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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
27/123

視界ジャック5 舞台裏

 愛知県警 司法解剖室


 「最近、遊人にも感情が戻り始めたみたいだ」

 「それはよかったわね」

 愛花は癒野に遊人の近況を報告する。一応臨床心理師である癒野は遊人の担当医になっている。これで解剖医も勤める癒野はかなりマルチな人間といえよう。

 解剖室には解剖すべき遺体はないが、そんな時は癒野と愛花がたむろするスペースと化す。

 「遊人君って、感情がないせいか心身相関も起きないのね」

 「みたいだな。あいつが緊張したとか言ってるとこ、見たことないし」

 癒野の言葉に愛花も同意した。今愛花達がいるのは解剖室でもデータを処理するスペースであり、会議室みたいな机とホワイトボードが存在する。

 「そうだ。あることを思い出したのよね。凍空さんのことで」

 「凍空だぁ?」

 癒野が思い出したように愛花にいう。癒野は血の入った小さな瓶を白衣から取り出した。

 「この前死んだ凍空コンツェルンの会長、凍空寒気氏の遺体から採取した血液に毒物反応があったんだけど……、報道じゃ病死扱いみたいね」

 「らしいな……」

 癒野の言葉に愛花は疑問を感じた。凍空会長はつい先月死亡し、警察発表では毒殺だったのにかかわらず病死と報道された。遊人はニュースを見ないせいか知らないだろうが、愛花は職場で話を聞いたのだ。

 「これまたとんでもない偏向報道だな……」

 「私と熱地学院大学の切り札、松永順が調査したから毒殺で間違いないはずだけど、結果は熱地に改ざんされたみたいね」

 愛花は首を捻った。松永は司法に関わる家系と記憶してたので、なんで日本科学の中心熱地学院大学にいるのかわからなかったのだ。

 「つか、松永って順の野郎のことじゃなかった? なんで司法の家系の人間が科学専門の学校にいるんだ?」

 「うん。確かに松永家は司法を司る家系よ。でも順は科学向きのイレギュラー。もしかして表五家の話を知らない?」

 「知りません……」

 松永で表五家のことを思い出したため、愛花は薮蛇となってしまった。表五家の話は愛花としては何処かで聞いてこそあれ、完全に右の耳から左の耳だった。そのため遊人にも教えてないことだ。遊人は順を追う家庭で知識を得ていたが。

 癒野はホワイトボードまで歩き、説明を始めた。

 「表五家ね。これはベタベタに癒着して互いを守る仕組みで、日本の癌と呼ばれてるわ」

 癒野はホワイトボードに名前を書いていく。まず、『渦海』と書いた。

 「政界を牛耳る渦海」

 次に凍空、熱地と名前がちょうど線を結ぶと三角形になる位置に書く。

 「経済界を支配する凍空に学会を統制する熱地。まず、渦海が凍空や熱地に有利な法案を可決させ、凍空は組織票を、熱地は原発とかインフルとか関係で渦海に都合のいい科学的調査結果をそれぞれ与える。で、凍空の商品の性能テストや安全保障も熱地がやる、と」

 「なるほど。でもそれじゃ、裁判所に法案止められないか? 三権分立とかいうし」

 愛花の言葉を受けた癒野は、渦海の近くに松永と書く。

 「ここまでは明治以降に生まれたシステム。松永の加入は戦後よ。法案を違憲にならないように松永が仕向け、凍空や熱地関係の訴訟も松永が担当するようになった。最高裁判官の家系で、国会も渦海が支配してるから弾劾裁判も行われない」

 「三権分立はいずこ……」

 愛花は頭を抱えた。こんなシステムが存在しては、三権分立なんて機能しない。癒野はそれらを丸で囲み、その外に宵越と書いた。

 「同じく戦後に追加された宵越。これはそれぞれに不利な報道をしないように宵越が記者クラブを操り、資金などを得ている。宵越に関しては愛ちゃんも詳しいでしょ?」

 「まさかここまでゴミとは知らなんだ」

 「渦海、熱地、凍空、松永、宵越。この五つが表五家」

 愛花は説明を聞いて妙に納得した風だった。刑事だけあり、理解力はあるようだ。

 「それと、遊人くんが感情を取り戻したのはDPOのおかげみたいね。あれはアバターを操るために送信してるプレイヤーの脳波が、他のプレイヤーに脳波を通じて影響を及ぼすらしいの」

 「へぇ。遊人はもう少しで、感情取られる寸前だったけどね。しっかしプロトタイプってNPC、遊人が昔感情を擬人化した絵にいた奴に似てたな」

 愛花は出口へ歩く。今はとりあえず、切り裂き魔を追い詰めるカードを集めることにしたのだ。


 東京都 宵越テレビ ロビー


 宵越テレビは巨大なテレビ局だ。球体みたいな奇妙なものを引っ付けた本社ビルはお台場にある。

 「ふー。仕事終わりっと」

 その玄関口たるロビーで、携帯をいじりながら一人の少女が伸びをする。アイドルらしく、顔立ちは整っている。サイバーガールズメンバー、木島ユナだ。両隣には同年代の少女二人がいる

 「これからどうする? 晩御飯食べに行く?」

 ユナともう一人に声をかけたのは右にいた紫野縁ゆかりのゆかり

 アイドルオタクなら外見で三人がそれぞれ誰なのか見分けがつくが、一般人には全員同じにしか見えない。大人数アイドルグループなら仕方ないことだが、本人は気にしてるらしく少しでもメンバーとの差別化を謀ろうと、縁は髪を紫に染めている。

 「いや、私は少しレッスン室で練習していく。コンサートも近いのでな」

 左にいた河岸瑠璃は縁の誘いを断った。瑠璃は全身に浮世離れした空気を纏うリーダーだ。努力家なのか、あまりメンバーの誘いに乗らず練習ばかりしている。

 正直、ユナも縁も瑠璃がロケ以外で宵越テレビを離れた瞬間を見たことがない。

 「今日もリーダーは努力家ですねっと、ツイッター更新」

 ユナは携帯でツイッターを更新していた。歌もダンスも、他のメンバーよりセンスがないから他でカバーしようという策略だ。センスがないなら瑠璃みたいに練習すればいいだけで、努力のポイントを間違えてる気がするが。そんな単純じゃないのがアイドルなのかもしれない。

 「じゃあリーダー、練習ガンバ! 頑張り過ぎて倒れないでね!」

 「うわっ、ツイッターのフォロワー増えてる!」

 「お前らも気をつけろよ」

 瑠璃はテレビ局を後にするユナと縁を見送った。姿が見えなくなると、もう一度呟く。

 「本当に、気をつけろよ」

 口調こそ心配そうだが、目はまるで獲物を見据えた猛禽類のようだった。


 愛知県岡崎市 エディのマンション


 遊人はここを訪れる際、緊張で周りが見えてなかった。そのため、エディがどんなマンションに住んでるかなんて見れてないかもしれない。エディの住むマンションの外観を意識出来たのは、その帰りだった。

 外観といっても一般的なものなので意識する意味はない。遊人のマンションの近くにあるということだけは留意すべきだが。

 「遊人……」

 エディは部屋の風呂場でシャワーを浴びてた。ユニットバスじゃないところが、エディとしては高評価だった。

 エディは確かに日本に来たばかりだが、外国にいた頃も幼なじみの順に影響されてかシャワーだけで済まさず、ちゃんと湯舟に入る習慣があった。

 日本語が上手いのも、順との会話は幼い頃から日本語で行っていたためである。所謂、バイリンガルというものだ。

 「なんで、双子なのに……」

 エディはシャワーを止めて呟く。風呂場には湯気が充満している。エディの肌は水を弾いていた。

 エディは順の紹介で長篠高校に転校した。遊人のことは、「順の双子の兄」くらいには聞いていた。しかし、エディが遊人から受けた印象は予想外のものだった。

 普段から順のだらけた、どこか抜けた様子を眺めていた彼女だからこそ、だ。順によく似た男性がしっかりと、キッチリとしていた。それだけでエディは好感を持った。

 初対面の時は様子を見るため、エディは遊人と知って道案内を頼んだのだ。しかし、その様子見でエディは遊人に恋してしまった。

 順と真逆にビシッとした雰囲気。能天気などカケラも感じない憂いを含んだ空気。何より、丁寧に道案内をしてくれる彼の人柄に惚れたのだ。

 エディとしては、まさか幼なじみの兄が初恋の相手となるとは思わなかった。だからこそ、少し気恥ずかしいけど積極的に遊人とスキンシップをとったのだ。幼なじみに顔が似てたおかげで、積極的になれたのだ。

 これがまったく顔を初めて見る様な相手なら、そうはいかない。

 「なんで好きになっちゃうのかな……?」

 エディは湯舟に身体を沈めた。遊人に抱かれた身体を自分で抱くと、ほんのり暖かさが残ってるような錯覚に陥る。

 遊人はまるで自分に足りない何かを欲するような感じで抱いた。それが初めて遊人の腕に抱かれた感想だった。

 エディは、遊人を炎だと感じた。順のように好奇心のまま弾ける火薬とは違う。ゆったり燃える炎だ。

 抱かれた時に感じた眠気は、安心感から来たものだとエディは思った。獣を寄せつけない炎。冷えた身体を暖めてくれる炎。だけど、近づき過ぎると火傷してしまう炎。

 エディは湯舟から上がり、風呂場を出る。バスタオルで身体を拭くと、さっさとパジャマに着替える。濡れた髪はドライヤーで乾かす気も起きなかった。

 「そっかぁ……。私、ヤケドしたのね」

 ベッドに倒れ込んだエディは、天井を見上げて呟いた。その呟きは、誰の耳にも届かない。

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