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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
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『赤と青の星』 首都ラグタタ 1

 どこまでも広がる広大な農作地の中に、唐突に生えている銀色のビル群。それが、惑星ルテボボの首都ラグタタの風景だった。チョルココ星系政府ルテボボ支府を始めとする行政機関、輸出産業を支える商社、内需向けの製品を作っているメーカーの本社など、ルテボボの主要な機能はすべてここに集中している。

 そんなビル群の一角、政府要人などにも利用されるホテルの一室に、ベルカルチャ惑星開発会社は臨時の事務所を構えていた。

「相変わらずのれんに腕押しですね」

 頭を抱えるようにして、スティーが唸った。明るいブラウンの髪をくしゃくしゃにかき回す。

「商売っ気がないというより、むしろ何かを隠しているのではと疑いたくなってきますよ」

 ベルカルチャ惑星開発会社は、チョルココ星系政府からの依頼で惑星ルテボボの開発支援に赴いていた。惑星開発は高収益が期待される大事業だが、個々の惑星政府ではノウハウが不足している分、思うにまかせないことが多い。各政府が民間の業者に調査から企画、あげく開発そのものまでを委託することもままある。ベルカルチャ惑星開発会社も、そんな民間企業のひとつだった。

 チョルココ星系政府の星系開発委員会が眼をつけたのは、未開発の〈赤の大陸〉だった。そこから有用な鉱物が採取できるのであれば、ルテボボは資源惑星としても価値を増す。〈赤の大陸〉は誰も住まない不毛の地だから調査は簡単に進むだろう、と委員会も、依頼をうけたベルカルチャ惑星開発会社も高をくくっていた。しかし、話はそんなに簡単ではなかった。

 問題は、地権者の存在だった。

 現在、銀河にあまた存在する人が住む惑星のうち、約半分に地権者が存在する。惑星そのものの所有者ということだ。王制をひいている惑星で、王家が所有者というのが良くあるパターンだが、いわゆる民主主義のような政治体制の国でも、星の所有者が別に存在しているという場合が存在するのだ。それは、惑星開発の初期にまでその理由を遡る必要がある。

 宇宙開発が地球上の国家単位の事業だった頃。発見した惑星の権利は、発見した国がそれを主張することができた。そして更には、一部の貴族や富豪たちは、みずからの力で惑星を発見したいと考え、それを実行した。地球という限られた土地を分け合うのではなく、無限に広がる宇宙に新たな土地を見いだす。これが彼らを駆り立てた大きな理由だったのは言うまでもない。そして、当然発見した惑星の権利は、彼らが主張することになる。以降、個人の調査行で発見した惑星は、その個人が権利を主張するという慣例が生まれた。宇宙大航海時代の幕開けである。

 その後、惑星の権利は投機の対象ともなり、多くの投資家や企業のもとを転がることになる。一方で、投資家たちは惑星上の行政にはさほど興味を示さないことが多かった。そのため、行政府は惑星上で自然発生的におきることも多く、それが結果的に権利者と対立することも少なくない。しかし、惑星の権利者のほうが行政府よりも立場が上のことが多く、惑星全体の総生産から幾ばくかの権利料を受け取るのが普通だ。たとえわずかな率であっても、元が惑星単位の総生産額なのだから、相対的には莫大な金額になる。

「資源の輸出で利益が上がれば、彼だって収入が増えるはずなのに、なんででしょうね?」

 今回の案件で渉外担当のスティーは、ここ数日、惑星ルテボボの地権者に〈赤の大陸〉を調査する許可をもとめているのだが、はかばかしい返事が得られていないのだった。

「なにか、やばいことでもやっているんじゃないですかぁ」そう言ったのはディーア。

 今回、彼女の担当は調査計画の立案なのだが、調査そのものの許可が下りないので暇をもてあましている。ちなみに彼女のトレードマークはピンク色のビジネススーツだ。

「このまんまじゃ、私たち無能者扱いでお払い箱になっちゃいませんかぁ?」

「おい、まるで俺が無能みたいな言い方じゃないか」

「あれ、そんな風に聞こえました? 気のせいじゃないですか?」

「やめろ、ふたりとも。明日は俺もスティーと一緒に行く。惑星開発にはそれぞれ固有の問題がついてまわる。今回はそれが地権者だったってことだ。泣き言を言っている暇があったら方法を考えろ」

 今回の案件の責任者デニスは、スティーとディーアを交互に見た。ルテボボ開発計画のグループは基本的にこの三人。ベルカルチャ惑星開発会社はそれほど規模の大きい会社ではなく、調査から開発計画の立案までを主な仕事としている。実際の調査に際しては地元政府や、地元企業の力を借りざるを得ない場面が多々あり、それに伴うトラブルは日常茶飯事なのだが──

「スティーはもう一度地権者のことをよく調べておいてくれ。それから、ディーアは〈赤の大陸〉について何でも良いから調べて欲しい。地権者が調査を渋っている理由が、何か分かるかも知れない」

「はい」とふたりが声をそろえた。

「それで、あの……」とディーアが恐る恐る口を開く。

「ん?」

「社長はどちらへ?」

「……彼女のことは気にするな。我々三人は依頼通りの仕事をこなせばいい」

 そう。本来ならばもうひとり、この場にいるべき人物がいるのだが──それは言っても詮無いことだと、三人が三人ともあきらめていた。

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