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act 3

仕事が終えると同時、沙柚に勢いよく腕を季菜は引かれた。

「逃がさないんだからね!」

何よりも、その気迫にまず季菜は驚いた。特に逃げる気もなく、だからと言って、

今日はこの話は終りだと思ってたせいもあり、季菜の表情は、驚いたままかたまった。


その沙柚の気迫に、他の女の子も、何事かと季菜の方へと視線をやった。

「ちょっ……」

「待ったは無し! さ、行くよ!」

季菜と歳が近いせいもあって、沙柚は年下だったが、容赦や遠慮の文字は皆無だった。

けれど季菜にとって、その方が嬉しかったし、何よりも心地よかった。


「分かったから! ちょっと待ってよ!」

慌てる季菜の会話の流れから、何かあるなと側に寄ってきたのは、現No3~5の、操、茜、莉亜だった。

「どうしたんですか? 何かあったんじゃ……」

大人しめの操の言葉とは反対に、これはどちらにしろ、飲みにいくのは決定だろうと判断した茜はハイテンションになった。

「絶対私も行くからね~! いっつも沙柚と季菜さん二人で飲みにいったりしてて、毎回妬いてたんだから!」

茜の言葉に莉亜までのってきてしまった。

「本当! 客の愚痴とかさぁ、色々言いたい訳じゃん? ほら! 決まり! どの店にするか決めよ!」

「ちょっ! ちがっ! 私は季菜と大事な話があるんだから!」

「何よ~! 私達には話せない事なの? そうなの? そんなのって酷くない?!」

沙柚の言葉に、妬いた茜と莉亜が噛み付く。まだ19歳と言う事で、きゃぁきゃぁと、何に対しても高いテンションには、沙柚と季菜も押されてしまう。

そして、二人とは違った形だったが、おっとり肌の操も一緒に行きたいようだった。


茜と莉亜は、もう明らかに飲みに行く気満々で、すでに携帯を取り出し、何処に行こうかなどと会話と楽しんでいる。

「じゃ……皆でいこっか?」

観念したように季菜が言うと、やっと季菜の許しの言葉が出たと、莉亜と茜のテンションは、更にあがった。


どこかのバーに行くかと思いきや、付いたのは、24時間営業であるファミレスだった。

派手ななりをしているキャバ嬢5人組みが入ってきたと、客の目をわっと引いたが、気にしないとソファテーブルに足を進めた。



「何で今回、季菜さん二番になっちゃったんですか!」

席につくやいなや、我慢が出来ないとでも言うように、莉亜が季菜にきり出した。

まだフリードリンクも、注文さえしてないにも関わらずだ。


付け加える様に、操までもが口を挟みだした。

「私も思いました。だって、考えられないから……。沙柚さんが一番だなんて……」

「オイ……そりゃ、どういう意味だ? 喧嘩ふっかけられてるって思っていいって事? 操……」

ふるふると体を震わしながら、沙柚は声を腹から絞り出した。

「ちょっ……、まぁまぁ、落ち着いてよ、沙柚~。つーか操、爆弾いきなり投下するの止めてくんない? マジでビビるから!」


茜はどうどうと沙柚を落ち着かそうとしている。

操といえば、時々こういった爆弾発言を、プライベートのみ、しかも気を許した相手に限って落とす事がある。

それにいつもヒヤヒヤさせられるのは、プライベートでも、仕事でもくっついている、この茜と、莉亜だった。

「何でって……」

戸惑う季菜に、莉亜がつっこんだ。

「だっておかしいもの! どう順番が狂ったって、一番は必ず季菜さんだったのにっ」


とりあえず、ココは腹を立てていい所だろうか……。

真剣に沙柚が考えてる所で、観念した様に、季菜が口を開いた。

それも、かなりの度合いの爆弾発言を。


「う~ん……言っちゃってもいいのかな……てか、言っちゃった方が楽になれるかな……。あのね、店、あがろうかと思って……」

瞬間、叫びそうになった自分の口を、必死で莉亜達は塞いだ。

おかげで、掌の中では、ふがふがと鼻息荒く、もがいている口がある。

沙柚はと言えば、何でこんな所で話すかなと、思わず額を押さえていた。

沙柚からしてみれば、もっと二人で話したかったし、こんな歩くスピーカーの様な女の子達に、こんなにも早く話していいのかと、不安にも駆られた。しかし言葉は、既に季菜の口から出ていた。

ちらりと季菜の方を向いた後、深いため息を沙柚は、吐いた。


ようやく、若干落ち着いた茜が、一番のりで、身を乗り出した。

「駄目! ぜったいに駄目です! 何でですか! 季菜さん! マジで私は認めません。誰が何と言おうと認めないですよ!」

店員が注文を聞きにきたが、そんなもんは当然スルーだった。

戸惑う店員を見かねた沙柚が、とりあえずフリードリンクだけ言うと、店員は、すごすごとその場を引いた。

「うん、でもね……」

「でもじゃないです! つーかありえなくないですか?! 私季菜さん超好きなのに!」

莉亜も混じってしまった事で、季菜にまで話がまわってこない。

さすがの季菜も、両手を前にだし、会話にストップをかけた。すると、二人の雛鳥は、ピーチクパーチクと叫ぶ声を、ピタリと止めた。


「私も、もう22歳じゃない?」

「そんなのまだまだイケますよ!」

また、横やりをいれた莉亜の口を、沙柚が塞いだ。

「でも、結婚したいし……」

「相手が居るんですかっ?!」

茜が言うと、季菜は首を振った。

「居ない。これから探す予定。でもほら、これから探すんだよ? 私、赤ちゃん欲しいんだ。そんで家族も。今から動かないと、出会いって逃げちゃいそうだもの。だから辞めようと思って」

「そっ、そっ、そんなの理由になってないですっ!」

今まで黙って聞いていた操が、くしゃりと顔を崩すと、あっと言う間に、鼻をすすりだし、綺麗な瞳からは、大粒の涙が零れ落ちた。

これには、さすがの季菜も驚いてしまう。わわっとなり、操の頬に、紙ナプキンをそえた。しかしあっと言う間にそれは涙を含んでしまう。どうやら、本気で泣いているようだった。

現No2だが、これまでトップを走り続けていた季菜を、沙柚を初め、操達は、本当に慕っていたのだった。

蹴落としあいが予想されるこの世界でも、珍しかった。下の方でのささやかな争いは、ほとんど季菜の所までは上ってこない。むしろ、季菜は皆に好かれていたと言っても良かった。

気まぐれな所もあるが、皆の世話をやくのは得意だったし、下からの相談も、ちょいちょいは受けていた。

勿論、沙柚を先頭に、茜や莉亜、そして操にも悩みなどを打ち明ける女の子も多かった。


職場は楽しく働きたいをモットーとしてる季菜が、何度か、下の女の子達にも、キャスト同士、仲良くしてみればとも言ったが、それは難しかった。

そんな女だらけの世界で、季菜が好かれるのは、季菜の性格のたまものであって、こうして操の様に、本気で悲しむ姿を見ると言う事は、少なくとも、季菜の良心をつっついた。


「嫌ですっ……そんなの絶対嫌っ……」

堂々とファミレスで号泣する操を見ながら、季菜は困惑した表情を浮かべた。

「でも、何も一生の別れになる訳じゃないんだから……」

「それでも嫌ですっ」

中々操の意思はかたいようだった。下手をすれば、季菜の意思よりもかたそうだった。


その思いは、茜や莉亜にもあてはまる様だった。

沙柚の顔を見た季菜は、早くも後悔をしている様だった。

「どうしよ……」

季菜の言葉に、沙柚は長い息を付き、天井を見上げた……。




……To Be Continued…


宜しかったら、応援よろしくお願い致します ^^

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