『星の涙』 惑星ポルキア
「協力の申し出が次々と入ってきています」ディーアが嬉しい悲鳴をあげた。「シエラさんの影響は抜群です」
「そうか」
「でも、さっすが副社長です。シエラさんに協力を呼びかけて貰うなんて、よく思いつきましたねぇ」
「いや……俺が頼んだのは、ミュージックチャンネルで生存表明をしてくれって、それだけだ。彼女が生きているとわかれば、それだけでも民衆の熱意は挫けるだろうと思ってな」
「じゃあ、あれは……」
「彼女が自分で言い出したことだ。たいしたもんだな」
「でも……なんか襲われたみたいですけど、大丈夫でしょうか?」
「ん? ああ、あれは演技だ」
「演技?」
「押し入ったのは、一緒に行ったスティーだよ」
「……なんてこと」
「ポルキアの結果を確認してから、もう一度放送に登場するはずだ。それまでは、どこかに身を潜めているだろう」
「やるなぁ、シエラ・ストーム」
そうこうするうちにも、次々と状況が報告されてくる。
「ポルキア中の宇宙港から有志の宇宙船が上がっています。コンテナに最速で接触できそうなのは二隻」
「所属不明船はどうなっている?」
「最初に協力要請に応じてくれた四隻がまだ同じところで頑張っています。所属不明船は現在六隻ですが、そのうち四隻の足止めには成功しています。あとは、追いかけっこですね」
「……まだ、宇宙船に向けての発砲はないんだな?」
「はい。これからもない……と信じたいのですがぁ……」
「……」
と、新規の通信受信ランプが点灯する。
「はい、ベルカルチャ王国情報局分室」
「こちらは惑星ポルキア地方政府だ。これから所属不明船に対して撤退勧告を行う。情報をまわしてくれ」
「……先ほどと対応が変わりましたねぇ?」
「ああ、主席官以下数名がどうも病気になったようでね。残った職員で可能な限りの対応をしているところです。急いでください」
「はい」
小型輸送船〈星海の女神〉号の艦橋で、艦長のトラウス・ビャルトはポルキア地方政府の勧告を聴いていた。この通信は、眼前にいる二隻の所属不明船にも届いているはずだ。
「連中の動きはどうだ」
「いまのところはありません」
オペレーターが観測結果を報告する。
所属不明船は、どちらも中型の輸送艦に見えた。しかし──
「輸送艦というよりも、戦艦といったほうが良さそうだな」
「以前に海賊船騒ぎがありましたが、その時の映像が似たような感じだったと思います」
別のオペレーターが答える。
現在の宇宙船業界に戦艦という艦種はないわけではない。一部の星系には、地球時代の海軍の流れをくむ宇宙軍なるものが存在していたりはする。しかし、その戦力を使っての戦争がいままで存在してこなかったため、宇宙戦艦というは多分に儀礼的な存在であったのだ。
「もし〈星系連合軍〉とかいうのが結成されたら、あんなのがうじゃうじゃ出てくるのかねえ」
「ぞっとしませんね」
「所属不明船、動きました!」
トラウスはほっとため息をついた。所属不明船の向こう側に件のコンテナが観測されている。
いまからなら、まだ回収には間にあうだろう。
「ようし、前進するぞ」
「待ってください」とオペレーターが叫ぶ。
「なんだ?」
「所属不明船、こちらに突っ込んできます」
「何?」
目の前の一隻が〈星海の女神〉号に向かってきていた。もう一隻は、背後から近づく別の輸送船に向かっているようだ。
「回避だ!」
「間に合いません! 突っ込んできます!」
「全員、衝撃に供えろ!」
叫んで、トラウスも座席にしがみつく。
その時──
まばゆい一条の閃光が宇宙を駆けた。
そして、眼前の所属不明船のエンジン付近から炎があがる。
「なんだ?」
行き足のついた所属不明船はバランスを崩してわずかに方向を変え、〈星海の女神〉のすぐ脇をすり抜ける。
そして──しばらく進んだ後、エンジン付近を中心に爆発──大破した。
「……撃ったのか? どこから?」
呆然と呟くトラウスに、オペレーターが叫ぶ。
「艦長! コンテナ捕捉」
「よ、よし。回収作業に入れ!」
「了解。回収作業に入ります」
所属不明船爆発の衝撃を引きずりながらも、〈星海の女神〉号はコンテナの回収作業に入った。エンジンを最大でふかし、相対速度を合わせる。そして──
「コンテナ、回収しました」
トラウスは宇宙図に目を凝らして周囲の状況を確認する。周囲には〈星海の女神〉号と、いくぶん遅れてやってきていた別の輸送船。二隻いたはずの所属不明船は消失していた。
「……二隻とも撃たれたのか? でも、いったい誰が撃ったんだ……」
「艦長」
「ん?」
「回収作業終了しました」
「あ、ああ、ご苦労。関係各所に連絡だ。帰港する」
「了解!」