『赤と青の星』 首都ラグタタ 3
「じいさんのあの話、どう思います?」
ビールのジョッキを豪快に傾けながら、スティーがデニスに訊いた。「今時、神の怒りだとかなんだとか、ナンセンスだと思いませんか」
「そうだな。きっと、言い伝えの裏に何かがあるんだろうよ」
「何かって……なんです?」
「わからん」
デニスもジョッキを傾ける。惑星ルテボボのビールは絶品だ。
「ああ──、先に始めてるなんてひどいですよ。待っててくださいよぅ」
ホテルのバーの入り口に、むくれた顔のディーアが立っていた。
「私が一生懸命働いているっていうのに、それを労おうって気はないんですか、おふたりは!」
「俺らだって働いている。じいさんの訳分からん話を延々と聞かされたんだぞ」
スティーのぼやきをさらっと無視したディーアは、バーテンダーに向かって大きな声を出した。「ビール、大ジョッキで!」
ひと時、ディーアが人心地つくのを待って、デニスは切りだした。
「で、何かおもしろい話はあったのか?」
「デニス副社長って何歳でしたっけ?」
「あ? 今は……三十歳だ」
「以外と若いくせに、ノリ悪いですよね。ビール飲んでるときくらい仕事の話やめません?」
一瞬の空白の後、デニスがにやりと笑う。
「それは魅力的な提案だな。ただし、ここの支払いは割り勘だ」
「え? あれ? そんな。だから労ってくださいよぅ」
「仕事の成果を示したら労ってやるよ」
「うぅ……」
がっくりと肩を落としたディーアを、スティーが面白そうに眺めている。と、ディーアの目が一瞬据わり、ハイヒールの足が目にも留まらぬ速さで動く。
「ぐあっ……痛ってえ!」
弁慶の泣き所を押さえて転げ回るスティーを見てわずかに溜飲を下げたディーアは、デニスに向き直ると、自分の携帯端末を開いた。
「今回の件に関係あるないの判断は後にするとして、いくつか面白い……いえ、面白くはないんですけど、聞き捨てならないような話題がありました」