50.未来への歩み
決戦 ルール
・参加者は『プレイヤー』と『表五家』に別れて参戦。
・ログインはログインアプリの特設バナーから。
・戦闘フィールドはDPOのメインサーバー。
・『表五家』はメインサーバーの最深部にあるコアを破壊すれば勝利。全滅したら敗北。戦いを有利に進める設備を利用すべし。
・『プレイヤー』は表五家側を全滅させたら勝利。コアが破壊されたら敗北。プレイヤーは戦闘不能になっても復活可能。
・メインサーバーのコアを破壊されるとDPOは崩壊するので注意。また、コアのコンピューターで自衛隊のミサイル迎撃システムを操作できる。
・メインサーバーでは、リベレイション=ハーツのリミッターが掛かっていないので好き勝手してよし。
DPO メインサーバー内部
私達は決戦当日の午後4時。最終決戦の舞台に立った。DPOメインサーバー内部、プログラムの知識が無くてもメンテナンスが出来る様に、全感覚投入システムに対応している。
周りの景色は東京の様な大都市、しかし空は地下街の天井そのもの。私達『プレイヤー側』プレイヤー全員がいるのはスクランブル交差点の真ん中だった。
「渚がリフォームしたって言ってたな。ここは地下都市デステアと同じ間取りになってる。ここの事故が、全ての始まりだったんだ」
直江先輩は周りを見渡して言った。ここが全ての始まり、エディさん以外の人間が死んだ事故があったからこそ順さんも表五家打倒を考えた。そのデステアがここか。
「あれ? 服装かえました?」
「最終決戦仕様だ。名付けて、墨炎ヘビーウエポンシステム!」
直江先輩のアバター、墨炎は装いがいつもと違う。パーカーは黒だけど、いつもの様にワンピースではない。女の子らしい黒いプリーツスカートをはいて、靴はいつものブーツを履いてるけど剣は太股のベルトに留めてない。ニーソックスを履いている。剣はスカートのベルトに留められている。
「しかもフードに付いてるネコミミが索敵スキルを強化するんだ」
「おおー」
直江先輩はフードを被った。ネコミミフードとはこれまた可愛らしい。直江先輩も墨炎のキャラクター性を理解し始めたか。赤淵眼鏡もあざとい。
「スペビアシーを狩りまくって、防具のパーカーとスカートを手に入れたし、武器も藍蘭から貰ったコズミックドラゴンの素材で強化だ」
「よっす。なんだ、二人して装備変えたん?」
「あ、藍蘭さん」
噂をすれば藍蘭さんがやって来た。この人は装備変えてないね。私も実は装備を変えたんだ。
ジャケットとズボンが変更になった。ジャケットはパーカー付きの白いロングコート、ズボンは黒くて裾が長い。足を見せるのは抵抗があった。本当は中に着ている丈が短いタンクトップも長くしようかと思ったけど、零が「それ着てジャケットの前開けたら反体制派みたいでカッコイイ」って言うからやめた。
首からゴーグルもかけてみる。ズボンのベルトに薬を入れたポーチも留めた。この白いジャケットはグレリアスの素材、新しいナックルはボスバイスシャークの素材だ。黒い革のグローブみたいな、シンプルなデザイン。
実は昨日、ナックルを作る為にボスバイスシャークを狩ったら『反逆の精神』なんて素材が出て来た。何と無く、私は弐刈さんを思い出した。弐刈さんが死んだのは私がボスバイスシャークを倒した日、そのボスバイスシャークからそんな素材が出て来たら、何だか弐刈さんが応援してくれてる様な気がした。
「おーい、理架!」
「零!」
零達が来た。いつもの服装だけど、このくらいの方が私も落ち着く。だけど、全員の武器は強化されていた。
「もうすぐだな。番長を救ってくれて、ありがとな」
「え? いや私は……」
赤介さんが柄にもないことを言う。私は何もしていない、お母さんに発破をかけられなければ私も死んでいた。
「番長は俺達の希望だ」
「番長が治ったら俺達も完治の可能性がある。俺達同じ病気の仲間のな」
青太郎さん、緑郎さん、多分赤介さんも零と同じ病気なんだ。零が一番病気の進行が早いみたい。
「お礼なら、私のお母さんに言ってよ。ちゃんと病気を治してお墓参りに来るか、それか生き切ってから天国で、ね」
「そうだな。この戦いに勝てば病気を治せる希望が見える。俺は他の難病で苦しんでも表五家のせいで治せない奴らの為に、未来を切り開く」
そうだよね、赤介さんの言う通りだ。表五家が停滞させた未来を私達が動かすんだ。
「始まるぞ」
直江先輩は腕時計を見て、開始の時刻が近いことを私達に告げる。いよいよ始まるんだ、私達の未来を賭けた戦いが。
「見てきたけど、メインサーバーのコアはこのスクランブル交差点をあっちに行ったビルの地下にあるらしい。表五家はこの情報を知らないから、探すとこから始める必要がある」
クインさんがコアの場所を見つけてきた。私達はそれを守ればいいんだけど、守りを固め過ぎると場所がバレるね。
「ならば、場当たり的に迎撃する。幸い、表五家が全てのビルに入るには扉を破壊する必要があるから簡単に出入りできない。コアがある地下も見つかりにくいとこにあった」
氷霧さんも直江先輩の隣に並んだ。それなら、確かに場当たり的に敵を倒した方がいい。作戦無し作戦だ。
「渚のことだ。ナンセンスにも表五家側に与えた『戦いを有利にする』施設も俺達がなんかすればこっちが有利になる可能性がある」
「あの渚さんがわざわざ平等に戦力を与えるとは思えませんからね」
私も渚さんのことを思い出してきた。渚さんは希望を絶望に変えることが大好き、表五家に与えた希望をこちらが絶望に変えることができたなら、それはあの人の思惑通り。
「時間だ、来るぞ!」
遂に決戦が始まった。私達プレイヤーの塊から飛び上がる影があった。翼を生やして羽ばたく姿……まさか!
「リディア! 【リベレイション=ハーツ】!」
直江先輩がリディアさんに向かって飛ぶ。リベレイション=ハーツで赤い翼が生えた。
「こっち側に付いて裏切れば、有利になると思ってたんだよね!」
「コアの場所を知ってるお前を表五家側のプレイヤーに合流させるわけにはいかない!」
私達の頭上で二人は火花を散らす。直江先輩は純粋にゲームを楽しんでるように見えたけど、リディアさんからは重苦しさを感じる。飛んでいるのに、重力に引かれている。
「あの時の軍勢まんまか、芸が無い!」
零は飛び込んで来た敵を薙ぎ倒す。惑星警衛士本部を襲った新生円卓がそのまま、表五家側のプレイヤーになっているみたいだ。表五家が用意出来そうなのはそれくらいだし。
「どけ、この平和に対する犯罪者どもが!」
汚い言葉を吐いてこちらへ向かって来るのは防衛大臣。鎧で身を固めて槍を振り回している。私は敵を認知するため、アバターの頭上にプレイヤーの名前が表示されるようにしたのだ。
「言ってろ、平和ボケ! レジーヌ!」
「敵機確認、排除する」
クインさんとレジーヌと呼ばれた女の子が防衛大臣の前に立つ。レジーヌは背中にブースターが付いていて、なんだかロボットみたい。ていうか、ロボット?
「戦争犯罪者……死の商人の娘! 今日という今日は!」
「ハッ! 平和平和と叫んで何も変えようとしない奴らより、デュランダル議長みたいに例えやり方が間違っても戦争を無くす方法を考えて実行した奴らのが偉いってもんだ。あたしの戦争根絶プラン、見せてやるよ! レジーヌ!」
クインさんがレジーヌに呼び掛けると、レジーヌは電子音で何かを呟いた。というかデュランダル議長って誰よ。
「モード移行、ジェネラルモード。これより本機は指揮形態に入ります」
すると、空からたくさんのレジーヌがやって来た。カラーリングや装備が違うけど、確かにレジーヌだ。クインさんの隣にいるレジーヌはヘッドフォンなどのセンサーにアンテナがあるけど、こちらには無い。装備もシールドとライフルのみ、シンプルだ。
「うんうん。やっぱり量産機はシールドにライフルにビームサーベルだね。たまにカスタムでバズーカとか持ってる奴いるのもオツだね。リベレイション=ハーツと工作スキルで作りましたー」
クインさんは腕組みをして頷く。確かに、ライフルに銃剣が付いていたりバズーカ持ってるのが数人いる。
「これより、敵部隊を迎撃します。全機、フルブラスト!」
指揮官機のレジーヌがビームサーベルを出して他のレジーヌに命令する。これは頼もしい。一方、防衛大臣は嫌いな兵器を見せられて、ヒステリックになっていた。
「これがどう戦争根絶に繋がるのです! 兵器ばかり作って!」
「こいつらこそ人類共通の脅威、量産型レジーヌ! こんなのが現実で大暴れしたら、人類は戦争どころじゃないよな!」
なるほど、人類共通の敵を作る作戦か。確かに一理ある。対して防衛大臣は「戦争はいけない」と月並みなことを言って、何もしていない。
「あたしが生きてる間にできるとは思わねぇが、あたしがこの思想の開祖として歴史に名前残すんさ! すっげーロマンだろ!」
「おおー! 大河ロマンだな! そういう発想好きだ!」
零が燃えていた。そういうロマン好きなのね。歴史を作るロマン、私も嫌いじゃない。
「フハハ、どけ!」
金色のお神輿が走ってきた。直江先輩なら百式とか言ってたところだけど、あまりに品が無い。お神輿に人が乗ってるけど、お神輿って神様の乗り物だから人乗っちゃダメじゃない。それとも乗ってる人は自分が神だとでも? 乗ってるのは金ぴか鎧のアバターだ。
「同じ金ぴかでもギルガメッシュとか百式やアカツキほど品は無いな! 楼碑嵐!」
「財務大臣なら、俺達の敵だ!」
赤介さん達零の舎弟チームが金色の神輿に向かった。財務大臣 楼碑嵐。あれは赤介さん達に任せよう。
「貧乏人共が! 金があれば生きれたものを!」
「金が無きゃ生きれない世界なら、死んでも構わなかったがな!」
赤介さんが木刀で財務大臣に切り掛かる。忘れていたけど、表五家が有利になる施設って何だろう。私が考えていると、SEAが飛んできた。いつもの装甲を付けて飛行している。
「あっちだ、プレイヤー! 施設は向こうにある! 掴まれ!」
「わかった!」
「待て、そいつは危険だ!」
私がSEAの手に掴まろうとすると、藍蘭さんが止める。そういえばSEAってサイバーガールズの人達をたくさん殺したよね? 何でそんな人が私達の味方を?
「何とでも言え! 私は全部清算しにここへ来た!」
「つまり……償い?」
「そこまで綺麗なものではないがな」
SEAが私達と一緒に戦う理由はわかった。SEAだってルナさんが危険な状態だし、何かと必死なんだろう。
「お前も私を討ちたければ討て」
藍蘭さんに言った言葉から、SEAの本気が伝わる。SEAは自分が犯した過ちを償おうとしているんだ。
私と零はSEAに掴まり、空を飛んだ。表五家が有利になる施設……それはどこだ?
「あれだ! 墨炎製造工場!」
「墨炎製造工場?」
SEAが私達を連れて来たのは何かの工場。墨炎製造工場って……何なの? 量産型レジーヌみたいなものを作ってんのかな?
私達は墨炎製造工場の前に降り立ち、全景を見渡す。どうやら稼動しているらしい。工場の正面には巨大なシャッターがある。
「お前は!」
そのシャッターの前にいるのは二人、渦海親潮総理と柱支官房長官。総理が美形の剣士みたいな格好、官房長官が武士みたいな格好だ。ガッツリ初期装備だけど、油断できない。
「私もいる」
「氷霧さん!」
私達と同じ様に、この工場に氷霧さんが来ていた。これで四対二、ちょっと有利かも。だけど、工場のシャッターが開いて不穏な空気が辺りに流れる。
「あれは……!」
「墨炎」
シャッターから現れたの沢山の直江先輩……じゃなくて墨炎。服装だけキッチリと最終決戦仕様の墨炎が並んでいるが、武器は初期装備。しかも二刀流じゃない。その辺りが量産みたい。あのパーカーやスカートもも本来の性能ままかは怪しい。見た目だけかも。
「これが墨炎製造工場の力! プレイヤーの中でも優秀な墨炎がこんなにいたらさぞ絶望だろう!」
渦海総理がペラペラ喋る中、沢山の墨炎は剣を抜いて私達に切り掛かる。さすがに数が多い。百人くらいいるんじゃないか?
「私もいるぜ!」
その墨炎の群れの前に立ちはだかったのはぷーちゃんさん。ぷーちゃんさんに迫った墨炎達は、動きを止める。ぷーちゃんさんの本名はたしかプロトタイプだけど、もしかしたら墨炎のプロトタイプなのかな? 仲間だから切れないとか。
「馬鹿な!」
「後は任せるぞ!」
柱官房長官に後を任せて、渦海総理は逃げ出した。ぷーちゃんさんは墨炎達をなだめて剣を仕舞わせた。そのまま墨炎達はぞろぞろと工場の中に戻った。
「プロトタイプがいたら私達が有利になる仕掛けか」
「ここは私がやる。渦海は貴女が」
氷霧さんに促され、私達はSEAと共に渦海総理を追った。渦海総理は次の施設に向かってるみたいだ。SEAに掴まって飛ぶと、その施設が見えて来た。なんかのオフィスだと思う。
「【ブルートソード】」
SEAは私達から手を離すと、右腕から物凄い長いビームサーベルを出した。そしてその青いビームサーベルでオフィスを斬った。
「でりゃあああっ!」
私達が地上に下りる時には、SEAはオフィスに入刀したビームサーベルを左にスライドさせていた。オフィスは大爆発。施設はその機能を私達に見せることなく破壊された。しかし、オフィスの爆発から誰かが出て来た様に見える。
「SEA! 何故貴様がここに!」
「お前を斬る為だ、上杉季節!」
オフィスから出て来た、ボロいマントの死神みたいなアバターが季節のアバターか。SEAはこの人に焚き付けられてサイバーガールズを崩壊させたんだっけ。
「【バーニングインパルス】!」
「あべし!」
私は呆然としていた渦海総理を見つけて攻撃する。季節が憎いけど、あれはSEAに任せよう。
「まだだ! 【ヒートキック】!」
零も渦海総理に追撃する。私達の敵はコイツ一人。アバターの頭上に出てる名前の横に王冠マークあるし、表五家のリーダーはコイツか。リーダー撃破で何かボーナス付けばいいけど。
「理架! リベレイション=ハーツがあるから油断すんな! 熱地みたいなろくでもない奴のリベレイション=ハーツは相場厄介なもんだと決まってる!」
零の呼び掛けで私は警戒を強める。渦海総理は敵わないと践んでか、早速それをやり始めた。
「【リベレイション=ハーツ】!」
渦海総理が取り出したのは、何かの錠剤。私の増力剤とは違う気もする。多分、違法薬物。
「フハハハハハ、絶望するがよい!」
「なら私も、【リベレイション=ハーツ】」
私も対抗してリベレイション=ハーツを使った。リミッターが無いなら、いつもと違うことが出来そうだ。身体中から黄金の炎が沸き上がり、確かにいつもと違う。
「すげえ! 何それ?」
「多分、地獄の業火」
あの時、お母さんがくれた地獄の業火が私の中で燃えてるのだろう。でも、あの時ほどおどろおどろしさが無い。何でだろう?
「【バーニングインパルス】」
私は技の名前を呟いてみた。私は自分でも驚くほどの速度で渦海総理に接近し、殴り飛ばしていた。渦海総理は吹き飛び、オフィスの残骸へ墜落した。
「おべっ、べべぶっ!」
大ダメージを受けた渦海総理は薬をバリバリ食べる。薬は用量用法を守らなきゃダメなのに。私はポーチから赤い薬が入った試験管を取り出す。
「炎熱剤」
私はその試験管を握り潰した。火に注ぐことで火属性の力を高める薬、今の私にピッタリだ。
「おお……このガキめ。貴様、熱地を潰した真田総一郎の娘だ……」
「【フレイムナックル】」
戦闘中にも関わらず渦海総理が話を始めたので、私は容赦無く殴っておいた。
「ぐおおおっ!」
殴られた渦海総理はさらに吹き飛び、路上に出る。四車線くらいある、都会の道路がガラガラだとこんな感じか。
「己! 青二才の無駄な情熱が私は嫌いなのだ!」
渦海総理の右腕が氷の爪に変化する。それを握り込んで私に殴りかかってくるが、爪を握っちゃダメじゃない。
「解氷剤」
私はポーチから橙色の薬が入った試験管を取り出す。それを握って砕くと、橙色の薬で手が濡れた。それで渦海総理の右腕を抑える。
「何!」
解氷剤の効果で右腕に出来た氷の爪が粉砕される。そしてそのまま私は拳を握り締め、技を使う。
「【ヒートスタンプ】」
握り締めたけど出したのはオープンクロー。それが渦海総理の身体にヒットし、総理は道路を転がる。
「ぎゃあああっ! 熱い!」
「あ、改造ウェーブリーダーね。ペインアブゾーバーが効いてない」
総理の反応から、私は改造ウェーブリーダーの使用を直感した。総理はそれでも立ち上がり、薬をバリバリ食べる。
「この、若造がぁぁああっ!」
上半身がみるみるムキムキになり、ドーピングの痕跡が伺える。一瞬でこんなムキムキになるなんて……やっぱり違法薬物だ。
「喰らえ! 朽ち果てろ!」
今度は右腕に苔が生える。転がる石には苔むさず、その反対をやってのけたか。私はポーチから灰色の薬が入った試験管を取り出す。それを左手で砕き、手を薬で濡らす。
「相性など、小賢しい!」
渦海総理は右腕を振り上げる。それを私は受け止めた。苔がドンドン枯れていく。薬の効果だ。
「除草剤」
「ぐっ!」
どうやら右腕全てが植物だったらしく、右腕が枯れた。左腕一つで何処までやれるのか。相性を見極めれば、力の差を埋めることもできるのにそれを疎かにするなんて、ね。
「吹き飛べ!」
渦海総理は左腕を氷の爪に変えて、再び殴りかかる。私の右手はまだ解氷剤で濡れている。それで攻撃を止めると、今度は左腕ごと氷の爪が砕かれた。
「【ヒートキック】!」
『技を習得しました。拳術【クリムゾンキック】』
両腕を失った渦海総理を私は蹴り飛ばす。両腕が無ければ薬は飲めない。対抗する手段を失った渦海総理は起き上がって道路をすたすた逃げ始めた。しかし、そっちには零がいる。
「【ブレイドキック】!」
「ぎにゃあああ!」
鋭い回し蹴りを受けた渦海総理の身体は引き裂かれた。久しぶりに見たね、この技。
「理架! ビルの上に上がれ!」
零が私に指示を出す。久しぶりに見た技繋がりで、私は何と無く察した。これを私に伝える為に、わざわざブレイドキックで渦海総理を止めたのか。
私は近くのビルに入った。何かのオフィスか、自動ドアを潜ると受け付けが見えた。それをとにかく上階へ上る。非常階段があるので、それを使った。
「【フレイムナックル】!」
『技を習得しました。【クリムゾンラッシュ】』
「敵だぎゃあ!」
敵に鉢合わせするけど、殴り飛ばしておいた。技をさっきからよく覚える。技のバリエーションが多いのは拳術だから仕方ないんだけど。
私はようやく屋上まで着いた。フェンスがある屋上だったけど、下を除くと零が渦海総理と戦っているのが見えた。すると予想通り、竜巻が起こって渦海総理が上へ飛ばされてきた。化け物じみた両腕になっていたり、前見た時よりサイズが大きい気もするけど、気にしない。
「【リベレイション=ハーツ】!」
私は再びリベレイション=ハーツを発動する。地獄の業火はさらに威力を増す。二度掛けできることは直江先輩が教えてくれた。エディさんみたいに形態を変えることはできないけど。
「覚悟しろ! 渦海親潮!」
「貴様!」
私は飛び上がって高さを渦海総理に合わせる。そして、新しく覚えた技を出す。
「【クリムゾンキック】」
ヒートキックよりも真っ赤に燃える左脚が渦海総理の延髄に食い込む。ミシミシと音を立て、私は渦海総理をビルの屋上へ蹴り落とした。ビルの屋上に亀裂が入った。
「まだよ。【クリムゾンラッシュ】」
私の両手に炎が宿り、左右の連続ストレートを渦海総理に飛ばした。どうやら拳圧が飛んでるらしく、私は渦海総理を蹴り飛ばした高さでクリムゾンラッシュをしているのに、屋上へ落ちた渦海総理に命中している。
「ぐ、があああああぁあぁぁぁっ!」
確かに手応えがあり、渦海総理の身体はビルに減り込んでいた。そこへ、量産型レジーヌに抱えられて零が飛んできた。いつの間に来たんだ。
「理架!」
「零!」
零は量産型レジーヌの手で、私に向かって投げられた。何と無く何をして欲しいかわかった。相棒なら、別に直江先輩みたいに『観察眼』が無くても、インフィニティ能力が無くてもわかる。
私は零の足裏を蹴り、渦海総理に向けて零を飛ばした。
「【リベレイション=ハーツ】!」
零もリベレイション=ハーツを使う。右足に真っ赤な炎が燈り、それを総理に向けて隕石の様に落ちていく。私も自由落下に任せて渦海総理へ向かった。
「【リベレイション=ハーツ】!」
三重目のリベレイション=ハーツ。さらに業火の火力を上げると共に、それを左足へ集中させる。全身に纏った炎は左足だけに収まる。ただ、力が強いのか先に飛んで行った零に追いつく。
「「双子座流星群の夜!」」
私達は同時に、渦海総理に蹴りを叩き込む。炎は一つになって大きく燃え盛る。渦海総理の身体は屋上を突き破り、ドンドン下の階へ落ちる。渦海総理の身体が床を砕く。
私達も同時に落ちていたけど、何を隠そう渦海総理を盾にしたので瓦礫からは身を守れた。そして、渦海総理を地面へ叩き付けた。
渦海総理は真っ黒に炭化して動かなくなる。私達も身体に煤が付いたり服が焦げたりしたけど、HPは無傷だった。よく見ると、ビルは床だけじゃなくて壁も、ていうかビルが近隣の建物ごと無くなっていた。味方が巻き込まれてなければいいけど。
「やったよ理架!」
「やったね零!」
私と零はハイタッチをする。とりあえずリベレイション=ハーツされたら厄介な総理を倒したのだ。何の打ち合わせも無しだったけど、まさか技名まで同じの考えてたなんてね。
そこでふと、私は空を見上げる。赤い光と白い光が瞬いていた。多分直江先輩とリディアさんが戦ってるのね。
『まだだ青二才! 私の描く「政略無き日本」は壊させない!』
声が聞こえ、私は渦海総理の方を見た。なんか、炭化した部分がボロボロ崩れて復活してる……?
『まだだ、まだ終わらん!』
渦海総理がさっきより大きくなって復活した。いや、大きくなった以上に二足歩行の蜥蜴みたいなんですけど。尻尾があるのに羽が無いから尚更そう見える。真っ黒で、まだ焦げてるじゃないかってくらいだ。
「名付けるなら妄執に囚われた龍、『デルソリードラゴン』か」
零は静かに、渦海総理をそう名付けた。妄執に囚われた……『政略無き日本』って何なの? 確かに表五家が権力を握りすぎて他の勢力が政略を起こせないんだけど。だけど、リベレイション=ハーツのせいで心が武器になっている今、妄執でもとにかく巨大な感情は危険だ。リミッターが外れてる今は特に。
なんで朱色さんか渚さん、こんなシステム作ったんだか。
「零が妄執なんて英単語知ってたなんて」
「順といたから英語くらいわかるのよ。行くよ、理架!」
私達は軽口を叩きながら、渦海総理改めてデルソリードラゴンへ向かった。これが本当の、最終決戦。未来を開く為の。
次回予告
偽善の祈りが撃ち砕かれる。輝きへの幻想が叩き割られる。再興への野心が地へ落ちる。己への過信が潰える。保身の計略が詰まる。支える使命が途切れる。
若い力へ抵抗し切れなくなった古き楔が陥落し、少女達はようやく未来へ歩き出した。それは今日死んだ者が死ぬほど歩きたかった未来。
次回、ドラゴンプラネット。最終回、『ログアウト』。ゲームは一応の、終わりを迎えた。