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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第一部
13/123

7.滅びの流星

 ドラゴンプラネット チュートリアル5

 リベレイション=ハーツ

 所謂必殺技。システムがプレイヤーの脳波を読み取り、そこから感情を抽出して技を生み出す。

 プレイヤーによって、その技は千差万別である。

 ネイチャーフォートレス 桜並木ノ森


 『オリジナル……。貴女を許さない……!』

 「へ?」

 『貴女が逃げ出さなければ、私は、私達は……!』

 『苦しまずに、死なずに済んだのに!』

 今、声が聞こえた。俺が今使ってるボイスエフェクトと同じやつだ。周りを探すが、誰もいない。かなり憎しみに満ちた声だ。

 「墨炎、どうしたの?」

 「いや、今声が」

 「なにも聞こえなかったよ?」

 氷霧は声を聞いてないみたいだ。空耳かな? にしても鮮明だ。

 しかも、何度も聞こえてくる。さっきから結構クエストをこなしてるのだが、聞こえる時と聞こえない時があるようだ。氷霧に聞いてみよう。

 「なあ氷霧。今、何クエスト目?」

 「ドラゴン戦が3クエストで、それ以外が2クエスト」

 それがなにか? 氷霧は無表情にそうつけ加えた。まあ、いきなりクエストの数聞かれればわけがわからないのも当然か。

 「いや、さっきからドラゴン戦の時だけさ、声が聞こえるんだよ」

 「声?」

 「そ、声。ドラゴンってゲーム的に特別なターゲットだから、そんなもんなのか?」

 困った時はパートナーに相談。しかし、大規模騎士団のサブリーダーである氷霧にも、解らないことはあるのか。このゲームはかなりの頻度でアップデートされるらしいからな。次々と新しいことが起こるため、氷霧ほどのプレイヤーでもゲームの全てを把握できるわけじゃない。

 「それ、イベントの一関かも」

 「イベント?」

 氷霧が口を開いた。因みに俺達は、全ての木が桜という森でブロッサムドラゴンを倒すクエストをしている。ブロッサムドラゴンは桃色のでかいトカゲで、あまり強くない。これは20匹とかまとまった数を倒すクエストだ。モンハンにもあったよな、こういうの。

 「あ、群れのボス」

 「ホントだ」

 イベントの内容を語る前に、氷霧はブロッサムドラゴンのボスを見つけた。少し大きい。

 「瞬殺する! イベント云々は後回しだ!」

 『嫌だ、嫌だ、嫌だ……』

 ブロッサムドラゴンに近寄ろうとすると、声が聞こえた。やはりこの声はドラゴンに近づくと聞こえるらしい。だが、今の俺はボスを倒すだけだ。

 『死にたくない……』

 『怖い』

 『何で……?』

 『戦いたくない』

 「な……! 身体が!」

 声を振り払い、ブロッサムドラゴンに切り掛かる。しかし、いきなり身体が震えだして動きが止まった。剣を取り落としてしまった。

 ブロッサムドラゴンが逆に飛び掛かり出した。墨炎の足は全く動かない。

 「しまった!」

 「【ペネトレイトアロー】!」

 氷霧が矢を放った。縦に並んだ矢がブロッサムドラゴンを貫いて、息の根を止める。

 「どうしたの?」

 氷霧が心配そうに俺を見る。震えはもう止まっていた。マジ危ない。

 「これ、ホントにイベントかよ……。随分ナンセンスだな」

 「これはシステムが用意した墨炎専用のイベント」

 「俺専用?」

 氷霧の言うことが本当なら、氷霧専用のイベントがあったり、他のアバター専用のイベントもあるはずだ。そうしたら、随分サーバーに負担がかかりそうだが……。

 ていうか、誰が作ってるんだ? プレイヤー事にイベント作るって、相当人件費かかりそうだが。氷霧は何となしに言った。

 「このゲームは脳波で動いている。だから、墨炎の脳波をシステムが読み取ってイベントを生成してる」

 「すげえ!」

 「今貴女は、その墨炎の起源に迫るイベントの真っ最中。アバターの過去に触れるイベントは、プレイヤーが全員体験する」

 アバターの過去。つまり、この世界で自分の分身が歩んで来た道を知るイベントだ。もう一人の自分を、裏の自分を知るイベント。

 『オリジナル、貴女の犯した罪は許さない。永遠に!』

 誰かの声を聞きながら。俺はちょっとそのイベントが楽しみになった。のだが、


 突然隕石が落ちて来た。


 「なっ……、ナンセンスな!」

 しかもこのフィールド内だぞ? 轟音を響かせ、隕石は地面を滑って停止したようだ。

 「来た、滅びの流星。メテオドラゴン」

 氷霧の呟きから察するに、乱入系エネミーだろう。クエストの途中で乱入してきて、ゲームバランスを掻き乱すアレだ。

 早速、メテオドラゴンのもとに向かう。同じフィールドならさほど遠くないはずだ。しばらく歩くと、隕石が滑ったらしい跡を見つけた。谷みたいに大きな溝になっている。おいおい、フィールドの形変わったぞ。

 「行く」

 氷霧が溝に足を踏み入れる。溝の側面をしばらく滑ると、氷霧は消えた。

 「あれ? 氷霧?」

 俺は慌てて側面を滑り、氷霧を探す。一応、側面は斜めになっているから、草の無い土手みたいなもんだ。しばらく滑ると、一気に風景が変わる。

 「なんすかここ……」

 「メテオドラゴン専用ステージ」

 先に下りていた氷霧が説明する。さっきまで滑ってきた側面は頂上が見えないくらい高くなり、地面もそこら中に溶岩が露出している。さっき、下りる前に見ていた溝はこんなに深くなかった。溝の幅も凄い広い。

 なるほど理解した。これはモンハンのラオシャンロンみたいに、この溝で進行するメテオドラゴンと戦うんだな。隕石があるだろう方向と逆方向には、なにか重要な拠点があるから守れって話に違いない。いや、この溝さ、隕石のあるだろう方向に深くなっていってないか? 坂道みたいに。ってことは、メテオドラゴンがはいずってくるから、それがこの溝を出るのを防ぐのか?

 「来た……!」

 メテオドラゴンが来た。溝一杯に幅のある、溶岩がダラダラ流れる大トカゲだ。しかも、歩く地面が溶けている。

 「どーすんのこれ?」

 「逃げる」

 氷霧は弓を撃ちながら逃げ出した。メテオドラゴンは意外に早く、おまけにこの溝はメテオドラゴンから逃げる分には上り坂なので、死ねる。

 「剣士はどうするの?」

 「剣士、涙目」

 『勝てない、みんな逃げて!』

 「泣けと?」

 ガンナーの氷霧には剣士がメテオドラゴンに抗う術などわからないか。おまけにメテオドラゴンは火の玉をガンガン吐いてくる。しかもオマケあの声が響く。

 「危ねー!」

 「直撃」

 火の玉が俺を直撃。吹っ飛んでメテオドラゴンから距離を取れたが、HPゲージが半分もってかれた。

 「しかも燃えてる!」

 熱くないものの、体がごうごうと燃えてHPをジワジワ削る。こりゃいかん。

 「【リバース】!」

 氷霧が技名を発声すると、白い光が俺を包んで炎が消えた。回復魔法があるのか。

 「助かった!」

 さて、メテオドラゴンを倒す方法を考えなければ。よく見ると、メテオドラゴンは口を開けたり閉めたりしている。なにか口に投げ込みたいものだ。

 「待てよ……」

 よく見ると、メテオドラゴンが吐いた火の玉が爆発したあたりに黒い球みたいなものがある。これでも投げ込んでみるか。

 「喰らえ!」

 俺は近くの球を、メテオドラゴンの口に投げる。球はバレーボールくらいのサイズなので、墨炎の小さな手では投げにくいが。

 それでもメテオドラゴンの口に球は入る。メテオドラゴンはそれを飲み込むと、胃の中で爆発したらしく、口から煙を吐き出した。

 「よし!」

 メテオドラゴンは後退して、自分が溶かした溶岩にはまった。これはチャンス。

 「行くぞ、【シザーネイル】!」

 俺はメテオドラゴンの目に向かって、技を繰り出す。堅そうな甲殻を避けるしか、初期装備の俺がこいつに太刀打ちする方法はない。

 技は目を上手く貫いた。メテオドラゴンもグラフィックが挿し代わり、目が破壊されているものになる。俗にいう、部位破壊だ。

 「【クラッシュアロー】」

 メテオドラゴンの額に氷霧の矢が刺さり、爆発する。額の甲殻にいくらかの傷が出来た。

 「【アローレイン】」

 今度は多数の矢が飛んでくる。矢が刺さったとこからは血が噴き出し、掠めたとこは傷がついてる。

 部位破壊だからグラフィックが挿し代わったわけじゃないのか。ダメージを受ける度、ダメージに応じて見た目を変える敵とは手の込んでいる。そういえば今まで倒した奴らもそんな感じだったな。

 恐らく、傷ついた姿を全てサーバーに保存していて、順次グラフィックに反映させてるわけじゃないのだろう。どういう仕組みかは知らんが。ただ、その方法だとサーバー要領を食うから違うと判断しただけだ。

 「え?」

 ちょうど、顔の傍にいた俺に向かってメテオドラゴンが口を開ける。そして、視界が赤く染まる。ブレス攻撃か!

 「くっ……!」

 『もう、嫌だ……!』

 声が頭に響くのと同時に、かなりのHPをもってかれる。ゲージは残り少なく、赤くなっていた。

 かなりヤバい。だが、またしても氷霧が呪文を唱えてくれた。

 「【ヒール】」

 光に包まれた俺は、ゲージの大部分を取り戻した。色も緑に元通り。これで勝てる!

 だが、氷霧の息が上がってるようだ。このゲーム、疲れは感じないはずだが。なにかあったのか? とりあえず声をかけよう。

 「大丈夫か?」

 「魔法は……はぁ、使うと、疲れる」

 「そうなのか?」

 そういえばこのゲーム、魔法はあるのにMPは無い。つまり、別の何かがコストとして支払われているに違いない。それが、プレイヤーの体力だ。実際に魔法を使い過ぎても過労死はしないだろうが、疲れをシステムによって錯覚させられるのだろう。

 これ以上氷霧に負担はかけられない。すると、氷霧がある提案をした。

 「墨炎。【リベレイション=ハーツ】って言ってみて」

 呼吸を整えながら氷霧が言ったことを、俺は実践してみた。恐らくなんかの切り札が発動すると期待して。

 「何か、自分の中で最も強い感情を思い浮かべて」

 「最も強い感情……」

 氷霧のアドバイスに従い、最も強い感情とやらを思い浮かべる。感情が壊死した俺が持つ、最も強く、唯一残された感情。憎しみ。

 渚を奪った弟の顔を思い浮かべ、俺はボイスコマンドを呟く。

 「【リベレイション=ハーツ】……!」

 そして、いきなり噴き出した赤い炎が俺を包んだ。赤く、朱く、メテオドラゴンのブレスより紅い。深紅のそれは、メテオドラゴンすらおののかせた。

 「うっ……」

 「凄い」

 細い腕の所々が裂け、紅い炎が噴き出る。腿からも血の様に炎が溢れ、痛みが無い分、よりリアルな感覚で炎が身体から出るのを実感出来た。背中の肩甲骨辺りからも炎は出ているようで、氷霧から見れば炎が翼の様に広がっているだろう。

 「ここまで純粋な感情は、始めて」

 氷霧が珍しく、感嘆の声を漏らす。

 「このリベレイション=ハーツは、誰にでも出来るけど、プレイヤーの持つ感情に結果を左右される。脳波をもとに感情を読み取るから、出来た技」

 「もしDPOがただのゲームなら目覚めるパワーみたいにランダムで能力決められていそうな技だな……」

 氷霧の説明に返すと、俺はHPゲージを見て愕然とした。凄まじい早さで減っている。そして、あっという間に尽きた。

 「なっ!」

 俺のアバター、墨炎が膝から崩れ落ちる。戦闘不能になると、強制的に倒れさせられるらしい。視界に『戦闘不能』の表情が映る。

 アバターの腕は焼け焦げ、腿も同様だった。これが現実なら確実に重傷だ。

 「【リベレイション=ハーツ】」

 氷霧が呟くと、背中から氷の翼が生える。白い弓にも氷が付き、全体的に俺のやつと違って優しさを感じた。システムに読み取らせた感情の違いか。

 「【ペネトレイトアロー】」

 氷霧が放った技は、先程ブロッサムドラゴンから俺を助けたもの。しかし、威力は段違いだった。矢はメテオをドラゴンをやすやすと貫き、凍り付かせた。

 「【リボーン】」

 氷霧の呪文で俺のHPがイエローゾーンまで回復する。氷霧は俺を見て言う。無表情ながら、俺を頼っているようだ。

 「よろしく。私の技は相性が悪い」

 「任せろ。【リベレイション=ハーツ】!」

 俺は凍ったメテオドラゴンに近づき、もう一度ボイスコマンドを発声する。前より時間は短い。一撃で決める。炎が身体を包み、HPの減少が始まる。

 「【ライジング、」

 振りかざした剣に炎が集まる。身体から過剰な炎が消え去り、背中の熱だけが残っていた。炎の翼は健在らしい。HPゲージの減少も緩やかになる。

 「……スラッシュ】!」

 剣を振ると、剣に集まった炎が巨大な剣を形成する。炎の剣だ。メテオドラゴンとだいたい同サイズ。現実の物で例えるなら普通の電車5両分だ。

 そのまま炎の剣でメテオドラゴンを切り裂く。メテオドラゴンは真っ二つ、どころか粉々に砕け散った。

 「あ……」

 氷霧が、今度は落胆の声を漏らす。このゲームでエネミーを倒すと、中には死骸が残る奴がいる。

 「あ、ヤベェ」

 メテオドラゴンやブロッサムドラゴンは死骸が残る奴らしいが、こんな風に死骸も残らないくらい思い切った倒し方すると死骸が残らず、死骸が粉砕する。所謂爆死だ。プレイヤー達がよくあるパターンで、『小型モンスターにロケットランチャー使って粉みじんにしちゃった~、テヘッ』ってやつがあるらしい。

 死骸が残れば、死骸の上にウインドウが現れてそれに触れればアイテムを回収出来る。武器や防具の生産に使う素材もだ。

 「倒せた、けど」

 「素材……」

 メテオドラゴンはなんとか討伐した。しかし、威力が規格外に高い技を使ったせいで、俺達は素材を取れずに終わったのだった。オマケに俺のHPが尽きた。

 「犬死に」

 ごもっともなことを氷霧は呟いたのだった。


 惑星警衛士 本部


 惑星警衛士の本部は戦国時代みたいな城だ。この騎士団を作った人は、かなり歴史が好きらしい。そこの医務室に、俺と氷霧はいた。

 「リーダーのセイジュウロウさんは外国人」

 「日本大好きなんだろうな……」

 完膚なきまでの和室、そこの布団の上で俺は治療を受けていた。どうやらこのゲーム、クエストで戦闘不能になった場合、こうやって包帯などのアイテムで治療する方がいいらしい。治療無しだと疲労度というパラメーターの増加具合が激増するらしいが、メニューにしか表示されないものに今は構ってられない。

 包帯などのアイテムは戦闘フィールドでは使えず、騎士団の本部やプレイヤーマンションでしか使えない。アイテム解説も『ダメージによる疲労度の増加を防ぎます』って書いてある。

 俺は大火傷を負ったので、腕や腿に軟膏を塗られ、包帯グルグル巻きにされた。治療時の服は惑星ごとに特徴があるらしく、ここでは簡潔な浴衣だ。

 俺は治療が終わるとすぐに服を着替えた。メニュー画面で服を『浴衣』から『ルームワンピース』へ、防具を『無し』から『レザーベスト』、『レザーブーツ』へ変える。

 このゲーム、前着てた『メイルパーカー』と違い服と一体になっていない防具もあったりする。俺が装備した『レザーベスト』や氷霧の胸当てなどだ。逆に、一体となっているのはカレンのドレスとか。

 「氷霧さん、こんなものが」

 いつの間にいたのか、ナイトが氷霧に手紙を渡した。そしてナイトは俺に向かって言った。

 「和服がいいが、まあ、それならギリギリセーフだろう」

 変更した服装はこんなん。厚手だった黒いワンピースは薄手になってる。下半身は膝までのブーツに、太ももにベルトで鞘をマウントしてある。鞘は切っ先の方を上に向けてある。

 革製の、ノースリーブの上着を羽織り、なんか前より可愛くなった気がする。赤の装飾で色合いのバランスもいつも通り。ベルトとかの金具も赤。

 ただ、包帯は残っている。時間が経つと無くなるらしい。

 コンセプトは、和風な山賊。こんな山賊なら襲われたい?

 「墨炎。明日空いてる?」

 氷霧が手紙を読んでいった。着替えたことは、黙殺された。せっかく店で集めたのに。金を使い過ぎて、おかげで武器は初期のままだ。

 「空いてるが?」

 「挑戦状が届いてる」

 挑戦状、新たな戦いの臭いしかしないその言葉を、氷霧はサラリといった。

 次回予告

 サブリーダーの氷霧。これから次回予告。

 学園騎士のリーダー藍蘭が挑戦状送ってきた。仕方ないから、墨炎とアトランティックオーシャンへ行く。

 次回、ドラゴンプラネット。『学園のアイドル』。今度もきっと、墨炎が勝つ。

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