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ドラゴンプラネット  作者: 級長
第三部
100/123

視界ジャック13 官房長官と氷霧

 某インターネット掲示板のカキコミ

 1「謎の中学生が大食いメニュー完食した件」

 2「なにそれw」

 3「今までクリアした奴いないっけ?」

 4「あの店のメテオ級チャーシュー麺セット。やたらチャーシューの脂がしつこい上に餃子と炒飯もセットだ」

 5「ディアッカの作る炒飯は美味い」

 6「>>7 真っ先に思い出したはw」

 7「>>6 グゥレイトォ!」

 8「僕の……ピアノ……」

 9「傷が疼くんだよぉ!」

 10「モウヤメルンダッ!」

 11「>>7−10 ザラ隊はお帰り下さい」

 九州某所 某飲食店


 「それでは、いいですか?」

 九州某所の中華料理屋、そこの店長が余裕を持った態度で聞いた。カウンター席に座る少女は外見がパッとしないながら、ある種の強者である空気を放っていた。唯一の特徴であるヘッドフォンすら外し、準備完了だ。

 「氷霧先輩、マジですか……?」

 「やるよ。確実に」

 その隣にいる二人の少女は、何かに挑戦する先輩を見守っていた。その二人のうち片方を見て、店にいた客はざわつく。

 「おい、あれ」

 「ああ。サイバーガールズの赤野鞠子だ」

 その二人とは、DPOでも有名なコンビ、藍蘭とスカーレットだ。ヘッドフォンをしていた先輩は、言うまでも無く氷霧である。

 「だんだん胃袋キャラが先輩に取られてきたね」

 「藍蘭がたくさん食べるところは想像ができる。でも、氷霧先輩が食べるのは想像ができない。キャラは外見とのギャップが重要」

 キャラを奪われたのを危惧する藍蘭と冷静に分析するスカーレットを尻目に、氷霧の前に料理が置かれる。

 まず、ラーメン。器こそ通常サイズだが、麺が山盛りである。高さが異常だ。脂身の面積が広いチャーシューも10枚乗り、醤油味のスープも器ギリギリに注がれている。

 次に炒飯。これまた山盛りで、器が低いにも関わらず、ラーメンと同じ高さになるまで盛られていた。黄金色に光るご飯は食欲をそそるが、中の具が脅威だ。チャーシューがゴロゴロと顔を見せ、巨大な海老も二、三本姿を見せる。

 トドメとばかりに餃子。広い皿に並べられるだけではなく、またも山盛り。餃子が山を作っている。このシーンを書くと腹が減る、という小説家はデブまっしぐらに違いない。

 「さて、よろしいかな?」

 店長は氷霧に確認を取った。彼女は静かに頷く。そして、割り箸を割った。小気味よい音が店内に響いた。


 その音が消えて無くなる頃には、皿の上の料理も消えていた。

 「早い……!」

 「どうしてくれるんですか氷霧先輩。お店の人があしたのジョーの最終回です」

 藍蘭が絶句し、スカーレットは真っ白に燃え尽きた店員を眺めて呆れていた。氷霧は渡された封筒に入ったお札を眺めている。

 このチャレンジメニューは時間内に食い切ればタダになる上、賞金が貰える。しかも賞金は残り時間に応じて高くなるのだ。

 氷霧は制限時間30分の内、2分も使っていなかった。賞金はデフォルトで3万。5分残すと2万ボーナス。10分残すとさらに4万ボーナスと5分事に賞金が倍々ゲーム方式に上昇して行き、氷霧が得た賞金は最終的にボーナスだけでも64万円。デフォルト賞金と合計で67万となる。

 今までチャレンジに成功はすれど、5分すら残した人間がいなかったから店長も調子に乗ってルールを追加した。そしてこのザマである。店長は一体、何年地下で働けばいいのか、兵藤会長に今から聞きに行かねばなるまい。

 「全く……、氷霧先輩はもっとおしとやかに食べられないんですか?」

 「今の貴女が言えることではないわ」

 先程氷霧が食べていたのと同じサイズのラーメンを啜りながら藍蘭が言うが、スカーレットからしたら完全に同じ穴のムジナだろう。

 インフィニティは総じて大食いらしいが、個人差はある様だ。全員氷霧の様に食えたらこの店は壊滅する。藍蘭みたいに元々大食らいだから目立たなかったり、遊人みたいにあまりインフィニティとなった前と後で変わらない人間もいる。

 遊人がさほど大食らい化しなかったのは、二つ揃った状態のインフィニティ細胞が長期間潜伏して体に馴染んだからだと順は言う。生まれつきのインフィニティである佐原や氷霧は生まれた瞬間に能力が覚醒、藍蘭はスカーレットから輸血されて数日以内に覚醒した。遊人の様に何年も潜伏させる例は珍しいらしい。

 だが、インフィニティ能力の覚醒は一種の心身相関らしく、感情を失っていた遊人の覚醒が遅いのも頷ける。

 「氷霧先輩?」

 炒飯を食べ終えたスカーレットが、おもむろに立ち上がった。燃え尽きた店長の前に行くと、封筒から3枚だけお札を抜くと、封筒を店長に差し出す。

 「はい。ボーナスは返す」

 「へ?」

 店長も驚いていた。氷霧がほんの2分で食い切った以上の驚きがあった様だ。

 「ど、どうして?」

 「また食べたいから。それだけ」

 氷霧はそれだけ言った。店長と氷霧の間には、謎の友情が成立していた。他の客もスタンディングオーベーション。総立ちで拍手だ。

 「いやー。大変よい友情だ」

 「……っ!」

 そのいい空気に割って入る人間がいた。スーツを着た、初老の男だ。その顔に氷霧、藍蘭とスカーレットも見覚えがあった。

 「官房長官、柱支……」

 「君とは話しておきたいと思っていたよ。型に収まらないパートナーを持つ者同士でね」

 氷霧と官房長官は対峙した。型に収まらないパートナー、それは氷霧にとって墨炎のことであるのは藍蘭の目からも明らかだ。

 「渦海親潮が、墨炎と同じだとでも……?」

 「ああ。若い頃は似ていたよ」

 二人の間に張り詰めた空気が流れる。官房長官は歳から来る貫禄、氷霧はDPOを戦い抜いた経験から、互いに威圧し合った。

 「墨炎がいずれ、ああなると?」

 「なるよ。若い頃が激しい人間が権力を持つとな。平清盛などがいい例だ」

 官房長官は歴史を引き合いに出すが、氷霧はそれが的外れな気がした。墨炎、すなわち直江遊人は若き日の平清盛とは明らかに違う。清盛は新しい社会を作ろうとしたが、遊人は表五家を潰すとこまでしか考えてない。

 遊人は、日本の社会をどうこうしようなど、微塵も考えてない。単純に恋人であったエディの仇を討ちたいだけだ。冷静になればその仇の一人である凍空財閥令嬢の真夏を妹にした辺り、復讐すら目的としては微妙。復讐を考える人間は大抵、坊主憎けりゃなんとやらという理論で、仇の関係者もまとめて吹き飛ばしそうなものである。

 遊人は同じ目的だから、真夏を仲間にした。普通、同じ目的があっても仇の関係者など仲間にしない。

 それはただ、遊人が惰性で表五家を潰そうとしてるのか、憎しみの扱いに慣れてるかのどちらかとしか考えられない。

 「残念ながら、墨炎は親潮と違って野心も無ければ必要以上の欲望も無い。だから、私も貴方と同じ『型に収まらないパートナーを持つ者』ではないわ」

 氷霧は官房長官を横切り、店を出た。だが、官房長官は彼女を追わずにそのまま立ち尽くす。

 「どうやら親潮、あんたの暴走を止めるのは、あんたが憧れた新田遊馬になりそうだな。あんたは新田に憧れて、世界を変えようと表五家に宵越と松永を引き込んだんだ。親父である海老人の反対も押し切り……」

 彼の独白を聞いていたのは、スカーレットだけだった。藍蘭は政治に興味が無いのか、ラーメンに夢中である。

 「だけど、表五家崩壊の引き金を引いたのはその二つ、ってこと?」

 「そうだ。松永が後継者に困って熱地のクローン計画を進めて、松永順と直江遊人を生まなければ、宵越新聞の記者がデステアの事故を内部告発しなければ、すべては完璧だった」

 スカーレットは独白に返事をする。よかれと思ってしたことが、後々堤に補修の効かない大穴を開けるとは、何たる皮肉だろうか。

 「えー? それ以前に熱地がクローン技術提供したりとかデステアの事故を起こさなければよかったんじゃない? そもそも、表五家のシステムが無ければ不満持って潰しに来る人も……」

 藍蘭が身も蓋も無いことを言う。客も店長もスカーレットも、そりゃそうだと納得した。若干『感情感染ハートパンデミック』の効果が出ていたため、官房長官も納得した。

 某インターネット掲示板のカキコミ


 198「確かにwww」

 199「始めから表五家なんて作るから」

 200「200ゲト」

 201「1000なら表五家滅亡」

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