視界ジャック4 決着の後
ネイチャーフォートレス 惑星警衛士本部
「うっ……むにゃ……。ここは?」
プロトタイプは惑星警衛士本部の和室で目を覚ました。服を浴衣に変えられ、身体も綺麗にされている。布団もふかふかで、今にも二度寝しそうな勢いだ。部屋も旅館みたいな雰囲気だし、プロトタイプは癒されている。
「ぷーちゃんおきた」
そんなプロトタイプをレジーヌは覗き込んでいた。アーマーを外し、ボディスーツだけになっていた。手足は大胆に露出してるが、身体の凹凸は少ないらしい。
「ふー、スッキリした」
墨炎が部屋に入ってきた。黒いシンプルなワンピースで、何故か湯気が出ていて髪が濡れている。お風呂でも入ってきたのだろう。
「オリジナル、ここは?」
「惑星警衛士の本部だ。客室だからのんびりしてけ」
墨炎はプロトタイプに言うと、横に布団を敷いて座った。あぐらをかいて、あまり女の子らしくない座り方だ。プロトタイプはずっと気になっていたことを聞く。
「お前は、オリジナルの身体を借りてるって前に言ってたな。お前は何者だ?」
「さあな。オリジナルの別人格ってことにしとけ」
墨炎は適当に答えた。クインと氷霧も部屋に入ってくる。一体全体、集まって何をしようというのか。プロトタイプは起き上がって周りを見た。
「ゲームマスターから話があるそうだ」
墨炎が言うと、部屋にいきなり声が響いた。女の子の声だ。これがゲームマスターなのだろうか。声を墨炎みたいにボイスエフェクトで変えてるだけかもしれない。
『話ってのは、墨炎と氷霧のことだね。初めまして、ボクはゲームマスターの朱色』
朱色と名乗る声は、早速本題に入る。まずは氷霧のことかららしい。
『氷霧のことだけど、チート野郎は見つかった?』
「見つけた。集団で動いてた」
氷霧は最初、チートを使うプレイヤーの調査をしていた。クインの口ぶりから、小規模だと墨炎は思っていたがゲームマスターが動くってくらいヤバい事態になってるらしい。
「チート使用者は全員、一つの騎士団に所属していた」
『今回のチート野郎は、ちょっと奇妙だね。そいつらの騎士団、最近できたばかりなんだよ。プレイヤーも登録したばかりの奴らなんだ』
氷霧と朱色の証言では、チート使用者とその騎士団は登録したての作りたてらしい。チートというのは、対戦で勝ちまくりたい人間が使うものだが、奴らは初めからチート使用を前提にDPOを始めたようだ。
「そいつらの住所、ログイン座標は? 愉快犯なら、大体リアルでクラスメイトとか、そんな繋がりのある奴らがやってる可能性が高い」
『ログインした座標から調べたけど、プレイヤーのログイン座標はバラバラ。日本全国津々浦々って感じ。それに、このゲームのセキュリティは万全だから、愉快犯程度でチートは使えないよ。このゲーム、日本では最近公開が可能になったけど、ヨーロッパやアメリカではすでにサービスを始めていたのさ。それで、何人もチートに挑戦した奴がいるけど、全員失敗』
「そういえば、夏恋が言ってたな。日本では現与党の渦海党が、あまりのオーバーテクノロジーを警戒して広告を禁止したって」
プロトタイプは朱色と墨炎の会話についていけなかった。それは当然で、ゲームのNPCとプレイヤーでは住む世界が違うのだ。
朱色はさっさと話を切り上げ、別の話題へ進める。
『まあ、氷霧の件はあと一つあるから、チート野郎はボクが対処しよう。墨炎、プロトタイプと戦ってる時に、氷霧の声が聞こえなかった?』
「たしかに聞こえた。氷霧のスキルかなんかだと思ってたけど……」
『たまにいるんだよね。サーバーが解析してアバターを動かす素になる脳波を、読み取れちゃう人が』
朱色の説明に一同が首を捻った。実はここにいるプレイヤー三人が全員、DPOのアバターを動かす仕組みをよく知らない。
『ウェーブリーダーで読み取った脳波は、ウェーブリーダーがアバターを動かす信号に変換しているんだ。だけど、結構信号がアバターの外に漏れ出すことがあるんだ。アバターで感じた感覚は、信号からウェーブリーダーが脳波に変換して、それで感じるんだけど、漏れ出した信号を感じれる人間がたまにいる。感じた信号を、感じたプレイヤーのウェーブリーダーが脳波に変換して、ゲーム中に感じる柔らかい、硬いなどの感覚と同じように処理してしまってるんだ。わかりやすく言うと、第六感が優れてるってことだね』
全員は大体理解したようだ。つまり、本来なら感じれないものを第六感が感じたということだ。クインは理解したように呟いた。
「墨炎と氷霧は第六感が優れてるってことか」
『つまりそうだね。五感以外感じないように対策してくよ。じゃ、墨炎の件だ。これはプロトタイプやレジーヌとも関係ある』
朱色はまたも話を変えた。今度は墨炎が中心の話。
『墨炎。クリアを選んだんだね?』
「ああ。多分、俺が憎しみに生きるのは渚の望みじゃない。憎しみなんか捨てて、空っぽの状態でやり直すさ」
この話は、完全に墨炎と朱色の間でしか内容が伝わってない。何の話なのか、他の全員は首を傾げることとなった。
「憎しみの虚しさ、それをプロトタイプが教えてくれた。俺を鏡に映したような奴がな」
『そう。後悔がないならいいんだ。ただ、君の憎しみから生まれたプロトタイプは、他のNPCとは違う。他のNPCより、やたら感受性が高いというか感情が豊かなんだ』
墨炎は納得した様に頷いた。彼女はガンゲイルバーのマスターの淡々とした対応を思い浮かべたようだ。
『レジーヌもクインの影響で感情を持ちはじめている。さっきの話で言った、クインの漏れ出した信号がレジーヌのプログラムに影響したんだ。まあ、このようにNPCがプレイヤーとの接触で成長するのは仕様だけどね。信号がどんな影響を持つのか、試すためにそんなシステムを作ったんだけど。レジーヌがいきなりプロトタイプと共闘したのも、それが原因。話は以上、ゲームを楽しんでね!』
朱色は話を切り上げ、さっさと消えた。最後まで声だけしかださなかったゲームマスターだった。
「で、これからどうしようか?」
クインがうとうとし始めたプロトタイプとレジーヌに言う。さっきの説明はプレイヤー向けなので、NPCの彼女達にはわけがわからず退屈だっただろう。
「寝よう。疲れた」
プロトタイプとレジーヌはそのまま布団に倒れ込んで眠った。さすがに今日は疲れたらしい。プロトタイプはレジーヌを抱き寄せ、寝言のように呟く。
「私……、もう一人ぼっちじゃないんだよね?」
それを聞いたレジーヌは励ますように呟く。
「ぷーちゃんには、わたしがいる」
レジーヌの言葉は、既存の音声データを組み合わせたような拙いものだが、プロトタイプには伝わったようだ。
「ありがとう」
プロトタイプの目から、一筋の涙がこぼれる。
墨炎達も布団を出して寝ることにした。墨炎を氷霧とクインが挟んで、川の字になる。クインはポニーテールに結った髪を解いた。
「さて、俺はこれからどうするかね。ゲームも一段落ついたし、リアルでなんかしようかな?」
「とりあえず、恋でもしてみたら?」
「恋ね……。俺出来るかな?」
他愛のない話をしながら、三人は眠りにつく。その先に待つ、強大な敵の姿も知らずに。
次回予告
遊人だ。もう12話か。アニメならそろそろオープニング変わってる頃だよな。
俺の命も短いし、今は目の前の行事に熱中だ! 文化祭までは生きてやる! って、夏恋? そいつ、誰だ?
次回、ドラゴンプラネット。『体育祭、夏恋と冬香』。次回も見ない奴は、ナンセンスだな!