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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
星の涙
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『星の涙』 星系連合軍

 テロと目される二度の爆発を受けて、〈星系代表者会議〉のホスト国であるESAのジョージ・マテイトス大統領は会見を開いた。

 会見には参加星系のうちの三分の一程度の代表が同席した。全ての代表が同席できない理由を、マテイトス大統領は会見場の広さの問題と、いくつかの星系は同席を辞退したからだと発表したものだが、それが露骨な政治的策略によるものであることは火を見るよりも明らかだった。同席した星系はすべて〈星系連合軍〉への参加を表明していた大国だった。加えて、これは後になってわかったことだが、それ以外の星系代表たちは会見の時間を意図的に誤って伝えられていた。

 会見の席上、マテイトスは「今回のテロは人類への宣戦布告といっていい重大な行為だ」と避難した上で、「この難局に立ち向かうために、我々は〈星系連合軍〉を結成することをここに宣言する」とした。

「今回、我々は目の前でシエラ・ストーム嬢を失った。彼女の歌声は平和の象徴であり、それを蔑ろにしたテロリストを許すことは到底できない。我々は、速やかに連合軍の組織を作り上げ、テロリストに鉄槌を下す用意をすすめなければならない。いま、多くの人々がシエラ嬢の訃報に涙をながしていると思う。はからずも彼女が歌った「星の涙」。我々はここに、その名を冠した「星の涙作戦」の発動を宣言する。テロリストの目星はついている。作戦上この場でそれを明かすことはできないが、「星の涙作戦」を成就させることが、犠牲になったシエラ嬢の魂に報いることになるのはまちがいないのだ!」



「よく言うわね。……ベルカルチャのテロリスト認定は確定かしら」

「そのようですな。しかし、世間を納得させるには、いささか根拠が弱いと言えます。まだ、逆転の目はあるのではないかと」

 控え室のモニターでマテイトスの会見を見ながら、ソラとゲランが額を寄せあっていた。

「デニスのほうはどう?」

「誰かの遺体が回収された形跡はありません。デニス殿下はもとより例の歌手もです」

 ソラを筆頭に、ゲランも事務官も走りまわって情報を集めていた。ロゼの付き人の足取りもようとして知れなかった。各星系代表団にはデニス以外の行方不明者はいない様子だ。

「ESAも探しているようです。彼らにも何らかの不測の事態があったのではないでしょうか」

「でも、マテイトスはシエラ嬢が死んだと言い切った。つまり……」

「はい、最初から殺すつもりだったのでしょう。それをベルカルチャのせいにする腹積もりなのだろうと思います」

「ん──……」

 そうであっても、やはり何か決め手に欠く。決定的なテロの証拠がなければ、たとえESAといえども、惑星ベルカルチャ相手にそうそう戦端はひらけまい。なにより、ベルカルチャは民衆に受けがよい新興王国だ。いかなシエラ・ストームの死をもってしても、そう簡単に一国をまるまるテロリスト扱いできるとは思えない。何か奥の手を隠していると考えた方が自然だ。

「とりあえず情報収集を続けてちょうだい。ロゼがベルカルチャの人間で、だからベルカルチャがテロリストだっていうマテイトスの言い分は、デニスが出てくればとりあえず成立しなくなるわ。ゲランの言う通り、彼が予想外の事態をうまく言い繕おうとしているだけなら……まだこちらにも分はあるし、何としても先を越さないと行けないわ」

「はい」

 ソラはソファに身を預けて天井を仰いだ。

 デニスの身が心配だ。しかし、ESAもデニスとシエラを見つけられていないということは、まだ生きてどこかに閉じ込められている可能性があるということだ。ESAの手の内にあるという可能性も捨てきれないが、それならば、マテイトスは堂々とそのカードを切ってくるはずだ。

「星系連合軍……ESA……シエラ・ストーム……星の涙……ロゼ・ファルディ……デトナ星系……デニス……マテイトス……ベルカルチャ……」

 気が付くと、モニターにはシエラ・ストームのPVが流れていた。マテイトスの会見に続く、民意高揚のためのあざとい演出だ。


 ♪ねえ、教えてよ 誰か、教えて

 伸ばしたこの手が 溢れる想いが

 愛しいあのひとに はるかなあの世界に

 届く日がくるのでしょうか?


 歌姫シエラ・ストーム。そういえば、会議の資料に彼女のプロフィールが添付されていたっけ──

 なんだろう?

 なにかがひっかかっている。

 しかし、それが何なのかがわからない。

 まとまらない思考が、眠気の波にさらわれていく。


 ♪悠久のこの宇宙で

 星たちは今日も手を伸ばし


 そういえば、スティーとディーアはちゃんと仕事をしているだろうか。

 こんなとき、

 あの子たちがいてくれたら……


 ♪そして切なく あふれる輝きが

 星の──星の涙

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