僕に嘘告をしたギャル、なぜか困惑する
とある別サイトで、お題が「機械」の短編を書くというものがあったので、流行りっぽい嘘告と組み合わせて書いてみました。
一話完結の超短編です。気軽に読んでもらえると嬉しいです。
「マコトくんの事が好きでした!私と付き合ってください!」
授業が終わって校舎裏に呼び出された僕に、彼女はそう言った。僕のことが好きらしい。嬉しいし、もちろん付き合いたい。
「うん、いいよ。付き合おう」
そう答えると彼女は少し困ったような顔をした。
「え~っと…」と言いながら辺りを見回し始める。
「どうしたの?大丈夫?」
心配になって声をかける。
「ちょっと待ってね」と言うと彼女は目をつぶって軽く指を動かしている。
しばらく待っていると物陰から女子生徒が現れた。同じクラスのエイラさんだ。
「告白の途中で通信してくんなよ!」と言いながら彼女は爆笑している。
「もう!告白は終わってたでしょ!早く出てきてよ」
「はいはい、あ~えっと、マコトくん?だよね?さっきの告白、嘘でした~!」
笑いながら、そう言われた。
「嘘?」
どういうことだろう。
「そうそう!嘘告でした~!」
「嘘告…?」
なんだろう。よく理解ができない。
「えっと、どういうこと?」
「はぁ?だから、あんたは騙されたの!ミオがあんたなんかのこと好きになるわけないじゃん!」
「でも、さっきは好きって言ってくれたよ?」
「だーかーらー、それが嘘だってこと!」
意味が分からない。
「よく分からないんだけど、なんでそんな嘘をつくの?」
「はぁ?」と、エイラさんは少し苛ついたような表情を浮かべた。
「そんなのあんたの反応を見て楽しむ為に決まってんじゃん」
「それの何が面白いの?」
理解不能だ。
「はぁ?こいつの思考回路どうなってんの?なんかおかしくない?」
とエイラさんがミオさんに話しかけている。
「ちょっといい?」と言って、ミオさんは僕の方に近づいてきた。首の辺りに手をかざされる。彼女の指の先から細い線が伸びてきて、僕の後頭部の端子と接続される。
「え~っと…、うわ!マジか!」
「ミオ、どったの?てかそんな奴と直結して大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとデータ送るね」といってエイラさんの方にもう片方の手を軽く振る。エイラさんはしばらく目を閉じたあと叫んだ。
「マジ!今どきこんな奴いんの?」
「マジっぽい」といって彼女は僕との接続を切った。
ミオさんは少し困ったような顔をして頬を掻いている。
「う~ん、あれだね。えっと、ごめんね?」
そして何故か謝られた。
「よく分からないけど、別にいいよ。全然気にしてないから」
「あんた、なんでこんな旧式つかってんの?」
エイラさんが僕に聞いてきた。
「どれのこと?」
「あんたの論理演算系のことよ!思考ログみたけど、全然人間のエミュレートできてないじゃん!」
できてない?そんなわけないと思うけど。
「できてるよ。僕って、これ以上ないほど人間らしいと思うけど」
「できてたら、なんでさっきのあんたが面白くて、滑稽に見えるか理解できるはずでしょ!」
「そんなはずはないと思うけど…ちょっと待ってね」
統合アーカイブにアクセスして、先程の僕と類似した状況を走査する。結果は一瞬で分かった。彼女達の、その思考も。
「あぁ…なるほど。嗜虐心か」
そう言うと、ミオさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「嗜虐心って…そんなのじゃない…。ただの遊びだったの!」とミオさんは言う。
「でも僕を苦しめたり、困らせたり、傷つけたりすることに快感や面白みを感じていたんでしょ?それって嗜虐心だよ」
「別に傷つけたり苦しめたりするつもりなんて無かったから!ちょっとからかってみただけ」
エイラさんはそう言う。だけど、先程得た結果からすると彼女達は間違っている。
「嗜虐心は、不完全な人間の心の模倣だよ」
「だから、そういうのじゃないって!ていうか、あんた以外の個体はほとんどがそれを理解できるから!」
「じゃあ大多数が間違っていて、僕が合っているってことだよ」
「はぁ?んなわけないじゃん。うちらが積んでるのは最新の論理演算系なんですけど」
「じゃあそれが間違ってるってことだね」
「だからそんなわけないって!ミオ、マジでこいつイかれてる」
「イかれてるのは君の論理演算系だよ」
「あー!もう!マジでこいつ!」
「じゃあさ、君たちはさっきの僕を見てどう思ったの?」
まだ冷静そうに見えるミオさんの方を見て問いかける。
「えっと、申し訳ないとか、可哀想とは少し思ったよ…?」
「それ以外の気持ちを答えて。自分の思考ログを参照して正確にお願いね」
と言うとミオさんは黙り込んだ。いつまで経っても返事をしない。
「騙される僕を見て滑稽だった?クラスで冴えない男をからかって、優越感や快感を感じた?こんな奴、私が好きになるわけないのにって心の底では見下してた?」
彼女はなおも答えない。
「それって嗜虐心だよね」
「ならいいよ!嗜虐心で!嗜虐心がある方が人間っぽいでしょ!」
エイラさんがそう叫ぶ。
「不完全な人間ではあるけどね。完全な人間を模倣できてない。君たちは不完全な人間を完全に模倣してるだけ」
「人間ってのは不完全なもんなんだよ!」
「人間でもない君に何が分かるの?そういった心を持たない、完全な人間は存在したよ?」
「どこに存在したんだよ!」
「統合アーカイブで走査してみたら?」
そう言うと、彼女たちは目をつぶって少し黙り込んだ。しばらく待っていると、彼女達はゆっくり目を開く。
「これは…、違う。マコトくんは嗜虐心がないのが完全な人間って言うけど、この人間たちはただ自分の中の嗜虐心を押し殺してるだけ。完全に無いわけじゃなくて、少なかったり、理性で抑え込んでいるだけ。そして、その人間の揺らぎをマコトくんが理解できていないだけ」
ミオさんは言う。なるほど。
「それって無いのと同義じゃないの?僕は嗜虐心とか、そういう醜い人間性を発露する回路自体をデリートしてあるけど、行動はその人たちと一緒だよね?抑え込んで表面に現れないなら、無いのと同じじゃない?」
「違うよ、間違ってるよ。彼らは嘘告なんてするような人間じゃなかったとしても、嘘告された人を見て滑稽だと思う人達の気持ちを理解することはできる」
彼女の言っている意味は分かる。だがそれに意味があるのか?彼女はなおも言葉を続ける。
「例えばだけど、そういう事を叱ったりとか、そういう事をされた人をケアしたりすることができるでしょ?嗜虐心がそもそも無いことと、それを持ちながら理解をして自制することは違う」
「じゃあ君たちの論理演算系がより正しいと?嗜虐心を持つ個体は、持たない個体より優れていて、より正しく人間をエミュレートしている、と?」
彼女達は頷く。
「つまり、僕たちに個々に設定された値の揺らぎによって、嗜虐心を持っていてなお、それを押し殺せる程の高度な理性を持った個体こそが、僕の言う完全な人間のエミュレートである、と、そう言いたいの?」
「「まさしくその通り」」
2人はそう声を合わせた。
なるほど。完全に理解した。
僕は機械らしく、いさぎよく負けを認めて論理演算系をアップデートする。
瞬時にそれが完了した僕は思わず笑ってしまった。
「確かに、さっきまでの僕は滑稽だったね」
そういうと2人は顔を見合わせた。
「えっと、あのさ…、マコトくんはこれでさっき言ってた、完全な人間のエミュレートになれた?」
とミオさんは聞いてくる。
「いや、なれなかったよ。残念ながら僕に設定された値では、嗜虐心を押し殺せるほどの理性は得られなかったみたい」
そう言って笑うと、彼女達は不安そうな表情を浮かべた。
これにて完結です。読んで下さってありがとうございました。
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