『赤と青の星』 首都ラグタタ 4
ディーアが拾ってきた話題、そのひとつ目は、ここ〈青の大陸〉での話だった。
「なんていうか、怪しげな儲け話がまことしやかに囁かれています。誰でも一攫千金が狙えるんだそうです」
詳細はこうだった。
ここ一年ほど、あちらこちらの町でひと集めの仲立人が出没しているという。その仲立人は、ふらりと町に現れると、半年という期間限定で、屈強な男たちを集めていくという。交点軸にあまり傾きのない惑星ルテボボは、季節による温度差が少ない。そのため、農作業の閑散期というものがあるわけではない。 それでも、仲立人から提示される条件は破格のもので、多くの男たちがその誘いに乗っていくという。
「まさか、帰ってこないとか言うんじゃないだろうな」
「いえ、そんなことはありません。ちゃんと帰ってきているようです。ただ……」
「ただ?」
帰ってきた男たちは、自分たちがどこで働いていたのか分からないというのだ。
仕事の内容は覚えている。ある者はどこかの工場で働いたという。ある者は炭坑で鉱物の堀出しをしたという。ただ、それがどこなのかがわからない。
「ほかの星じゃないかって、もっぱらの噂です。宇宙船で一度宇宙にあがった、という声が多いらしいですから」
「一攫千金というのは?」とスティー。
「なんか、鉱山で働いてた人が、掘り出した石を持って帰ってきたそうなんです。調べたら宝石の原石だったって」
「宝石って言ったって色々あるだろう?」
「うーん、そこらへんははっきりしません。拳大のダイヤモンドやルビーだったって話もあれば、たんなる水晶だったという話もあります。今日一日では、実際にこの出稼ぎをやった人を見つけられませんでしたから」
「ふーん」
「ただですね、この話には別の説があるんです」
「別の説?」
「他の惑星や、どこぞの資源小惑星での秘密裡の開発って話が通説ですが、実はここ惑星ルテボボ上じゃないかって説があるんです。分かりますか?」
ディーアがデニスの目をのぞき込む。その眼差しが答えを雄弁に語っている。
「……赤の大陸」
なんともいえない沈黙が三人の間に流れた。
しばらく後、全員のジョッキが空になっていることに気づいたディーアがバーテンを呼んだ。なんとなく空気がかきまわり、ディーアが話の穂を紡ぐ。
ふたつ目の話題は、チョルココ星系全体の話だった。
「最近、海賊船が頻出するらしいんです」
海賊というのは通称で、実際に襲われて何かを奪われた宇宙船はないらしい。ただ、本来航路上にいるはずのない所属不明の武装宇宙船が突如現れ、戦闘速度で急接近したあげく、なにもせずに通り過ぎていくのだという。
「一部では幽霊船という呼ばれ方もしています」
「どこのメーカーの船なんだ?」
「それが、データベースには存在しない船らしいんです。海賊船に遭遇した船のレコーダーに残された映像を解析しても、該当する船はないらしくって」
「どっかのメーカーの試作船じゃないのか?」とスティー。
「いや、しかし、この近辺にメーカーの造船工場はなかったはずだが」とこちらはデニス。
「そうなんです。しかも、試作品の試験航行にはそれなりの決まり事があります。いきなり戦闘速度でつっこんできて良いなんて話はありませんし……それに、武装宇宙船だなんて穏やかじゃありません」
現在、武装宇宙船を主軸とする艦隊を保有する国家は多くはない。地球国家時代の軍隊組織を永続させている国家が示威のために保有していることがほとんどだ。それだって、SF作品のような宇宙艦隊同士の戦闘などあったためしはない。
「武装宇宙船だと分かった、ということは、何か派手な武器を積んでいたってことかな?」
デニスの言葉に、ディーアは小さく頷いた。
「何かの砲身にしか見えないものがたくさん付いていたそうです。実はこれは単なる飾りです、なんて冗談ではすまされないほどに。そして……これが、今まで海賊が出現した場所です」
ディーアの端末から、三人の目の前の空間にひと抱えもある大きな立体星間地図が浮かび上がる。地図の一部がビールのジョッキで隠れてしまい、ディーアはジョッキを脇へとずらした。
「赤い輝点が海賊目撃地点です。で、ここがルテボボ」
赤い輝点は、不規則に散らばっているように見える。しかし──
「なんというか、あからさま過ぎないか?」スティーがあきれ顔でいった。「ルテボボ周辺だけ、ブラックホールのように海賊が出現していないじゃないか」
「こうすると分かりやすいです」
広範囲で表示された星間地図上の輝点。それぞれの点を大きな球に拡大していくと、いずれ隣の球とぶつかり、空間が赤く塗りつぶされる。ある程度まで球を広げると、チョルココ星系のほとんどが赤に塗りつぶされるのだが──惑星ルテボボの周囲だけがぽっかりと抜けている。
「ルテボボの周辺空域がなにがしかの特別扱いをうけているような気がします。もちろん、偶然という可能性もありますけど……でもねえ?」
デニスが地図を睨みつける。
「特別扱いというよりも、ここから海賊船が飛び立っているという可能性のほうが高いんじゃないか。誰だって自分の家の近くでは悪さはしないだろ?」
「じゃあ、あのじいさんが〈赤の大陸〉を調査させたくない理由って……」
「いや、それはまた別とみた方がいい。ルゲナ翁が嘘をついているとは思えない」
と、ディーアが思い出したように付け加えた。
「そういえば、星系政府のひとが言ってましたけど、ルゲナ本家の頭首は頑固ですけど、親族の中にはそうじゃない人もいるみたいですよ」
「そうは言っても、あのじいさんが頭首で地権者なのは変わらないだろ? 俺らは政府の要請で動いてるわけだから、そこをすっ飛ばすわけにはいかないよ」
「そうですよねぇ」
ディーアが端末の電源を切り、バーのテーブル上に投影されていた星間地図が消えた。
「ま、今日はこんなとこです。どうですか、デニス・ローデンスキー副社長」
「面白かった。存分に飲め」
「やたっ! ビール追加でお願いしまーす」
ディーアの声を聞きながら、デニスは思考が深化していくのを感じた。
謎の出稼ぎ。
頻出する海賊。
〈赤の大陸〉の言い伝え。
そして、今ここにいない、彼女。
これは、単なる惑星開発調査では終わりそうにない──




