抱き抱えられてる俺は抵抗できない。

 「エネミー、ロックオン。ランチャー起動」

 しかし、紅憐はレジーヌにロックオンされており、ミサイルがガンガン飛んで来る。紅憐はたやすくそれをかわす。円卓の騎士団雑魚勢は見事に餌食だ。

 紅憐はあっという間にスタジアムを出て、廊下にあったロッカールームに逃げ込む。

 「ここなら安心だ。レジーヌもサーモグラフィーは持ってない、はずだ」

 俺はひとまず安心。この前、クインがレジーヌにサーモグラフィーは無いとか言ってたな。代わりに高性能集音機があるんだが。

 「声さえ出さなければ大丈夫……あっ」

 紅憐がいきなり胸とか触ってくるので、つい声が出てしまう。ただでさえ感度いいのに、不意打ちはキツイ。

 「ちょ、紅憐……!」

 「ふふっ、天下の流れプレイヤー、ラディリスさんの頼みとあっては断れませんなぁ!」

 紅憐は俺を後ろから抱きしめる。そして、夏恋より正確かつ激しくいろいろな場所を撫で回した。

 「んっ、む……、声、出る!」

 なんとか口を両手で押さえて声が出ないようにする。それでも、耐えれない。

 「んっー、むぅ……」

 「音声確認、エネミー発見」

 ロッカールームの扉をぶち破って、レジーヌ登場。どうやらあの少しの声を認知した様子。助かったのやら死にそうやら。複雑な状況。

 「逃げろ!」

 俺と紅憐は逃げた。レジーヌの横を勇敢にもすれ違い、ロッカールームを脱出。再びスタジアムの観客席に戻る。近くに藍蘭がいる。

 「ヘイパス!」

 「わっー!」

 隣にいた紅憐をぶん投げ、藍蘭にパスする。俺は脱兎のごとく逃げ出した。だって怖いじゃん。HPヤバいし。

 「サテライトキャノン」

 「ちょ……まっ……!」

 二発目のサテライトキャノンが藍蘭を直撃。観客席はごっそり削られ、藍蘭は戦闘不能になる。

 「あ、またかわいい女の子発見ですぅ!」

 「こっちくんなですの!」

 紅憐はマルートを発見して追い掛ける。レジーヌも紅憐を追跡してるからマルートの方へ向かう。

 「モジュールA、『ミニョエル』起動」

 レジーヌの手足と背中にミサイルポッドが出現。紅憐およびマルートに一斉射撃。紅憐は回避したが、マルートは全弾直撃。レジーヌはスタジアム上空を飛行して、紅憐とついでにマルートを追跡する。

 「げほっ……! なんですのこれは!」

 「ミサイル再装填、ターゲット捕捉、発射」

 レジーヌは紅憐およびマルートにまたミサイルをぶっ放す。それを10回近く繰り返したため、マルートも戦闘不能になった。

 「アトミックバズーカ、装填」

 レジーヌは大きな筒を取り出す。アトミック、つまりは核だ。……。

 「核ミサイル?」

 「まさか……!」

 スタジアム上空にいたエディがプロトタイプを投げ捨ててレジーヌに接近する。二人とも空にいる。

 「ぶっ!」

 プロトタイプは水の溜まったフィールドに落とされ、溺れた。泳げないのか?

 「アトミックバズーカ、システムオールクリーン、発射シークエンスへ移行……」

 「待って!」

 エディがアトミックバズーカの銃口を押さえ、レジーヌを止める。しかし妙だな。戦闘不能になってもペナルティーのない状況で、何故エディは必死になるんだ?

 「それは、撃っちゃいけないものよ」

 エディはレジーヌに語りかける。確かに核ミサイルはヤバいもんだ。それは納得できる。

 「え、嘘? レジーヌって核持ってた?」

 「……核の冬が来る」

 クインと氷霧がスタジアムに現れた。クインが知らないってことは、あれはクインが取り付けたものではないのか。

 「起動停止、通常モードに移行」

 「よかった……」

 レジーヌは核ミサイルを撃つのをやめてくれた。エディも安堵する。

 だけど、その安堵が一瞬の隙を生んだ。

 「レジーヌ!」

 安心した俺達の耳に、エディの叫び声が届いた。上空を見上げるとレジーヌのHPゲージがみるみる削れていくのがわかる。レジーヌはスタジアムの天井付近から水の溜まったフィールドに落ちた。

 まだ集団戦は続いていた。レジーヌが暴走したり紅憐が大方円卓の騎士団を倒したせいで忘れていたのだ。

 俺達はレジーヌを引き上げる。クインは泳げるみたいなので、観客席までは彼女が引き上げた。とりあえず椅子にレジーヌを寝かせる。

 「かなりヤバいぞ!」

 「なんだこりゃ?」

 レジーヌの胸には何かが貫通した後があった。しかも一つではなく、等間隔に三つ。エディが下りてきて、状況を説明する。

 「いきなり何かに刺されて……」

 「【ヒール】!」

 氷霧のヒールがレジーヌを包むが、回復はごく微量。プロトタイプがようやく水から上がり、レジーヌに駆け寄る。

 「レジーヌ! ぐっ……あ?」

 しかし、いきなりプロトタイプの右肩が切り裂かれる。傷跡からして同一人物による攻撃だ。誰かが隠れてるのか?

 「くっ……! オリジナル、武器だ!」

 「おう!」

 プロトタイプは俺が身体を使ってた時に渡した武器をツインランス状態で投げ返す。とにかく、まずは敵を倒す。

 「来るぞ!」

 俺の索敵スキルは敵の位置を特定する。隠れるスキルを使っていても、索敵スキルなら見つけられる。くっきり人の影が見える。

 「【ファイアボール】!」

 索敵で特定した、敵の居場所に炎の玉が飛ぶ。飛ばしたのは紅憐か? 炎の玉が飛んだ場所は吹き飛んでおり、これが円卓の騎士団達を粉々の残骸にした技だと即座に判断出来た。

 「覚悟は、できてるですかぁ?」

 紅憐の瞳が狂気を燈す。こいつは敵に回さない方が賢明だ。ヤバいヤバい。女の子を傷つけられてご立腹だ。

 「アタシは『デスサイズ』によって防御を無視してダメージを与えられるのですぅ」

 紅憐によると、防御無視のスキルによってチートで得た鉄壁の防御を貫通させられるらしい。これは頼もしい。

 しかし、敵はどう見ても幹部。一筋縄ではいかない。でも、こっちにはエディもいる。

 「私はハルート……。じゅ、リーダーのためにがんばる」

 黒いゴスロリ衣装を来た女性アバターが姿を現す。武器は鉄爪。傷跡の正体はこの爪か。

 「行くぞ!」

 「レジーヌの仇!」

 「……討つ!」

 俺と同時に、氷霧とクインも動く。幹部とはいえ三人相手はキツイだろう。

 「うあっ!」

 意気揚々と駆け出した俺だが、足が止まって転んでしまう。いきなりなんだ? この感覚、プロトタイプと戦った時に……。

 「まさか……、お前か!」

 『私は戦いたくない!』

 俺が立ち上がると、墨炎は叫んだ。俺はもう一度転ぶ。

 「なんだ?」

 倒れたまま後ろを向いた俺は驚きの光景を目の当たりにした。墨炎が俺の後ろでツインランス状態を解除した剣を構えている。その様子を俺は見上げていた。

 「なん……だと?」

 俺は手足を見て身体の状況を確認する。色を失い、白黒になっている。

 「しかも普通に攻撃できる!」

 墨炎は意味不明なことを言って俺に剣を振り下ろしてくる。非常に危ない。てか、俺武器ないんだが。

 「私は戦わないために戦う! 貴方を倒して、私は戦いをやめる!」

 墨炎は俺に宣言する。丸腰に武器突き付けて何を偉そうに。

 「遊人!」

 エディは俺に武器を投げる。投げられた武器は黄金に輝いていた。こいつは凄い。

 「エクスカリバー?」

 「そう、あとこれも!」

 二本目もある。エクスカリバーとは対称的な黒い剣。聖なる剣と暗黒の剣か。

 「デスブリンガー?」

 「そ、やっちゃって!」

 まさかの伝説級武器二刀流。これで勝てるか? まさのアバター対プレイヤー。

 今、天井に穴が空いて水の流れるスタジアムで、やけに混沌とした戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ