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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
18/123

10.試作品対原点

 「見つけた、オリジナル……!」

 「プロトタイプ!」

 最悪だ。イベントを進めるか、進めずに取られた感情を戻してもらうかの選択も出来ないうちにイベントの方から来やがった。

 「よし、決めた。俺もゲーマーだ。やってきたイベントは片っ端から攻略する!」

 もうやけくそだった。ここまで来たら引き下がれない。それに、俺は短い命でなにかをしたい。俺はコイツを、俺自身の憎しみといえるプロトタイプを越える。渚が多分、望まなかった生き方からの脱却だ。

 「【シザーネイル】!」

 覚悟を決めた俺はプロトタイプに突き技を放つ。しかし、当たる直前で左に逸れてしまった。

 「うわっと!」

 「終わりだ!」

 なにかされたのだろうか。プロトタイプが大鎌を振り下ろす。それを俺はギリギリで回避。

 「【ライジングスラッシュ】!」

 今度は当てる。ゲームの基本はトライ&エラー。死んで覚えるのだ。ゲームオーバーなど恐れてはならない。ゲームなら死んでも命は取られない。

 「なあぁあああぁ?」

 しかし、剣を水平に振ったとこまではよかった。が、振った方向に身体ごとすっ飛んでしまった。着地出来ずに俺は転んだ。

 「……。何遊んでんの?」

 「真剣だ、俺は!」

 クインが冷めた目で俺を見て言った。俺も好きでこんな目にあってるのではない。

 「くっ、気を取り直して、【ローリングソード】!」

 俺は気を取り直し、双剣の技【ローリングソード】を放つ。縦に大車輪が如く回転して、相手を切り裂く大技だ。しかし、

 「うわっ! 背中痛っ!」

 相手に飛び込むはずの軌道が、バックスピンして後ろに飛ばされた。お陰で地面に背中を打ち付けてしまった。強く打ったので息するのが苦しい。

 「クソっー! バグったかこのゲーム!」

 とりあえず立ち上がろう。

 さっきから技が正常に作動しない。技名を発声したら、後はシステムが勝手に体を動かしてくれる手筈なのに。ていうか、今まではバグはおろか処理落ちもしなかったはずだが?

 「技には頼らん!」

 「貴女、さっきからふざけてる?」

 「これでも真剣だ!」

 クインに次いでプロトタイプまでも冷たい目で俺を見ていた。俺は真剣なのに。プロトタイプが鎌を振る。システムめ……!

 幸い、プロトタイプの大鎌は懐に潜り込めば当たらない。最初の一撃を回避した俺は、素早くプロトタイプの懐に潜った。

 「しまった!」

 「もらった!」

 俺は両手の剣を水平に薙ぎ払い、プロトタイプに通常攻撃で迫る。しかし、両方の剣はプロトタイプに当たる前に停止した。

 「何がっ……? ごめんなさい」

 「何だ?」

 そして、両手が勝手に開き、剣が落ちる。さらに、俺の口は意思に反した言葉を紡ぐ。

 「ごめんなさい……。私、知らないいや何を言って間にあなたを傷つけて……」

 同じ口が別々の意思で動いてるみたいだ。まともに喋れない。

 「どうなってい本当にるんだごめんなさい……」

 「墨炎? 何を言ってるんだ?」

 クインは混乱していた。何を言ってるのかわからないらしい。仕方ない、俺は黙るか。

 「ごめんなさい……。貴女を傷付けるつもりなんて……」

 そして、墨炎は語り始めた。すべての真相を。

 「私は元々、暗黒惑星となったネクロフィアダークネスを救うために生み出された人口生命体なんです」

 墨炎は語った。すべての謎を解く鍵となる事実を。

 俺の視界がぼやける。理由はわからない。完全に暗くなった。


   @


 気が付いたら、緑の液体で満たされたカプセルにうずくまっていた。そのうち液体はカプセルから抜かれ、カプセルの透明なガラス部分が開いた。身体は力なく床に倒れる。何度か夢で見た光景だ。

 全身が濡れている。髪が素肌に張り付いて気持ち悪い。髪の長さから察するに、俺は墨炎の目線で過去を追体験させられているのだろう。なるほど、プレイヤー本人には言って聞かせるよりも体験させた方が早いって話か。

 起き上がって身体を眺めると、何も着ていない。すごく寒いので、身体を抱いて自らの体温で温めるしかない。リアルな感覚の再現も、度が過ぎれば不快感にしかならない。

 研究者の一人が白衣を俺に着せる。白衣はじっとりと肌に張り付き、幾分か寒さは和らぐ。

 「なにをしてる?」

 「いや、寒いかなって思って」

 「無駄だ、こいつは失敗作だ」

 研究者の会話が聞こえる。墨炎は失敗作なのか。取り合えずなんか、眠くなってきた。身体から力が抜け、再び倒れる。まぶたが重い。眠くなってきた。


   @


 「げほっ……。うぅっ」

 起きたら起きたで、身体が拘束されている。牢獄の様な場所にいて、首輪をされている。服の類いはボロ布をまとうのみ。

 首輪は鎖で機械に繋がっている。まるで高圧電流を貯蓄するコンデンサーみたいな機械だ。

 「さて、実験を再開しよう」

 研究者は機械に触れる。機械は音を立てて動き出した。機械の起動と共に、墨炎の身体に異変が起きた。

 「うっ、あ、あぁぁあぁあぁっ! あうっ、く、があっ……くあああっ!」

 墨炎は俺の意思に反して喘ぎ出し、身体をけいれんさせた。無意識に鎖を両手で掴んでいた。恐らく高圧電流が墨炎に流れているのだ。痛みは当然、ゲームなので無い。その分けいれんが鮮明に伝わるのはこのゲームの欠点だ。次のアップデートでは直せよな?

 「痛っ、痛、痛いっ……! 助け、あうっ、やめて……!」

 墨炎は助けを求めた。頬の感覚から涙を流してるのはたしかだ。それでも研究者は電流を流すことをやめない。むしろ、コンデンサーを操作して電流を強くした。俺は確信した。あの研究者はナンセンスなまでにドSだな!

 「ぎゃうぅぅっ! あぐっ、うあ、ああぁあぁあっ! やだっ、やめて、痛いよ、ああうっ!」

 けいれんはひどくなる一方。こんなに苦しんでるのに、研究者はまるで電流を止める気配がない。研究者の表情は先程から変化が見られない。興奮もなにも感じない表情はまるで、ただ俺達みたいな学生がフラスコの化学変化を眺めるそれに似ている。

 「しかしなんで女なんかに? 男の方が頑丈じゃないですか」

 「ほら、経費の問題だよ。男って元を辿れば、女に特殊なホルモンうちこんで生まれるからさ」

 研究者は墨炎の悲鳴が響く中、呑気に話していた。墨炎はすでに、まともな呼吸が出来ないほどけいれんしている。

 研究者は何を思ったか、コンデンサーの出力を最大にした。ホント、何を考えているのだ。この外道め。いいか、いかに女の子が苦しんでる姿に興奮できても、殺したらだめだ。殺したら二度と苦しんでる姿を見られないぞ! って、夏恋が言ってた。

 「う、ああぁあぁあああああぁぁあぁあぁっ! いやっ、痛っ、やめてっ……! あううぅぅっ! 痛い、痛いからっ、助け、あ、あっ!」

 ついに墨炎の悲鳴は声にならなくなった。そして、コンデンサーもオーバーヒートを起こした。それと同時に墨炎もぐったり横たわる。けいれんが残っていて、何かが腿を濡らす。何もそこまでリアルにしなくても……。

 「ちっ、死んだのか?」

 研究者が墨炎に近寄る。野郎、いつか出会ったら殺す。絶対だ。研究者は横たわった墨炎を仰向けにすると、胸に軽く触って心臓の鼓動を確かめた。うわ……、胸触られるってこんな感覚なのか……。いや、カレンのせいで経験済みなんだが、男に触られるのは初めてだからな。

 先程から俺はシリアスなシーンに対してシリアスな感想が述べられないでいる。とりあえず思春期なので仕方ないってことにしとく。

 「生きてる。が、こいつは使い物にならんな」

 研究者はそう言うと、鎖を首輪から外した。そういえば、プロトタイプは墨炎が逃げ出したとか言ったな。なら、恐らくはこのタイミングで逃げるのだろう。

 「うっ……もう嫌だっ……」

 墨炎は研究者が去るのを見届けたあと、身体を引きずって動きだした。


   @


 気が付いたら、地面に横たわっていた。服装はさっきの通り、ボロ布。かなりの豪雨が弱った墨炎の身体を打ち付ける。誰かの声が聞こえた。多分、研究者だ。墨炎を探しにきた。どうやってか墨炎はあの研究所を脱出したらしい。どうやってかはわからん。ご都合主義的に具体的な方法はカットだ。ただ、渇いた泥が身体に張り付いてる感覚があるあたり、抜かるんだ所を通ったのは事実だ。

 「逃げ、ないと……」

 墨炎は傷だらけの身体に鞭を打ち、起き上がって走る。森のような場所で、足場は不安定。今にも転びそうだ。

 「うあっ!」

 木の根っこに足を引っかけ、転んでしまう。坂道だったので、一気に下まで転がり落ちる。かなりの距離を転がった。

 「あう、うっ……」

 全身を強く打ち、墨炎は起き上がれなくなった。

 視界に誰かの足が写る。ブーツに、つなぎ、クインか。墨炎が顔を上げたのでクインだと確認出来た。

 クインは墨炎を抱き上げる。

 「これはひどい。今すぐ手当てしないと……」

 そして走り出した。またも視界が暗転する。


   @


 今度は布団に寝かされていた。ふかふかして気持ちいい。これはリアルに眠くなる。やべえ、プログラマーGJグッジョブ

 畳の部屋らしく、草の匂いがする。身体を起こすことは出来ないが、周りを見渡すことはできた。手を握りしめると、包帯の感覚がある。手当てされてる。額には濡れた手ぬぐいが置かれていた。

 「あ、起きた」

 その手ぬぐいを取る手があった。首を向けると、氷霧がいた。いつもの服装ではなく、水色の浴衣を纏っている。

 氷霧は近くの木で出来た桶に手ぬぐいを入れて濡らすと、絞った。そして手ぬぐいを再び墨炎の額に乗せる。心なしか熱っぽい。

 「熱は大丈夫?」

 氷霧はそう言って、優しく墨炎の頬に触れた。


   @


 「そんなことが……。あたしの記憶には全然ないや。あ、でもゲームで寝たらそんな夢見た気が……」

 気が付いたら元の場所、スティールサバンナにいた。クインが墨炎の話に関して感想を漏らす。システムはどうやら、クインとおそらく氷霧にも夢を見せたのか。

 「御託はいい。私はここで貴女を殺すだけだ」

 プロトタイプは鎌を振り上げていた。墨炎も鎌を見上げ、目を閉じて言った。

 「そうしてください。私は、死ななければいけないんです」

 プロトタイプは鎌を振り下ろす。だけど、その瞬間を俺は待っていた。

 「俺の意見も聞かずに勝敗を決めようなど、ナンセンスだな! 【クロスダイブ】!」

 プロトタイプが鎌を構える時、必然的にボディはがら空きになる。そこを狙った。

 【クロスダイブ】は【マグナム-X】の斬撃が飛ばないバージョン。近接で威力を発揮する。

 「くあっ! しまった……!」

 直前で鎌を引き戻したプロトタイプは致命傷を負わずに済んだが、腕と腿が斬られた。身体は鎌が盾になってたせいでさほどダメージはない。

 「貴様騙したのか!」

 「いいや。この身体の持ち主の意識がなんらかの原因で表に出てきたのさ。俺は身体を借りてるだけに過ぎない」

 プロトタイプは膝を地面について叫んだ。俺としては騙す気なんてないから、不服だな。

 「機能復旧、目標捕捉」

 おっと、レジーヌがまだ生きてた。クインがトドメ刺す瞬間に、プロトタイプがロケランの弾頭を真っ二つにしたからな。

 レジーヌは右手の指から青いレーザーを発している。指がビームサーベルになってるのか。それをレジーヌが抜き手の形にまとめると、大きな剣になる。ビームクローか。

 「クイン、レジーヌは任せた! 俺はこいつをやる!」

 「わかった!」

 クインがレジーヌと向き合う。俺はプロトタイプに意識を集中させる。

 『やめて! あの人を傷付けないで!』

 墨炎の声が頭に響く。だけど、ボスを前に倫理感が働く廃人ゲーマー直江遊人ではない! ボスは倒す! ゲーマーとしてな!

 「お前は黙ってろ!」

 また邪魔されると嫌なので、俺は自らの脇腹を剣でかっさばいた。多分、あっちの意識は痛覚があるに違いない。

 『うぐぅ! ああっ!』

 墨炎の意識は呻いて消えた。これで、この身体に残るのは俺の意識のみ。

 「ちっ! あんたは何者だ! オリジナルじゃないなら、何故余計な真似を!」

 プロトタイプが声を荒げる。手足を怪我して、鎌を持てないのだ。だが、ボスキャラ相手にわざわざ正々堂々と戦う義理はない。勝てばいいのだ。

 例え、HPが1になろうと。勝てれば。

 「【ライジングスラッシュ】!」

 「うあ!」

 技をプロトタイプに浴びせる。腕を盾にされてダメージを抑えられたが、これでもう鎌は持てない。

 「く、【デス・ステップ】!」

 プロトタイプは鎌を持って消えた。あのダメージでまだ交戦する気か?

 「なっ! そういう技か!」

 突然、墨炎の肩から血が吹き出した。消えて相手を切り付ける技か。厄介以上に憎いな。高速で移動してるから消えて見えるのか。

 だが、対処方法がないわけでもない。相手を捕まえればいい。それなら、逃げられずに攻撃を当てれる。

 考えてる間にも身体中が切り裂かれ、HPも減っていく。攻撃の当て方からして、ジャブみたいに体力を奪って、最後にトドメを刺すみたいだ。

 なら、トドメの時に捕まえる!

 「うっ! んあっ……!」

 ここは一つ、HPに余裕があるけど剣を取り落とし、膝をついて死にそうなフリをしてみる。これでトドメを刺しに来た瞬間を捕らえる。向こうに俺のHPゲージが見えないことを前提とした賭けだ。多分見えない。でなければ海底校舎での時、戦闘が終了してHPゲージが減らなくなった段階で攻撃してくるはずがない。ただ、プロトタイプが予想以上の狂人なら、HPゲージが見えていてダメージとして加算されないことをわかった上で攻撃してきた可能性はある。

 案の定、プロトタイプにHPゲージは見えておらず、トドメを刺しにきた。墨炎の左肩から右の脇腹に向かって切り込みが入り出した。そこで、手を前に突き出して鎌がありそうな場所を掴む。

 「捕らえた!」

 「何っ!」

 鎌を掴んだため、プロトタイプの動きも止まる。勢いが強く、急に止まったため、プロトタイプはそのまま転んだ。

 「うわっ、く!」

 「これでトドメさ!」

 俺は剣を一本だけ、ナイフでも構えて突っ込むみたいに、腰で構えた。

 「【リベレイション=ハーツ】!」

 技の名前をボイスコマンドで呟く。俺の憎しみを餌に肥大する魔物、深紅の炎が立ち上る。

 「いっけーっ!」

 剣が黒い炎に包まれた。炎は剣を軸に、さらに大きな剣へと変貌する。それでも、メテオドラゴン戦の時より小さい。だが、そんなことはどうでもいい!

 「もう、どうにでもなれっー!」

 なんか遠隔攻撃出来そうな空気だったので、剣をそのまま突き出した。そうしたら、剣を包んでいた炎が一直線にプロトタイプに向かって飛んでいく。

 「う、あ? ああぁあぁああああっ! 熱いっ、苦しいっ! なに、これ……」

 プロトタイプは炎に巻かれてもがいた。プロトタイプのHPがゼロになり、炎も消える。彼女は気を失って倒れてる。俺のHPもギリギリだ。

 「勝ったのか?」

 取り合えず、プロトタイプは倒した。後はレジーヌだけか。レジーヌが動き出した。飛び上がったと思うと、俺の近くで着地。

 「回収」

 「え?」

 気付くとレジーヌの拳が墨炎の腹に減り込み、俺は立てなくなった。身体をレジーヌに抱えられ、俺は連れ去られた。

 「とりあえず立て直す。オリジナルの仲間、ネクロフィアダークネスの【広大で深遠なる巨人の泉】に来い! 話はそれからだ!」

 「な、なんだいきなり!」

 戸惑ったクインを置き去りにし、起き上がったプロトタイプがそれだけを言うと俺とレジーヌも連れてその場を離脱した。

 「何をする気だ!」

 「仲間から引き離して、孤独に殺してやる!」

 プロトタイプは俺の質問にそれだけ答えて、それ以上何も言わなかった。

 次回予告

 プロトタイプだ。ついに因縁のオリジナルを確保した。

 私達を置いて逃げ出した、オリジナル。そのせいで私達は、私の妹達は……!

 次回、ドラゴンプラネット。『ロンリープロトタイプ』。私は独りでも、復讐を果たす。

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