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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
17/123

9.荒野のスナイパー

 ドラゴンプラネット チュートリアル

 銃

 銃は特殊な武器である。普通、剣や槍などは一つ(二刀流や絶爪など例外はあるが)しか持ち込めないのに対し、銃は防具のホルスターの数だけ持ち込める。また、銃はアイテム「弾薬」を必要とする。弾薬はハンドガン、ショットガンなど銃により異なるものを必要とする。

 朝 遊人宅


 「うぎゃああぁ! なにしてんだ姉ちゃん!」

 「え? いや、カボチャ切れないからチェーンソーを」

 「チェーンソーは料理に使うな!」

 俺の朝は絶叫で始まる。何故かここ最近、姉ちゃんが料理を始めたからだ。悪夢だ。格好だけはラフに決めてエプロンと、新妻風なのが不安を煽る。

 姉ちゃんはだいたいの家事が出来ても、料理が壊滅的に出来ない。そのため、昔は冷凍食品中心の食生活だった。まあ今じゃ俺が出来るから問題ない。

 「取り敢えず簡単な料理からだ! トーストなら出来るだろ?」

 「それなら冷凍食品時代から出来る」

 俺はひとまず、トーストを作るとこからやらせることにした。料理は肉じゃがから始めろと癒野が言ってたが、相手はあの料理の天災、直江愛花だ。そのくらいから始めないと危ない。姉ちゃんの天災っぷりは愛知県全域に名が知れ渡るほどだ。

 うちにはトースターがあるから、余計簡単だろう。

 「取り敢えずキャプチャーガン……」

 「エレビッツじゃねぇ! そんなマイナーなネタ使うな!」

 我が家のお約束はさておき、姉ちゃんはトースターにパンを入れた。エレビッツっていう、手でやりゃいいことまで妙な道具を使うゲームがあるんですよ。とりあえず姉ちゃんはレバーを下まで下げる。

 「あれ? トースターが爆発しない」

 「爆発が正解だとかナンセンスだな!」

 これはさすがになんともないようだった。姉ちゃんは爆発が正解だと思ってたようだが。

 「そうだ、ティファールでお湯沸かしてたんだった」

 「え? ティファールなんか見当たらない……け、ど……!」

 電気ケトル、ティファールを探した俺は音のする方を向いてさらなる悪夢に直面した。ティファールがコンロにかけられている。うちはオール電化じゃないのが災いし、ティファールのボディは熱で溶け始めていた。


   @


 朝食を軽く終えた俺は、充電していた白い折り畳み携帯を持って学校に行く。

 その前に、姉ちゃんに聞いておきたいこともあるが。

 「姉ちゃん、最近変だぞ」

 「そう? 俺は正常だぜ?」

 「絶対変だ。この前だって、火炎放射機で目玉焼きを……。昨日もいきなり恋ばなを振るし」

 姉ちゃんはいきなり料理を始めたのだ。なにがあってこんなことするのかわからないが。

 「ま、いいや。気にしてもナンセンスだ。大方、真田って記者に並々ならぬ想いがあるんだろうからな」

 「っ……!」

 「図星?」

 今のはかまかけるつもりで言ったのだが、どうやら図星らしく姉ちゃんが顔を赤くしていた。やはり女性は料理ができる方がいいとか思って、料理の練習を始めたのか。

 「なら尚更心配だな……」

 俺はこれから繰り広げられるであろう悪夢を想像して戦慄した。


 通学路


 「直江先輩」

 「理架か。なんか用?」

 戦慄しながら堤防を歩いていた俺に、後輩の真田理架が話し掛けてきた。

 「最近、変じゃないですか?」

 「いきなり? それって普通、他愛のない会話の途中で入れることだと思うが?」

 理架はいきなり俺を変だと言い出した。こんなこといきなり言う理架の方がよっぽど変だろ……。

 「なんか、いつものキレがないというか。だらけてるというか。疲れてます?」

 「いや、姉ちゃんが料理という名の破壊活動を行うからさ」

 口にはしなかったが、最近渚のことを忘れがちな気がするのは事実だ。なんか、仇討ちとかどうでもよくなってきた。

 多分、プロトタイプとかいう奴のせいだ。あいつは俺と同じで、復讐に生きている。俺もはたから見れば、あんな感じに違いない。渚は絶対、俺があんな風になるために助けてくれたわけじゃない。

 答えは解らない。でも、この短い命で何かをしたいと思う。今まで抱いたことのない気持ちが俺の中にあった。


 長篠高校 教室


 「不覚だ、ナンセンスだ……。渚のことを忘れがちになるなんて……」

 「いいんじゃない? 復讐しても後にはなにも残らないって言うし」

 俺は昼休み、夏恋と教室にいた。夏恋が弁当に対して、俺は購買でパンを買っていた。俺は姉ちゃんがあの有様だからな。だが渚の事を忘れかけるのはナンセンスだ。ナンセンス過ぎる。

 「大変大変! 皆には朗報だけど憎しみしか残ってない白髪には訃報!」

 「なんだよ。まるで人が憎悪の固まりみたいに」

 後ろから小町涼子がやって来た。こいつは中学時代から一緒にいるが、騒がしいのも一緒みたいだな。

 「あれ? 後ろをとったのに殺気が飛んでこない」

 「ゴルゴ13か俺は! ナンセンスだな!」

 ツッコミはしたが、確かに中学時代は後ろとられる度に殺気飛ばしてた気がする。なんでだっけか?

 「ほら、渚さんが撃たれたのは後ろからだし……。それより、これ見て」

 「なんだ? 雑誌?」

 涼子が見せてきたのは、雑誌だった。開かれているページには、『怪奇! DPOに感情を吸われる?』とか書いてある。

 「なんだこりゃ、捏造記事?」

 「どうやら、DPOをプレイすると、負の感情が薄くなるらしいよ」

 涼子が言うには、DPOをプレイすると負の感情が薄くなるとか。記事には、アバターイベントを終えたプレイヤーがスッキリしたような感じを覚えるとか、そんなことが書いてあった。

 「もしかして、負の感情が無くなるってことは、遊人にとってかなりやばいことかも」

 夏恋がそんなことを言い出した。なにがやばいんだ?

 「だって、遊人の80%は憎しみで出来てるでしょ。それが無くなるってことは、かなりやばいよ」

 「なんだその、人の何%かは水で出来てる、みたいな発言」

 冗談めかして言ったが、夏恋の言う通りだ。

 俺は渚が死んだ時、心が壊死したみたいだ。そのせいか、一つの感情を除いて、感情を理性的にしか捉えられないようになった。例を挙げると、うれしいことがあっても、それが普通なら喜ぶことだと知ってるから喜ぶ、みたいな。怒りの感情でいえば、キレることが出来ず、怒るにしてもそれが怒りを感じることなのか頭で一度考える必要がある。

 「負の感情をDPOが吸い取るってのが本当だとしたら問題だ。俺から一切の感情が無くなるってことかよ……。ナンセンス過ぎる」

 俺に唯一残された感情、憎しみ。それを失うのはやばいよな。感情が無くなれば俺はまたガキの頃の様な、反応の薄い廃人となるだろう。

 というか、もしかしたらそれは既に起きているかもしれない。渚のことを忘れかけたり、復讐への虚しさを感じたり、なにかがおかしい。

 『生徒の呼び出しをします。1年11組、直江遊人。至急職員室まで来て下さい。お客様が来てます』

 俺の思考は放送に打ち消される。客が来たから職員室来い、ってか。

 「遊人、これだけは言っておくよ。自分をしっかり持って」

 「ああ、わかった」

 夏恋が珍しく毒を吐かないので、思わず反応してしまった。全く、みんな揃ってらしくもない。


 職員室


 「やあこんにちは遊人くん、僕のことを覚えているかな?」

 「ああ、無茶苦茶高いから絶対買うなよ緋色もやし」

 「その長いあだ名で?」

 教員の数が多いせいか、やたら広い職員室。昼休みだけに、昼食中の先生方でいっぱいだ。

 その職員室の片隅で俺を待っていたのは、あの緋色もやしだった。渚が組織したハッカー集団のメンバーだ。当時中学生だった緋色もやしも、今やオッサンだ。

 「で、緋色もやし。用事はなんだ?」

 「そうそう、君のアバターのことだ」

 アバター? 確かに墨炎は性別逆転を起こしているが、わざわざインフェルノの社長が来ることなのだろうか。

 「君のアバター、墨炎だっけ?」

 「いまさら墨炎を別のアバターに代えれませんよ?」

 俺は緋色が、墨炎を別のアバターに変えようとして来たのかと思った。しかし、緋色はそうではないらしい。

 「いや、うちのシステムが君に不都合を起こしていてね」

 「不都合?」

 緋色は深刻そうに頭をかいた。

 「単刀直入に言おう。アバターイベントを生み出したりするDPOのシステム、メンタリティメイクシステムは、負の感情を吸い取ってイベントを作る。今システムは君の憎しみを吸って、あるNPCを生み出した」

 「負の感情を吸う? そんなSFな……」

 緋色は言った。DPOのシステムが感情を吸うと。俺には信じられなかった。そもそも、感情なんて形無いものを奪えるのか?

 「詳しい仕組みは不明だが、ログインすることでデータ化された意識から、感情のデータを持っていってるみたいだ。そのデータを改造して、イベントそのものを生み出しているんだと思う。パソコンで例えるなら、プレイヤーの『感情』という大きなフォルダに、『憎しみ』というフォルダがあるとしよう。そこに100ギガバイト分のデータがあるとして、そこから50ギガバイト分ほど拝借し、データを書き換えてイベントに使うオブジェクトなどを生み出す。ゼロから作るより早い上、プレイヤーの深層心理を反映させられるからね」

 「待てよ! 感情なんて曖昧なもの、データに出来るのか?」

 そこまで聞いて、俺は疑問を感じた。緋色はサラっと答えてくれた。

 「正確には感情ではなく、その感情を創る記憶だ。それをデータ化している」

 なるほど、それなら渚のことを忘れかけるのも納得だ。緋色は続けた。

 「君は憎しみの半分以上をシステムにイベントで使うオブジェクトなどの材料に持ってかれてる。憎しみを創る記憶を取り戻す方法は一つ、イベントをクリアする前にインフェルノに来ること。そうすれば、記憶と憎しみは戻せる。イベントをクリアして、君の憎しみを材料にして生まれたテキストやオブジェクトをサーバーが廃棄したらタイムオーバーだ。感情を取り戻すには、そのデータから抽出して君に植え付けないといけないからね。どうする?」

 緋色は俺に尋ねた。

 つまり緋色は、こう聞いてる。ゲームをクリアするなと、ゲーマーに向かって。だが、俺もゲーマー以前に人だ。唯一残された感情は惜しい。

 「ま、イベントさえクリアしなければいいんだし、ゆっくり考えな。じゃね、感情を取り戻したかったらインフェルノ岡崎本社に、イベントをクリアせずに来ること」

 緋色は言って、職員室を出てった。俺は何故か決断出来ずにいる。

 普通なら感情の方が大事だ。特に俺は、それしか感情が無いし。だが、ゲーマーとしてイベントをクリアしたいという思いがある。

 「さて、どうする?」

 まるでサウンドノベルの選択肢だ。


 夕方、矢作川堤防


 「さて、どうしたものか」

 夕方、俺は堤防を歩いていた。体育祭の準備に参加しようと思ったのだが、夏恋が『抜け殻寸前の奴にはやらせない』とか言って帰された。まあ、緋色もやしの出した選択肢を知ってか、奴なりの思いやりと受け取る。

 夏恋らしくないな、とか考えていた矢先、

 「こんにちはー、ちょっといいですか?」

 「?」

 一人の少女が話し掛けてきた。

 金髪で目が青いとこから、外人さんと見られる。アンダーリムの眼鏡をかけていて、涼しそうなオレンジ色のワンピース姿だ。

 「あの、岡崎城の場所を教えてくれませんか?」

 「岡崎城? ああ、それなら……」

 俺は道を聞かれたので、岡崎城への道を答えた。岡崎城とは、長篠高校のある岡崎市でも有数の観光地だ。あの天下人、徳川家康が生まれた城である。

 しかし、この子は普通に日本語を理解できるようだ。外国人とは何人か会ったことあるけど、イタリアのトニオ以来だな。日本語話せる外国人って。しかも、そのトニオを越える堪能さ。ただ者ではない。

 「うーん……。何となく……」

 しかし、俺の説明では解らないみたいだ。さすがに、今いる矢作町から岡崎城のある康生町まで、町一つ分の大移動を口頭で伝えるのは無理があったか。

 「こりゃ、案内した方が早いな」

 「ありがとうございます! 助かります!」

 少女はこちらの申し出に飛びついた。そういえばこいつ、年齢は俺や夏恋と同じくらいか。笑顔が眩しい彼女を連れて、俺は移動を開始した。


 数分後、岡崎城


 俺は少女を案内して、岡崎城にたどり着いた。ルートとしては、近くの矢作橋駅から電車だな。

 「着きました、ありがとうございました!」

 「俺も暇だったしな。そういえば君、名前は?」

 「エディ・R・ルーベイです」

 少女はワンピースとサラサラの髪を翻して名乗った。エディ・R・ルーベイ。名前から察すると、ハーフでもなく純粋な外国人だ。イギリス系かな?

 「エディか。俺は直江遊人」

 「遊人くんね」

 俺も名乗った。自国の言葉でないと、多少イントネーションに違和感が出るが、エディにはそれがない。

 エディは日本語が上手なだけでなく、かなりかわいい。お人形さんのようだとはまさにこのこと。スタイルも夏恋といい勝負くらいにいい。

 「どうしたの?」

 「いや、なんでも」

 じろじろ見すぎたか。エディは首を傾げる。ホントかわいいなこんちくしょう。

 俺はエディから目を離して今いるところを見た。ここは岡崎城周辺の広場だ。真ん中には巨大な穴があり、そこは花を植えて花壇になってる。その花壇は二本の針を持つアナログ時計であり、花時計として名高い。

 「そういえば、日本に来てからどのくらい?」

 エディの日本語の堪能さから、日本にずっといるのだと思った俺は聞いてみた。

 「そうですねー。今年来たばかりです」

 「今年? すげえ……。日本語はどこで?」

 驚きの答えが返ってきた。それにしては日本語うますぎるだろ。

 「日本語は幼なじみに日本人がいるので。ああ、この辺の高校に編入する予定です」

 「へぇ」

 通りで日本語が上手いわけだ。小さい時から日本語を聞いて話してきたということだ。

 「では、このへんで」

 「ああ、じゃあな」

 エディは笑顔で手を振って、別れを告げた。しかしエディは数歩歩いたとこでどうしたことか、

 「あ、そうだ」

 などと言って再びこちらに近づいてくる。

 「なんだ?」

 俺とエディの距離がほとんどゼロになる。近くに来られて気付いたが、エディは俺より頭半分くらい背が低いみたいだ。俺が170cm前半だから、エディは165cmくらいか。

 エディは俺の右側に来るとちょっとだけ背伸びして、

 「え……?」


 唇を俺の頬に触れさせた。


 「ふぅん。噂通り日本人って、挨拶がわりのキスでも戸惑うのですね」

 「な、なななななななっ!」

 俺はエディに言われてやっと、なにをされたか気付いた。そう、彼女の言う通り、挨拶がわりのキスをされたのだ。

 そういえば欧米って、挨拶をキスでするんじゃなかったっけ?

 「まあ、そんなこと言う私も初対面の人と唇と唇は恥ずかしいから、ほっぺで」

 エディは顔を少し赤くして、人差し指を唇に当てて言った。彼女の唇は薄く、健康的な桃色をしていて艶っぽい。指も白く長い。

 「じゃ、今度こそさようなら!」

 「あ、ああ……」

 動揺が覚めない中、エディは岡崎城に向かって行った。


 機械惑星ギアテイクメカニクル 国際宙港


 「で、氷霧はクインって奴に会えと……」

 家に帰った俺は、早速DPOにログインした。そうしたら、氷霧からの伝言が届いていたのでメニュー画面から読んだ。そこには『チートを使用してるとみられるプレイヤーが出現したから調査する』と書いてあり、さらにクインというプレイヤーに会えという指示もあった。

 ギアテイクメカニクルという惑星にいるって話だから、国際宙港を使って来た。

 ギアテイクメカニクルは荒野の惑星で、機械技術が進んだところである。国際宙港自体の作りはどこも現実の空港みたいだが、一歩外に出れば西部劇みたいな世界が広がっていた。

 「さて、クインのいる【ガンゲイルバー】って店はどこかな?」

 俺は宙港を出てすぐにある町を見渡し、店を探した。木造の店が建ち並ぶ光景は、保安官がいそうな雰囲気を醸し出していた。その中に、ガンゲイルバーの看板を見つけた。ガンゲイルは硝煙という意味だ。

 「硝煙の酒場、ねぇ。ハイセンスだな」

 その酒場まで歩くと、西部劇で悪人が蹴り壊しそうなデザインをした扉を開けて入った。

 「いらっしゃい、何の用かね?」

 カウンターに行くと渋いマスターが話し掛けてきた。つい、いつものとか言いたくなる気持ちを抑え、クインの居場所を聞く。

 マスターはいないと答えた。NPCだけに、なんとも無味乾燥な受け答えだった。プロトタイプみたいに、みんながみんなあんなに感情たっぷりじゃないのか。

 仕方なく俺は酒場を出る。しかし何度見ても、西部劇みたいな酒場だ。

 「う、え……?」

 そんなことを考えていると、いきなり足から力が抜けた。そして、右腕を誰かに掴まれた。

 いきなりのことでわけがわからない。

 「大丈夫かい?」

 「あ、ああ」

 右腕を掴んでくれた人のお陰で膝を床にぶつけずに済んだ。その人の手も借りつつ、俺は体勢をもどした。

 右腕を掴んでくれた人は、一人の少女だった。腰までの長い茶髪をポニーテールにし、つなぎを着ていた。つなぎは袖のところで結ばれ、タンクトップを着て、まるで自動車工事の作業員だ。

 スタイルがよく、目線が強い。身長なんて当然、墨炎より高い。

 というか、どこかで見たような奴だ。そうだ、氷霧と海底校舎に行った時に教室で見た夢だ。

 「あんたが、クインか。氷霧から聞いた特徴通りだ」

 「で、お前が墨炎? 氷霧から聞いた通りにちっちゃいね」

 余計なお世話だ。取り合えず、氷霧の伝言に合った特徴と一致する。

 「なるほど、こいつが氷霧のパートナーね。あんまり強そうには見えないけども、ナイトを倒したのは確からしいね」

 クインは俺を見て呟いた。あんまり強そうではないとか言われたが、ナイトを倒した実績が有ってよかった。

 「氷霧は改造厨の捜索でいないし、好きにしろって言われてるから好きにするよ」

 「ああ、どうするクイン」

 改造厨って、チート使用のプレイヤーか。大規模騎士団のサブリーダーは忙しいな。クインは果たして、俺をどうするのか。

 「クエストだ。指名手配NPCを倒す」

 「指名手配?」

 クインが指定したのは指名手配NPCの討伐クエスト。エネミーではなくプロトタイプやさっきのマスターのようなNPCを倒すクエストだ。

 「このクエスト」

 クインはクエストの受注用紙を突き付けてきた。敵の名前は【試作機動兵器 レジーヌ】か。

 さらに俺は、用紙に添えられた一文に気付く。

 「なに……。『プレイヤー、墨炎の参加が必要』?」

 なるほど、俺の力が必要ってわけか。なんかこのクエスト、嫌な予感しかしないんだけど……。


 ギアテイクメカニクル スティールサバンナ


 「ここに、ターゲットがいる……」

 クインにバイクで連れて来られたのは、単なる荒野だ。機械で改造された動物達が沢山いて、サバンナが機械化されたみたいな雰囲気だ。

 「その、レジーヌってのもロボットなのか?」

 「そ、そいつをいじくりまわすのが、あたしの夢だ」

 クインは俺の問い掛けにそっけなく答えた。レジーヌは受注用紙の画像を見る限り、女の子みたいだし、いじくりまわすってやばい意味に取られかねん。幸い、クインも女の子だが。

 「あれか? なんか人がいる」

 「あれだ! たしかに、レジーヌだ!」

 俺がふと、荒野を眺めたら人影があった。そう遠くない位置だ。ボロ布のマントを羽織った少女だ。

 「おいレジーヌ! 今日こそいじくりまわさせてもらう!」

 クインがレジーヌらしき少女に向かって叫ぶ。レジーヌはこちらを向いて、マントを脱ぎ捨てる。

 レジーヌは黒と赤のツートンカラーの装甲に身を包んだ、機械の体をしていた。首から上は人間みたいな感じだ。

 レジーヌが右手で銃を取り出す。クインも拳銃を取り出して構える。

 「あれはレーザーガン?」

 レジーヌの銃は明らかにレーザーガン。対して、クインの銃はベレッタ90TWOというオートマ拳銃だ。

 レジーヌのレーザーガンから光が放たれる。クインはそれを回避して、拳銃を放つ。

 レジーヌは弾丸を目の前に、左腕に付けられた突起を構える。それから、ビームの様な壁が広がった。

 「ビームシールド! 最先端!」

 それはビームシールドの発生装着だった。レジーヌさんマジ最先端。

 弾丸はビームシールドに焼かれた。なるほど、恐らくレジーヌは銃主体の遠隔攻撃タイプだ。なら、懐に潜り込めば勝てる。

 「もらった!」

 俺はレジーヌに駆け寄った。そして、両手の剣で切り付ける。しかし、その攻撃はガードされた。

 「敵性戦力一名の近接攻撃を確認。これより、遠隔迎撃モードから近接白兵モードへの移行を行う」

 レジーヌは機械的な声で呟いた。近寄って気付いたことだが、こいつの右目は眼帯みたいになっている。特殊レンズだろうか。

 「ビームサーベル展開」

 俺の攻撃を防いだのは左手のビームサーベル。青色の閃光が剣を形作る。

 「うらぁ!」

 俺は力ずくで鍔ぜり合いを解く。そして、技名の発声に移る。

 「【マグナム-X】!」

 「危険度、89%。回避行動」

 シードラゴンを屠った双剣の一撃。レジーヌは回避仕切れずに右腕と右足をやられた。

 「ナイス墨炎! 【ヒートスナイプ】!」

 クインは叫んで、上空に大量の銃器をばらまいた。そして、一番始めに落ちてきた二つのマグナムリボルバーを掴む。

 「危険度152%。回避不能。フィールド展開」

 レジーヌは青いバリアを張った。クインは構わず、リボルバーを二丁拳銃で構えて撃つ。

 六連発が二丁。合計、十二発のマグナム弾がバリアにヒット。バリアは砕け散った。

 「あれはスミス&ウェッソンM29か。最強クラスのマグナム相手じゃ、バリアだって一たまりもないな」

 クインはマグナムリボルバーを捨てると、次に落ちてきた銃を掴む。これまた二丁拳銃。サブマシンガンだ。VZ61スコーピオン。ゲームで有名な奴だ。

 クインは引き金をひき、容赦無くレジーヌの細い身体に弾丸をぶちまけた。弾が切れる頃には、装甲がへこみ、レジーヌはバランスを崩していた。

 「てか、あれだけ喰らってバランスが崩れるだけかよ!」

 「ならば、強力な一撃で仕留める!」

 クインは上から降ってきたショットガンをキャッチした。これもゲームなどでお馴染みの、一発ごとに排莢が必要なポンプアクション。レミントンかモスバーグかは知らん。

 容赦無くレジーヌを撃つクイン。レジーヌも一撃ごとに大きく体勢を崩し、装甲もボロボロになっていく。装甲のないボディースーツ部に至っては、損傷が激しい。

 普通、エネミーのHPゲージは表示されない。どこまでダメージを与えれば倒せるかは見当がつかない。

 クインは次の攻撃に移るため、ショットガンを投げ捨ててライフルをキャッチする。そして、即座に撃った。

 ライフルの弾丸はレジーヌの眉間に直撃。クインはライフルを捨てて、ある銃器を持っていた。

 「ロケラン?」

 「ロケットランチャーよ。あんたもゲームで馴染み深いでしょ?」

 クインが持っていたのは、ロケットランチャー。通称ロケラン。しかも、多弾式の四角い箱みたいな奴だ。

 「いや、俺はバイハ(バイオハザードのこと)でもロケランは毎回縛ってるから、お馴染みでもないんだが……。たしかに4以前では世話になったが」

 「ロケラン連発は乙女のロマン!」

 「いや、ロマンじゃねぇ! ロケラン連発する乙女がいてたまるか!」

 クインは歪んだロマンを抱えたまま、四発のロケット弾を放った。これではさすがのレジーヌも死ぬ。

 「なっ……!」

 しかし、クインの放ったロケット弾はレジーヌの周囲を八ヶ所穿っただけだった。

 そして、それによって発生した土煙が晴れた時、大きな鎌を構えた少女がいた。

 前々から嫌な予感はしていたんだ。なんでただのクエストで俺が名指しで必要とされたのか。

 「見つけた、オリジナル……!」

 「プロトタイプ!」

 白い少女が俺を呼んだ。少女、プロトタイプは無理矢理イベントを進めるべく、俺の前に現れた。

 プレイヤーの覚悟が決まらない内に。

 次回予告

 次回予告は私、クインがお送りする! ついに対峙する墨炎とプロトタイプ。でも、墨炎はなにかを決めあぐねてるみたい。

 ならここはあたしが、一発どでかい花火を打ち上げる!

 次回、ドラゴンプラネット。『試作対原点』。戦いへ、リロードは完了だ!

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