『星をあげるよ』 足抜け 2
「破瓜の儀式は行わない。小間使いのお前を見て気に入ってくれた御仁があってな。処女なら是非にとおっしゃってくれた」
遊女屋の主人がしゃべるのを、ソラは他人事のように聞いていた。行わないと言われた破瓜の儀式とはいったい何をするはずだったのか──
「初日から客がつくなんざついているぞ、ソラ。衣装はこちらで用意したから安心していいぞ」
その衣装代がソラの借金になることは分かっている。ルチャばあさんに色々と教えて貰ったお陰で、花街の仕組みもだいぶ分かっていた。おそらく、母親はソラを担保にして店から多額の借金をしている。そのためにソラが遊女になるのは決まっていたのだ。一度借りた借金は、何をどうやっても雪だるま式に増える。唯一の救いはソラ自身にはまだ借金がないことだが、これで衣装代の借金ができあがってしまった。母親が遊女を引退すれば、その借金もソラの肩に掛かってくるのだろう。
「ソラ、聞いているのかい?」
背後から母親が強い口調で言う。
「聞いています。大丈夫」
「おまえは遊女の娘だし、なにをやるのかは分かっているな?」
「はい」
私に選択肢はないのだろうか──
「じゃあ、初仕事は今夜だ。湯に入って体を綺麗にしておきなさい」
「はい……」
遊女屋の一室、今夜客を接待する部屋に、ソラは母親と二人で残された。
「これで、お前と私はライバルだね」
「え?」
「だってそうだろ? 同じ遊女屋で客をとるんだ。今日まで育ててやったんだから、もうけが出たらこちらにも回すんだよ。ま、私の娘なんだからすぐに上手くなるだろうよ」
「……」
それが母親の本音なのかどうなのか、ソラには判断がつかなかった。でも、それでも、それらの言葉はソラの胸に突き刺さった。
「湯に入ります」
「ああ。綺麗な体は今日までだからね。じっくり洗いな」