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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
22/123

13.円卓の騎士団

 DPO ネクロフィアダークネス戦闘フィールド 【亡霊のショッピングセンター】


 「そういえば、もうすぐ衣更えだな」

 「そうだな」

 俺の隣で友人のアバターが呟いた。俺は適当に相槌を打つ。

 俺は体育祭の終わった後、すぐにDPOにログインしてプレイヤーマンションでレイに会った。そんですぐに戦闘フィールドに連れ出された。

 同じ漫画研究部員のレイのアバターはいわゆる男の娘キャラで、金髪に白い装備をしてる双剣使いだ。双剣って、俺とキャラ被るんですけど。

 氷霧とクインが風邪で寝込んでいるそうなので、一つクエストを終えたら帰るつもりだった。だが、クエストクリア後にレイの中学時代の友達に捕まり、戦闘フィールドを徘徊しようかということになった。

 「君、女の子なの?」

 「それとも今話題の男の娘って奴か?」

 「ご想像にお任せします……」

 友達は男女の片手剣使いでペアを組んでドラゴン狩りをしていたようだ。いきなり俺のアバターにツッコミ入れてきた。

 レイは俺のリアルを知ってるから、俺の性別も当然知ってる。今にぶっちゃけるぞ、コイツ。

 「コイツは男だ」

 ほらぶっちゃけた。俺が言う前に言うなよ。

 「え、マジで? じゃ、男の娘?」

 「でも、アバターカードの性別は女だよ?」

 くそ、インフェルノめ。苦情言ってやる。と昔なら言ったかも知れないが、プロトタイプとの戦いを経てそんな気持ちは無くなった。今はこの墨炎に愛着がある。

 「そう、皆さんお察しの通りです。私、墨炎は恐怖の性別逆転事故の被害者です」

 俺は冗談めかして言う。友達の反応が戸惑いから納得に変わる。なんか俺は釈然としない。なんで納得すんだよ。

 「なんだ。もったいないからそのままにしとけよ」

 「もうここまで来たら、変える気起きねぇよ」

 レイまで夏恋みたいにもったいないとか言い出す始末。このアバターがかわいいのは確かだが。変える気なんかもう無いがな。

 「そうだ。お前ら全感覚投入反対組合って知ってるか?」

 「おお、知ってる。うちの中学は参加したみてーだな」

 男の方の友達、ツンツン髪のアバターの名前はギンというらしい、が全感覚投入反対組合のことを持ちだした。レイの中学は参加したのか。そりゃ、残念だろうぜ。

 「墨炎ちゃんのとこは? やっぱ参加?」

 「いや、それはないな」

 メイという女の方のアバターが長髪をなびかせながら聞いてきた。冒険漫画の主人公みたいなギンとヒロインみたいなメイのペアはピッタリだと思う。

 「えっ? なんで?」

 「いや、うちの中学の生徒会長の理架は俺の後輩だし、なんとなくしない気がする」

 「後輩のこと、信じてるのね」

 まあ、理架は大人に反発するキャラじゃないし、かと言って従属するキャラでもないし、論理的に考えられる奴だから今回は静観にまわるかな? 理架が会長だとなんか安心できるよな。

 「いいよなー、そんな後輩いて。うちの中学なんかOBとして情けない……」

 ギンが呟いている間にも、エネミーはどんどん現れる。ネクロフィアダークネスはそういう星なのだ。ただ、一体が弱いため苦戦はせず、ただただ一騎当千の爽快感だけが残る。

 現れるのは人型の影、シャドウが大半、たまに牛のようなエネミー、ミノタウスルみたいな中型がいるが、苦戦はしないな。

 全感覚投入反対組合、こいつはどうやら、馬鹿な集団の集まりらしい。俺はログイン前、DPOについて調べてる最中に情報を見つけたのだ。随分前に調べたことだが、なにげに覚えてる。

 新たな技術に怯える愚かな大人と、それに媚びて高い成績を得ようとしてる餓鬼の集団。中にはそう批判する意見もあった。学校によっては全感覚投入反対組合のノーモアフルダイブ運動に参加すると成績をおまけされるとこもあるらしい。阿呆らしい。ていうか、校外活動を成績に入れていいのかよ……。いや、クラブ活動としてやらせてるのか?

 「ん? なんだ?」

 俺の思考を打ち破るように、けたたましくサイレンが鳴った。

 ちょうど電気屋にいた俺達はテレビの画面が変化してることに気付く。なにやら、剣と盾をかたどったエンブレムが表示されている。イベントか?

 『愚かなプレイヤー諸君に告げる。これはイベントではない。繰り返す、これはイベントではない』

 「イベントじゃない……?」

 いよいよなんかゲームオーバー=死、的なイベントが始まったか! 俺は確信した。感情取られたりする時点で高性能なだけのゲームじゃないのは薄々感じていたが。

 『我々は全感覚投入反対組合。名前こそ安っぽいが、愚か者共に組織の目的を伝えるには、このくらい安っぽい方が解りやすくてちょうどいいだろう』

 放送の声は、アニメの悪役じみてることから恐らくボイスエフェクトと予想される。男の声だ。そして、全感覚投入反対組合を名乗った。噂をすればなんとやらだ。

 念のため、メニュー画面を開きログアウトボタンの存在を確認する。ログアウトボタンはある。この放送の後、このDPOがベターな例としてログアウト不能のデスゲームと化す恐れがあるんじゃないかと予想したからだ。まあ、ログアウトボタンがあって安心したが。

 『言っておくが、この【ドラゴンプラネットオンライン】というくだらないゲームがログアウト不能のデスゲームになることはない。期待してる連中がいるといけないのでな』

 同じこと考えてやがった。こいつ以外とその手のネタに詳しいな。

 『我々は、フルダイブ技術の危険は人体に与える影響だけでないと考える。つまり、社会的な影響だ』

 放送はまだ続く。一応聞いてやろう。

 『このくだらないゲームは、社会的な危険をはらんでいる。それは今まで部屋にこもってたゲーマーが社会に出ることだ。言葉だけ聞けば聞こえはよいが、考えもみたまえ。こんなまやかしの世界で身につけた根拠なき自信、そんなものを持ってゲーマーが社会に出たらどうなる? ゲームに熱中するようなカスがゴミクズも同然の自信を持って社会の歯車、その一員となる。これ程恐ろしいことはない』

 俺は周りのレイ達を見た。黙ってはいるが、心の中では憤っているのだろう。冷静に聞くと、かなり理論の破綻がある。まあ、こんなトンデモ科学なんてそんなもんだろ。

 『そこで我々はカス共に宣言する! 貴様達は要らぬ歯車、社会の表舞台から消えるべき存在であると。そして我々は、敢えて貴様達と同じ土俵、【ドラゴンプラネットオンライン】で貴様達を叩きのめす!』

 「やれるもんならやってみろ!」

 レイが叫んでいた。さすがに耐え兼ねたのだろうか、当然だ。

 すると、テレビ画面の右下に窓が切り抜かれ、俺達を遠くから映した映像が映る。

 『いま、自ら第一の敗北者となると宣言したものがいた』

 周りには、初期装備のアバターが三人ほどこちらを見ていた。

 服には画面と同じエンブレム、仲間らしい。

 『さて、君達が最初の犠牲者だ。ご愁傷様』

 「その台詞、そっくりそっちに返すぜ。お前らが最初の犠牲者だ。ご愁傷様ってね」

 なんかノッてきたぜ。面白い、ゲームで俺に勝てると思うなよ! 全感覚投入反対の組織、円卓の騎士団か。俺のゲーマー人生の最後を彩るには相応しい。

 このゲームを、新しいゲームの未来を守ることに俺の命を使おう! 地獄へ道連れだ!

 「【円卓の騎士団】、これより攻略活動への制裁を行う」

 敵と思わしきプレイヤーがカッコつけた。

 俺達はそんなカッコつけを格好悪くしてやるために、剣を抜いた。

 二人の敵プレイヤーが初期装備の片手剣を振り上げて走る。上段の大振り、スキだらけだ。俺も初めはあんな感じだったが、数々の修羅場を抜けて全感覚投入ゲームにも慣れてきた。あいつら初心者か。

 だが放送の、あの根拠のない自信はどこからきたんだ? 強いプレイヤーを有しているのかと思ったが、そんな強いプレイヤーならこんな思想に賛同しないだろうし。

 なぜならオンラインゲームの列強プレイヤーは、ただゲームで勝ち、名声を得ることを目的に努力してると聞くし。そのゲームを潰しては意味ないよな。

 ギンとメイが懐に潜り込む。彼らの装備と比べると、敵プレイヤーの装備はお粗末だ。コテコテの初期装備か。

 「「【ライジングストライク】!」」

 二人の声が重なり、技を発動する。このゲームで技を出すには、ボイスコマンドによる発生が必要だ。ライジングストライクはライジングスラッシュに並んで基本的な片手剣術だ。復習がてら、確認していこうか。

 技を使うには四つ存在するスキルスロットのうち一つに武器に対応した『片手剣術』や『槍術』みたいなスキルを入れる必要がある。

 そのスキルを育てれば新しい技を習得できるのだ。俺のスキルは片手剣で技を使える『片手剣術』、二刀流の技を使える『双剣術』、エネミーの位置を把握する『索敵』、剣を構えたまま俊敏に動き回るのをシステムがサポートする『ステップ』だ。

 やはりというべきか、青いエフェクトを纏った剣は敵プレイヤーに当たった。敵プレイヤーは情けなく吹き飛び、どっかへ消えた。

 「あれ? あいつら、デュエルの申し込みしたか?」

 「へ? ああ、このゲーム、そういうルールか」

 レイの言う通り、DPOで他のプレイヤーと対戦、デュエルする時には、デュエルを相手に申し込まなければならない。デュエルは双方の同意で行われる。デュエルの申し込みはなかったはずだが?

 ふと見ると、俺とレイの近くに、それぞれ青いウインドウが開いている。ギンとメイの近くにも同じウインドウがある。

 「強制デュエルコード? なんだこれ?」

 「お答えしよう、愚かなプレイヤー諸君。それは我々が攻略活動への制裁を行うために我がリーダーが作り上げた特別なプログラムだ」

 「チートか!」

 俺の疑問に答えたのは、『円卓の騎士団』の一人、攻撃されなかった奴だ。吹き飛ばされた二人も、ほとんどHPの減ってない状態で戻ってきた。

 「お前ら、まさかチートを!」

 レイも答えに気付いた。やはり、チートか。

 チートとは、プログラムを書き換えてプレイヤーを桁違いに強化したりすることだ。オンラインゲームでもチートをやる奴はいるって聞いてはいた。そういえば、ナイトとかがチートの噂をしてたな。犯人はこいつらか。ていうか、もしかして氷霧が探してたチート使用者ってのはコイツら?

 「まさか、このDPOで。かなり前からサービスが開始されてたヨーロッパのプレイヤーすら成功した例はないのに……」

 俺はかなり、DPOについて調べた。その中でも、チート使用を試みた例はあるようだが、成功例はゼロ。ゲームマスターの朱色がそう言っていた。

 そもそも、全感覚投入という未知の領域を素人がいじったら危険なのではという考えが先立ち、今やチートを試みるプレイヤーはいないほどだ。

 「制裁を続行する」

 ギンとメイが敵の凶刃に倒れる。やはりチートの効果で一撃だ。

 「くそ、どうすれば……」

 「普通のゲームならチートにも負けはしねぇが、DPOは俺が慣れてない分、歩が悪い。せめて、氷霧とクインがいてくれたらな」

 とにかく避けろ、俺はレイに言った。ダメージを受けなければ負けはしない。

 「久々だな、ゲームでヤバいと思ったの。いや、プロトタイプがいたからさほどか」

 「墨炎は左、オレは右に行く!」

 レイと別れ、逃げることだけを考える。レイの姿が見えなくなったあたりでウインドウのマップメニューを開いたが、既にロンドンは倒されていた。

 「ふふ、ふ……」

 プロトタイプ以上にヤバい状態に、自然と口から笑みがこぼれる。あっちはクリアを前提としたイベントで、こっちはバランスブレイカーのチート。ヤバいの性質が違い過ぎる。

 「どうしたクズ! 危険に追いやられておかしくなったか!」

 「あははははは、ははははは!」

 「らちがあかん。そいつをやるぞ」

 「面白い……。ここまで理不尽な難易度は始めてだ。そうだ、これぞやりたかった!」

 何故かヤバいのにテンションがハイになる俺は、脇目もふらず逃げながら攻略法を探った。


   @


 「さてどうしたものか……」

 俺はショッピングセンターの倉庫に隠れ、座り込んだ。

 最後の回復薬の瓶を開け、飲み干した。敵は『あいつはみせしめだ! すぐに殺すな!』とか言ってたし、チートの使用を攻撃面ではやめてるみたいだ。

 相手が剣ならダメージなんか受けないけど、増援が来たのだ。敵に。しかも銃ときたもんだ、やれやれだぜ。マジ泣ける。

 なんでこんな時に限って、氷霧もクインも揃って風邪ひいてんだか……。ログインしたら風邪ひいたって連絡がメールで入っていたが、なんか嫌な予感はしてたんだよね……。

 「いたぞ!」

 「見つかった!」

 早速見つかってしまった。逃げなければ。銃使いの増援は二人、チートさえ無ければ倒せない相手ではない。

 俺に向けて、二人の銃使いが発砲する。手分けするにしても、銃二人が一緒とは。無策にもほどがある。

 今だ防御面のチートは解除されてないに違いない。そもそも、防御面のチート解除は期待出来ない。

 「うくっ……!」

 背中に弾丸が当たる。HPも削れ、痛みがない分、弾丸が背中に埋まる感覚がかなりリアルに伝わる。

 気味の悪い感覚に、かなり思考を掻き乱される。背中に剣を背負ってれば、防げそうだ。腿なんて妙なとこにマウントするんじゃなかったぜ。

 「そこにいたか!」

 「しまった! くあっ……!」

 最初にいた三人の内のリーダー格らしき赤毛が飛び出して、俺の右腿を切り裂いた。

 この男だけ、武器がレイピアだ。なにかこだわりでもあるのだろうか。そう思ってたら、男が口を開いた。

 「プレイヤーの首は、川中島高校のフェンシング部エース、山田田中丸がいただいた!」

 「どんな名前だぁ! そして不覚にも聞いたことがあるし!」

 かなり有名な高校フェンシングの選手だった。名前が個性的過ぎて、覚えていたのだ。なんか高校生新聞とかそんなノリの掲示物で見たな名前。

 「人呼んで、疾風田中丸!」

 「俺呼んで、変態田中丸!」

 「わかってねぇな墨炎! 俺は今シーズン負け無しの無敗田中丸だぜ!」

 「ナンセンスだな!」

 「墨炎が言うか! カラー的にはセンスいいけど!」

 ひとしきり、変態田中丸と口論して逃げた。こんなアホ構ってられるか。

 しかし、足を部位破壊されたせいで上手く走れない。

 デュエルではプレイヤーの体のある場所に攻撃を決めると部位破壊が発生する。

 普段の1対1の【通常デュエル】はもとより、今みたいな【集団戦】ではフィールドが広いため、足など破壊部位によってはかなり効果を望める場合がある。

 今までプロトタイプとあれだけやり合って起きながら、一回も発生しないってくらい珍しいことなんだが、コツを掴めば狙って出せるようだ。

 強制デュエルコードのせいでうやむやになっていたが、デュエルというのは様々なルールが存在する。今行われているのは【集団戦】。パーティー対抗デュエルだ。例え俺以外負けても、俺が残りを倒せば勝てる。ちょうど今日、夏恋達とやったデュエルだ。

 部位破壊の説明に戻るが、プレイヤーが破壊される部位は大きく分けて、手、足、頭、胴の四つだ。ドラゴン等エネミーへの部位破壊も当然可能。

 手は手首から指先を指し、破壊されると武器を持てなくなる。足は腿、脛も含む。破壊されると歩きづらくなる。

 頭は破壊されると視界がぼやけるなど戦闘に重度の障害を残し、胴も能力の低下などを引き起こす。

 破壊の条件は、隠れて設けられてる疲労ゲージが関わるようだ。

 「ひっ、あ……」

 呑気に解説なんてしてるから、相手の銃技【ショットガン】が俺の背中を捕らえてしまった。

 疲労ゲージについてはざっくり説明するが、アバターが戦闘などで蓄積する疲労だ。一つの戦闘でダメージを受けすぎると蓄積しやすい。また、泥や雪など歩きにくい場所をものすごく歩きまわると貯まるとか。

 これが貯まってると部位破壊を起こしやすいのだ。減らすには、リゾート施設を利用するとかしかないな。

 さらに、技で頭、喉、胸を攻撃された時、部位破壊が成立すると『クリティカルダウン』なる一撃死が発生する。

 「ふふ、なぶらせてもらう!」

 田中丸が変態らしいやる気を見せる。今までの悲鳴はわざと女の子っぽくしてたのに。プロトタイプのおかげで、こんな演技も出来るようになった。

 「行き止まり……?」

 逃げ続けたら、いつの間にか行き止まりに来てしまった。俺ピンチ。どうしましょ。HPもレッドゾーン突入で、回復薬もない。マジ詰んだな、これ。

 「とどめだ!」

 やられる……! だが、切り札はある!


 キャット・マジック(猫被り)!


 「や、やめて……」

 俺は墨炎の外見を利用した精神攻撃を開始した。上目遣いで変態田中丸を(ホントは嫌だが)見つめ、自分の体を抱いて縮こまった。俺マジ不本意。

 「ぐっ……、だが、惑わされはしない!」

 一瞬だがスキが出来た。だが田中丸は無慈悲にも、すっかり弱り果てた少女(墨炎)の華奢な身体を不気味にきらめく刃で切り裂いた。

 「く、あぁあ!(演技)」

 身体を切り裂かれる痛み(そんなの無いし)に呻き、少女はその場に力無く座りこんだ。田中丸の人気、現在進行形で大暴落。

 俺のHPは奴のレイピアが初期の弱い武器であったおかげで、そこまで減らない。防具も一回強化したしな、俺。

 「う、あ……。誰か、助け……」

 「助けなんて、こねぇよ!」

 田中丸はなんらかの葛藤を振り払う様に、レイピアの切っ先をか弱い少女の華奢な肢体に向けた。

 なんとか立ち上がり、逃げようとする少女を、レイピアの刃が蹂躙する。

 「ひぁあぁぁっ!(やっぱり演技)」

 少女は肉体を切り裂かれ……。やべ、田中丸を悪役にしたてあげるのに夢中で、表現が卑猥になりだした。俺、深夜のノリ。それだけ精神的に疲れてるみたいだ。

 「うくっ……」

 適当な悲鳴を上げて、地面に倒れる。墨炎は虫の息だ(演技なんだけど)。

 実際、HPゲージも限界だし、そろそろケリをつけたい。

 すでに俺は部位破壊のルールを思い出す過程で、奴らを一撃で倒す方法を思いついた。

 「ひっ……」

 「さて、本当にとどめだ、子猫ちゃん」

 一瞬のスキを見極める。そのために、俺はか弱い少女の皮を被って待ち続けた。

 (スキが見当たらない……?)

 しかし、さすがはフェンシング部のエース。スキがない。

 そろそろピンチだな、俺。

 俺のアバター、墨炎はレイピアの吹き飛ばし技【インパルス】によってか細い身体を吹き飛ばされ、電気屋のテレビに直撃。崩れたテレビに押し潰された。

 電気屋はさっき放送を見ていた場所で、逃げてる間にショッピングセンターを一周したらしい。

 「う……、あっ」

 HPゲージも残り数ドット。本当に限界らしい。近くにはギンとメイが倒れてる。

 こりゃ、もう負けか?

 田中丸がレイピアを持ち上げる。本気でトドメをさすつもりだ。

 「子猫ちゃん、よく頑張った。だから、ゆっくりお休み」

 らしくもない台詞を、田中丸が呟く。マジで気持ち悪い。

 「オレの名前を覚えておくといい。世界で始めて攻略活動に制裁を下した正義の剣士、ジャスティス田中丸だ!」

 諦めかけた矢先、そのジャスティス田中丸とかいうダサい自称が聞こえた。

 その瞬間、俺の思考はスパークした。

 「ナンセンスだな!」

 墨炎の華奢な身体を押し潰す薄型大画面テレビを力付くで跳ね退け、思いっ切り立ち上がった。彩菜みたいな実力者ならともかく、こんなダサい奴に負けたら末代までの恥だ。まあ、俺もうすぐ死ぬから俺が末代なんだが。

 「ギン、メイ、蘇生アイテムだ! クリティカルダウンを狙え!」

 「させるかー!」

 俺は蘇生アイテムの茶色の瓶に入ったドリンクを二つ投げた。しかし、ドリンクは田中丸のレイピアに砕かれる。

 だが、それを待っていた!

 「【シザーネイル】!」

 片手剣の突き技が田中丸の喉に突き刺さる。ドリンクは囮だった。そして狙い通り、クリティカルダウン。

 「嘘だろぉ?」

 田中丸のHPは一瞬で尽きた。まずは一人! 奴らは多分、チートのおかげで疲労度を気に止めてなかったんだ。だから、確実にクリティカルダウンを狙えるはずだ。疲労度はダメージ以外にも地形など、貯まる要因があると聞いた。

 「【スワローテイル】!」

 片手剣の遠隔技。両手の剣から青いエフェクトが帯の様に伸びる。

 「ぐあ!」

 「馬鹿な!」

 後ろで待機していた銃使いに【スワローテイル】が直撃。喉に運よく当たり【クリティカルダウン】。本当は連発する予定だったがな。運に頼る戦法は好きじゃない。

 俺はまだ片手剣術のスキルが育ってないから、遠隔系は【スワローテイル】程度しか技が使えないが、それでも3人のチートプレイヤーを撃破した。

 ここまで三連続で【クリティカルダウン】を発生させられたのは僥倖だ。運がいい

 しかし、残り二人もいるのはきついな。

 残り二人がメニュー画面を操作して、切り掛かる。チートを入力したらしい、おしまいかな? 切られる寸前、そう思ったが、

 「まったく、お嬢さん一人に野郎複数とは随分な外道だな、円卓の騎士団」

 何処からか声が聞こえ、チートプレイヤーが切り裂かれた。

 「妹に風邪で来られないからって頼まれてな。ちゃっちゃと片付けて少しでも妹の側にいてやりたいから」

 俺の目の前に、スーツで長身の男性アバターが、長い太刀を携えていた。髪は多少パーマがかかってるみたいだ。天然パーマか?

 あれで居合斬りしたのか、チートプレイヤーはクリティカルダウンした。エフェクトの残像を見ると、喉が何十回も攻撃されていた。あんだけやりゃ嫌でもクリティカルが出る。黒く光る刀身は着実に相手の命を刈り取っている。

 男はチートプレイヤーに向かって語りかける。

 「初めっから本気で斬る」

 男は走り、チートプレイヤーの攻撃を見事回避。凄まじい速度で首に何十連発も技を叩き込む。やり手だ。次元が違う。

 その後、謎のプレイヤーはチートプレイヤーをものともせず、全員倒した。ていうか強すぎる。

 『デュエル終了。勝者、墨炎、レイ、ギン、メイ、f』

 デュエルが終了し、チートプレイヤー共は泣いて逃げ出した。田中丸は「次は勝つ!」とか言ってたけど、次は攻略方法割れてるからもっと楽勝で俺勝つぞ?

 しかし、この助っ人スーツにはデュエルしても勝てる気がしない。こんだけ強いってことは、サービス開始が日本より早かったヨーロッパのプレイヤーなのか? でも、日本語で話してたし、日本人かな? てか、妹とか言ってるし、氷霧かクインあたりの兄貴か?

 「あれ? でもなんで、デュエルに乱入できるんだ?」

 「強制デュエルコードに対する乱入システム。インフェルノも黙って見てるだけじゃないってわけ」

 俺がこのプレイヤーがデュエルに乱入できた理由に疑問を持つと、プレイヤーから答えてくれた。頭上に表示されるプレイヤーの名前はf。なんて読むんだ? エフ? フォルテ?

 いやそれより、乱入システムってなんだろう。

 「乱入システム?」

 「強制デュエルコードを発動された側のパーティーに他プレイヤーが加勢できるシステムのことさ。インフェルノはもっとすごい隠し玉を用意してるみたいだけどね」

 f、俺はエフと読もう、は乱入システムについて説明してくれた。運営のインフェルノも黙ってチートさせるわけもない。

 「あれ? でもアカウント消した方が早くね?」

 「DPOは無料タイトルだからね。アカウントなんていくらでも作れてしまうよ」

 「そうか……」

 fと話していると、レイ達がやってきた。デュエルが終わったので復活したのだろう。

 「これから大規模騎士団で対策が練られるはずだ。このチートは集団的に行われているからね」

 「そうか。氷霧も忙しくなりそうだな。クインはソロなのかな?」

 fによると、騎士団が集まり対策を練るらしい。氷霧も大規模騎士団、惑星警衛士のサブリーダーだし、忙しくなるに違いない。風邪拗こじらすなよ。

 「妹によろしく! では、これで!」

 fはそういうと、この場を去って行った。

 「円卓の騎士団。人生最後のラスボスには相応しいな……」

 俺が見上げたネクロフィアダークネスの空は、このゲームの行く末を表すように暗く、淀んでいた。

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