『赤と青の星』 首都ラグタタ 2
首都ラグタタの中心部から車で三十分。広大な小麦畑の真ん中にその建物はあった。建坪こそ大きいが、木造平屋建ての作業場を兼ねたその家は、惑星の地権者が住むには質素すぎる気がする。
「何度来てもらってもなあ、答えは変わらないよ」
デニスとスティーの前に座る老人は、心底申し訳なさそうにそう言った。日に焼けた顔と長いあごひげが、いかにも大地に根付いた農夫といった雰囲気だ。しかし、彼こそが惑星ルテボボの権利を持つテール・ルゲナ翁その人であった。なお、彼の一族は非常に多く、この惑星にはルゲナ姓を持つひとが非常に多い。
「ルゲナ翁、私はベルカルチャ惑星開発会社の副社長、デニス・ローデンスキーです。部下が何度も失礼いたしました」
「いやいや、彼には色々話を聞いて貰って嬉しかったよ」
スティーが小さく肩をすくめた。おそらく、翁の思い出話を延々と聴かされたに違いない。
「しかしなあ、赤の地へは触れてはならぬ。それだけはいかん」
「ルゲナ翁、その理由を私にお聞かせ願えますか?」
「ふむ」
翁は安楽椅子に大きく沈み込むと、ゆっくりとあごひげをしごいた。
「ルテボボを見つけたのは、我らのご先祖様だ。あの宇宙大航海時代、野心に燃えたご先祖様たちは、仲間たちとともに宇宙船をかって銀河の外へ外へと探索の範囲を広げていった。やがて、後にチョルココ星系と呼ばれる地にまでたどり着いたご先祖様たちは、星系内を手分けして探索することにした。仲間たちには四つの氏族がいた。氏族ごとに分かれて探索をすることで、見つけた惑星の取り合いになることを避けようとしたのだ。結果、三つの氏族が新しい惑星を見つけた。ルゲナのご先祖様がみつけたのが、ここルテボボだ」
「ルテボボとはどういう意味ですか?」とデニス。
「その時の族長、偉大なるラグタタ・ルゲナの娘の名だ」
「娘……」スティーがつぶやく。どのような娘の顔を思い浮かべているのか。
「さて、偉大なるラグタタたちが降り立ったのは、赤の地だった」
「赤の地……つまり〈赤の大陸〉ってことですね?」
「しかし、惑星発見の喜びもつかの間、ラグタタたちは神の怒りを目の当たりにする。赤の地は触れてはいけない土地だったのだ。一方で、惑星の裏側に恵みの地があることも知る。神の怒りにひれ伏したラグタタたちは、赤の地を未来永劫封印し、一族がそこを守り続けることを条件に、ようやく許された。ほうほうの体で赤の地を抜けたラグタタたちは、改めて恵みの地へと降り立ち、そこに住むことにしたのだ」
「地球型惑星改造の最中も、一族はここに住んでいたのですか?」
「我々は軌道上からずっと見守っていた。それは厳しい試練だった。しかし、何代もの長きにわたり堪え忍んだおかげで、恵みの地はこうして豊穣な畑となった。これ以上なにを望んだらよいのだ」