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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
星の涙
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『星の涙』 乗り継ぎ

 惑星ペルキスから折り返すこと約十六時間。ベルカルチャ惑星開発会社のスティーとディーアは、ようやく近隣の大型宇宙港へとたどり着いた。レゼットとはここで別れることとなる。

「私の手際の悪さのために余計な手間をかけさせてしまって……」

 恐縮しきりのデトナグループ惑星開発担当課長レゼット・モンスに対して、スティーが如才なく答えを返す。

「こちらも、ちょっと社内でトラブルがあって決済が遅れて申し訳ありません。とりあえず資材の発送手配はすんでいますので、その点でご迷惑をおかけすることはないとおもいます」

「助かります。あの、送り先と発送方法に間違いありませんよね?」

「大丈夫です。そちらの書類通り」とディーア。「最速でってことで、マスドライバーでの無人打ち出しってことになってますけど、回収は大丈夫なんですかぁ?」

「それはもう。周囲にひとも宇宙船もないところですから。すでに弊社の回収船がスタンバイしています」

「ならいいですけどぉ」

「じゃあ、僕らはこれで」

「はい。ありがとうございました。お気をつけて」

 レゼットの大げさなお辞儀を背に受けて、スティーとディーアはきびすを返した。レゼットが見えなくなるまで、ふたりはひたすら無言で歩く。そして、角をひとつ曲がったところで走り出した。

「どうしますかぁ? スティー先輩」

「管制室だな。ここは独立宇宙港だから管制室も融通が利くだろう」

「了解です」



 身分を明かして管制室の警備室に飛び込んだスティーとディーアは、応接室へと通された。

「当、チボール宇宙港の副題表、アルコー・パイルです。ベルカルチャ籍ですよ」

「ベルカルチャ王国情報局のスティー・ブランクスです。こちらは同じくディーア・スピリトーソ」

 スティーとディーアは、ベルカルチャ惑星開発会社社員であると同時に、ベルカルチャ王国情報局の技官でもあった。

 三人はせわしなく握手を交わした。

「前置きはなしでいきましょう。ネオ・ニューヨークへの最速便は二時間後に出発する高速シャトルです。所要時間は約三十時間。一般席は満席ですが、ゲストルームの都合がつけられます」

「助かります」とスティー。

「しかし……正直、面倒なことになりましたな」アルコーが渋面を作る。「まさか、ソラ陛下にテロリストの汚名を着せるとは……」

「なんですってぇ?」

 ディーアの大声に、アルコーは驚いたように目を見開いた。

「おや、ご存じない? 公式発表はありませんが、もっぱらの噂です」

「……ついさっきまで乗っていた惑星調査船がこの上ないオンボロで、かろうじて音声放送を拾える以外、まともに外部ネットにも繋がらなくて」

 スティーの言葉にディーアが頬をふくらませる。ハッカーとしてそれなりの腕を持っているディーアだが、物理的にあれほどオンボロだと手の施しようがなかった。しかも、なぜか個人所有の携帯端末も途中から接続障害が起きて使えなくなってしまった。

「あれ、わざと通信を遮断してたんじゃないかって思うんですけどぉ」

「なぜそんなことするんだよ?」

「……」

「その船がどれほどのものだったかはわかりませんが、この宇宙港は通信状態万全です。通信室へご案内しましょう」



「社長!」

 勢い込んで通信モニタに話しかけたディーアの出鼻は、落ちついた声にくじかれた。

「陛下は現在会議に出席中だ」

「……なんだ。パルモか……」

 ようやく繋がったソラの携帯端末だったが、端末の向こうに顔を出したのは、〈星系代表者会議〉に同行している事務官のパルモ・メサダだった。ゲラン宰相の有能な右腕だが、有能すぎてディーアは苦手だった。

「社長たちは無事なのよね?」

「陛下と宰相はご無事だ。デニス殿下は、現在行方不明」

「行方不明? どういうことよ、それ!」

 パルモは爆発当時の様子をスティーとディーアに手短に語った。大会議場が封鎖されていて、いまだにデニスの捜索を行えないこと。なにより、そのデニス自体が、コンサートの時は会場にいなかったことにされてしまっていること。そして、ベルカルチャ王国が現在窮地に追い込まれていること──

「ちょっと、社長は副社長をほったらかして会議をやってるの?」

「言葉をつつしめ」とパルモ。「捜索は可能な限り行っている。いま、駐ネオ・ニューヨーク大使にも協力を仰いでいるところだ。ただ、国際宇宙会議センターの警備が強化されていて、おいそれと下手な動きができない。更に言えば、何かを探るような動きがテロ疑惑を強める悪循環もある」

「事故から十七時間くらいですよね」とスティー。

「ああ。救出の目安は七十二時間と言われているがな。会期はあと四日。その間はいまの警備態勢が続く」

「シエラ嬢だって遺体が出たわけじゃないんですよね?」

「ああ」

「……」

 しばらくスティーとパルモの会話を聞いていたディーアだったが、唐突にふたりの話を遮った。

「ねえ、おかしくないですかぁ?」

「おかしいって何が?」とスティー。

「だって、遺体も確認せずにシエラ・ストームほどの人気歌手を死んだことにしちゃったんですかぁ? 社長がつかまえたっていうその女テロリストはどうなったんです?」

「ESAの警備隊が取調中だ。私が立合いを求めても、けんもほろろの対応だった」

「ほら、どう考えたって、ESAの陰謀としか思えないじゃないですか!」

 パルモが渋い顔をした。

「そんな事は判っているんだよ」

「え?」

「陛下だってそれは判っている。だからこそ、陛下は会議で頑張っているんだ。本物のテロリストが存在しないのなら、次のテロは起こらない。ESAに尻をまくらせないための対応が重要なんだ。殿下とシエラ嬢を見つけられないのはESAにとっても不測の事態だと推測できる。それでも、ESAが、事態は自分達の手の内にある、と思っている限りは無茶はしないだろう」

「その間に、なんとかして副社長を先に見つけると?」

「そうだ。だが、我々にとってわずかな猶予になっているこの会期は、ESAの連中にとっても同様だ。この期間で、ベルカルチャをテロリストに確定する何かの仕掛けを考えているはずなんだ」

「仕掛け?」

「そうだ。言い訳のできない決定的な何かだ。そっちは、何か変わったことはないか?」

 スティーが惑星ペルキスの資材発注の件を簡単に報告する。ディーアがいかに惑星調査船がオンボロだったかを力説しようとしたが、それはパルモに簡単に遮られた。

「私は会議にもどる。ふたりとも、こちらに向かってくれるのはありがたいが、連中の企みを探るほうに注力してもらえると助かる」

「「はい」」

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