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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
101/123

43.最良の名水を求めて

 インフィニティ図鑑

 名鳩零

 能力:『超辛気バイタルチェッカー

 触れただけで相手の体温、脈拍、心拍数を知る能力。触れた人間が病気ならば自分の知る範囲で確認できる。

 アトランティックオーシャン 海中


 私は潜水艦に乗っていた。このアトランティックオーシャンという惑星は全体的に水没しており、移動には潜水艦を使う。

 「熱帯魚とかいないんだな」

 「水温から察すると、どうやら私達は高緯度の地域にいるようです」

 私とナハトさんは潜水艦の窓を眺めていた。外を泳ぐ魚は鰯や鯖など、カラフルな熱帯魚とは程遠いものばかりだった。どこと無く、海も暗い。

 「昨日も大変だったよ」

 「ありゃ、ブチ切れて当然だがね」

 私は昨日のことを思い出していた。その全容はナハトさんに話してある。要するに初対面の人を勢いに任せて殴ってしまったのだ。

 「その上杉夏恋って人の名前、聞き覚えあるな。たしか、あたしが地元にいた頃、新聞の地方欄で見た。なんか傷害事件とか」

 「でも、その人からは例のシャンプーの匂いしなかったし、多分切り裂き魔じゃないよ」

 ナハトさんが核心に迫りそうな情報を持っていたが、シャンプーの匂いが違うからそれも無意味だろう。凄まじい状況証拠による判断だが、私にはそうとしか思えない。

 「町の人曰く、止水は氷の洞窟にあるらしいですね」

 「おそらく、これから向かう『氷結海』にもあるはず」

 赤介さんと青太郎さんが地図を見て解説する。氷結海という場所は海が凍った所に『ある生物』が穴を掘って住み着いたもの。要するに、洞窟。

 「もうすぐ着きますぜ」

 緑郎さんに言われて私達は準備をした。潜水艦が停泊する場所をよく見ると、私達以外のプレイヤーが来ているのか、複数の潜水艦が停泊していた。

 潜水艦から降りてみると、どうやら氷結海は全く氷の洞窟らしく、足を滑らせそうだ。この広場の壁を見ると、何かで削った跡がある。床も同じく削られていて、その跡のおかげで足が滑らずに済んでいた。

 「見ろよ。新生円卓だ」

 ナハトさんが指差す先には、仮面を付けた初期装備の集団がいた。間違いなく、新生円卓の騎士団だ。一人だけがここの見張りなのか。

 「やれるか?」

 「お安いご用」

 赤介さんが青太郎さんに声をかけると、青太郎さんの姿が消えた。

 「『隠遁』スキル。上達すれば気配どころか姿も消せる」

 緑郎さんの説明で理解した。そういうスキルもあるのね。姿が消えた青太郎さんは後ろから新生円卓の首をチェーンで絞めて倒す。

 「あれ? デュエル申請してませんよね?」

 「ああ、ここはドラゴンプラネットと同じ、上級フィールドだ。プレイヤーキルもありなんだ」

 ナハトさんが言うに、ここではプレイヤーを殺していいらしい。だから青太郎さんがデュエル申請無しで新生円卓を倒せたのか。ドラゴンプラネットという場所と同じ仕様らしく、まだそこに行ったことの無い私には調度いい練習だ。

 「先に進もう。なんか騒がしい」

 ナハトさんは耳を澄まして、先にドンドン歩いて行く。何かに呼ばれているみたいだ。

 「何か聞こえるんですか?」

 「ああ。なんか激しいな。インフィニティがここに二人いるみたいだ。あと、半分しかインフィニティ細胞のない奴も二人だ」

 多分、これが順さんの言ったインフィニティ共通の能力なんだろう。あまり能力の解析が進んでない割に、ナハトさんはかなり使い熟している。

 「このDPOでインフィニティに脳波バチバチされると困るんだよな……。脳波がワイヤレスだから干渉する」

 「なるほど……。通常の身体だと脳波が外に出ないから大丈夫だけど、アバターは脳波をサーバーで処理するから、身体の外に脳波が出ちゃうのね」

 私達の身体を動かす指示を出す脳波。それは普段、私達の身体の中のみで処理される。しかし、DPOはウェーブリーダーで脳波を読み取り、アバターを動かす。サーバーの中にあるその機能で、世界中のプレイヤーの脳波を処理する。インフィニティの脳波は多分、その際に干渉し合う特殊なものなのだろうか。

 「急ごう、戦いは激化している!」

 ナハトさんが走るのについて行き、私達は氷の洞窟を進む。こんな広大な洞窟を掘った生き物の正体は何だろうか。

 「何かいる!」

 それを考えていると、長細い通路でその生き物に出くわした。白い豹みたいな生き物で、牙が発達している。私達の背丈と同じくらい大きい。

 「来た! グレリアス!」

 「あれがこの洞窟を?」

 ナハトさんがグレリアスと呼んだ豹は三匹、私達に向かって来た。まずはナハトさんが一匹を炎のキックで蹴倒し、緑郎さんが金属バットで頭を砕いた。

 「【ハイキック】!」

 私も飛び掛かって来たグレリアスを蹴り飛ばす。これで三匹は片付いた。死体から出たウインドウに触れ、素材を確保する。

 「『グレリアスの毛』、『グレリアスの牙』、『グレリアスの爪』か」

 素材はこんな感じ。あまり強く無かったが、まだグレリアスは出て来る。

 「あれがボス?」

 私はたくさん出て来たグレリアスの中から、特別大きなものを見付ける。牙も鋭く、髭も伸びていて、明らかに違う。

 「ボスグレリアス。まさかいきなりボスとはな……」

 赤介さんが飛び掛かって来たグレリアスを薙ぎ払いながら呟いた。なんか風格が違う、あのグレリアスが群れのボスか……。

 「さて、潰すか」

 ナハトさんがボスに向かって駆け出す。だが、周りにグレリアスが多くてなかなか近付けない。

 「【ラッシュ】!」

 私はなるべく周りのグレリアスを削る。なにぶん、数が多い。倒したら一応、ウインドウに触れてアイテムを取得していく。

 「道が開けた!」

 ナハトさんが通れる道ができる。グレリアスは赤介さん達にも倒されており、数は確実に減っていた。

 「【ジャブ】、【ヒートキック】!」

 ナハトさんはジャブでボスを怯ませてから、炎のキックで蹴り飛ばす。

 「追撃、【ギロチンキック】!」

 倒れたボスにナハトさんは足を振り下ろした。だが、まだボスは生きている。

 「【ストレート】!」

 『技を習得しました! 拳術【フレイムナックル】』

 私がグレリアスを殴り飛ばすと、またも技が増えた。立ち上がったボスに、これを試してみる。

 「【フレイムナックル】!」

 私の拳は炎に包まれ、ボスグレリアスの顔面にヒット。これがトドメになり、ボスは倒れた。

 「あれ? 牙折れてる」

 「部位破壊だ。こいつは牙を破壊できる。プレイヤーにも部位破壊あるから気をつけろよ」

 ナハトさんとボスから素材を手に入れていると、そんなことに気付いた。部位破壊、プレイヤーもされるらしい。不利になるのかなやっぱり。

 「さて、奥に進むよ」

 私達はさらに奥へ進んだ。インフィニティ同士の戦いが起きているというが、一体何がどうなっているのだろうか。

 通路を抜け、広場を出た。そこには大量のボスグレリアスの死体と、複数のプレイヤーがいた。

 「SEA……生きていたのか!」

 「みんなの仇!」

 制服を着たプレイヤーがいた。一人は茶髪にブレザー。もう一人は赤い髪をツインテールにしてセーラー服。だが、ブレザーの方は戦国武将の鎧みたいな篭手とか付けてるし、セーラー服の方は手足が機械になっている。

 しかし、その二人と対峙するプレイヤーの方が奇妙だ。刺々しい装甲を身に纏い、ドラゴンみたいな翼と尻尾もある。かろうじて女性であることはわかる。

 「ルナ、なんでそいつに手を貸した!」

 「憎いのよ、サイバーガールズを滅ぼしたあんたが!」

 セーラー服の方とそのプレイヤーが話しているが、何やら並々ならぬ因縁があるらしい。何か積極的に関わりたくはない。

 「藍蘭とスカーレット、こんな所にいるとは……。藍蘭はなんか鎧追加されてるし、スカーレットはメカだし」

 ナハトさんが言うに、制服を着た二人の名前は藍蘭とスカーレット。ブレザーの方が藍蘭、セーラー服の方がスカーレットか。

 「何やら因縁ありげだ。あたし達は見てるだけにしとこ……。あれは?」

 ナハトさんは状況を見て撤退を考えたが、周りを見渡して何か見つけたみたいだ。

 「止水が湧いてる! あとあれって墨炎とラディリス?」

 止水が洞窟の壁から湧き出てるのだが、その前に二人のプレイヤーがいた。一人は墨炎ちゃん。もう一人はオレンジ色の長い髪の、露出の激しい鎧を着た女性。

 「本物が死んだなら、この私が、偽物が本物に成り代わるだけよ」

 「違う!」

 何か言い争ってるらしいが、途中からなので全然何がどうなっているのかわからない。始めから話の流れを知りたい。何を言い争っているのだろうか。

 「貴様のそのアバターがラディリスで、あるものか!」

 墨炎ちゃんが双剣を振り回して鎧の女性に向かった。その人は剣を槍で防ぐ。

 「なら、最近復活したという楠木渚は何なの? あれだって、厳密にいえばコピーよ。偽物が本物不在によって、本物となる」

 「やいこのラディリスの偽物野郎! あたしが相手だ!」

 なんと、二人の戦いにナハトさんが割って入る。この人はラディリスという人を知っているのか。

 「で、インフィニティなのは誰だ? あと半分しかない奴!」

 「ああ。インフィニティは俺と藍蘭。半分しかないのはスカーレットと……順がエディもインフィニティ細胞持ってたって言ってたな。じゃあリディアか」

 ナハトさんはまず、目前の疑問を解決した。誰がインフィニティか、細かいことはわからないのか。

 「なるほど。理架! お前はそこのロボットをやれ! 因縁のある同士じゃ、戦いにならん!」

 「わかりました!」

 ナハトさんに言われ、私は藍蘭さんとスカーレットさんが戦ってる青い人、たしかSEAとかいったロボットに向かう。

 「【フレイムナックル】!」

 「何!」

 ほぼ不意打ちで殴ったが、右腕でガードされてしまった。なかなか反応速度が早い。

 「この人は新生円卓でいいですよね?」

 「いいけど、そいつは私が……」

 「私はそいつぶちのめせれば何でもいい」

 藍蘭さんは因縁があるみたいだが、スカーレットさんはこだわりなど無いようだ。そもそも、このSEAがプレイヤーかどうかすら怪しいのだが。

 「お前のせいで、人がいっぱい死んだんだぞ!」

 「後であんたも送ってやるよ!」

 藍蘭さんが二刀流でSEAに突撃する。この人は刀を武器にするのか。SEAもビームサーベルを出して応戦した。ふとした拍子に隙が見えたので、攻撃を加える。

 「【ハイキック】!」

 「横から……!」

 「いや、後ろ」

 私の攻撃をかわしたSEA。だが、スカーレットさんが後ろにいた。刀を抜いて、SEAに突き出す。

 「【大雀蜂】!」

 「くっ……!」

 突きはSEAの右肩を掠める。正面にいた藍蘭さんが、刀を三本、爪みたいに持った。

 「【絶爪】! 【死刃舞】!」

 そのまま藍蘭さんは踊る様な動きで、SEAを斬る。ビームサーベルでSEAは何とか防ぐが、最後の一撃でビームサーベルを弾かれる。

 「これで、終わりだ!」

 「うっ、あっ!」

 振り下ろされた絶爪を何とか回避したSEA。だが、深くはないものの切り裂かれてしまった。

 「ここは引くわ」

 「待て!」

 SEAは翼を広げて、この場から離脱する。本当にあの人はプレイヤーなのだろうか。一応、HPなどの表示はプレイヤーのものだが、一般的なプレイヤーとは能力や姿が掛け離れている。

 「あの人は?」

 「メンタルケアプログラム、SEA。以前、サイバーガールズというアイドルグループを壊滅に追い込んだ張本人。それがそのグループのメンバー、海原ルナに取り付いて、復活した」

 最早何が何だかわからない。私は夢を見てるのだろうか。メンタルケアプログラムが傷心のメンバーを言葉巧みに操り、内乱を起こしたのだろうか?

 プログラムが人間に逆らうこと自体私には理解できない現象だが、この日本はクローン人間が堂々と闊歩し、毒物まで効かない始末。少し不思議なことにも目をつぶって生きていくしかない。

 「で、結局あいつら何してんだ?」

 「ナハトが入ったようね。これで戦局は変わる」

 私も二人に釣られ、墨炎ちゃんと偽物の戦いを見る。二人の間に因縁があるのか、その辺は詳しく知らないけど。ナハトさんを見てると『有名プレイヤーの真似を雑にしたプレイヤーに、ファンが激怒』くらいにしか見えないのだが。

 「何度も言ってるでしょ? 本物がいなければ偽物が本物になる。あんたが渚の偽物を本物として接してる様にね!」

 「ぐっ……!」

 「うるせぇ、このにわか! ラディリスがそんな露出高い鎧など着るか!」

 真面目な話をしてる二人に、ナハトさんが全然素っ頓狂な方向で割って入る。もうぐちゃぐちゃだ。多分墨炎ちゃんと偽物はもうちょい真面目な話をしてるはず。

 「あいつが偽物だと、恋人だったお前が一番わかってるはずだ!」

 「そうだな……。リディア、もうお前には騙されねぇぞ! お前がどんなにダラダラ生き永らえようが、お前はエディには成れない! ていうかお前、母親の方のクローンだろ! 早く弐刈のとこへ帰ってやれ!」

 墨炎ちゃんの言葉があって、何とか私は状況を飲み込む。あのラディリスって人の偽物は、弐刈さんが探してる人かもしれない。リディアって名前なのか。一応聞いてみよう。

 「あなた、リディアっていうの? だったら、宵越弐刈って人知らない?」

 「あいつはもう関係無い! 私は宵越テレビを潰すためにあいつと付き合っていたのよ! あいつは本気で私のこと好きみたいだったけどね」

 どうやらこの人が、弐刈さんの探している『運命の人』みたいだ。まだ確証は無いのだけれど。

 「お前、そんなこと言ってると後悔するぞ! 話したいことも話せず、死に別れるつもりか!」

 墨炎ちゃんも再び、剣をリディアさんに向ける。言ってることは大袈裟だけど、言葉に重みがある。まるで自分が、そんな経験をしたことがあるかのように。

 「そうだそうだ! 自分も相手も、いつまでも生きられると思ったら大間違いだ!」

 ナハトさんの言葉も、重みがあった。自分自身がその状況に置かれている、という空気が伝わる。ナハトさんは誰か大事な人が突然亡くなったことがあるのだろうか。

 「うるさい! わかってるわよそんなこと! だからこうしてるんじゃない!」

 墨炎ちゃんの剣を止めたリディアさんは叫んだ。その声は刺々しく、全てを突き放す様に聞こえる。

 「誰も私の気持ちなんてわからないんだ。『自分』であることを認められない、誰かの偽物でしかない私のことなんて!」

 リディアさんは槍をナハトさんに向けた。そして突き出す。この人は昨日のオッペケペーさんと真逆の境遇にあるらしい。まあ具体的な境遇なんて知りませんが。

 もちろん、ナハトさんもそんな単純な攻撃は受けない。避けるどころか槍を掴み、思い切り引っ張る。

 「あっ……」

 「グダグダ言わんと人の忠告聞かんかい! 【フレイムナックル】!」

 体勢を崩したリディアさんに向かって、炎のパンチが飛ぶ。しかし、そのパンチは空振りとなった。

 「まさか!」

 墨炎ちゃんが驚く。それも無理はない。一気に後退したリディアさんの背中に、白い大きな翼が生えていたのだ。これの推力で後退したらしい。

 「 天使皇の光翼(ウリエルウイング)!」

 「そんな馬鹿な! あれは『ウリエルドラゴン』を倒した時の超レアドロップでしか手に入らないスキルだぞ? ウリエルドラゴンの装備を一式作ったティアさえ、手に入らない代物のはず!」

 ナハトさんがそこまでいうなら、その天使皇の光翼とやらは凄い物なのだろう。リディアさんはどうやって手に入れたのだろうか。

 「いや、まさかとは思うが、一つだけ方法はある。ウリエルドラゴンが住む、ドラゴンプラネットの『聖域の山』ってエリアがあるだろ?」

 「ああ」

 墨炎ちゃんには心当たりがある様だ。そんなレアモノを簡単に手に入れる方法があるなら、是非聞いておかねば。

 「そこの中腹にはウリエルドラゴンの雛がいるんだ。あいつらを倒しても天使皇の光翼はドロップする」

 「なら簡単じゃねぇか。ボス級とはいえ、ウリエルドラゴンよりは弱い」

 「だが、ウリエルドラゴンが光翼を落とす確率が0.01%なのに対し、奴らが光翼を落とす確率は0.001%だ」

 墨炎ちゃんから情報を聞いたナハトさんは絶句した。当たり前だ。そんなの、何匹の雛を殺せばいいのか。最低でも10万匹は倒す必要がある。隕石が頭の上に落ちるより確率が低い。

 「おまけに1匹でも殺せばウリエルドラゴンがぶちギレて2匹以上は殺せない。エディ、ラディリスはウリエルドラゴン倒したらたまたま手に入ったってくらいだ。狙って出せるもんじゃねぇ」

 かなり無茶苦茶な様だ。まさかとは思うが、たまたま光翼を手に入れたのだろうか。

 「甘いわね。このDPOのシステムは私をラディリスのプレイヤーとして認めたのよ。だから雛を1匹倒しただけで光翼を手にできたの」

 「まさか……10万分の1を引き当てたのか!」

 ナハトさんは驚いていたが、そうでなければ説明がつかない。狙って出せないなら、たまたま出すしかない。

 「そんな偶然が……」

 「いいえ、これは必然よ」

 墨炎ちゃんも信じられない様だ。10万分の1とは、まず絶対に引けないだろう確率だからだ。

 「この翼こそ、私が本物である証!」

 「【リベレイション=ハーツ】!」

 翼で飛び上がったリディアさんに、リベレイション=ハーツで翼を作った墨炎ちゃんが迫る。彼女の翼は赤く、ドラゴンのそれに似ていた。

 「例え同じ翼でも、扱い熟せなければ!」

 「飛んだ……?」

 突然の飛翔にリディアさんは戸惑った。リベレイション=ハーツって、何が起きるかわかんないんだな……。私のは時間停止だし。

 「【シザーネイル】!」

 「くっ!」

 墨炎ちゃんの突きがリディアさんの左肩を掠めた。今まで黙っていた赤介さんが、何かを思い付いたらしく喋った。

 「おい、そういえば気づいたんだがよ」

 「何ですか?」

 「渦海親潮はいつの間に、父親の渦海海老人から政権託されたんだ?」

 「確かに気になりますが……今はどうでもいいでしょうよ」

 赤介さんが気にしたのは、いつの間にか政権を息子に託した渦海海老人のこと。国民の知らないところで政権が世襲されていく、それが表五家の支配する日本の異常さだと考えれば納得は出来る。

 「そうだ、最近渦海親潮の息子である渦海黒潮が渦海党に反旗を翻したらしいな」

 「藤井佐上大臣やその妻、藤井奈々も参戦とか……」

 青太郎さんと緑郎さんも情報をくれた。皆さん、なかなか政治に詳しい。そんな政治トークの最中にも、戦闘は続いている。

 「【スワローテイル】!」

 「くっ! 何故だ!」

 墨炎ちゃんが放った斬撃が、リディアさんの翼を引き裂く。そういえばプレイヤーにも部位破壊があったね。そうでなければ、翼を持ったプレイヤーに誰も太刀打ち出来なくなる。

 「お前のことだ、どうせリラクゼーション施設の利用や寝る時に鎧脱ぐこと忘れて、疲労度がMAXになっているだろう。そいつが高いと部位破壊も容易だ!」

 疲労度と呼ばれるパラメーターのせいなのか。私は幸い、試しにリラクゼーション施設とやらに行ったりしたからさほど貯まってないらしい。メニュー画面で疲労度は確認出来た。

 「くっ、ここは引くわ!」

 「帰れ帰れ!」

 地上に着地したリディアさんは走り去った。これでようやく、止水が手に入るというもの。だが、墨炎ちゃんは何か納得出来て無いようだ。

 「あいつ、本気で弐刈のことを……?」

 「どうした?」

 「いや、何でもない」

 藍蘭さんに聞かれた墨炎ちゃんはその場を去った。墨炎ちゃんは弐刈さん知ってるのか。

 私はとにかく、壁から湧き出る止水をペットボトルで回収した。これで第一関門は突破。次はこれで薬でも作るのだろうか。ナハトさんは薬の材料を見て、何か思い出したらしい。

 「お、そろそろあたし薬飲む時間だ。今日はここで解散にしよう」

 「ですね」

 そういうわけで私達も解散することに。みんなは直にメニュー画面からログアウトしたが、私はまだもう少し、この洞窟で素材を集めたい。

 「来たね」

 みんながログアウトした後、たくさんのグレリアスが現れた。お腹でも空かせているのか、明らかに私を食べようとしている。

 「悪いけど、素材と拳術の経験値になってもらうよ」

 私はグレリアスの群れに駆け出した。

 次回予告

 切り裂き魔事件もいよいよ佳境。私、冬香の出番も無く終わりそうで怖いね。でも、私遂に切り裂き魔見つけちゃいました! あの事件を乗り越えた私になら、切り裂き魔くらい……!

 次回、ドラゴンプラネット。『上杉夏恋』。お楽しみに!


 ドラペディア

 グレリアス

 理架「グレリアスはDPO寒冷地帯を代表するエネミーなの。名前の由来は『氷河』を指すグレイシャと『輝き』を指すグロリアス。氷に穴を開けて生活する習性があるの」

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