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act 15

あの唇が忘れられない……。

何処ぞのドラマのワンシーンの様な台詞は、ここ一週間、季菜の頭の中でぐるぐると回り続けている。

あの後の展開。

当然刹那は、季菜の泣き腫れた顔を見るなり怒り狂った。

今すぐぶっ殺すなどと物騒な台詞を吐きながら車を降りた刹那を、季菜は必死の思いでそれをおさめたものの、買い物の間も

その機嫌が直る事はなかった。


そんな中、季菜が考える事と言えば、新の事ばかりだった。

思いがけず告白をされた後、強引にキスをされたとなれば、仕方の無い事だとも言えた。


しかしその思いは、その日だけにおさまらず、今現在もこうして進行中だった。

単純な感情と複雑な乙女心は、季菜を大いに悩ませていた。

そんな季菜を、もうかれこれ一週間、楽しそうに見ているのは、他でもない、沙柚だった。


「季菜~。いいじゃん付き会っちゃえば」

左手首につけた香水を手首ですり合わせ、それを耳に、楽しそうに沙柚は声を弾ませた。

「う~ん……」


季菜のこの返事は、一週間前から何ひとつ変わっていない。

そして沙柚のこの台詞も、一週間前から何ひとつ、変わっちゃいなかった。


告白をされ、キスをされ、けれど自分の中でモヤモヤと納得の出来ない思いを沙柚に告白したけれど、やはり解決する事なく、季菜は悩み続けていた。

嬉しくないわけがない。

正直、忘れない程、嬉しかった。

けれど、女々しいほどに不安な気持ちがあるのも本当だった。

「新さんは? その後連絡はないままなの?」

季菜はこくりと頷いた。


連絡も何も、電話番号なんて交換してさえいないままだった。

新はあれ以来、季菜の前に現れていないままで、ああいったものの、新に会いたいと思う気持ちは、どんどんと季菜の中で大きくなっていった。








店が始まると同時、ざわざわとしはじめた店内に女が一人姿を現した。

「――――嘘」

消え入りそうな言葉を吐き出し、息を飲み込んだのは、季菜、そして隣に居る沙柚だった。

「何でアンタが……」

一瞬にして、女を見る沙柚の目つきが変わった。

季菜と沙柚に気付いたその女は、二人の姿を確認すると、妖艶に笑い近づいてきた。


「久しぶり…………元気にしてた?」

淡い水色、胸間は大きく開き、細い腕とウエストは、そのドレスをパーフェクトに着こなしている。

女は楽しそうにくすくすと笑っているが、目の前の二人は笑ってなど居なかった。どちらかといえば、その瞳の色は色あせない怒りをあらわにしているようだった。

季菜と沙柚に、忘れられないあのキツイ香水の匂いが鼻を掠めた。


「何でアンタがこの店に?」

搾り出された沙柚の声は、その怒りを必死にこらえている様に見える。

「ふふっ。お願いしたのよ。此処に入りたいって」

女は、季菜と沙柚の様子を、さも楽しそうに見ている。

静かに季菜は口を開いた。

「よくも私達の前に顔を出せたものね……」

「あら? なぜ? まさかあの事をまだ根に持ってるの? やだ……笑っちゃう」

「このっ!!!」

カッとなり、女に掴みかかろうとしたのは、沙柚だった。しかしそれを季菜は必死に止めた。

その様子を見ていた茜と莉亜は、季菜に加勢するように暴れる沙柚の体を必死に止めている。

しかし、なぜこの二人がこんな状態になっているのか、茜達は検討もつかなかった。ぷりぷりと怒る事はあっても、

こんな風に感情をむき出しにし、怒りをあらわにしている二人をみるのは初めてだった。


沙柚が今にも掴みかかろうとしている女について分かっている事といえば、名を朱華といい、ここら辺では有名なキャバ嬢だという事だけだった。

季菜の細い腕で羽交い絞めにされている沙柚の方を見ながら、朱華はたまらなそうに笑っている。

初めて面会した茜達だったが、話した事もないけれど、もう今それだけで嫌悪感が気持ちの中で広がった。

しかしもう店も始まる時間だと言うのに、このまま沙柚を暴れさすわけにはいかないと、季菜を初め、どうしようかと不安げに見つめる操、そして莉亜と茜は必死になって沙柚を止めにはいった。


肩を上下させてやっと落ち着いた沙柚達を、マネージャーをはじめ、他のキャスト達は唖然と見ていた。


「あー叩かれなくて良かった。顔に傷がついちゃう所だったわ」

朱華は笑ってみせるが、その朱華を敵だと認識した莉亜達は、季菜と並んで朱華をにらみつけた。

「そんな恐い顔して、お客さんがひいちゃうわよ?」


涼しい顔をして言い放った朱華の言葉、ちらりと見たその朱華の視線を追うと、其処には新が居た。

息を飲み込み言葉を失った季菜をそのままに、朱華は待っていたとばかりにそちらに近づいた。

「新さん……やっぱりいらしたんですね?」

さっきまでの顔とは、うってかわって、その頬を極限まで紅潮させ、新にしなだれかかるように身を寄せた。





「どう言う事?」

信じられないと口を開いたのは、沙柚。新と季菜の方を交互に見ては、不安げな表情を見せている。

聞きたいのはこっちだと、季菜はまっすぐに新を見つめた……。




……To Be Continued…



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