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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
119/123

視界ジャック18 それぞれの完全決着

 対戦カード

 クイン&レジーヌ対平和

 赤介&青太郎&緑郎対楼碑嵐

 SEA対上杉季節

 墨炎対リディア

 DPO メインサーバー内部


 「リディア!」

 「遊人!」

 メインサーバー内部に再現されたデステアの上空、リディアと墨炎は翼を広げて激しくぶつかり合う。

 「何故弐刈を殺した!」

 「邪魔だからよ!」

 墨炎の剣は新しくなり、白く輝いていた。コズミックドラゴンの素材でシロクロツインズを強化した『コズミックツインズ』だ。墨炎はそれの柄を連結、ツインランスモードにする。

 「弐刈はお前を愛していた、なのに!」

 リディアの槍が押し切られる。上空の戦いは激しさを増していた。

 「【リベレイション=ハーツ】!」

 リディアがリベレイション=ハーツを発動し、墨炎へ突撃する。紅い光と白い光が弾け、二人の姿が掻き消える。

 一方、地上では大臣達との戦いが決着を迎えようとしていた。

 クインは防衛大臣、平和と戦っていた。量産型レジーヌは全て撃墜されていたが、それでも優位は変わらない。スクランブル交差点の戦いは終局を迎えていた。

 「それがあんたのリベレイション=ハーツ、平和への祈りかい?」

 「平和は何より尊いのだ!」

 防衛大臣は明らかに平和とは掛け離れた姿をしていた。まるで幽霊が取り付いた西洋の甲冑の様な、亡霊然とした姿であった。

 「そりゃ平和っていうより盲信だよ。平和憲法持ってりゃ何処の国も攻めて来ないと思ってんのか? そりゃ逆だよ。始めから戦う用意が無い上に豊かな国は狙われる。その先にあるのは平和と程遠い、殺戮の光景だ」

 「だとしてもそれは仕方ない。日本は60年以上も前に世界に酷いことをしました。そうなったら、それは贖罪として受け入れて死ぬべきです」

 防衛大臣は鎧の裏から本音を語る。それがさも当然の様に。この女は自己満足の為に国民を差し出すこと、いや家族の命すら惜しまないだろう。

 「救えない奴だ。戦争に善悪は無い。ただ、戦争を起こしたという悲劇だけが残る。一方的に攻められたとしても同じことだ。だからみんな大事なものを守ろうと武器を手にする」

 「なら戦争を起こしたかつての日本こそ悪なのです!」

 クインが戦争に善悪は無いと言ったばかりなのに悪を決める防衛大臣。確かに日本は戦争を起こしたが、あまりにも当時の状況や考察をすっ飛ばした発想だ。

 「結局、戦争で勝った国がしたことは全て正義にされる。だから善悪なんてものは無い! 終わりにしようぜ、こんな不毛なこと。【リベレイション=ハーツ】!」

 クインがリベレイション=ハーツを発動すると、隣にいたレジーヌの姿が光に包まれて変わる。レジーヌは巨大なスナイパーライフルに姿を変えた。

 「やはり死の商人の娘に、その心は相応しい!」

 「例え核の傘だろうが軍事力による均衡だろうが、戦争が起きてないのは事実。どんな形でも、戦争しないことが正義じゃないのか?」

 走り来る防衛大臣にクインは標準を合わせる。レーザーポインターは甲冑の兜に照射され、いつでもヘッドショットが狙える。

 「戦うことも、武器を持つことも愚か! 武器を持たねば争いにならない! それでも攻撃されたら攻撃された方にこそ非がある! それが人殺しの兵隊共にはわからんのだ!」

 「馬鹿め!」

 防衛大臣は槍を両手に、クインへ切り掛かる。二人の間は広く、クインなら接近される間に狙撃可能だ。

 「軍隊持ってんのも威嚇の為だろ! どの国もそれで牽制し合って大事なもん守ってんだ、どこの兵隊も手を汚して命懸けて家族守ってんだ! そいつらを人殺し呼ばわりする資格は、てめぇには無い!」

 「軍隊など無くても国は守れる!」

 「じゃあ軍隊持ってない国答えろよ!」

 二人の距離が詰められる。クインは問い掛けながら、狙いは反らさない。防衛大臣は銃口のすぐそばに近付いた。

 「スイ…」

 「残念ハズレ」

 防衛大臣が『スイス』と答えようとした瞬間、クインは引き金を引く。太く青い光線が銃口から吹き出し、防衛大臣の身体が包まれた。

 「ウゴオォォォ!」

 「スイスは永久中立国だが、中立を守る為の軍隊はある。そして一家に一丁アサルトライフルもあるし、町は防衛の為に設計されてる。名前に躍らされたな」

 防衛大臣は鎧ごと蒸発する。後に残ったのは被る人間がいなくなった兜。それは戦場となったスクランブル交差点に音を立てて落ちる。クインはその兜を踏み砕いた。

 「まだあたしもたかだか14年しか生きてない中坊だ。主張だって固まってないし未熟だ。異論や反論もあるだろう。だがな」

 クインは風に散った兜を一瞥して呟く。光線の熱が彼女の肌を刺し、熱い空気が髪を撫でる。クインは彼女らしい強い口調で断言した。既に亡き平和主義者ぎぜんしゃに向けて。

 「戦争の現実も平和の実態も知らない奴が、平和を騙るんじゃねぇよ。あたしにはまだ、平和も戦争も語れない」


 ????


 「ここは……何処だ?」

 墨炎はいつの間にか、研究施設らしき場所に飛ばされていた。背中の翼は消えている。周りに胎児が浮かぶカプセルが並べられ、墨炎が生み出された場所の様な雰囲気を醸し出す。

 その中に、一つだけ成長したものがあった。赤い液体に浮かぶ身体は、幼くあるが長い金髪と顔立ちがエディに似ていた。

 「ここは……リディアが生み出された場所か?」

 墨炎/直江遊人は考える。今遊人が思えば、墨炎のプレイヤークエストはクローンとして生み出された遊人の潜在的な記憶をシステムが読み取り、墨炎が人工生命体というキャラ付けをした結果なのだろう。

 「そう。私はこの施設で生まれたの」

 墨炎が見つめていたカプセルが砕け、その向こうにリディアが現れる。白い翼を広げ、まるで天使の様だ。だが、表情は天使のものと真逆、静かな怒りに満ちていた。

 「私はあんたを、インフィニティ能力の研究用クローンを生み出す前段階で生み出された、クローンを作る為のプロトタイプなの」

 「プロトタイプね……。あいつほど人生楽しんじゃなさそうだ」

 墨炎が皮肉っぽくいうと、リディアは槍で切り掛かった。墨炎もそれを剣で受け止める。

 「楽しめるわけないでしょ……? これはゲームじゃないの。不完全なクローンがどれだけ苦しいか、完成品のあんたにはわからない!」

 「ああわかんね。人の気持ちなんて感情がある奴にもわからないんだから、感情が壊死した俺にわかるか!」

 墨炎はリディアを押し返す。距離を開けた二人の間には砕けたカプセルと零れた赤い液体、そして身体を裂かれた幼いリディアがあった。

 「俺は『今頃餓死する子供が』とか『学校に行けない子供を救うには』とか、考えるんが大嫌いだ。そいつらの気持ちがわからないのに、手前勝手に考えてわかったふりして善人ぶる。そんなこと考えるより、自分の人生楽しもうぜ! 俺だって、一応『余命幾許も無い少年』だったからな、よくわかるぜ!」

 墨炎がリディアに切り掛かり、二本の剣をリディアが槍で防ぐ。

 「【リベレイション=ハーツ】」

 墨炎がリベレイション=ハーツを使うと、紅い翼が再び背中に現れた。そして、翼から弾けた炎がリディアを吹き飛ばす。


 オフィス前


 クインと防衛大臣の決着が着いた頃、SEAと上杉季節は破壊されたオフィスの残骸をさらに撒き散らしながら激闘を繰り広げていた。

 「くっ、敵の数が多過ぎる!」

 「圧倒的な力に頼る癖は直ってないようだな!」

 SEAは傷付き、残骸の上で膝を着いた。表五家側のプレイヤーが多くて季節へ辿り着けない。先程のブルートソードでエネルギーも枯渇していた。圧倒的な力に頼るあまり、接戦に弱いSEAの弱点を季節は見抜いていたのだ。

 プレイヤーの一人がSEAに剣を突き立てる。彼女は左腕のシールドで防ぐが、押し切られている。

 「うああっ……! ここまで…なの?」

 シールドが弾かれ、SEAは身体を左肩から右脇腹にかけて斜めに斬られる。HPも少なく、ペインアブゾーバーを持たない彼女は痛みで意識が遠退く。

 「SEA!」

 「来てやったわ!」

 その時、SEAにトドメを刺そうとしたプレイヤーが吹き飛ばされる。そしてSEAの前に立ったのは、藍蘭とスカーレットだった。

 「遅い! 何処で道草食ってた!」

 嬉しい気持ちを押し殺し、SEAは悪態を付く。スカーレットの友人を沢山殺した彼女には、スカーレットに助けてもらって嬉しいとは素直に思えないのもある。

 「いや藍蘭が道に迷ってね」

 「私のせいにすんなや」

 スカーレットと藍蘭はあっという間に表五家のプレイヤーを片付ける。残るは季節一人。

 「勘違いするな。私はお前を自分で殺す為に来た」

 「それでいい。私もルナを助けるには死ぬしかないからな。あいつの傍にいてやれないのも、罰として受け入れる。痛ぶってくれて構わない」

 SEAは立ち上がらず、そのまま倒れる。藍蘭は季節を見据えた。実は二人共、元円卓幹部からSEAを唆したのが季節であると聞かされていた。

 「スカーレット、私が決めれることじゃないけどさ、SEAは季節を倒すことで許してあげたい。あいつだって人間になりたいって気持ちを利用された『表五家の被害者』なんだ。あいつの気持ちがどれほどのものか、あんたも見てるし」

 「季節倒してから考える」

 藍蘭はスカーレットに提案したが、スカーレットは言葉少なに保留した。仲間を殺した張本人を、事情を知ったところですぐには許せない。

 「おい、お前ら! SEAは仲間を殺した犯人なんだぞ! 何でそいつを先に殺さない!」

 「あいつは例え、傷が無くても逃げない。でも、あんたは逃げるからここで仕留めるんだ」

 慌てる季節に藍蘭が釘を刺す。季節程度の人間に、藍蘭とSEAの間に芽生えた奇妙な『信頼』は理解出来ない。一度死闘を繰り広げた両者は、互いの気質がよくわかっていた。

 「クソッ! こちとら返り咲く為に何でもしたんだぞ! 妻と娘の春香を大規模な事故に見立てて殺したのも、悲劇の父親を演じてテレビに出る為だ! その妹達を、夏恋を切り裂き魔にして表五家へ逆らう人間を始末させたのも、秋穂に政治家達の相手をさせて気に入らせたのも、冬香をサイバーガールズにしたのも全部!」

 「どうしよう。SEAに向けてた憎しみが全部そっち行った」

 スカーレットは季節のクズっぷりが想像を絶したので、SEAを恨むに恨めなくなっていた。スカーレットは迷い無く、義手の右腕を季節に向ける。

 「この義手って、メインは飛行能力なの。ただ、自由度や操作性は『天使皇の光翼(ウリエルウイング)』に負けるけど。さらに対空防御として、バルカン付き」

 スカーレットは義手のバルカンを季節に乱射する。ダメージが少なく、ただただ対空防御でしかないそれは、実弾なのに季節のHPを全然削らない。

 「ギャアアアッ!」

 改造ウェーブリーダーの使用でペインアブゾーバーが無い季節に、ピストルで撃たれた時と同等の痛みが襲う。オマケにこのバルカンはダメージが1で固定なので、苦悶は永遠に続く。

 「お、おのれ……!」

 「チッ、弾切れか」

 弾切れを確認したスカーレットは左腕のバルカンを使い始めた。それも使い果たしたので、脚からミサイルを出す。

 「グガガガカァア!」

 本来、ミサイルなど受けたら死んでしまうが、DPOの対空ミサイルは誘導兵器である代わりに威力が低い。季節のHPは半分も減ってない。

 「藍蘭、任せた」

 「OK、スカーレット! 【リベレイション=ハーツ】、【死刃舞】!」

 右手に三本の刀を握る絶爪、それを発動した藍蘭は踊る様な動きで季節を切り裂く。赤い影が雷の青を纏いながら、刃と共に舞い踊る。死刃舞は発動後しばらく、相手を出血させる効果が付与される。藍蘭はその効果がある間、技を使い続ける。

 「【袈裟斬り】、【大雀蜂】!」

 「ギィイヤアアアッ、イタイッ、グバァアア!」

 大量出血して苦しむ季節。ペインアブゾーバーが無いと、出血と雷の痛みがこうも激しいとは。制作したインフェルノスタッフも想定してなかっただろう。

 「藍蘭、どいてて! 【スカーレットソード】!」

 スカーレットが右手を空に掲げ、大剣に変形したボードをキャッチする。ボードは義手義足を装着した時に追加された装備だが、すっかり忘れられていた。ボードは青いビームを纏い、一回り刃渡りが大きくなっていた。

 「なぶっ! り、【リベレイション=ハーツ】…」

 季節はスカーレットに真っ二つとされる。だが、黄色い粘液が季節の身体を繋ぎ止め、再生する。

 「再生の余地は与えない! スカーレット、ボード貸して!」

 藍蘭はスカーレットからボードを借り、それに乗って季節へ突撃する。ボードから三本のビームサーベルが飛び出し、藍蘭の左手に絶爪と同じ形で握られると青いビーム刃を出す。

 「【カーマインストライカー】!」

 青いビーム刃がボードからも現れ、いくつもの刃が季節を狙う。季節は黄色い粘液で身体を再生している最中だったため、避けることが出来ない。

 「吹き飛べ!」

 藍蘭が季節に激突し、大爆発を起こす。季節は粉々に吹き飛び、黄色い粘液すら焦げて無くなる。


 ????


 「【リベレイション=ハーツ】」

 リディアを翼の炎で吹き飛ばした墨炎だが、直後にリディアがリベレイション=ハーツを使った。墨炎の視界が光で遮られ、その光が晴れる頃には景色も変わっていた。

 研究者が泊まる宿舎の廊下らしい。いくつもの扉が無機質な廊下に並ぶ。

 「なんだ?」

 墨炎は妙な感覚に襲われ、無意識に扉の一つを開けていた。そこには、ベットと生命維持装置があった。ベットにはリディアらしき幼い少女が横たわっていた。全身にコードなどが巻き付き、生命維持装置に繋がれている。

 「リディア?」

 「私は生きられない。だから、私が死んだ後も生き続ける世界を殺す」

 横たわるリディアは虚ろな瞳で呟いた。また光が墨炎の視界を覆い、景色が変わる。辺りが真っ青な空間に墨炎は立っていた。床は緑色の数列で、空間の真ん中にコンピューターが付いた柱がそびえる。

 「このコンピューターでミサイルを隣国を狙う。そうすれば戦争ね」

 リディアはコンピューターを操作していた。おそらく、ここはメインサーバーのコアなのだろう。コアのコンピューターでミサイル迎撃システムを操作出来たはずだ。

 「リディア! ミサイル迎撃システムでは隣国に届かないぞ!」

 「届くか届かないかが大事じゃない。ミサイルが向けられたという事実があれば戦争になる。日本の隣国はいずれも核保有国。また、日本の同盟国もね。核戦争が起これば、私の生きた痕跡が残る!」

 「っ……!」

 墨炎を振り向くリディアの瞳に光はなかった。生命維持装置に繋がれていたリディアの瞳と同じだ。

 「てめぇは、どこまでナンセンスなんだ!」

 墨炎が剣を抜くと、リディアも両手に二本の槍を持つ。リディアの頭上に天使の様な輪も現れる。リディアの命が削れていくことを表しているのか、それとも。

 「あなたを倒さないといけないみたいね」

 柱は床下に沈み、空間には墨炎とリディアだけが残された。墨炎はリディアに走り寄り、先制攻撃を仕掛けた。

 「【ライジングストライク】! 【シザーアドバンス】!」

 右手の剣を振り、リディアの槍を一本弾き飛ばす。そして、左手の剣がもう一本の槍を貫いた。


 路上


 メインサーバーの路上では財務大臣、楼碑嵐とナハトの舎弟チームが戦っていた。

 「ちっ、小賢しい!」

 嵐の乗り物である神輿は青太郎の鎖で止められた。

 「俺の『凌辱の首輪』をさらに有効活用する『ストリングスの手指』! こいつがあれば手先をシステムがアシストして、どんな細かい作業もちょちょいのちょいさ!」

 青太郎の使ってる革のグローブにはシステムの恩恵を受ける機能がある様だ。『ストリングスの手指』、本来ならゲーム内で手に入れたプラモデルを作る際、不器用な人のための救済措置として用意された手袋だ。それを武器の鎖と組み合わせるというのはユニークな発想である。

 赤介、緑郎が気を引いてる間に、神輿を鎖でグルグル巻きにしたのだ。これで嵐は、神輿を使えない。

 「くっそー、せっかくのリベレイション=ハーツが……」

 「終わりだ! 【燻銀】!」

 赤介が木刀で嵐を殴り飛ばす。かなりの距離を吹き飛んだ嵐だが、その先に緑郎がいた。

 「【バスターホームラン】!」

 嵐が地面に着く前に、緑郎が金属バットでまた殴り飛ばす。嵐はさっき吹き飛んだ道を逆戻り。赤介の方へ戻ってきた。

 「オーライオーライ。【燻銀】!」

 嵐はまた吹き飛ばされて緑郎の元へ。

 「【バスターホームラン】!」

 もう一度吹き飛ばされて再び赤介の元へ。

 「【燻銀】!」

 また吹き飛ばされて緑郎の元へ。

 「【バスターホームラン】!」

 「【燻銀】!」

 「【バスターホームラン】!」

 赤介と緑郎にボレーされて、嵐は延々と空を飛ぶ。まるで羽子板の羽みたいに扱われていた。こんな体験、金を出してもなかなか出来ない。赤介達の連携あってこその技だ。もちろん、嵐も改造ウェーブリーダーを使ってるので痛い。

 一方、真夏は白いドレスの裾を振り乱しながら、文部大臣を嵌め殺していた。文部大臣は空高く打ち上げられている。

 「【リベリオン】」

 文部大臣が落ちてくる度に、その落下地点へ寸分狂わず移動して大剣を振り上げる。敵を打ち上げる斬り上げの技で、文部大臣は真夏に反撃する機械すら与えられてない。一応斬られているので、嵐より百倍は痛いはず。

 「さあさあお立会い! 世にも珍しい人間サーカスだよ!」

 「……」

 「なんであんなことできるんだろう……」

 田中丸、ハルート、マルートも周りにいる表五家側プレイヤーを倒していく。倒された彼らからすれば田中丸達は裏切り者。だが、始めから表五家を欺くのが目的だったため、その認識はお門違いだろう。

 「妹が唯一安らげる世界は、守らせてもらう」

 fがネクタイを緩めながら、長太刀で敵を斬る。妹、氷霧はインフィニティ能力の弊害で電波や電磁波に敏感。だからこそその両方が無い世界を守りたいのが兄の思いだ。

 「楽しいじゃないですかぁ。人がゴミみたいでぇ」

 紅憐は火の玉を飛ばして敵を粉砕する。DPOの消滅は則ち、『紅憐』という人格の消滅を意味する。ここを失えば、二度と『紅憐』には成れない。

 「氷霧さんの邪魔はさせない!」

 ナイトはサーベルで一人ずつ片付ける。ナイトと氷霧の接点は唯一、DPOのみ。宇宙の消滅は多くの絆の消滅とイコールでもある。

 「あんたら…皆の仇だ!」

 「ここで全部終わらせなきゃ、お彼岸にお墓参りで皆に合わす顔ないわ!」

 彩菜が槍で敵を貫き、ユナがサブマシンガンで援護する。大した装備の無いユナだが、それでも戦う。表五家の犠牲になった人達の為にも。

 「俺だってやるさ!」

 「こんなチャンス、滅多に無いもんね!」

 ギンやメイを始めとする多くの一般人も戦いに参加していた。一人ひとりは小さくても、集まれば大きな力になる。


 その様子をビルの屋上から見下ろす人影があった。赤いドレスの女性アバターと、黒いコートの男性アバターだ。

 「夏恋、もう大丈夫なのか?」

 「アイドルに本気でメアド交換を迫る部長に心配されるほどじゃない。行くよ」

 二つの影がビルから飛び降り、戦場に加わる。上杉夏恋は自らの手で、過ちに決着をつけに来たのだ。


 「ちっ、やっぱり数多い! こりゃ死ぬんじゃね?」

 夏恋達がいたのとは違うビルの前で、プレイヤーが苦戦していた。黒のギリースーツを着たプレイヤーは、後退りしながらショットガンに弾を篭める。

 その時、ビルから誰かが飛び降りて、着地と同時に敵を一人斬った。人影はコートを着てズボンをはいている少女らしく、黒と青のグラデーションが美しい長髪をなびかせてプレイヤーの方を向く。手にしているのはビームサーベルだ。

 「助けに来たぜ! 誰が呼んだか救世主の俺がな!」

 男優りな口調で仁王立ちする彼女は、かつて遊人が墨炎故障時に使ったアバター、メアだった。

 メインサーバー コア


 メインサーバーのコアで繰り広げられた戦いは決着を迎えた。

 「ぐっ……はっ!」

 墨炎の身体に白い羽がいくつも突き刺さる。槍を破壊して、リディアを追い詰めた墨炎。だが、リディアは翼から羽を飛ばして攻撃してきたのだ。墨炎を見据えるリディアの鎧がボロボロなのも、戦いの激しさを物語る。

 「油断した?」

 「せめて理に適った行動しろよ……」

 普段の墨炎/遊人なら不意打ちでも、その予兆を『観察眼アナライズ』で察知出来た。だが、リディアを説得しようと警戒を解いていた上に、『翼から羽を飛ばす』という現実では有り得ない、予兆も何もあったもんじゃない技を使われたため、対応出来なかったのだ。

 「能力のスキを突いたか。普段なら、見事、くらい言ってたな。だが一度見たら対策はバッチリだ、連コインさせてくれ」

 「無駄よゲーマー、ここでゲームオーバーだもの。世界が」

 墨炎のHPは0。ルールに従い、スタート地点であるスクランブル交差点に戻される。墨炎の身体が消えた瞬間、リディアはふと何かを感じた。

 「太陽の……香りがする。きのせいよね」

 リディアはフラフラと歩き出した。墨炎から受けたダメージは重く、全身に鈍い痛みが走る。改造ウェーブリーダーを使ってるため、ペインアブゾーバーが働かない。

 「こんなにいたいの、ひさしぶりだなあ……。まえにつかまってごーもんされたときいらいね」

 リディアは弱々しく翼をはためかせ、空間に開いた穴に飛び込む。穴は宇宙の様な空間で、星々の代わりにDPOのフィールドを映した画面が浮かぶ。その最奥に、もう一つの穴があった。リディアはそこに入る。

 「ここは? コアはあるけど、何ここ」

 そこに、確かにコアである柱はあった。だが、円柱状の空間の壁には大量のカプセルが敷き詰められている。中には人が入っていて、所々空のカプセルもあった。痛みが引いたリディアは思考をようやく巡らせる。

 「もしかして……アバター?」

 空のカプセルを見たリディアが察する。空のカプセルには人の代わりに『LOG IN』という文字が入っていた。

 「やっぱり、アバターだ。だったら本物になっとかないとね」

 リディアはすぐさま翼を広げて空間を飛び、『R』の列を探した。エディのアバターの名前は『ラディリス』。それは彼女の母の名前である、そして、ラディリスはリディアのオリジナルでもあった。

 『R』の列にはラディリスの姿は無い。リディアはエディが日本で育ったことを思い出し、『ら行』の列を探した。そこには、確かにラディリスのカプセルがあった。だが、あったのはカプセルだけ。ラディリスはいなかった。カプセルに浮かぶ『LOG IN』の文字が、事態を物語る。

 空から落ちて来た白い羽がリディアの思考を打ち切る。DPOにおいて超レアでは済まされない天使皇の光翼(ウリエルウイング)を所有するのは、自分とエディだけだったはずだ。

 「まさか……」

 リディアは空間の上空を見上げる。そこにいたのは、翼を広げた鎧姿のアバター。辺りを照らす光を反射したオレンジの髪が靡き、まるで太陽の様だ。

 「まさか!」

 リディアは直感する。自分のアバターに似ているその姿、自分が敢えて真似した天使の姿、その姿こそラディリスだ。

 ラディリスは翼を力強くはためかせ、リディアに急降下した。降り注ぐ羽の中に、紅い羽が混じっているのは気のせいだろうか。

 「貴様がエディになろうなど……」

 ラディリスが手にしているのは双剣。それを振りかざし、ラディリスはリディアに突き進む。

 「ナンセンスだな!」

 「この……ゲーマーが!」

 リディアは降り立った本物のラディリスと対峙した。だが、動きに妙なデジャヴュがある。ラディリスは槍を武器にするはずだが、このラディリスは双剣を手にしている。

 「行くぜエディ! 言われ無くても!」

 ラディリスから二つの声がした。一つは墨炎、もう一つは自分によく似た声だ。

 「まさか…エディ? 遊人とエディが同じアバターを動かしている?」

 リディアは頭に浮かんだ仮説を否定した。エディは死んでいる。それはリディアだってわざわざ岡崎まで来て確認したことだ。だとすれば何か?

 「残留脳波? サイバーガールズの時みたいに?」

 「そうさ! ラディリスに残ったエディの脳波が、ラディリスを俺に届けてくれたのさ!」

 「もう、何でもありか!」

 リディアは絶妙なタイミングで襲い掛かる二本の剣を槍で防ぐ。ラディリスは攻撃に翼の推力を乗せているので、一撃一撃が重い。

 エディの脳波はラディリスに残っていた。残留脳波がアバターを動かすのは前例があることだ。だが、その前例だってプレイヤーが死んだアバターをSEAがハッキングで操ることでログインさせたもの。ウェーブリーダーからの脳波が無いとログインは出来ないはず。

 「エディは死ぬまでログインし続けた! だから残留脳波の量もログイン可能なレベルに達する!」

 「クソッ! 今更本物が!」

 リディアは攻撃を防ぎ続けた槍を折られた。

 「【リベレイション=ハー、がはっ!」

 「これ以上戦わせるか! お前の為にも、弐刈の為にも、そして新しい命の為にも!」

 「新しい……命?」

 リベレイション=ハーツを使おうとしたリディアに、ラディリスの左手のパンチが突き刺さる。リディアには墨炎の言葉の真意がわからなかった。

 いつの間に手にしたのか、ラディリスは右手に愛用のロンギヌスを持っていた。

 「うっ……なんだ、また気分が……」

 リディアは上空へ飛び上がり、撤退を試みた。突然気分が悪くなり、翼の制御が覚束ない。一方、ラディリスは遊人とエディの二人で動かしてるので、的確な制御でリディアを追った。

 「【リベレイション=ハーツ】!」

 ラディリスがロンギヌスを構える。ロンギヌスには紅い翼が生え、槍の先端も紅い光に包まれていた。

 「俺が威力を乗せる。エディはリディアと『子供』を頼む!」

 ラディリスは翼を広げ、一気に加速する。上へ飛翔するリディアにすぐ追いつきそうだ。リディアはひたすら飛んだが、ラディリスほど早くならない。遂に、ラディリスはリディアに肉薄した。

 「「ゲームオーバーだ!」」

 逃げようとしたリディアの背中を槍が貫く。不思議と痛みは無かった。暖かいものが身体に流れてくるのが、リディアにわかった。ラディリスはリディアを突き刺したまま上空へ飛ぶ。

 「さようなら、エディ」

 そう呟いた墨炎の声を聞きながら、リディアはゆっくり目を閉じた。

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