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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
106/123

45.薬師の試練

 切り裂き魔事件 関係者リスト

 切り裂き魔

 岡崎を震撼させた人物。女性でレッドベリー系のシャンプーを使ってるとは弐刈の談。

 愛花は正体に気付いており、『××××』であると遊人に伝えた。この×には漢字一文字が入るものと思われる。

 藤井佐上によると、渦海に繋がりがあり、表五家に敵対する人物の家族を狙っている。


 藤井佐奈

 切り裂き魔事件の被害者。藤井佐上の娘で絶対記憶の持ち主。だが、切り裂き魔の顔については『忘れた』と証言。


 上杉夏恋

 切り裂き魔事件の起きた九州出身。事件に巻き込まれ、愛知に引っ越した。父親は元官房長官の上杉季節。

 理架によると、シャンプーの香りはレッドベリー系のものではないらしい。


 立花凜歌

 渦海党が警察から聞いた情報によると最有力候補の容疑者。

 夏恋と同じく、切り裂き魔事件の起きた九州出身。事件の直後に引っ越した。

 最近シャンプーをレッドベリー系の匂いに変えたらしい。

 冬香が殺害されたのは、彼女を追求した直後である。

 ネクロフィアダークネス つわもの散った汚染の大河


 私は赤介さん、青太郎さん、緑郎さん、そして直江先輩とプレイヤークエストに来た。この矢作川をモデルとしたステージに薬を投下し、洗浄するのが私達の目的。

 矢作川は広い河川敷を持ち、道まで舗装されている。ネクロフィアダークネスの特製というべきか、真っ暗で水も汚く、敵が多い。

 「ひゃっほーっ! 敵だ敵だ!」

 直江先輩は道を塞ぐ大きなカエルに切り掛かる。非常に楽しそうだ。左右の剣でドンドン敵を削る。カエルは血を流して倒れているが、ゲームだからか何も感じない。

 「さすが墨炎、一番楽しんでやがる」

 赤介さんは木刀でカエルを捌いている。このカエル、二足歩行で大きさが私達ほどある。直江先輩のアバターである墨炎ちゃんなんて、すぐに飲み込まれそうだ。

 「ああっ! 言ってるそばから!」

 私がカエルを殴り倒して前を見ると、直江先輩は早速カエルに飲み込まれていた。頭からかぶりつかれ、足をばたつかせるも丸呑みにされる。

 「何してるんですか! 【ストレート】!」

 カエルを殴って直江先輩を救出する。直江先輩は出て来たが、胃液まみれでベタベタだ。

 「うひー、気持ち悪い」

 「なんか……いつもとキャラ違いますね」

 「墨炎だとストレートに感情出しやすいんだよな」

 直江先輩はいつもよりはっちゃけていて、普段のクールさが微塵も無い。立ち姿のスキの無さはそれこそ普段の直江先輩であるが。

 「で、本当にそんな小さい薬で大丈夫か?」

 「え? 指定のポイントで川に投げ込めって……」

 直江先輩に言われて改めて薬の瓶を見るも、ドリンク剤くらいのサイズで川を浄化できそうな代物ではない。定期的に少量ずつ、川に投下してるのだろうか。

 「川を浄化するって、自然の摂理に任せる以外無いぞ? 薬投下しても流れるし。このゲーム、妙なところはキチッとしてるし、何か引っ掛かるな」

 「とにかく入れてみればわかるだろ」

 赤介さんが先頭に立ち、ドンドン進む。直江先輩の懸念もあるが、これはゲーム。死んでも命は取られない。

 カエルが次々に川から上がり、私達に向かってくる。進まなければ、押し返されそうだ。

 「何だありゃ?」

 青太郎さんが遠くに何かを見つけた。人間らしいが頭が巨大で、よくいる宇宙人リトルグレイにも見える。

 その人間はこちらに向かって走って来た。人間から皮膚が無くて、理科室にある様な筋肉の模型に似た姿をしている。頭からは肥大した脳が飛び出ている。今にもこぼれそうだ。あ、少し落ちた。

 「脳人間なら任せろ! 【シザーアドバンス】!」

 直江先輩は技を使って突撃。突進技らしく、直江先輩は矢の様に脳人間へすっ飛んだ。剣が刺さった脳人間は倒れ、そのまま息絶えた。

 しかし、上空から人間のシルエットだが甲殻があって背中にトンボの様な羽があるエネミーが複数現れる。

 「昆虫人間か、相変わらず気持ち悪いな。【スワローウイング】!」

 先輩は両手の剣を振る。そこから二本、青い帯が伸びて昆虫人間をそれぞれ落とした。

 「負けてられねぇな! 【根性スイング】!」

 赤介さんが地上に降りた昆虫人間を狙う。木刀を水平に凪いで昆虫人間の頭をもいだ。

 「木刀か。剣と同じ使用感覚でカテゴリーが打撃だから、たまに使うんだよね。ほら、打撃攻撃が出来る武器って剣から掛け離れてるしさ」

 「甲殻持った敵には有効だ。俺の『暁』はネイチャーフォートレスの名木から生まれた」

 直江先輩と赤介さんは互いに武器を見せ合っていた。

 「墨炎はあんまり武器を強化しないんだな」

 「金を他に使っちまってね。まあ俺、モンハンなら終始ハンターガリンガでイケる方だし」

 直江先輩の武器はあまり強いものではないらしい。シンプルなデザインからそれは察することができる。

 「連結するとツインランスになるやつか」

 「両方とも使い勝手悪いから人気無いんですよね」

 緑郎さんと青太郎も武器を見る。私だけナックルだから、あまり話に入れない。直江先輩の武器が連結できることがわかった。

 「大分、技も上位技が出る様になったからな。そろそろ武器強化するか」

 直江先輩は剣を構え直す。アバターの小さな身体に長い剣は不釣り合いだ。このゲームはアバターのサイズも考慮して戦略を立てるとナハトさんも言っていた。

 例えば、直江先輩の様に小さなアバターは攻撃をかわしやすい。だが、一度攻撃が当たると吹き飛びやすい。さらに、あまり大きな武器を持つと体勢が崩れやすいし、何より柄が手に収まらない。それは直江先輩をよく見ればわかる。まるでやんちゃな女の子が剣士の真似事をしてる様にしか見えない。

 アバターの身体が大きいと的も大きいから、攻撃は避け難い。だが、ガタイがいいと大きな武器を振り回してもふらつかないし、攻撃を受けても吹き飛ばない。

 アバターのサイズまで戦術に組み込む必要があるのは全感覚投入ゲームであるDPOならでは。私はちょうど中間のサイズだから、さっき上げた例ほど単純ではないが。

 まだ道は長く、指定のポイントまでは着かない。まだまだエネミーがいるね。全感覚投入での一騎当千がテーマのネクロフィアダークネスだから仕方ないけど、ゾンビも大挙してやって来る。

 「また何かデカイの来るぞ?」

 ゾンビをちぎっては投げてると、直江先輩がアホ毛をピコピコ動かして何かを察知する。索敵スキルだそうだが、アホ毛があると動くのかな?

 「川に!」

 緑郎さんの言葉に反応して川を見ると、ヘドロの様な川を泳ぐエネミーが複数いた。鮫みたいなヒレが水面から見える。そして、その鮫達はこちらへ飛んで来た。

 「【ライジングストライク】!」

 直江先輩はそれを縦に真っ二つ。鮫の身体は大きいが、さほど強くないらしい。外見はただの鮫だ。

 「【フレイムナックル】!」

 私は一旦鮫を避けて、地上でビチビチ跳ねるそれを殴る。赤介さんや緑郎さんは飛んで来る段階で殴っていた。

 「【チェーンアンカー】!」

 青太郎さんは飛んで来ない鮫を釣り上げ、そのまま地上へ引きずり出す。鮫は宙を舞い、地上に大きな音を立てて崩れた。これだけで鮫は絶命する。

 「汚水に住む『バイスシャーク』か。ボスがいるぞ」

 直江先輩によると、このエネミーにもグレリアス同様に群れのボスがいるらしい。

 まだ鮫は川を泳いでいる。ここを早く離れた方がいい。

 私達は舗装された道を抜け、砂地に来た。道はここで途切れているので、後はこの砂浜みたいな道を歩くしかない。舗装された道より川に近いからバイスシャークが来るかも。しかし、またしても妙なエネミーが現れた。

 「砂に鮫……?」

 よく見たら、砂を鮫が泳いでいる。また厄介なものらしい。私は無視して先に行く。指定のポイントはこの先だ。

 「あった!」

 私はライトアップされた看板を見つける。そこから瓶の薬を投げた。まだ直江先輩達は追い付いてない。

 「クエストクリア! やりましたよ!」

 私は皆に向けてガッツポーズ。しかし、皆は何かを話し合ったあと、背中を合わせて固まった。心なしか、砂を泳ぐ鮫の数が増えている。

 「え? 何あれ?」

 砂の中から一際大きな鮫が現れた。砂を泳いでる鮫のボスだ。早く助けに行かないと……。

 「バイスシャークのボス!」

 しかし、突如巨体が私の行く手を阻む。バイスシャークのボスだ。赤い模様が狂暴さを見せ付ける。普通のバイスシャークの三倍は大きい。砂地に乗り上げてる今がチャンスだろうか。

 「くっ、皆を助けに行くにはこれを倒さないと! 【ストレート】!」

 まず、殴って様子を見る。ボスバイスシャークは身体を使って私を弾き飛ばす。

 「きゃあっ!」

 地面に落ちても痛みは無いが、ダメージは大きい。HPの二割を削られた。だが、ボスバイスシャークは砂地に乗り上げて次の攻撃に移れない。これはチャンス。

 「【フレイムナックル】!」

 私はボスバイスシャークに攻撃する。しかし、一度攻撃する度に弾かれてしまう。この繰り返しでは、私の方が先に倒れる。

 「うくっ……!」

 『技を習得しました! 拳術【真空波】』

 その時、明らかに遠距離から撃てるっぽい技が出て来た。これなら攻撃の後にボスバイスシャークに弾かれてダメージを負う心配は無い。

 「【真空波】!」

 私は早速使って見る。右拳の周りに風が発生し、その拳を突き出すと風の塊が飛んでいく。だが、ボスバイスシャークに当たってもあまりダメージになっていないみたいだった。ボスバイスシャークも徐々に砂地から川に戻りかけている。

 「なら、【リベレイション=ハーツ】!」

 私はリベレイション=ハーツを使った。例の、周りが遅くなるあれだ。

 これで殴っても弾き飛ばされる前に離脱できる。私はすぐ、ボスバイスシャークに駆け寄った。

 「【フレイムナックル】! 【フレイムナックル】! 【フレイムナックル】!」

 とにかく連続でフレイムナックルを撃つ。しかし、まだボスバイスシャークを倒し切らない内にリベレイション=ハーツは切れてしまう。

 「まずい……」

 『技を習得しました! 拳術【バーニングインパルス】』

 ギリギリのところで、また技を習得する。ボスバイスシャークは動き始めており、回避は間に合いそうにない。

 「【バーニングインパルス】!」

 私は咄嗟に新技バーニングインパルスを放つ。物凄い勢いでボスバイスシャークに右手が激突する。遂にボスバイスシャークは崩れた。一応素材は確保した。

 ボスバイスシャークは口から血を流していたが、やはり何も感じない。血への恐怖心が薄れているみたいだ。

 「やりましたよ!」

 私は仲間の下へ駆けて行く。赤介さん達も砂を泳いでる鮫を倒したみたいだ。

 「何だったんだ? まさかあの薬が鮫を引き寄せたのか?」

 直江先輩は太股のベルトに装着した鞘に剣を仕舞いながら辺りを見渡した。確かに、鮫が現れたのは私があの薬を川に投げ入れた後だ。

 「まだNPCが登場してないなら、このプレイヤークエストは続くぞ」

 赤介さんはNPCとやらの登場を一つの目安にしてる様だ。それらしきものはまだ見掛けないので、きっとまだなのだろう。

 「ところで、NPCって何ですか?」

 「あれじゃね?」

 私がNPCについて赤介さんに聞くと、青太郎さんがある方向に指を差す。私がボスバイスシャークと戦っていた場所だ。

 そこに、人影があった。黒いパーカーらしき服を着ているが、ツナギになっている辺りがゲームっぽいデザイン。袖は長いもののズボンに当たる部分は短く、始めはホットパンツでもはいてるのかと思った。DPOで服屋に行って、初めて服の名前を覚えた。黒いニーソックスも履いていて、完全な黒ずくめだ。

 パーカーを被っていて、顔は見えないが赤い髪が覗く。誰なんだろう?

 「なるほど、倒したか……」

 「あっ、待って!」

 私が止めるのも聞かず、その人は走り去ってしまった。声や身体付きから女の子だと思うんだけど……。

 「あれがNPCの様だな。よかったじゃないか、ファーストコンタクトから刺されないで」

 「直江先輩は刺されたんですね」

 どうやら加減なNPCもいるらしいと直江先輩から教わった。ファーストコンタクトで刺されるって、相当恨みを買ってたんですね。

 「次どうします?」

 「せっかくだからここを冒険しようぜ! 墨炎もいるし」

 私が次の行動を決めかねた時、赤介さんの鶴の一声で全てが決まった。赤介さんがナハトさんに次ぐリーダー格かも。

 それで、私達はしばらくこの一帯を探索した。そして、そろそろ夕食の時間なので一回ログアウトすることにした。私達はまた夜に会う約束をしてログアウトしたのだった。


 私が目覚めたのは自宅のベッド。部屋着のワンピースを着て、お腹を壊さないようにタオルケットをかけてログインしていたのだ。ウェーブリーダーは膝に乗せたノートパソコンに繋がっている。

 「んっ、眼鏡……」

 私は眼鏡を探した。ちょうど、パソコンの上に置いてあった。私は眼鏡が無いと何も見えない。

 ふと、私は空気の異変に気付いた。夏だから当たり前かもしれないけど、一応窓を開けて換気もしているはずなのに、空気がやたら暑くて湿っぽい。

 外はスッカリ暗くて、日なんて出ているわけもない。なのに、物凄く暑い。私の身体を、嫌な空気が纏わり付く。ただの熱帯夜ではなかった。

 その時、チャイムが鳴った。

 「っ!」

 私は思考を打ち切り、ベッドを降りる。宅配を装う強盗がいるからと、お父さんにはチャイムが鳴っても出るなとは言われている。

 だけど、私の足は自然と玄関に向いていた。裸足で歩く床は、ベタベタしていい気持ちではない。

 私は部屋の扉を開ける。チェーンがかかっているけど、私は何気なくチェーンを外していた。まるで、私の中の誰かがそうさせてる様に思えた。

 「あっ……」

 扉を開けると、そこには見知った人物がいた。


 血まみれの、弐刈さんだった。


 「に、弐刈さん?」

 「あ、理名さんかい? 会いに……来たよ」

 弐刈さんは地面に膝を着く。彼が歩いてきたと思われる道は、血で汚れている。それこそ、赤い絵の具を大きな筆で塗りたくったみたいに。

 「弐刈……さん」

 「理名さんも驚いちゃうよね、いきなり来たら。でも、ちょっと会いたくなってね」

 弐刈さんは口から血を吐きながら、喋る。私は足に力が入らなくなって、へたり込んでしまう。素足にベッタリと、弐刈さんから流れた血が着く。

 「ひっ!」

 薄れていた血に対する恐怖が、再び蘇る。やはり、ゲームとは違う。これは現実だ。

 私の脳裏に、あの時の記憶が過ぎる。松永優くん、幼なじみのその子が、大量の血を吐いて倒れる光景。あの時と同じだ。違いは、優くんの時は、直江遊人先輩の時はその人の無事を、かなり時間が経ってからだけど確認できて、今は無事なんか絶対に有り得ないということ。

 「助けて……」

 私は身体に力が入らず、そのまま玄関に、仰向けに倒れる。辺りに貯まった血に背中が濡れ、この状況が現実であることを一層強く確認させる。

 「誰か、お父さん、ナハトさん、直江先輩、誰か……」

 私の意識は、そこで途切れた。

 次回予告

 真夏です。どうやら切り裂き魔による犠牲者が出てしまったようですね。

 理架さんは休んでいて下さい。犠牲者達の仇は私と、お兄ちゃんと、お母さんが必ず。

 次回、ドラゴンプラネット。『疑いの目』。


 ドラペディア

 NPC

 ナハト「DPOのNPCで、最も特殊なのはプレイヤークエストに出て来る奴だな。こいつらはプレイヤーの『負の感情』から生まれるんだ。例えば、プロトタイプって奴は墨炎の憎しみ、理架が会った奴は血に対する恐怖心から生まれてるんだ」

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