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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
102/123

視界ジャック14 自ら手放すモノ

 東京都内 某ホテル


 東京都内のとあるホテル。ここは高い代わりに顧客の情報を絶対に漏らさないことで有名だった。それゆえ、政治家や有名企業の重役がホテルのレストランで密談したり、世間を騒がすスキャンダルの舞台にもなる。

 部屋は全てスイートルーム。二人用ベッドとユニットバスがあるだけの、シンプルな作りだ。そのベッドで渦海親潮は待機していた。

 シャワーの音が聞こえる中、親潮は一人考えた。凍空財閥さえ、真夏さえ裏切らなければ、こんな秘密主義だけのムードの無いホテル使わないのにと。

 同じく東京にある凍空プリンスホテルは現在、直江真夏の所有物である。経営こそ部下に任せてあるがそこは表五家システムに反逆した真夏及び彼女の父親である寒気の直属。表五家の人間がくつろいでボロを出す時を舌なめずりしながら待っているのだ。昔はサービスも部屋も良く、オマケに表五家系列だから自分が不利になる情報は流れないといたせりつくせりだった。

 今の表五家、いや渦海党はそうもいかない。凍空の崩壊で秘密主義が取り柄のホテルしか使えないばかりか、少しでもスキャンダルの臭いを流せば宵越が潰れたことで抑えられなくなった週刊誌やネットニュース各社が飛びついてくる。宵越がいたら、それらを誤報としてテレビで扱えばごまかせた。

 「やはり、不便な世の中になった」

 親潮は勝手なことを呟いた。息子の黒潮さえ、現在は反抗期の度を越して反逆してくる。彼の楽しみは今、シャワーを浴びてる『彼女』だけだ。ボンヤリとしたスタンドライトの明かりだけが照らす部屋で、親潮は彼女を待った。

 シャワーの音が止まる。そして、ユニットバスの扉が開いた。中から出て来たのは、バスローブを纏ったリディア・ソルヘイズだ。彼女は最近、弐刈の秘書を辞めて親潮の秘書兼愛人となったのだ。

 「来たか。待ち兼ねたよ」

 「まったく、いつまでも元気なんだから……」

 リディアはただ呆れながら、ベッドに腰掛ける。湿った髪が張り付き、顔は上気していた。シャンプーの甘い臭いが親潮をそそる。

 「ほう、シャンプー変えたか?」

 「いつまでもデメリットなんて安物使えないでしょ? 貴方のものになるんだから」

 シャンプーを指摘されたリディアは、誘う様な流し目をしながら、バスローブの肩をはだけた。そこから覗く白い肌は水を弾いている。

 親潮はその肌を撫で、リディアの髪を梳かしながら言う。妻子持ちの親潮にとって、これは当たり前の様に不倫なのだが、自分の欲望を制御する倫理感があれば表五家などできない。真夏、弐刈、黒潮の息子世代が当たり前にしてることを、内閣総理大臣ができない有様である。

 「あれは確かにダメだ。特にレッドベリーは……」

 「切り裂き魔を思い出すの?」

 親潮が言おうとすることを遮り、リディアが先に言う。そして親潮はリディアを押し倒して続きを喋る。

 「そうだ。あやつも中々の上玉だが、切り裂き魔など道具に過ぎん」

 「で、今度は誰を殺させるの?」

 リディアは淡々と聞いた。切り裂き魔が表五家と繋がっていたことなど、既に驚くことでも無い様だ。しかし、リディアの表情が次の一言で一変する。

 「宵越弐刈、凍空真夏、渦海黒潮だ」

 「なっ……!」

 切り裂き魔の『被害者リスト』に弐刈の名前が載ったのだ。しかし、リディアはそれを悟られまいと話を反らす。

 「自分の……息子を?」

 「そうだ。ああ、あと弐刈はお前がやれ」

 「っ……!」

 さすがにリディアも二つの意味で同様が隠し切れなかった。何故弐刈を切り裂き魔ではなく自分の手で始末しなければならないのか。そして、まだ自分に弐刈のことを想う心が残ってることに。

 『お前、そんなこと言ってると後悔するぞ! 話したいことも話せず、死に別れるつもりか!』

 「わ、私は……」

 墨炎/直江遊人の言葉をリディアは思い出す。シャワーを浴びたばかりなのに、嫌な汗が溢れ、肌をベタベタにする。死に別れる。どうせ死ぬのは自分の方だと考えていたリディアにとって、弐刈が先に死ぬなど考えもしなかったことだ。

 「どうした? できんのか?」

 親潮に追い詰められる。さらに、ナハトが言った言葉も頭に過ぎる。

 『自分も相手も、いつまでも生きられると思ったら大間違いだ!』

 「相手……も」

 「やらなければ、切り裂き魔が君をを殺すだけさ」

 リディアは硬直した。自分の為なら他人の命など喜んで差し出してきた彼女だが、弐刈をどうしても殺すことなど、考えられなかった。

 だが、リディアは自分の本来の目的を思い出す。世界を混乱させ、秘匿された自分の存在を世の中に知らしめること。犠牲にしたものが多過ぎて、もう引けない。

 「やります……」

 「そうか」

 リディアは決めた。弐刈を殺すことにした。世界をめちゃくちゃにすることが、自分を勝手に生み出して慰み物にした研究者への復讐になると信じて生きてきた。ここで立ち止まるわけにはいかない。

 「ならよい」

 「うん。じゃあ、来て」

 リディアは迷いを捨て、親潮を受け入れた。全ては世界への復讐のためだった。

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