『星をあげるよ』 東へ 1
地球がいかに廃れた星だろうと、現代社会はネットワーク社会だ。携帯通信端末を破棄してから気づいたのだが、あれがないと身分の証明もおぼつかない。
そして、借金取りは更に非情な手段にでてきた。いや、温情のある借金取りがいるのかどうかはしらないけれど。何かというと、僕の通貨カードを停止させたのだ。僕が使っていた通貨カードは、父がメインバンクにしていた銀行発行のモノだったから、停止させるのはさぞ簡単だったろう。
マラットの別荘を出たときには通貨カードはまだ使えた。だから、ある程度のところまでは移動することができていた。自宅からも相当な距離があるし、もう何も心配することはないと思っていたのだが──
僕はイルクーツクの町で一文無しの状態に陥った。めざすボストチヌイ宇宙港までは、まだ1000キロ以上の距離がある。
「……困った」
メインバンクの支店にはもちろん顔を出してみた。しかし、携帯通信端末で身分を証明できないことで、通貨カードを復活させることはできなかった。実家に身元確認がとれればすぐにでも再発行します、とは言われたが、それはできない相談だった。
僕は、イルクーツクの町をしばらくさまよった。なにかアルバイトでもして金を稼ごうかとも思ったが、それはこの町に長期滞在をすることを意味している。借金取りのこともあるが、なんだか地球でくすぶっている場合ではないような気がして気が進まない。
惑星の権利書を売るか? たとえ身分の証明がはっきりしていなくても、人が住める惑星の権利書ならそれなりの額になる。なにしろ、開発しだいで将来が見込めるのだ。投資をする気になるヤツも結構いるだろう──
投資?
──そうか、そういう手があるか。
僕は近くの公園のベンチに腰を据えると、旅行鞄を開いた。父が送ってよこした着替えの中にスーツが一揃いあったのだ。僕は木陰に場所を移すと、手早くスーツに着替えた。そうして公衆トイレの鏡に向かい、髪をなでつけて格好をつけてみた。
「僕は貴族の末裔、末裔だ……」そう、自分に言い聞かせる。「さ、行ってみようか!」