番外 順のひな祭り
ドラゴンプラネット チュートリアル
ドラゴンはどこから来るの?
ドラゴンはドラゴンプラネットから来る。そんなものは皆さん百も承知。しかし、生物が大気圏を突破できるわけがない。
ドラゴンはメテオドラゴンに乗ってやって来ました。氷霧が初登場の回で言ってたように、式典の真っ最中にメテオドラゴンに乗ってきたのです。乗るといっても、中に搭載されてるだけです。
その後繁殖して、現在に至ります。クエストに乱入してくるメテオドラゴンは、実はドラゴンを搬送してたのです。
東京某デパート
「三月三日はひな祭りだなぁ……」
デパートのひな祭りセールを横目に見ながら、松永順はしんみり思った。
現在、順は一人暮らしだ。今まではわけあって、幼なじみのエディと暮らしていた。今はエディが愛知県岡崎市の長篠高校へ転校したので、一人暮らしを強いられていた。
順は家事能力がない。最近は女尊男卑の塊みたいな暴虐女が手伝いに来てくれて助かっているが、自分に男への不満をぶつけないで欲しいと思ってるところだ。
「あいつのアレは相方の過去に原因があるから仕方ないけどね。僕はそんな奴と生活をすることを、強いられているんだ!」
順はデパートにお使いに来ていた。もう集中線を付けて叫びたいくらいの強いられぶりだった。手伝いに来てくれる暴虐女は何かと人使い、いや男使いが荒い。他の男は片っ端から足蹴にしてるところを見る限り、順への扱いはまだマシな方のかもしれない。
「今日誕生日だぜ? まさかみんな、『順って遊人の双子の弟なの? なら誕生日一緒だよね』でバレンタインを僕の誕生日だと思ってる?」
自分達の特殊な事情は理解されにくいと順は落胆した。特殊な事情を引き起こしたのは自分自身だから、自業自得と順は諦めるしかなかった。
「さて、買い物は……」
順は買い物を始めた。家事能力がないが買い物くらいはできる。
ひな祭りらしい内容の買い物だった。酒粕、雛あられなどなど。順は本格的に自分の誕生日が忘れられてると思った。
DPO ネイチャーフォートレス 桜並木ノ森
所変わってDPO。ここは以前、墨炎と氷霧が訪れてメテオドラゴンを倒した場所。
「ひな祭り限定! オダイリドラゴンとヒナドラゴンを追え!」
ゲームマスターである朱色がイベントの告知をした。このイベントは期間限定のモンスターを倒し、その素材で限定アイテムを手に入れようというもの。
「頑張って」
「メテオドラゴンがこなきゃいいが……」
氷霧と墨炎はオダイリドラゴンとヒナドラゴンを追うプレイヤーを見ながらお花見をしていた。桜の木の下にシートをひいて、重箱をつついている。
肝心のオダイリドラゴン、ヒナドラゴンはつがいのドラゴン。夫婦で行動している。サイズは大きく、プレイヤーよりは大きいらしい。
「さて、行きますか」
「遊人も早く!」
ラディリスに手を引かれて墨炎は目標のドラゴンを探しに行った。入れ代わりにクインがやって来る。
「お疲れ」
「ふぅ。なかなかしんどいね」
シートに座ったクインに氷霧が声をかける。クインからは火薬の臭いが漂っており、かなりの弾数を撃ってきたことが伺える。
「今日はひな祭りだねー」
「そう。毎年兄貴がひな人形を仕舞うの遅くしてる」
「氷霧の兄ちゃん、シスコンレベルは年々上がってるな」
二人はしばらく他愛のない話をした。氷霧には兄がおり、兄は重度のシスコンだ。『ひな人形は早く仕舞わないとお嫁に行けない』という都市伝説を信じており、妹にお嫁に行って欲しくないのか、仕舞うタイミングを遅らせている。
「そういえば、今日はあれだね。両さんの誕生日だね」
「男なのにひな祭り生まれって、おいしい設定」
「そんな漫画みたいな誕生日してる男が他にいるのかなー」
二人の話は日本一有名なお巡りさんの誕生日に及んだ。
東京都某デパート
「誰か悪口を言ったな?」
東京都で漫画みたいな誕生日をしてる男が呟いた。順だ。実際、世界では一日に何千人と生まれているのだから、三月三日に生まれた男もたくさんいるだろう。
順は大体の買い物を終えて、レジに並ぼうとしていた。
今日が誕生日の松永順は、その両さんと誕生日が一緒だ。日本一有名なお巡りさんと誕生日が被り、何かと両さんに食われがちになる。
つまり、順の誕生日は影が薄い。
「兄さん、ひな祭り、両さんのトリプルパンチはないよな……」
順は学会で有名だ。初めて発表した論文が学者に衝撃を与え、名前こそ売れた。だが、どんな勉強熱心な学者でも、有名な論文を書いた学者の誕生日まで知ってるものはいない。
熱地学院大学教授の地位を得ている順でも、誕生日を知人に周知させるのは難しい。
ちなみに順の論文とは、『併用することで抗がん剤の副作用を抑える薬を作った』というものである。今は放射線が引き起こす病気を治す薬を開発している。
順はレジで会計を済ませ、自宅へ向かった。デパートから電車も使わずに済む距離に自宅がある。
「ただいまー」
自宅は高級マンションで、上の方に部屋がある。エレベーターを使って部屋に着くと、扉を開けた。
「え?」
扉を開けると同時にクラッカーが鳴り響いた。玄関でクラッカーを鳴らしたのは手伝いに来てくれてる暴虐女とその相方。暴虐女は一人の男子高校生をふんずけていた。
暴虐女と相方はお揃いの服をそれぞれ白と黒で着ている。男子高校生は制服姿。ある程度抵抗した印に、床にはフェンシングの剣が転がっている。
「あれ? これは?」
部屋の中へ入ると、お祝いの用意がしてあった。順は状況を暴虐女に聞いた。
「お祝いでしてよ。今日は貴方の……」
誕生日、覚えていてくれたか……。と、順は泣きそうになった。しかし、暴虐女の言葉の続きを聞いて態度が一変した。
「初めて論文を発表した記念日でしょ?」
「誕生日に論文なんて発表するんじゃなかったよ! ちくしょー!」
順の叫びが東京都全域に響き渡った。