『星をあげるよ』 北へ 1
ソラは生まれて初めて通貨カードを使った。実体のないお金で買い物ができるのは不思議な気がした。
ルチャばあさんが用意してくれた金額は結構なモノだったが、それでも外の世界の物価はとてつもなく高かった。ソラは最初、知識でだけ知っていたホテルに宿泊したが、あまりの宿泊費の高さに目を回した。それ以降、夜はできるだけ野宿で済ますようにして、北へ向かって歩き続けた。
北。ずいぶんと遠いけれど、それでもここから一番近いところにある宇宙港。それはボストチヌイ宇宙港というところだった。
「宇宙に出る。宇宙に出て……王様になるんだ」
ソラの想いは漠然としたものだった。どうしたらそれが実現できるのかよく分からなかったが、とにかく宇宙へ上がるのが先決だと思った。
そうして花街を抜け出して十日目、名前も知らない町を歩いているときだった。
「おっと、ごめんよ」
通りすがりの若い男とぶつかった。
「あ、こちらこそすいません」
「なんのなんの」
男は風のように離れていった。
「?」
妙な違和感。ソラは自分のポケットに手をやり、そして青ざめた。
「ど、どろぼう!」
ポケットに入っていたはずの通貨カードが消えていた。さっきの男がすっていったに違いない。
ソラはあわてて男の後を追ったが、人混みに消えてしまった男を見つけることはできなかった。
「あの、今ここで若い男の人を見かけませんでしたか? 格好は……ええと……」
結局、スリを見つけることはできなかった。
すがるような思いで近くの警察署にも行ってみた。しかし、身分証明書の提示を求めれらて、後ずさりするように逃げてきてしまった。
「ごめん……ルチャばあさん。貰ったお金、盗られちゃった」
どうして、ひとのお金を盗んだりするんだろう。盗まれた方はこんなに困るし悔しいのに。
ソラは悔しくて、道ばたでひとり泣いた。泣いている暇があるなら前に進め、そう頭では分かっていても、体が動かなかった。
そうして日が暮れかけたとき、ソラにかけられる声があった。
「どうしたね、お嬢ちゃん」
「?」
「鞄でもおとしたか?」
ひげ面の大男は、ソラの肩に自分の上着を掛けると、こんな所にいたら風邪をひくからといってソラを促した。心のどこかが警戒音を発していたが、くじけかけた心に男の声は優しく染みて、ソラは促されるままに足を踏み出した。