『星をあげるよ』 手
死ぬような思いをして、ようやくたどり着いたボストチヌイ宇宙港で、ソラは何かを待っていた。
いままでとは違う、だれかが助けてくれるのを待っているのではなく、獲物が掛かるのを待っていた。
だから、彼がソラに声をかけたとき、かつてニコラスに声をかけられたときのような感慨はなかった。
彼は、柔らかそうな金髪をした二十歳前後の若者だった。どんな理由でソラに声をかけたのか、単なるナンパか、哀れみか、そんなことはどうでも良かった。スキを見せるつもりはなかったし、求められて必要があれば、彼と寝ることだって厭わないつもりだった。
そう、これは第一歩。
私の人生はここから始まる。
だから、一瞬の躊躇もしなかった。
「貰うわ。見返りはなに?」
「僕はこれからその星へ旅立つ。なにもない、田舎の星さ。僕と一緒に旅をしてくれるのが条件だ」
「そんなこと、おやすいご用だわ」
ありがとう、とその青年は言い、すっと手を差し出した。
ソラはその手をしっかりと握った。
これはチャンス。
この手は決して離さない。
なぜなら、この手の向こうに、輝かしい未来が見えるから。
こうして、ソラの物語が、ようやくここに始まる。
《星をあげるよ 了》