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act 11

季菜は唖然と口を開け新を見上げている。

季菜を見下ろしている新と言えば、相変わらず……楽しそうだった。


「何してるかと思って考えてたら、丁度アンタらが見えたんでな」

新は季菜と沙柚の間に目を向けた。

すると沙柚はスッと席を一個分空けた。

季菜も唖然としたままだったけれど、周りも唖然としている様だった。

行こうか行くまいかと考えていたら、いつのまにか男が現れて、いつのまにか男が二人の間に座っている。


沙柚は新を凝視していた。

すると新は季菜をそのままに、沙柚の方を振り返った。

「あんたが、あの店の現No1か?」


「新さん、季菜の事が好きなの?」

新の言葉の後、多少ちぐはぐな返された沙柚の直球な台詞。

ちらりと横目、二人の方を伺っていた季菜が盛大に吹いた。


「さ、沙柚! あんた何言ってっ――?!」

季菜は尋常ではない位に慌てている。新は、一度季菜の方を見た。

すぐに何も言えなくなった季菜。その表情は、冷静さも何もなく、ただ可愛く染まっている。

沙柚さえも、そんな季菜を面白そうに見ていた。

正直、こんなにも女ではなく、女の子の面を沙柚は初めて見たので、少々驚きの感情も沸いていた。

季菜が誰かと付き合っているという言葉を最近は聞かなかったけれど、そんな相手がいる時でさえ、季菜はある程度平常心だった。


どちらかといえば、いつも主導権は季菜が握っている様にも見えたものだと沙柚は振り返って考えていた。

そんな事だから、いつも季菜の方が飽きてしまい、別れを切り出していたのに、今目の前にいる季菜は、沙柚が見ても分かるくらい、

新の前で女の子だった。


そんな季菜は、沙柚からみても可愛かった。


「さてなァ。アンタはどう思う?」

楽しそうに言う、沙柚に向けられた新の言葉に、恥ずかしさで死んでしまいそうな程、季菜の頬は染まっている。

「さぁねー? ただ好意を持っているのは分かるけど……、ただの好奇心か恋愛感情かは、私にも分からないわ」


本人を目の前にして、二人の悪ふざけは続いている。

「まぁ、確かに、コイツは見てて飽きないとは思うわ。けど俺――――」

笑いがらの言葉の途中、沙柚の顔が引きつったのが分かり、新は口を止め、季菜の方を振り返った。


ヤバイと瞬間で分かった。

唇をかみ締めている季菜の顔は、怒っているはずなのに、泣いているかの様に見えた。

悪かったと思った時には、季菜は沙柚を置いたまま、二人に背を向けた。

「季菜!」

思わず立ちあがった沙柚が追いかけようとした。

しかし新の方も気になった。

二人は目配せををした後、やり過ぎてしまったと頬を掻いた。


まさか、あの季菜が、あれしきのイタズラな言葉であんな表情をするなんて、沙柚は考えもしなかった。

それは新にしても同じ事が言えた。

からかえばからかう程に面白い反応が返ってくる季菜を見たいと沙柚の言葉にのった訳だったが、まさかまた泣かせてしまいそうになるなんて思いもしなかった。


沙柚は、季菜を追いかけようとしたその足を止め、ゆっくりと新のもとへと帰ってきた。そして腰を下ろした。


「ちょっと……やり過ぎちゃったみたい……」

「――そうらしいな」

沙柚はため息をついた。

そしておもむろに、新の方を向いた。

存在は前から知っていたが、まさかこの男が季菜と関わって、更にこうして自分とベンチに座る事になるなんて、夢にも思わなかった。

新は、沙柚から見ても、格好よかった。

しかし尚更、なぜ季菜の周りをうろちょろとするのかが不思議だった。


色々な女が街には溢れている。

季菜クラスの女だって、別に珍しくもなんともない。

なのに、何故……?


「季菜はね、本当にいい娘なんだよ?」

年上なのに、年上らしくない。自分の前では弱音を吐いてくれる季菜の事が、沙柚は大好きだった。

からかうような真似をして今更だが、季菜を傷つけるような事は当然して欲しくない。



「そんな事は、アンタに言われなくてもとっくに気付いてる」

アンタアンタと、仮にも姫嬢のNo1の自分を、アンタと呼ぶのは、今の所こいつだけだと沙柚は感心さへ覚えたが、新ほどの男になれば、こんな風なのかと、妙に納得をしてしまう。

「でも、今、泣かしちゃったでしょ?」

それは自分も同罪。そして泣いたかどうかは、確かではない。

「まだアイツの笑った顔。ちゃんと見てねーんだよなァ」

「笑った顔って言うか、笑う様に仕向けてないじゃない。大抵怒らせる事しかしてないでしょ?」

沙柚の言葉に、新はくっと笑った。

「いや、あいつの拗ねた様な、そんでいて怒った顔も結構気に入ってんだ」


今どれだけ聞いても、新は本音を言わないだろうと沙柚は思い、季菜への思いを探る事を諦めた。

沙柚の口から、自然とため息が漏れた。


「どっちにしても、季菜に謝らないとなぁ。私も」

沙柚の言葉に、新は考えるそぶりを見せたかと思うと、おもむろに腰をあげた。


「じゃ、俺は行くわ」


軽い言葉の後、季菜が居なくなったこの場所に未練はないとでも言うように、さっさと背中を向けた。


新の本心が分からない不安は、沙柚の中にもあった。

大事な友達を、傷つけてほしくない。そんなの許さない。

しかしあの男は、季菜を本当に傷つけるような事はしない様な気もする……。


沙柚は頬を膨らまし、すぐに、中の空気を抜いた。


「季菜~。あの男は手ごわいわよ……」

きっと、これからまだまだトラブルは続きそうな気がする……。

大切な友達の事を考えながら、ただでさえ、仕事関係での悩みがあるのに、頭が痛くなりそうだと、沙柚はゆっくりと項垂れた。



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