『星の涙』 警報
部屋の放送端末から、透明な歌声が流れていた。シエラ・ストームの「星の涙」だ。
「いいよなあ、この歌」
うっとりとスティーがつぶやく。
「そんなことより、社長に連絡はついたんですかぁ? スティー先輩」
歌にはまるっきり興味を示さずに、ディーアがつっこみをいれた。
「概要はメールで送った。でも返事はまだだ」
「社長にしては遅い。まさか副社長となにかいけないことでも……」
「あのなあ、ディーア。この放送はいま惑星ネオ・ニューヨークの国際宇宙会議センターから生中継なんだぜ?」
「それがなにか?」
「つまり、社長たちもこの会場で、この歌を聴いているってことだよ」
「うそ? それ音声放送? 映像はないの? 社長が写ってるかも!」
「こんなオンボロ惑星調査船じゃあライブ映像の放送波は受信できないんじゃないか? それより、資材の確保はすんだのか?」
お返しとばかりスティーが言う。
「済みました。あとはデトナに請求するだけですぅ」
「決済おりてないのに発注確定しちゃったのか?」
「だってぇ、二度手間なんですもの。発送も手配しましたよ。ダメならすぐに止められます。そのほうが仕事としてはスピーディーでしょ?」
「……」
スティーはふっとため息をつくと、放送に意識を移した。
♪そして切なく あふれる輝きが
星の──星の涙
「♪ほ~し~の~、ほしの~な~み~だ~」
「下手くそですね」
「……」
歌は間奏に入った。
スティーは、端末に向かってなにやら作業中の後輩に目を向ける。
いつもピンクのレディススーツに身をつつんだディーア。明るく、元気で、毒舌で、ソラに心酔している。年齢と外見からは考えられないほどの知識を誇り、運動神経も抜群。しかし──実際、彼女がどんな人間なのかはほとんど知らない。
「ん? なんですか? 先輩」
「いや……俺、ディーアのことほとんど知らないなあって思ってさ」
「なにを言って……」
──ザッ……
唐突に、部屋に流れていた音声放送が途切れた。
「?」
スティーは何となく気恥ずかしくなって立ち上がると、放送の受信状態をチェックする。
「あれ、受信状態に問題はないな……」
「放送そのものに問題があるってことですか? これ〈星系代表者会議〉でしょ?」
「……」
スティーとディーアが顔を見合わせた瞬間──
ピ──────────ッ
ふたりそれぞれの携帯端末が鋭い音を立てた。
この音が意味するところは──