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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
108/123

年末企画 絶対に笑ってはいけないドラゴンプラネット24時

 注意

 この企画は某番組を真似たものですが、級長があまりその番組をしっかり見たことが無いので、『ガキの使い』ファンがニヤリとできるネタはありません。

 笑ってはいけないとこ以外、共通点はございませんのであしからず。

 インフェルノコロニー 集会場


 「年末企画! 絶対に笑ってはいけないドラゴンプラネット!」

 インフェルノコロニーの集会場。その壇上に立ったプロトタイプはマイクを握って司会を務めた。年末っぽい格好で来いとの指示だったが、彼女は生憎神社のバイトで支給された巫女服しか持ってなかった。

 「るーるはかんたん。笑ったらわたしがうつ」

 同じく巫女服のレジーヌがルールを説明。クインが作った『御神籤おみくじハンドミサイル』も似合っている。普通にグリップやトリガーがあり、ミサイルコンテナだけが御神籤になってる。

 「参加者はこちらの皆さんです!」

 集会場に数人の人間が入ってくる。プロトタイプは久しぶりの出番にして仕事なので、ここでアナウンサー探してる人とかの目に止まらないと新年からまたニート生活になるし、いろいろ必死だ。

 「まず、エントリーナンバー1番! オリジナル、直江遊人、松永優、ナイチンゲール、墨炎と5つの名前を持つコイツだ!」

 「墨炎でいいよ」

 プロトタイプは墨炎の紹介から入る。いつもと同じ格好だが、これには理由があったりする。

 「それに、バトラーを忘れてる」

 「6つも名前があるのか……。最近は一応法律で認められてる通名すら煩く言われる時代なのに……」

 「ぷーちゃん、ねっとじゅうみんにきにいられようとひっし」

 「とりあえず、韓国批判しときゃ嫌われないのよ」

 プロトタイプ必死の韓国批判。とにかく人気と仕事が欲しいプロトタイプはこの企画に全てをかけているのだ。

 「『オリジナル殺す!』とか言ってた初期のキャラどうしたんだよ……」

 「藤井佐奈も初期のキャラぶっ飛んでるからいいのよ。次! DPOのアイドル、第二部主人公! 藍蘭!」

 墨炎のツッコミを無理矢理切り上げたプロトタイプは藍蘭の紹介へ移る。アナウンスに慣れてないことがバレバレである。

 「あれ? スカーレットは?」

 「スカーレットは仕掛人。アトランティックオーシャンで待ってるよ」

 珍しく一人での登場となる藍蘭。こちらもいつもの格好。

 「女の子勢は気合い入れてくると思ったがな。ファッション」

 「絶対に笑ってはいけないって、どうせ衣装変えさせられるんでしょ?」

 藍蘭はよくテレビを見ているのか、段取りを知っていた。衣装を変えられるなら、始めからオシャレなど意味が無い。

 「次! 現在の主人公! 真田理架、リスティ!」

 「プレイヤーネームで呼ばれるのって凄い久しぶり」

 次にプロトタイプが紹介したのは理架。墨炎と違って、普段からリスティと呼ばれることが少ない。墨炎はDPO仲間がリアルを知らないというのがあるが。

 「んじゃあ、まず衣装変更からしますか。惑星ごとにこれやるんでよろ」

 プロトタイプはどんどん進行していく。参加者三人が置いてきぼりだ。

 「最初はネイチャーフォートレス。和服かな? 級長が選んだから知らないけど」

 「これがいしょう」

 レジーヌが小さな青い箱らしきものを三人に渡していく。ガラスみたいに綺麗で、その一面にはサイコロの1の目みたいに赤い丸が付いている。

 「その赤い丸押すと変身できるよ。それ、変身!」

 「テンションたけーなこいつ」

 墨炎は呆れつつ、真っ先に赤い丸を押す。すると、墨炎の身体が青い光に包まれた。光が晴れた時、彼女の姿は一変していた。

 「これは?」

 墨炎が着ているのは巫女服。プロトタイプやレジーヌとお揃いだった。

 「お揃いだね!」

 「お前の趣味じゃねぇか!」

 衣装を選んだのは何を隠そう、プロトタイプ。墨炎に巫女服を着せたいだけだった。彼女は最近二人に分裂して混乱気味だが、墨炎を溺愛してるのだ。

 「で、次は私か」

 藍蘭も渋々、箱の赤い丸を押す。藍蘭の衣装は昔の女学生みたいな、青い着物に袴姿になった。

 「学園騎士ですし」

 「だからって昔の学園にしなくても……」

 刀を留めるベルトがなくて困惑する藍蘭。仕方なく、手に三本とも持っている。

 「次は私だね」

 いよいよ理架の番。赤い丸を押すと光が出て衣装を変える。理架の衣装は赤と黒の着物だが、いろいろおかしい。そもそも理架のアバターは金髪に目まで金色なので、似合わないことこの上ない。

 「これじゃ完全に極道じゃないですか!」

 理架は抗議した。着物を着ているが、上半身ははだけて、下にサラシを巻いているだけの状態。完璧なる極道の姐御だ。

 「黒羽組組長、黒羽椿さんプロデュースの『任侠シリーズ』。ゲームシステム上は防具なんだけどね」

 「すきるからして、かんぜんにやくぶつのばいやー」

 「言わないで!」

 理架のスキルは『製薬』。プロトタイプとレジーヌからダブルアタックを受けた理架は精神的に限界だった。しかし、ふと二人が首を傾げた。

 「ゲームシステムってなんだ?」

 「すきるってなに?」

 「知らんと使ってたのか。まあええけど」

 NPCはこの世界がゲームとは知らない。墨炎はプロトタイプとレジーヌはこのことを知らぬ方がよいと直感した。

 「で、これから移動ですぞ」

 「ムックみたいな喋り方やめい」

 藍蘭のツッコミを受けながら、プロトタイプは三人を案内した。宇宙船の停泊所から船に乗った三人とプロトタイプにレジーヌ。しかし、座席があるとこまで来た時、プロトタイプがアナウンスを入れた。

 「ここで残念なお知らせです。当企画は金が無いので動力は自家発電です」

 本来座席があるべきスペースには座席が一切無く、代わりに三人で漕げる自転車が置かれていた。その姿は某ドロンボー一味が逃げる時に使う自転車に似てた。

 「んふっ……」

 「墨炎、アウトー!」

 思わず吹き出してしまう墨炎。そこにデデーン、という効果音とプロトタイプのアナウンス、そしてレジーヌの御神籤ミサイルが飛ぶ。ミサイルには『吉』と書かれていた。

 「ぎゃあああ!」

 「お、吉か。まあまあの威力」

 プロトタイプ曰く御神籤の結果でミサイルの性能が変わるらしい。墨炎は吹き飛ばされ、力無く倒れている。

 「何だこれ?」

 「さあ?」

 藍蘭と理架は世代のせいなのか、知らなかった。この自転車で宇宙船の動力となる電気を発電するのだ。

 「おいプロトタイプ……。これじゃあネイチャーフォートレスに着く前に衣装がボロボロだ」

 「それが狙いらしいよ。級長の」

 服が所々破れたり焦げたりしている墨炎がプロトタイプに聞く。だが、全て主催者である級長の思惑通り。

 「はあ?」

 「さすがに女の子への罰ゲームがケツバットは絵柄が悪いから、読者へのサービスをミサイルに篭めたって」

 「最悪だ……!」

 級長がミサイルに読者サービスを篭めたのだ。奴のこと、ミサイルに何が入ってるかわからない。

 「ただの爆発などでも服が脱げてく過程をお楽しみ下さい、だって」

 「よし、あいつ殺そう」

 墨炎は自らの双剣、シロクロツインズを取り出して磨いた。その間も、理架と藍蘭は自転車を漕いでいた。

 「私って、露出高いからヤバいんじゃ……」

 「最近読者サービスのシャワーシーンあったでしょ? ガンバ」

 「そういうのはリディアさんの役回りです」

 しばらく宇宙船が飛ぶと、プロトタイプがアナウンス。スペースコロニーの周辺にロボットが集まっている。そして、手にしたバズーカを一斉にコロニーへ撃った。

 「右手に見えますのは、過ちを繰り返すガンダムXです」

 「ぶっ……」

 「墨炎、アウトー!」

 また墨炎が吹き出してしまった。藍蘭と理架はそもそも元ネタを知らなかった。

 「ひでぶ!」

 飛んで来たレジーヌの御神籤ミサイルには『末吉』と書かれていて、小さな爆発が起きる程度だった。

 「ちなみに大凶は都合よく服だけ溶ける液体です」

 「ゲームオーバーじゃねぇか、それ」

 墨炎は自転車に乗り、二人と発電を開始した。早速二発喰らった墨炎は既にボロボロ。大きなハンディキャップであった。


 現実世界 炬燵のある部屋


 「元ネタのガキ使なら、変な奴がたくさん乗車してくるよな」

 企画をテレビで炬燵に蜜柑しながら見ていたのは直江愛花。このスペースはDPOプレイヤーじゃない登場人物の溜まり場である。

 「墨炎がボロボロに……私もボロボロにして、いや何でも」

 「お前のキャラ、どこで狂った?」

 佐奈と門田も炬燵にいた。蜜柑が山の様に盛られており、ここにいる三人では食い切れそうにない。蜜柑の消費量最多ランキング、現在のトップは佐奈の30個。愛花や門田さえ、それぞれ13個ずつしか消費してない。合計消費量、56個。

 「最近の子は太るの気にしないのか?」

 「いえ、むしろ太るの狙いです」

 愛花の疑問に佐奈が答える。それに愛花は首を傾げ、門田は既に答えがわかったというような顔をする。

 「触った時、ちょっと柔らかくて肉感あったほうがそそるじゃありませんか。私、結構ガリガリですし」

 「なるほど」

 愛花は妙に納得した顔で蜜柑を4つ取った。合計消費量、60個。


 DPO ネイチャーフォートレス周辺の宇宙空間


 「で、誰か乗ってくるのか?」

 「ガキ使なら確かにそう来るな?」

 既にボロボロの墨炎とガキ使をよく知る藍蘭は警戒を強めた。移動は四回ありそうな予感がするが、ネタは全てここにぶち込んで来る可能性があった。何より、コロニーと数十機のガンダムを利用した大掛かりなネタをかましたことが確信を強めた。

 「あ、停車駅だ」

 「何で宇宙に停車駅が……」

 理架の抗議もそこそこに、プロトタイプが停車駅の存在を匂わせる。墨炎は一層警戒を強めた。

 「誰か乗ってくるよ?」

 宇宙船が止まり、誰かが乗って来た。明らかなダースベイダー。しかしBGMがターミネーターのテーマ。いろいろちぐはぐなその人は宇宙船に乗り込むなり、言った。

 「エイドリアーン!」

 「ぷっ!」

 「くっ……」

 墨炎と藍蘭が吹き出してしまった。理架はロッキーやターミネーターはおろか、ダースベイダーも知らない様で首を傾げている。

 「墨炎、藍蘭、アウトー!」

 藍蘭初アウト。プロトタイプもウキウキしながらアナウンスを入れた。御神籤ミサイルが二発飛んで来た。

 「藍蘭バリア!」

 「ちょまあああああっ!」

 墨炎は藍蘭の影に隠れて回避。吉と中吉のミサイルが直撃した藍蘭は黒焦げで吹き飛んだ。何故ミサイルが飛んで自転車は無事なのか、理架の疑問はそれだけだった。

 「おっと、これでオリジナルと藍蘭が並んだな」

 「ぐっ……」

 中吉のミサイルには拘束用粘着弾が入っており、壁に張り付いた藍蘭はしばらく動けない。これではミサイルの回避が不可能だ。

 「流石はリスティ。ここまでノーダメージ!」

 「それはよくねたをしらないだけではないだろうか」

 蚊帳の外気分である理架は寂しそうに自転車を漕いでいた。そうこうしてると、次の停車駅に着いた。ダースベイダーは降りずに、ある人物が乗り込む。

 「次は理架にもわかるネタだな」

 墨炎はその人物の姿を見て確信した。その人物とは、ボロボロの格好をしてオウムの入った鳥かごを持った男だった。

 「全く重てぇな、何だこの鳥は?」

 「ココデコウタコトハナイミツニナ!」

 「ぷくく……」

 白いオウムの一言で鉄壁を誇った理架が崩れた。さらに、ネタがわかるのか墨炎まで吹き出した。今年の大河ドラマ『平清盛』の一幕である。詳しく説明すると、政府に黙って貿易していた海賊の頭領が「ここで買うたことは内密にな」と言って商品を売ったけど、それを偉い人に献上したオウムが真似してしまったのだ。

 「墨炎、リスティ、アウトー!」

 「きゃああっ!」

 墨炎は慣れたものでミサイルが直撃しても微動だにしなかったが、理架は悲鳴を上げて吹き飛んだ。理架のミサイルが吉、墨炎のミサイルが凶。しかし、墨炎は白い液体でベタベタになっていた。

 「何だ、この白くべたつく何かは……ヨーグルト?」

 「いいえ、ケフィアです」

 プロトタイプの説明を聞いた墨炎はそれを舐めてみる。確かにケフィアだ。

 「お、大気圏だ」

 「ケフィア無視か!」

 大河ドラマは毎年見ていないという藍蘭だけが今回のネタで無事だった。宇宙船は既に大気圏突入。宇宙飛行で一番危険なエリアだが、そんな時に通信が入る。

 『イエーイ! みんな聞いてる? 挿絵が無いのが口惜しいね!』

 「級長か」

 墨炎は声で通信を入れた人間を特定する。大気圏に突入して赤く染まる窓には、級長が乗ってるらしい。宇宙船があった。ちょっと変わっているのが、大気圏突入の為に、下に大きな風船を敷いてあるところだ。

 「バリュートパックか。ん?」

 「それより級長さん」

 プロトタイプは窓の外を見て、何かを見つけた。理架は何か物申したい模様。

 「第45話の『薬師の試練』で弐刈さんが死にましたよね? 一年のシメの回が死亡回って何ですか! あとこのペースだと新年最初の回が葬式回ですよ?」

 どうやら連載のことらしかった。一年の締めくくりと始まりが暗い回なのは嫌だとか。

 「まあまあ。死人続出の私よりマシでしょ?」

 『オマケにあまり藍蘭メインじゃなかったしな』

 張り付いたまま藍蘭が言う。確かに藍蘭が主役の第2部はドラゴンプラネットで一番死人が出た。登場したサイバーガールズの大半が死んでる。

 「ねえねえ、それよりさ」

 『なんだ?』

 話を打ち切ってプロトタイプが級長に呼びかける。瞬間、宇宙船の下に敷かれた風船に何かが刺さる。

 「ロンギヌス」

 『ぎゃああ!』

 エディのロンギヌスが風船に深々と刺さっている。風船は割れ、そのまま級長の宇宙船は大気圏を真っ逆さま。

 『助けて下さいぷーちゃん少佐! 減速できません!』

 「なんてこった! 級長が殺されちゃった!」

 「このひとでなしー」

 プロトタイプとレジーヌがお約束の台詞を叫んでる間に、宇宙船が燃え尽きた。


 岡崎市 カラオケボックス


 「懐かしいな。ここって兄さんが番外の『要点だよ全員集合』で使った場所だよね」

 岡崎市のカラオケボックスで順は企画の様子を見ていた。ここはちょうど一年前に遊人と愛花が使用した場所だ。

 「ふー、いい仕事した」

 エディがロンギヌスを担いで白い翼を生やしてカラオケボックスに入って来た。生前は着ることのなかった長篠高校の冬服を着ている。天使の輪が頭に浮いている。級長を仕留めて帰ってきたのだ。

 「よいしょっと」

 エディは普通に順の膝に座って首に抱き着く。幼なじみだから、という次元を越えていて、遊人が見たら嫉妬に燃えること請け合いだ。

 「ちょっと! 順はあたしのよ!」

 「……!」

 左にいた名鳩と右にいたハルートが腕に抱き着いて順を取り合う。かなりモテモテだ。

 「あ、マルートと田中丸がいないね」

 「二人はカメラマンと音声してるよ」

 エディが二人いない事に気付く。順はサラリと二人の居場所を答えた。

 「ああ、仕事あるんだ」

 名鳩は順を解放し、カラオケボックスから出た。


 DPO ネイチャーフォートレス 惑星警衛士本部前


 惑星警衛士の本部は日本風の城だ。そして、ここが企画の舞台となる。プロトタイプが場所の紹介をする。

 「ここが今日お世話になる……惑星警衛士だ」

 「ぷっ……」

 その門の前に、本を読む人に踏み潰される人の像があった。それを見た瞬間、三人とも吹き出してしまった。

 「全員、アウトー」

 ミサイルに爆撃される三人を見て、カメラ担当の田中丸と音声担当のマルートが首を傾げた。

 「なんだあれ?」

 「ヘビーユーザーなら見覚えある品なのでしょう」

 「あれはギアテイクメカニクルのユートピアって町で、図書館の前に置かれていた像だよ。詳しくは『一般プレイヤーの日常 クイン編』を見てね」

 プロトタイプが丁寧に解説。完全に内輪ネタだった。あまり本腰入れてプレイしてない田中丸とマルートは見たことなかった。

 「で、私が上司の氷霧」

 ようやく登場となる上司の氷霧。最近も出番が減っている。隣には、首が長い四足歩行の生き物がいた。リボンみたいに生えた角や、首と頭の境界線がわからないフォルム、斑模様が特徴的だ。

 「こちら、ネイチャーフォートレスでメジャーな家畜、ドクハキーノです」

 「ぶっ……!」

 プロトタイプの説明を受け、墨炎が吹き出してしまう。こんな珍妙な生物は見たことがなかったのだ。

 「なんじゃこりゃああ!」

 今回の罰ゲームはミサイルではなかった。ドクハキーノが墨炎に向かってヘドロの様なものを吐いたのだ。

 「ここから先、罰ゲームはドクハキーノに託します」

 「毒ったー!」

 プロトタイプによると、ここから先の罰ゲームはドクハキーノに毒を吐かれるものに変わるようだ。墨炎のHPゲージに毒の表示が。

 「若干肌紫になってない?」

 「本当だ」

 藍蘭と理架は墨炎の肌が紫に変色していることに気付いた。ドラゴンプラネット始まって一年、初めて毒状態の表現が出た。

 「『毒が悪化していく過程をお楽しみ下さい』って級長が」

 「おのれ……」

 氷霧は級長から預かった手紙を読む。ちなみにドクハキーノは好きで毒を吐いてるのではないのでご了承下さい。

 「こっちが貴女達の事務所」

 早速、氷霧に案内されて事務所に向かう。事務所は城に入って三階にあった。

 「ここ」

 事務所には木製ながらスタンダードな事務机が四つ並んでいた。入口の向かいの壁にロッカーが四つ。左右のうち片方の壁にはスケジュール表、もう片方の壁には窓があった。

 スケジュール表を背にする席が藍蘭と理架、その向かいに墨炎の席と、ハッキリわかる様に名札が置かれていた。墨炎の隣に空いてる机には何故か、DVDプレイヤーが置いてある。

 「さて、机の中身でも調べるか」

 墨炎は机の引き出しを開ける。すると、某RPGの敵出現SEが流れ、中からドロドロに溶けた金属みたいなものが複数出てきた。

 「はぐれメタルが達が現れた!」

 そのドロドロは自分の出現を自分でアナウンスする。そして、一つに固まり始めた。

 「はぐれメタル達が合体していく! ミス!」

 「ちょ、お前もうちょっと右だ!」

 「お前が左行けよ」

 「押すなよ、絶対押すなよ?」

 「じゃあ俺押すよ」

 「じゃあ俺が」

 「……じゃあ俺が」

 「どうぞどうぞ」

 「崩れたああ!」

 「ぷっ……」

 合体をミスしてバラバラになるはぐれメタルに思わず墨炎は吹き出してしまう。

 「墨炎、アウトー!」

 プロトタイプの指示でドクハキーノが墨炎に毒を吐く。それを被った墨炎は若干、前より紫の変色が濃くなった。

 「私の机は……」

 藍蘭が机を開けると、DVDが入っていた。とりあえずDVDプレイヤーに入れてみることに。

 始まったのはアニメだった。『学園軍記スクールブラッド』というアニメで、墨炎もその存在を知らなかった。

 「何これ?」

 藍蘭は見続けることにした。そして、決戦のシーン。ここまで約二時間。

 『とち狂ってお友達にでもなりに来たのかい?』

 『おかしいですよ青嶋さん!』

 「んふっ……」

 「墨炎、アウトー」

 途中で墨炎がアウトになった。Vガンダムのパロディに吹き出してしまった。遂にエンディング。夕日に向かって主人公が叫ぶ。

 『田中丸、タイキッークっ!』

 「へ?」

 カメラを持ってた田中丸が戸惑う。理架の事務机の一番大きな引き出しからナハトが現れた。

 「ナハトさん!」

 「【タイキック】!」

 「げふほ!」

 ナハトは燃える足で田中丸にタイキックを食らわせる。そして、そのまま帰る。ナハトの仕事はこれで終了。

 「私は……何これ?」

 理架の机からは犬のぬいぐるみが出て来た。リモコンみたいなものも一緒にあったので、それの真ん中のボタンを押す。

 「これって、日本直販の『愛犬ロボてつ』じゃねぇか?」

 「あ、本当だ」

 机に置かれた犬のぬいぐるみが歩き出す。真ん中のボタンは『ついて来るボタン』である。

 しかし、狭い机から落ちてしまう。横転しても足を動かして理架の下に行こうとする。

 「これは?」

 理架はTボタンを押す。すると、てつは言葉を話した。

 『起こせごるぁ!』

 「ぷっ…」

 「理架、アウトー!」

 ヤクザボイスと見た目のギャップに吹き出して、罰ゲームの毒を喰らってる理架に代わり、藍蘭がリモコンのKボタンを押す。またてつが言葉を話した。

 『ココデコウタコトハナイミツニナ!』

 「ぶっ……」

 「藍蘭、アウトー!」

 あの白いオウムの声が録音されていた。藍蘭もドクハキーノから毒を受ける。これで等しく皆の顔色が悪くなった。

 「そろそろ、リーダーに会いにいく時間」

 氷霧が懐中時計を見て時間を測る。惑星警衛士のリーダーといえばセイジュウロウのことだが、その人に会いに行くのだろうか。

 氷霧は一行を引き連れてリーダーのいる部屋に行く。城の最上階、一際大きいが質素なそれがリーダーの部屋なのだろうか。氷霧がその襖をノックする。襖は本来、ノックするものじゃありません。

 「入れ」

 静かな声が聞こえ、一同が部屋に入る。中にいたのは、fだった。

 「ぶっ!」

 「全員、アウトー」

 不意打ちを喰らった全員が笑う。てっきりセイジュウロウがいると思ったら、氷霧の兄であるfがいたのだ。部屋の前の廊下がドクハキーノの吐いた毒で汚れ、三人は毒まみれの状態で部屋に入った。

 和風の部屋ではスーツも似合わない。時代劇でよく殿様が座ってる場所にfは正座しているが、何か様子がおかしい。

 「痺れた……」

 「ぷっ……」

 「全員、アウトー」

 fは足が痺れたみたいだ。部屋まで毒だらけだが、片付けが大変ではないだろうか。 「さあさあ、仕事に向かうよ」

 足の痺れたfを放置して、プロトタイプは全員を率いて仕事に向かう。惑星警衛士はその名の通り、警備組織である。仕事というのはどこかの警備だろうか。

 「今日の仕事は捕まった人の取り調べ」

 氷霧がプロトタイプに代わって案内をする。着いたのは取り調べ室。それは三つあり、三人がそれぞれの部屋で待機するようだ。

 墨炎の部屋は普通に囲炉裏がある和風のお部屋。囲炉裏で何かが煮えてるがここまでは普通。

 「あれ?」

 藍蘭の部屋は明治時代の学校みたいな古めかしい教室だった。ここまでは何とか理解できる。

 理架の部屋は、暗いコンクリート作りの部屋だった。机には小刀が置かれている。指を詰めろと?

 「完全にヤクザが賭場でイカサマした人を連れて来る様な部屋じゃないですか!」

 理架は叫んだ。だんだん自分がヤバいヤクザキャラになりつつあるからだ。まだ本編は残ってるし、このままだとそちらにも影響がある。


 墨炎ルームでは、早速捕まった人が通された。三人組で、二人見かけはいいが装備は明らかな初期装備。もう一人はガチガチに鎧で固めてある。この姿、墨炎には見覚えがあった。

 一緒に部屋にいる氷霧も姿に覚えがあるらしい。弓で早速狙いを定める。

 「お前ら……熱地の」

 「「「ギクッ」」」

 何と熱地学院大学のお偉いさん一族、南晴朗、南太郎、南十郎ではありませんか。鎧を着てるのが臆病な南太郎である。

 「てめぇに食わせるカツ丼はねぇ!」

 墨炎は囲炉裏でグツグツ煮えてるカツ丼の具を三人にぶちまけた。三人は熱い熱いとのたうちまわる。鍋のサイズにしては量が多い気もする。

 「罪状は?」

 「図書館で科学に関する本に対し、既存の法則等を自分が考えた法則の名前に変える悪戯をした」

 三人の罪状を聞かれた氷霧はシールらしきものを墨炎に渡して答える。どうやら、本にシールを張って、勝手に法則の名前を変えたりしたらしい。

 「で、この『ガリレオ眼鏡の法則』って、何の法則の上に張ったんだ?」

 墨炎はシールを元に取り調べ開始。『ガリレオ眼鏡の法則』と書かれたシールは、何の法則の名前を書き換えるために使われたのか。

 「フレミング左手の法則だ。『探偵ガリレオ』って小説がドラマ化した時に、その主人公が眼鏡を直す時の指がフレミング左手の法則になってるらしいから……」

 「わかるか! マニアックなネタ持ってくんな!」

 南十郎が物凄く丁寧に解説したが、ドラマとか見ない墨炎にはわからなかった。


 教室っぽい取り調べ室には、何かパッとしない五人の少女が集められていた。藍蘭は何となく彼女達に見覚えがあった。

 「リディアさんを連れ去った五人組?」

 サイバーガールズの桃川、青柳、茶木、黒田、金鉢の五人はリディアとメンバーの一人を藍蘭が関わった事件の犯人として連れ去った。

 「罪状は……文化財のお寺でライブした、か」

 「5人でやり直そうとして……」

 この5人は文化財となってるお寺でゲリラライブをした様だ。そりゃ捕まる。やり直すにしてもダメな方法を選んでしまった。

 「炎上商法? なら燃やすか」

 「ちょっとま……」

 藍蘭は近くに置いてあったポリタンクのガソリンを5人にかける。タンクは5つあったので全部をかけた。そして、刀を二本抜いて打ち鳴らし、火花を散らした。

 しかし藍蘭は馬鹿だった。ガソリンはめっちゃ気化するので、火が着いたら大爆発だ。5リットルで教室が吹き飛ぶと某同人ゲームの解決編で言っていたが、藍蘭は5リットルのポリタンクを5つ、確実に教室は吹き飛ぶ。


 「なんか音がしましたね」

 赤介、緑郎、青太郎を構成員ボコ殴りの罪で取り調べていた理架が爆音に気付いて部屋を出る。

 「ぷっ」

 「理架、アウトー!」

 部屋もろとも藍蘭と墨炎、取り調べを受けていた合計8人が吹き飛んでる光景に笑ってしまう理架。氷霧は無事だった。

 藍蘭のせいで隣の部屋ごと吹き飛んだが、理架の部屋はコンクリート造りだったので無事だった模様。

 そこへドクハキーノがすかさず毒を吐く。

 「うう……顔色悪くなってる」

 理架の衣装は三人の中で一番露出が激しいので、変色した肌がよく見える。だいたい皆顔色が悪くなったところで、プロトタイプが進行の紙を見て次に行く。

 「次は……次の惑星に行くみたいだね」

 「それではうちゅうせんへ」

 プロトタイプとレジーヌの二人が先導して次の惑星へ向かう。この城みたいな本部にも、宇宙船があるとのこと。

 一行は廊下を歩く。途中、やはりいろいろな人にすれ違うのだが、その人達がどうもおかしい。まず、理架が先週の本編で戦ったカエルがいた。

 「千はどこだ? 千を出せ!」

 「ぷっ」

 「全員、アウトー!」

 不意打ちにカエルが喋るため、全員が笑ってしまう。ドクハキーノも大忙しである。三人の顔色の悪さもそろそろMAXで、墨炎に至っては目の下にクマが出来、脂汗をかいている。

 今度は白いオウムがバッサバサ飛んで来た。

 「シュクセイ! シュクセイ!」

 「マルート、粛清ー!」

 「え? ちょま……」

 オウムは無事お偉いさんに献上されたようで、お偉いさんの口癖をコピーしていた。

 レジーヌが音声担当のマルートに持てる火器全てを、バックパックのミサイルに両手のガトリングのフルバースト、マルートはソビエトもおそロシアな方法で粛清された。


 茶室


 三好雅と泉屋宮の二人は茶室に置いたテレビで様子を見ていた。

 「なかなか大変な企画だな」

 「なんと、天界も全面協力で死人を企画の間だけ現世に還してるそうよ」

 そう言う泉屋の頭には天使の輪が。これでは雅も納得せざるをえない。


 ギアテイクメカニクル ユートピア


 機械惑星ギアテイクメカニクルのユートピアという町は、所謂無法地帯である。サバンナの中、周囲を岩山に囲まれ……その編の詳しい話は惑星警衛士本部前の像と同じく『一般プレイヤーの日常 クイン編』で。

 「我々の仕事は、この銅像を図書館に戻すことだ!」

 クインは高らかに宣言する。その銅像とは何を隠そう、さっき惑星警衛士本部の前で見たあの銅像。

 「おい待て」

 顔色の悪い墨炎が不満を言う。手にはスタートの時渡された衣装変更アイテムが。

 「これ、意味無いよねクイン先輩」

 「それより薬を……」

 藍蘭と理架も文句を言う。企画のために移動させた銅像を、企画の間に戻そうというのだから不満や文句も出るだろう。

 「はいはい、とりあえずその箱のボタンを押しな」

 クインはそれを総スルー。司会のプロトタイプはレジーヌの運転するクレーンを誘導している。問題の銅像はクレーンが吊り下げ、図書館の前にある台座へ運ばれている。

 何はともあれ、墨炎達はクインの指示通りに衣装変更。同時に毒からも回復。

 「おお、これか」

 墨炎はクインに似た様なつなぎにタンクトップ姿へ。髪型もポニーテールになり、赤淵の眼鏡をかけている。

 「これいいね」

 藍蘭は普通につなぎを着ているが、帽子を被ったり何だか工業高校の実習みたいな空気。

 「ちょっと待って下さいよ!」

 理架は何やらパンキッシュなトゲトゲ飾りのあるレザーのジャケットを着ていた。ズボンこそ長さは普段のホットパンツだが素材はレザーだし、ベルトにもトゲトゲ飾りが。

 「どこの世紀末ですか!」

 「薬のバイヤーがそれいいますか……」

 クインは理架をよく知らないが、おそらく薬の売人かなんかだと思っている様だ。本編での初対面は、よりによって理架が初めて製薬スキルを使った話だったわけだし。

 「オーライ、オーライ」

 「とらんざむ」

 突然きぃん、という効果音がしたので全員がクレーンの方を振り返る。するとレジーヌの運転するクレーンがピンク色に発光しているのが見えた。所謂トランザム状態である。

 「まずい! あの状態だとレジーヌとクレーンのスペックはカタログのそれと比べて三倍だ!」

 「なんかGN粒子出てるぞ? しかも擬似太陽炉の」

 クインと墨炎だけがパニックに陥る。排気ガスが出るはずのマフラーから赤い粒子が漏れてるのだ。

 「GN粒子って緑じゃなかった? この前クイン先輩の話聞いて調べたらサイトにそうやって……」

 「へ? 色は関係無いんじゃないですか? 立花先生は『重要なのはマイスターの組み合わせであって、GN粒子の色じゃない』って」

 藍蘭と理架がGN粒子の色について議論する。何となくだが、一応GN粒子という存在は知ってるらしい。

 「ぶっ……。お前そりゃ意味が」

 「墨炎、アウトー」

 立花の発言が意味することを悟って吹き出した墨炎がアウトになってしまった。どこぞの衛星兵器からビームが照射され、ピンポイントで墨炎を狙う。

 「どぎゃああ、上からレーザー? メメントモリか! クイン、お前まさかクレーンに擬似太陽炉組み込んだんじゃ……」

 「いや、眼鏡の童貞に貰ったパーツを二つ、上手く同調させてだな」

 「それが擬似太陽炉だ! そしてその童貞が何を隠そうビリー・カタギリだよ!」

 墨炎とクインがガンダムを知る人しかわからないトークを始め、置いてけを喰らう藍蘭と理架。

 「え? あんな小さいのが擬似太陽炉しかもトランザム付き? 小型化に成功したのか? なんつー変態だ! 変態はブシドー仮面と俺がガンダムだだけで十分なんだよ!」

 「だから彼女がいねぇんだよ! 男の癖にポニテだし二年も気になる女と暮らしても進展ねぇし劇場版でポッと出の新キャラに惚れるし!」

 だが、そんな二人でもビリーなる人物がろくな扱いを、少なくともこの二人からは受けていないことくらいは理解した。会ったこともない人に言い過ぎである。

 「とにかくレジーヌを止めるぞ!」

 『パワーワーカー、ドッキングモード』

 墨炎がレジーヌを止めようと剣を抜く。しかし、そのレジーヌがクレーンとドッキングを始めた。クレーンはアームを畳んだりして小型になった末、レジーヌの背中に装着される。

 「きみのそのちから、おりじなるのじーえぬどらいぶのおんけいがあればこそ。かえしてもらうぞ!」

 「誰が!」

 レジーヌが放った二本の極太レーザーをいつの間にかリベレイション=ハーツして翼を生やした墨炎が飛行して回避する。それと同時に翼から二本の、レジーヌのものと同じサイズのレーザーを放つ。レジーヌのはオレンジ、墨炎のは赤。どちらも実は擬似太陽炉搭載機のレーザー色なのはここだけの話。

 「そのきはないよ!」

 「マズイ! レジーヌと墨炎は完全に『機動戦士ガンダム00』の最終回をここで再現するつもりだ!」

 レジーヌが一瞬止まって何かを言うと、クインは状況を判断する。

 「このままニッチなネタに走れば視聴率はガタ落ち! 私も新年早々派遣村とハローワークの往復ルーチンワークだ!」

 プロトタイプが戦慄する。無職の彼女にとってはサクセスのビックチャンスだった企画が馬鹿二人のせいでガンダムオタクの忘年会になりつつある。その馬鹿の一人が自分の相方でもう一人が妹だから質の悪さがクアンタムバースト。解り合う気が微塵も無い。

 「明らかに地の文が深夜に書かれている!」

 「ならば、今ウーバーワールドのアルバム聴きながら深夜に小説書いてる級長を止めるまで!」

 地の文のテンションから深夜に執筆されてることに気付いた理架と藍蘭は作者の級長がいそうな方向を向く。

 「でもどうやって止めますか藍蘭さん?」

 「さ、させるかーっ!」

 しかし、その級長を攻撃する手段が無い。考えてる間に墨炎がレジーヌの攻撃を回避する為にワープまでし始めた。まだDPOを始めたばかりの理架には何も思いつかない。

 「あるじゃねぇか! リミッターさえなければフィールドごと焼き払ったり細胞に刻まれた記憶を再現するトンデモコマンドがな!」

 「まさか……」

 藍蘭の言葉で理架が思い付く。たしかに、あれなら可能かもしれない。しかし、次元の壁まで越えて、尚且つ作者である級長に効くかどうか。同じ土俵に立てばヘドを吐くほど弱い級長だが、次元の壁に守られていると手も足も出せない。

 「この、にんげんふぜいが!」

 もう戦いは最終局面、墨炎が何かに乗り換えた模様。悩んでる時間は無い。やるしか、この深夜の作者の暴走は止まらない。

 「「リベレイション=ハーツ!」」


   @


 「どうやら成功ですね。様子が見れませんが」

 私、真田理架は何とか級長から地の文を奪った。級長がどんな事になったかは解らないけど、地の文を手放さざるをえない状態になったのは確かだ。しかし、さっきの戦いで図書館がボロボロだ。 何と無く嫌な予感はしていた。なんかズカズカと怖そうなスーツのおじさんが現れた。多分、図書館の責任者なのだろうか?

 「あれ? あの時依頼してくれた人の良さそうな人は?」

 「後で来ます」

 クインさんはどうやら知り合いを探しているらしい。怖そうなおじさんはその人の部下か上司か。

 「誰が図書館を壊した?」

 「田中丸です」

 おじさんの質問に迷わずプロトタイプさんが答える。濡れ衣の田中丸さんはロケットランチャーを片手に追い掛けてくるおじさんから逃げる。二人の姿がこの場から消えた。

 「のおおぉおぉぉぉぉぉっ!」

 「死にさらせ!」

 爆音が響き、田中丸さんが爆散したことがわかる。カメラマンはいつしか赤介さんに、音声は青太郎さんに代わっていた。ADは緑郎さんだ。

 「これでやっと式典ができますね」

 「あ、あん時の人だ」

 クインさんの知り合いが出て来た。こちらはどう見ても人が良さそうだ。

 「まずは、図書館管理人の挨拶です」

 その人は無理矢理式典を始めた。何も元ネタでお約束だからといって、無理にぶち込む必要はなかったんじゃないかな? 図書館管理人が出てきて挨拶をする。

 「はい、図書館管理人の紅憐ですよぅ」

 知り合いが出て来たからか、直江先輩と藍蘭さんは吹き出してしまった。この軍服着た赤髪の人誰?

 「【ファイアボール】!」

 紅憐さんは手からファイアボールを二人に打ち出すと、二人が吹き飛んだ。そんな技がDPOにあるのか。紅憐さんは話を進めた。

 「この間ですねぇ、タヌキの着ぐるみ着たんですよぅ。着ぐるみっていってもパジャマみたいなものですがねぇ」

 話し方が独特だけど、どこかわざとらしく聞こえる。多分これはナハトさんと同じくキャラ付けなのだろう。

 「そしたらどこぞの配管工みたいに、動物愛護団体に講義されちゃいました!」

 「ぷっ」

 「墨炎、アウトー」

 そのエピソードに心当たりがあるだろう直江先輩が吹いた。またファイアボールが飛んでくる。

 「……で、次の惑星でーす」

 プロトタイプさんは何もかもスルーして次の進行。この惑星では図書館を破壊しただけに終わった。


 愛知県警警察署 検死室


 理架と藍蘭の攻撃を受けた地の文こと級長は少なくとも大掃除の手間が10倍に膨れ上がっただろう。それを片付けるために筆が取れなかった。それと、ダンガンロンパしてたから筆が取れなかった。

 だって弟が借りてきたダンガンロンパ2が面白過ぎて……。チャプター2は無印のチャプター4に匹敵する感動ストーリーでした。ネタバレすると、この事件の犯人は登場人物の中にいる!

 ネタバレにならないネタバレはさておき、愛知県警の検死室はよく癒野優達がたむろしているのだが、今日は癒野以外にも誰かがいる。癒野と愛花以外が検死室にいるのは珍しいことだ。

 ここだけの話、『松永優』と『癒野優』で名前が被ったのはたまたまだよ。癒野は昔作った保健室の先生のキャラを流用しただけだよ。

 「それで、雅との中は進展したの?」

 「いえ! 1ミリも!」

 椅子に座る癒野に、元気良く木島ユナが答える。雅に恋をしたユナは猛アタックを仕掛けるも、雅には効き目無し。

 アイドルに告白されるなど、アイドルオタクにはうらやましい限りだろう。しかし雅はアイドルに興味が無い。ポケモンに興味が無い人はピカチュウとライチュウの区別が付かず、ガンダムを知らない人はモビルスーツを皆ガンダムと呼ぶ様に、アイドルが目の前に現れても雅はピンと来ない。

 さすがにユナの顔と名前を覚えているはずだが、雅はユナに好かれたところですぐにお付き合いを始めるほど軽くはない。

 「で、あかりは?」

 「無理です無理ゲーです! 元カノが最強過ぎますチートです!」

 稲積あかりは頭を抱えた。あかりの攻略対象は直江遊人だが、その元カノであるエディ・R・ルーベイがあまりに強敵だった。

 エディは何年も前に起きた原発事故で大量に被曝して、それが原因で死んだのだ。一般の女子高生が思い付きで『あたしの考えた最高に切ない恋愛』を何とか纏めた様な携帯小説もビックリな超展開、尚且つまだまだタイムリーな死に方をしたのだから当たり前だ。この小説がアニメ化されたら今頃苦情の電話がテレビ局に引っ切りなしにかかって来てるだろう。

 原発が無ければ電気が足りないが、原発は危険が残る。熱地みたいな馬鹿に持たせたのが悪いのか、それとも元々人類は原子力を制御できないのか。エディの死は重大な課題を我々に授けたのだ。いやー、大変だね。

 「あんなんじゃ無理ですって!」

 全然別の課題で苦しむあかりがいるが、それはさしたる問題では無いだろう。幼なじみが結婚する例は少ないし。

 そこで、癒野が優しく微笑んでアドバイス。まさに名は体を表す。その笑顔は某安西先生を彷彿とさせる。

 「諦めろ、試合終了だ」

 「諦めたら試合終了じゃないんですか?」

 癒野は試合終了を告げる。あかりは諦めてないからギリギリ試合は続いてるが、多分諦めてないのはあかりだけだ。級長も遊人を別のキャラとくっつけるのは余程のことが無いと無理。

 あかりが諦めなければならない理由はその出番にある。第二部が終わって以来、一切あかりに出番が無い。でも新年一発目の本編で冬香の葬式やるからそこで出番があるかもしれない。だが、新年早々葬式回を読まされる読者に配慮するならあかりは引っ込んで、なるべく話を短くしてあげる努力が必要だと思う。

 「だってさー。遊人ってあのままエディを忘れなさそうじゃん。多分最終回はエディの墓の前に座って、そのまま白骨化だよ」

 「どこのジェラールですか!」

 「それは違うよ!」

 癒野の言葉に突っ込んだあかりの発言をユナが論破する。選択された言弾コトダマは『単行本』。恐らく、ユナがネットカフェで読んだのだろう。

 「そいつはジークレインだ!」

 「その言葉、斬らせてもらう!」

 今度はあかりが論破。いつの間にか反論ショーダウンが始まっていた。使われた言刃コトノハは『単行本』。ユナが読んだものと違う。

 「はいはい、ジェラール談議はそこまで。ただでさえ複数似たのがいるんだから。あ、ちなみに私はミストガン派」

 癒野は二人を止める。このキャラクターは元ネタを知らない人にとって非常にややこしいので軽々に扱うのはやめた方がいい。


 アトランティックオーシャン 海底校舎プール


 次に田中丸を除く一行がやって来たのはアトランティックオーシャンの海底校舎。そこのプール。

 「着替え管理、だね!」

 藍蘭は既に着替えていた。いつものスク水だから楽でいい。今回も例のアイテムで着替えたわけなのだ、が。

 「何で、これなんだ?」

 墨炎の水着は以前、渚がギアテイクメカニクルのレジャープールで着ていたものだ。黒基調に赤いライン。普通に女の子らしい。

 「私はこれですか……」

 理架も戸惑いを見せていた。彼女は白いビキニを着ているが、金髪のアバターには良く似合う。

 「ここでアレ行ってみよー! 絶対に驚いてはいけないドラゴンプラネット!」

 「いってみよー」

 浮輪に掴まってプールにプカプカ浮かぶプロトタイプとレジーヌ。プロトタイプも以前、番外編で着ていた水着を着用している。白基調に赤い狼の模様が入ったビキニだ。

 「へ? てっきりネクロフィアダークネスでやるのかと」

 藍蘭はその下りをネクロフィアダークネスでやると予想していたが、それが外れた。プロトタイプはプールから上がり、三人に衣装変更アイテムを渡す。

 「プール出てからこれ使って。外に相方いるから」

 「水着着る必要は……」

 「……無かった」

 墨炎と理架は釈然としない空気でそれを受け取ると、藍蘭と一緒にプールを出た。

 プールに直結した更衣室は三つあり、それぞれの名前が書かれているのでそれに従う。

 墨炎は更衣室に行くと、隣のシャワールームに向かった。プールの塩素で髪がギシギシいうのが気になるのだ。リアルでも白髪で髪が弱いから気にしてるのに、墨炎のアバターは髪が長いから余計に気になる。

 「シャンプーあった。切り裂き魔と同じデメリットのレッドベリーの香りなんて、チョイスが嫌がらせじみてるけどな」

 ちなみに墨炎はそのシャンプーが後々恐怖を引き起こす事になるとは知るよしもなかった。なので彼女はその赤いシャンプーを目一杯手に出して髪を洗う。

 シャワーを浴び終わった彼女は更衣室で衣装変更アイテムを使用する。墨炎が着ているのは長篠高校の冬服。ただし、上着はジャケットではなく黒いパーカーだった。フードにはネコミミが付いている。

 「行くか」

 更衣室の床は濡れているので、ハイソックスは履かずにいる。そのまま更衣室を出ると、そこでハイソックスとブーツを履く。

 「どうやらここは廊下らしいな」

 海底校舎の全てを知ってるわけではない墨炎は周りを見渡す。暗いが、何とか以前藍蘭から果たし状を叩き付けられて決闘の地であるプールへ行く為に通った道であると理解する。

 「あ、遊人じゃん」

 「夏恋か」

 その時、墨炎はいつも通り赤いドレスを纏った夏恋を見つける。正直、夏恋のアバターは若干髪の黒が濃いだけで、あまりリアルと違いが無い。おそらくエステで自分そっくりに改造したのだろう。

 「あ、髪乾かしてない! 白髪のくせに!」

 「白髪は関係ねぇだろ! 姉ちゃんすら髪を乾かさないから、ドライヤーは真夏が始めて我が家に持ち込んだんだ!」

 「はいはい、トイレにドライヤーあるから乾かす乾かす」

 夏恋は墨炎を引っ張り、トイレへ連行した。


 一方、藍蘭も着替えて外に出ていた。そして、すぐに海底校舎の探索を始めた。隣にはスカーレットがいる。

 「肝試し気分だな」

 「私達は海底校舎を知り尽くしてるからね」

 普段と違う海底校舎にウキウキで二人は歩を進める。いつもの服装に戻った藍蘭は、早くお化けでも斬りたそうだ。

 「何だあれ?」

 「さあ?」

 別の棟へ行く渡り廊下を歩いていた二人だが、窓の外を赤い影が横切るのを見た。

 「外は海、それも水圧の高い海底よ?」

 「だよなー」

 スカーレットの言う通り、外には何もいないと信じて藍蘭は先に進む。渡り廊下の先は特別教室棟。入るとすぐに、曲がり角だ。

 「何だ、この血は?」

 藍蘭はそれを曲がると、すぐに血溜まりが見えた。上から血がポタポタと落ちるので、後から追いついたスカーレットが天井を見上げる。

 「あれは!」

 天井に張り付く紫野縁をスカーレットは見つけた。イメージカラーが紫から赤に変わるくらい見事に血まみれだ。

 「ぎにゃあああああっ!」

 二人は全力ダッシュで逃げ出した。ただでさえ悲惨な死に方した縁がこんな再登場を果たしたのだから。

 「どっひゃあああっ!」

 さらに、廊下に置かれたロッカーから腹をかっさばいた夏目波が現れた。マジで怖い。夏目に刺された藍蘭は若干あの光景がトラウマなのだ。

 何とか二人は教室に逃げ込む。流石に縁と夏目は彼女達を見失ったようだ。スカーレットは状況を整理する為に電気を付けた。


 そうしたら、教室で首を吊っている桜木小春の姿があった。


 「なんじゃこりゃあああっ!」

 二人の叫び声が校舎に響き渡った。


 一方、プールから出た理架は意外な相方と一緒にいた。

 「SEAさん……でしたっけ?」

 「ああ」

 黒いセーラー服に、長いプリーツスカートというスケバンじみた服装に着替えた理架は相方、SEAを見据えた。青い装甲に身を包み、暇そうに機械の尻尾を揺らしていた。

 「あ、どうやら作者の奴がその衣装を気に入ったらしいな」

 「えぇ? これって片っ方スリット入ってて恥ずかしいんですが……」

 わたわたと理架が慌てる。セーラー服のスカートは長いが、その左側にはザックリと深いスリットが。

 「とにかく行こう。肝試しか、楽しみだ」

 「……」

 理架はジッと、SEAを見つめた。藍蘭やスカーレットからはSEAがアイドルグループのほぼ全員を殺した凶悪なプログラムであると聞いていたが、この様子を見るとそうも思えなかったのだ。

 「あの、SEAさん?」

 「何だ?」

 歩きながら、理架はSEAと話してみることにした。仲間を殺された憎しみで藍蘭やスカーレットはSEAを悪く見るが、そうしたしがらみが無い自分なら真っすぐに彼女を見つめられると思ったからだ。

 「SEAさんって、何者なんです?」

 「私はメンタルケアプログラムだ。だけど、人の悩みを聞く度に、自分の存在に疑問を抱いたんだ」

 SEAがアイデンティティに悩んでいたことはわかった。だが、そんな思春期みたいな理由でまさか大量殺人はしないだろう。そこを理架が突っ込んで質問しようとした時、SEAが後ろを振り向く。

 「まさか!」

 「え? なんです?」

 SEAと共に振り向いた理架は驚愕の光景を目にする。後ろから女性のゾンビが追い掛けて来たのだ。しかもSEAは女性に見覚えがある。

 「河岸瑠璃!」

 「知り合い?」

 とにかく二人は逃げることに。相手が以前、存在そのものを乗っ取っていた人となるとSEAは分が悪い。

 「そういえば瑠璃さんを殺した犯人だけが謎でした!」

 「知るか!」

 今年最大の謎を残して二人は走る。瑠璃を殺した犯人は誰何だろうね。まあいずれハルートの包帯の話と一緒にするよ。



 その一方、墨炎と夏恋はトイレで髪を乾かしていた。夏恋は墨炎の長い髪を櫛で梳かす。

 「シャンプーの匂いが悪趣味ね」

 「それしかなかったんだ」

 他愛もない会話をしていると、トイレの奥で物音が聞こえた。恐る恐る二人が奥を覗くと、普通に冬香のゾンビがいた。全身めった刺しの傷があり、本編の死に方に忠実だ。

 「お姉……ちゃん」

 「ひぎゃああああ!」

 「【ダス・レイジ】!」

 墨炎が絶叫を上げた瞬間、夏恋はあっという間にレイピアで冬香の頭を貫いた。見事な早業だ。どうやら冬香は墨炎の使ったシャンプーの匂いに反応したらしい。切り裂き魔と同じレッドベリー系の匂いに。

 「ふぅ」

 「おいゾンビとはいえ妹だろ」

 「ゲーム脳で馬鹿になったの? 冬香は切り裂き魔に殺されたんだからネタバレされる前に仕留めないと」

 一連のやり取りを終えて墨炎が首を傾げる。アホ毛もハテナを描いた。そこまでの疑問か。

 「おいおい、冬香の死体はまだ本編じゃ警察にすら見つかってないのに何で切り裂き魔と……」

 「死体が発見されました。一定の捜査時間の後に学級裁判を行いまふ」

 何とか夏恋は墨炎の追求をごまかした。本来、死体発見アナウンスは三人が死体を見つけないと流れない。

 「あ、いたいた」

 プロトタイプがトイレに入ってくる。何か進行上の連絡があるのだろうか。

 「あのね。級長の都合で次の惑星に行くって、巻いて巻いて!」

 どうも級長の都合が悪く、ちゃっちゃと企画を進めることにしたらしい。確かに週一連載もかなりギリギリで書いているから、今回みたいな長い特別編は大変だろう。


 そうした理由で死人組を雑に扱いつつ全員を集めたプロトタイプは宇宙船で最後の惑星、ネクロフィアダークネスへ。この肝試しをネクロフィアダークネスでしなかったのには、ある理由があるのだ。


 墨炎、藍蘭、理架の三人。司会のプロトタイプとレジーヌ、スタッフの赤介、緑郎、青太郎。このメンバーはネクロフィアダークネスの都会をモチーフにしたステージ『墜ちること無き天下人の居住』、そのビルの屋上へ集まった。

 ドラゴンプラネットが始まったこの地で、一体何をしようというのだろうか。

 「あ、あれ!」

 理架が地平線を見て叫んだ。なんと、暗黒惑星と呼ばれたネクロフィアダークネスに朝日が昇ったのだ。

 「アサヒった!」

 「珊瑚に傷を付けないようになー」

 プロトタイプのボケを冷静に墨炎が捌いた。笑ったら何が起きるかわからない。

 「暗黒惑星に初日の出とは、またまた粋だねー」

 藍蘭は純粋な感想を漏らす。しかし、レジーヌは朝日を前に腕を組んでいた。そして、突然叫んだ。

 「あたらしいにっぽんのよあけぜよ!」

 「ぶっ!」

 「全員、アウトー!」

 まさかのレジーヌがボケた。最後の最後に気を抜いていた全員が笑ってしまう。そこで、突然辺りが暗くなったことに気付いた墨炎が上を見上げる。

 「まさか、これって冒頭にガンダムXが壊したコロニー……」

 よく見ると、スペースコロニーの残骸が上から降っているではないか。これが最後の罰ゲームだった。

 「年末企画は、もう懲り懲りだあぁああ!」

 爆発する町にプロトタイプのとも作者のとも取れる叫びがこだましたのだった。

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