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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
30/123

16.竜の惑星へ

 ドラゴンプラネット チュートリアル

 ドラゴンプラネット

 一定の条件を満たすと行ける、このゲームのキースポット。通常よりエネミーが手強く、ここでしかお目にかかれないアイテムも多い。

 インフェルノコロニー


 「そうだドラゴンプラネットに行こう」

 「京都に行くみたいに決めるな!」

 プロトタイプの今後をインフェルノコロニーの会議室で椅子に座り話し合っていた俺と氷霧は、装備強化のためドラゴンプラネットへ行くことを決めた。大規模騎士団のサブリーダー様には京都へ行くのとなんら変わらないことかもしれないが、初めて行く俺は緊張するんだぞ。

 「今、いにしえのドラゴンプラネットへ!」

 「奈良っぽくしてもダメだ!」

 横からラディリス、エディが入ってる。エディにとっては奈良に行くのと変わらなくても、初見の俺は下見程度の準備がいるんだ。服装は今着てる、いつもの革ベストにワンピースでいいよな?

 「行ってきたら? あたしはまだレジーヌのメンテと新装備の開発があるし」

 「あいつらの惑星は、行きたくないな」

 クインとプロトタイプはドラゴンプラネット行きを断った。プロトタイプはドラゴンにトラウマがあるし、クインはレジーヌをいじるのに夢中だ。クインがレジーヌに挑み続けたのも、彼女を仲間にするためだからだ。NPCはたまに、仲間にできるらしい。

 夢が叶ったクインはしばらくレジーヌにべったりだろう。だが、俺達のパーティーにレジーヌという新戦力が加入したことは喜ばしい。

 「はいはい、ではドラゴンプラネットで役立つアイテムをご紹介しますよー」

 そんな中、朱色が新幹線の車内販売のカートを運んできた。カートには大量のアイテムがあった。

 「はい、医療用ホッチキス。手足がとれた時にどうぞ」

 「いらねぇ! 手足とれるって、そういうゲームでした?」

 朱色の持つ、デカイホッチキスをまじまじと見つめて俺は叫んだ。足が部位破壊されたことはあるけど、さすがにとれたことはない。

 「じゃ、ドラゴンプラネットに行くにはインフェルノコロニーのシャトル乗り場でシャトルに乗ってね。あとは開拓局の役員に聞いて」

 「丸投げかよ……」

 朱色はすべてを丸投げにして消えた。アイテムを入れたカートはそのまま、ショップの機能をはたしている。カートの目の前にメニュー画面みたいなスクリーンが現れ、買物ができるようになっている。

 「仕方ない、医療用ホッチキス買いだめしとくか」

 万が一手足がとれてもいいように、5個くらい買っておこう。

 「では行くか。ラディリスと氷霧をパーティーに入れて、と」

 俺と氷霧、エディは互いをパーティーに入れる。これで俺の索敵スキルに仲間として表示されたりする。同じクエストを受けるにもパーティーに入れる必要がある。

 氷霧は後ろから俺を抱きしめ、エディを牽制するように見つめる。氷霧は俺を、恋人とパートナーは別にしろと言わんばかりにきつく抱きしめる。

 「墨炎のパートナーは私だから。宇宙の果てでも」

 「了解。私は元々流れプレイヤーだし、誰がパーティーにいてもやれるよ」

 氷霧の言葉に対してエディはサラリと流す。流れプレイヤーという言葉は夏恋からDPOのログインアプリを貰った時に、DPOについて調査して見かけたことがある。流れプレイヤーというのはクエストに行く際、その場のプレイヤーマンションでソロプレイヤーやメンバーに空きのあるパーティーに入れてもらい、即席パーティーを組むプレイヤーのことだ。

 見ず知らずの人とパーティーを組むには、人一倍のコミュニティー性と足を引っ張らない程度の強さが必要だ。流れプレイヤーは人との出会いを求めるから、特定の人間とパーティーを組むことは珍しい。

 しかしこれは頼もしい。流れプレイヤーをできるということは、エディはそこそこ強いに違いない。

 「じゃ、行くか」

 俺は氷霧とエディを連れて、コロニーのシャトル乗り場に向かった。コロニーには廊下の概念はなく、トランスポーターで部屋を飛ぶ。シャトル乗り場にはあっという間に着いた。

 シャトルに乗り込む。他の惑星間移動に使うものより小さく、5人が乗れるだけのサイズだ。前者をバスだとすると、こっちは自家用車だ。座席は三人座れるやつが二列ある。

 シャトルがキャノピーを開いたので座席に座る。

 「飛ぶぞ」

 俺が真ん中に座り、右にエディで左に氷霧。シャトルはキャノピーを閉じ、一気に加速する。

 キャノピーの外はコロニーの壁から宇宙空間に変わる。ドラゴンプラネットの巨大な姿がシャトルの下に見えた。シャトルは高度を落として、ドラゴンプラネットに近づく。

 大気圏に突入したのか、周りが赤く染まる。それはすぐに収まり、ドラゴンプラネットの原始的な風景が見えた。シャトルは空港らしき場所に降り立つ。ここが開拓局か。

 開拓局に降り立った俺達は、まず受付に行った。受付のNPCから言われたのは、ドラゴンプラネットでの特殊なルール。

 普通のクエストなら、パーティーメンバーが全員戦闘不能になったら強制送還だ。しかし、ドラゴンプラネットではそれがない。代わりに、戦闘不能になった回数がカウントされる。

 戦闘不能になったら30秒ほどで復活する。滞在時間に対する戦闘不能回数が少なければ少ないだけ、ボーナスがもらえる。

 『滞在時間に対する戦闘不能回数』というのは例えば、ドラゴンプラネットに1時間いて2回戦闘不能になるのと、2時間いて4回戦闘不能になるのでは同じだということ。逆に、2時間いて2回しか戦闘不能にならなかったら4回戦闘不能になった時よりもボーナスは弾む。

 「ようするに同じ時間ドラゴンプラネットに滞在する他のプレイヤーよりボーナスをたくさん貰いたければ、死ぬ回数を減らせということか」

 「滞在時間が伸びればボーナスも豪華になる」

 氷霧はプレイヤーの先輩らしく、俺の解説に付け加える。エディは勿論知っているかな。

 開拓局を出れば、理科の教科書でしか見れないような原始的な草原が広がっていた。巨大なドラゴンが闊歩している。

 「そういえば、ドラゴンって侵略者だよな? ついに形成逆転か?」

 「敵地視察みたいなものね」

 エディが言うには、ドラゴンプラネットを開拓しに俺達侵略される側が来るようになっても、ドラゴンは今だ侵略者らしい。

 「あ、竜煎餅売ってるよ」

 「鹿煎餅か!」

 エディが竜煎餅なるものを見つけた。奈良の鹿煎餅みたいなノリだな。売り場はワゴンに旗を立てただけのもので、NPCが販売している。

 「買ってみたら?」

 「まずは……体験」

 エディと氷霧が俺を焚きつけて竜煎餅を買いに行かせる。正直、小学校の修学旅行に行ったことのない俺には鹿煎餅のノリがよく解らない。テレビでしか見たことない。

 「行ってみるか」

 俺は竜煎餅を売るNPCのワゴンに近寄る。小さいドラゴン、それこそこの前メテオドラゴンに乱入されたクエストで倒したブロッサムドラゴンみたいなのはそこいらにいるのだが、NPCの売る煎餅に手を出す気配はない。

 テレビで見ただけだが、買った瞬間群がってくるんだよなこういうの……。ブロッサムドラゴンみたいな奴は良く見ると赤や黄色の模様で、所謂紅葉を表している。

 つまりコイツは『コウヨウドラゴン』だな。ブロッサムドラゴン討伐任務の前に紅葉地帯を訪れたのだが、コイツらがいた。比較的大人しかったので無視してたが。

 「サイズは同じだな。俺の身長と同じくらい」

 俺はNPCの前に出てるホロスクリーンを操作して、竜煎餅を買う。大抵のアイテムはメニュー画面のアイテムストレージに入れるまで、実体化している。すぐ使いたいアイテムは服や防具のポケットに入れておくのだ。

 「そら来た!」

 購入された竜煎餅に反応して、コウヨウドラゴンが俺に向かってくる。好戦的でないドラゴンまで好戦的にする、厄介なアイテムだな。

 土の中からモグラみたいなドラゴンも出てきた。しかも、コウヨウドラゴンの三倍くらいデカイ。

 「ナン、センス、だなぁ!」

 俺は走った。墨炎は小柄だから歩幅が狭く、すぐ追いつかれる。ここは一旦ストップだ。

 「待て! 竜煎餅やるから見逃せ!」

 竜煎餅は袋に100枚入っている。その内一枚をモグラドラゴンに差し出す。コイツの正式名称を索敵スキルが教えてくれた。『モグラドラゴン』、いやそのまんまかよ!

 「はいはいナンセンスナンセンス」

 モグラドラゴンは俺が右手で差し出した煎餅の臭いを嗅ぐ。そして安心したように口を開け、


 俺の右腕ごと食いちぎった。


 「ギャアアア! なんじゃこりゃあ!」

 右腕は肩と肘の間でちぎられていた。血が吹き出し、服と右足を血で染めた。

 「あーあ、やっちゃった」

 「残念、腕は持っていかれた」

 「何すかこれぇ!」

 エディと氷霧が今更ノンビリ現れた。医療用ホッチキスはこういう時に使うのか。腕が持ってかれたらくっつけられないみたいだけど。

 「あれは置いて使う」

 「迂闊に手渡しはダメよ」

 「先に言ってくれ!」

 氷霧とエディは知ってたのか。何故言わない! あれか? 初心者のミスを楽しんでいるのか?

 「ちくしょう、今度こそ!」

 俺は煎餅を数枚適当にばらまくと、左手で剣を持ってドラゴンを待ち構える。多分、モグラドラゴンみたいな奴をおびき寄せる餌なのだ竜煎餅は。

 「来た来たぁー!」

 早速、土の中からドラゴン登場。ハサミが俺の足元に!

 「あれ?」

 蟹みたいな二つのハサミは右足首と左太ももを挟んだ。ハサミのサイズはそんなに大きくない。ハサミから推測するとこいつのサイズは大型犬くらいだろう。

 土から俺が予想したサイズの甲殻を持ったドラゴンが現れた。そして、ハサミで俺の左太ももをさらに強く挟む。

 「ちょ、待て!」

 ハサミで右足を強く引っ張られたので、俺は転んで尻餅をついてしまう。

 「いっ……?」

 その勢いで、左太ももは切断されてしまった。切断面がさっきより綺麗なので、出血が多い。

 「おい……!」

 ハサミのドラゴンは俺を引き寄せると、腹にハサミを突き立てる。そのまま内臓をむしゃむしゃ食べ始めた。

 「やめろっ、ま……あああっ!」

 内臓を掻き回されるという生まれて初めての体験で、さすがに俺も気を失いかけた。

 しばらくして満腹になったハサミのドラゴンは土に戻った。


 竜の森 入口


 「あー、酷い目にあった……」

 俺は森の入口に生えていたきのみを食べながら言った。ここは竜の森。開拓局からしばらく歩いた場所にある。右腕と左足は1回戦闘不能になって復活したら戻ってきた。

 このきのみは林檎みたいな色をして、林檎みたいな味がした。ようするに林檎だ。

 「ここには、さっきより強いのがいる」

 氷霧はそう呟いて、林檎を俺に渡した。俺もう5個目なんだが……。

 「気を引き締めていかないとね」

 エディもそう言って、林檎を俺に渡す。こいつらに貰うまま林檎を食べ続けているが、これに意味はあるのだろうか。このゲームでは満腹感がないから、いくらでも食べれてしまう。ここでいくら食っても、実際の胃には溜まらないしな。このゲームで拒食症を治した人もいるらしい。

 「さて、ここにはどんなドラゴンがいるのやら……」

 俺達は森に入る。歩いていると森というより富士の樹海に近く、うっかりすると自殺の現場に立ち会いそうだ。そして氷霧とエディはさっきから林檎を俺に渡してくる。もうこれで15個目なんだが。氷霧とエディはスタスタ前へ行ってしまう。

 「なあ、この林檎なんだ?」

 「ドラゴンアップル。ワームドラゴンがたまに卵を生み付ける。卵が生み付けられたものを食べると、腹を裂いてワームドラゴンが出てくる」

 「そんなものを食わせてたのか……!」

 氷霧の説明によると、俺は危険なものを食べてたらしい。確率が低いのか、体に異変はないが。しかし、だんだん二人との距離が離れていくな。歩幅が狭いせいか。

 「まあ、もう1回死んだからいいよね?」

 「良くない。これってさっきよりヤバい死に方するじゃん!」

 エディとそんな会話をしてると、空から轟音が響いた。この轟音、どっかで聞き覚えがあるんだが。氷霧とエディが何故か俺から離れるように走り出した。

 「まさか、あいつぶほぁああ!」

 俺は思い切り落ちてきた隕石に轢かれた。そうだ、この轟音はメテオドラゴンだ。

 俺は気づくと、あの場所にいた。メテオドラゴン専用ステージ。氷霧とエディも降りてきた。幸運にも、俺は戦闘不能にならなかったようだ。

 「来るぞ!」

 メテオドラゴンは早速現れた。俺達の後ろから、溶岩を撒き散らして出現する。

 「ドラゴンプラネットだと、他の惑星よりドラゴンのステータスが上がってる」

 「なるほど。さて、行きます……か?」

 氷霧の掛け声にあわせ、柄を合わせてツインランス状態にした剣を構えた俺だが、お腹が張ってきた。まさか、あれか?

 「あ、卵が孵化する」

 「新しい命の誕生ね!」

 「新しい命の引き換えに俺が死ぬ!」

 そんなノリの会話をしても、メテオドラゴンは容赦無く迫ってくる。エディはメニュー画面で何かをいじってるみたいだ。

 「なら私も、本気を出さないと……」

 エディの姿に異変があった。エディが付けてる鎧が、鉄製のものから光り輝く何かで出来たものに変わった。槍も金色に光っている。鎧はうっすらオレンジ色で、デザインは神々しい。彼女の姿はまるでオーディンに仕える戦女神、ワルキューレだ。

 たしかこのゲーム、フィールドでも装備変更出来たっけ。

 「あれは……、伝説級武具レジェンダリィウエポンのアルマデューラとロンギヌス……!」

 「伝説?」

 氷霧はエディの鎧と槍の正体を知っていた。なにやらめちゃくちゃレアなものらしい。氷霧は俺の言葉に頷いて、説明を始めた。

 「どんなレアアイテムも課金の名の下に金で買える現代、プレイヤーの資金が介入できないDPOに存在する『真のレアアイテム』……。エクスカリバー、ムラマサ、アロンダイト、ガラティーン、そしてアルマデューラにロンギヌス。このドラゴンプラネットに存在するという伝説のアイテム。それを手にした者の一挙手一投足がこのゲームの歴史を作ると言っても過言ではない……」

 「ようするに、凄いんだな」

 氷霧は興奮気味でまくし立てた。こいつがここまで喋るのは珍しいな。

 しかしそんなアイテムをエディが持ってるとはな。エディって実はめちゃくちゃ強いのでは?

 「『天使皇の光翼ウリエルウイング』」

 「伝説の……飛行スキル……!」

 エディはボイスコマンドを呟く。すると、エディの背中から白い翼が生えた。凄いの一言に尽きる。氷霧のテンションも上がりっぱなしだ。

 「なんだ……?」

 そんな中、俺のお腹の調子がアレなことになってきた。ヤバい死ぬ。足に力が入らなくなり、俺は仰向けに倒れた。

 「なんか出て……がふっ!」

 お腹を食い破って出てきたのは、ワームドラゴンの幼虫。白いウネウネした奴が大量に出てきた。当然俺は戦闘不能。すげえ気持ち悪い。

 「ここは私に任せて!」

 エディは飛んでメテオドラゴンに向かった。メテオドラゴンはエディを追おうと必死で首を動かすが、背中をバカバカ攻撃されて迎撃もままならない。

 「ワームドラゴンの幼虫はしばらくするとワームドラゴンになる」

 氷霧は俺の体にポリタンクのガソリンをかける。ガソリンは気化してヒンヤリするな。顔にかけるなガソリン臭い。

 へぇ、ガソリンでワームドラゴンを……まさか……!

 「火葬」

 予想通りというべきか、氷霧は戦闘不能の俺にマッチで火を付けた。痛みもなくこんがり焼かれる感覚はかなり新鮮だ。

 「『不死鳥翼ザ・フェニックス』!」

 エディは早くもメテオドラゴンにトドメを刺した。槍の尖端に火の鳥が現れ、エディが槍を振ると鳥はメテオドラゴンに飛んでいった。

 メテオドラゴンは業火に焼かれ、断末魔をあげた。俺達が戦った時より早くないか?

 「多分、メテオドラゴンの弱点である斬撃系で絶え間無く攻撃したから。メテオドラゴンは性質上、攻撃の機会が限られる。ラディリスはそれを無視できる」

 氷霧は俺の言いたいことを察してくれたのか、予想を言った。エディは空を飛べるから、メテオドラゴンに近づける。

 「メテオドラゴンはエディのかませ犬になったのか……」

 以前戦ったことある相手が比較の対象になってくれて、エディの強さがハッキリわかる。

 「チッ……、先越されたか!」

 メテオドラゴンが倒れると同時に、何者かがステージ側面の土手みたいな場所を滑り降りてきた。コテコテの初期装備、円卓の騎士団だ。数十人のグループで現れた。

 「そしてお前は変態田中丸!」

 「違う、疾風迅雷田中丸だ!」

 「なんか増えてるし!」

 先頭を切ってるリーダー格の赤毛フェンサーは、あの山田田中丸。なんか恥ずかしい自称もパワーアップしてる。

 「俺達はマルートとハルートに負けるわけにいかないんだ! せめてメテオなんちゃらの素材を戴くぜ!」

 「肝心なとこなんちゃらかよ!」

 田中丸はメテオドラゴンの死骸に走る。メテオドラゴンは俺達の後ろにある。どうする? 俺も戦闘不能から復活したし、変態と一戦交えるか?

 変態田中丸は集団から突出しており、他は土手で転んだりしてる。土手くらいスッと降りてこいよ!

 「【リベレイション=ハーツ】」

 エディは槍を掲げて、ボイスコマンドを唱えた。すると上空からミニ太陽が落ちてきた。ミニとは言え、円卓の騎士団を殲滅するには充分なサイズだ。

 田中丸を除いた円卓の騎士団は武器を抜く間も与えられず、殲滅された。あれ? デュエル開始前ですよね?

 「言い忘れたけど、ドラゴンプラネットにいる間は大したペナルティーはないけどPKプレイヤーキルありだから」

 エディは田中丸にそう言い放つ。田中丸は慌てて剣を抜いたが、お腹の調子が悪そうだ。

 「なんじゃこりゃあああ!」

 田中丸の腹を食い破って現れたのはワームドラゴン。こいつ、ドラゴンアップルをたくさん食べたな……。結果的に円卓の騎士団は全滅した。

 「あっという間だな。かませ犬その2か……。これでシードラゴンとかプロトタイプとか出てくればエディの強さが際立つのに……」

 「かませ犬……、それは男の宿命なのよ!」

 俺の呟きを遮って、誰かが叫んだ。馬鹿の多い日だな今日は。

 土手を綺麗に滑り降りてきたのは白いゴスロリ衣装に派手なピンクの髪を伸ばした女性アバター。そいつは田中丸を一度足蹴にしてから、こちらへ来る。

 コイツも円卓の騎士団に違いない。ここまでゴスロリ衣装以外ろくな装備無しで来れるのだから。チートを使わないと無理だ。

 「あ、マルート」

 「ふっ、田中丸はかませで終わったのね。同じ幹部として恥ずかしい。よろしいですか? 男性は女性を立てるためにある、いわば踏み台。これが当然ですわ」

 田中丸がマルートと呼んだゴスロリは尊大に語り出す。なにやらマルートは女尊男卑の塊みたいな発言をしている。男女共同参画社会が提唱されて以来、こういう奴が増えてると姉ちゃんが愚痴ってたな。都合のいい時だけか弱い女を演じるのだそうだ。

 「おいこの女尊男卑女! アバターが女で中身が男の俺はどうなんだ?」

 「男というのは……、女の皮を被ってまで宿命から逃れたいのですか? 中には我らがリーダー、ライアンみたいな優秀な男もいますが、大半は貴方のような無能ばかり……。それを率いるわたくしやハルートの苦労も理解せず」

 今ので大体の組織構造が理解できた。ペラペラとよく組織の秘密を漏らすよな……。エディや氷霧、クインなど、コイツと同じ女とは思えないくらい優秀だな。

 「わかった。円卓の騎士団のリーダーはライアンという男性プレイヤー。幹部にはお前にハルートって奴、田中丸がいるんだろ?」

 「何故私達の組織の構造を……? リーダーや幹部全員の名前まで?」

 マルートは驚愕の表情で俺を見た。俺はお前の発言を統括しただけなんだが。もしかしてコイツも馬鹿なのか?

 「幹部は三人なんだな」

 「何故男ごときが幹部の人数までわかった……!」

 「いやお前馬鹿かよ」

 マルートはやはり馬鹿だった。マルート、ハルート、田中丸と名前を羅列されて、『全員の名前』などと答えれば人数も同時に漏れる。

 「口では負け……てないけど、これはゲームですわ。ゲームのルールに乗っ取って決着を……なああぁぁああっ?」

 「『リベレイション=ハーツ』!」

 エディの本日2発目となるリベハでマルートは台詞の途中で吹き飛ばされた。これで幹部は残り一人か。

 「しかし、エディのリベハは即死効果付きか……」

 「現在、即死効果を防ぐ手立ては当たらないことくらい」

 氷霧が言うに、即死効果はチートでも防げない特殊なものらしい。だからあの時、チート野郎にもクリティカルダウンを狙えたのか。チートするくらいなら即死効果くらい対策するはずだからな。

 エディは頼もしいな。fみたいな強いプレイヤーもいるし、DPOプレイヤー全員で戦えばチートに勝てるんじゃね?

 俺は少し、このドラゴンプラネット探索で希望が見えた気がした。実は今の戦いで秘密兵器も得たんだ。

 俺はそいつを試す時を楽しみにした。

 次回予告

 私は真田理架。直江先輩は中学時代の先輩です。

 何やら長篠高校でもうすぐテストのようです。直江先輩も彼女が出来て、一緒に勉強するみたいです。爆発すればいいのに。

 次回、ドラゴンプラネット。『学生の業』。赤点だけは回避して下さいね?

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