『赤と青の星』 追跡 2
待ち伏せを警戒したものの、地下へと続く階段には誰もいなかった。
三人は慎重に、地下工場を見下ろせるキャットウオークに出る。
「!」
狭い通路を大勢がこちらに向かっていた。三人はいったん銃を構えて、しかし、あわてて銃口を下げる。よく見れば、それは両手を挙げた一般の労働者たちだった。しかも、次々と数が増えている。
「ちっ、考えたわね」
狭い通路は、人垣でふさがれてしまえば進めない。これなら武装していなくても十分時間稼ぎができる。まさかケチらすわけにもいかない。
ソラは辺りを見回した。どこかに飛び移るにしてもここは高すぎる。と──
「伏せて──!」
突然ディーアが大声で叫び、銃を天井に向けて乱射した。
「ディーア、何を……」
「さ、社長いきますよ。足下気をつけてください。せーの、ごめんなさ────い」
「……」
あろうことか、ディーアはしゃがみ込んだ人々の背中を容赦なく踏みつけて通路をかけていった。呆れつつも、迷うことなくソラも後に続く。
ひとの背中は走りづらい。何度かバランスを崩しそうになるが、それでも通路を渡りきった。タイミングを逸したスティーが、人垣の向こうでオタオタしている。
「先輩使えなさすぎ!」
「……、あんたハイヒールなのに容赦ないわね」
「へへへ」
無駄口をたたきつつも、ソラとディーアは星河王の執務室とおぼしき部屋を目指す。なんのかんのと、 数々の修羅場をくぐり抜けてきた組み合わせだけに心強い。
部屋の前には、ルゲナ兄弟の二番目と三番目が銃を構えて立っていた。
「ビンゴ!」
ディーアは躊躇せずに銃線をくぐってふたりに駆け寄ると、奥に立っていたルゲナの次男の鳩尾に膝をたたきこんだ。タイトスカートでよくもそこまで、というほど見事な蹴りだった。
もんどりうった兄に気を取られた瞬間、今度は三男の喉元にソラの肘が容赦なく打ち据えられる。
「ああ、社長だって容赦ないじゃないですかぁ……」
「当然」
ふたりは兄弟の拳銃を取り上げると、扉の両脇にぴたちと張り付いた。
ソラが指でカウントをとる。3、2、1、GO!
「!」
応接室と思われる部屋に飛び込んで、ソラとディーアは固まった。
「はい、そこまで」
「あんた……自分の弟になにをしているの?」
「んん? ひ・と・じ・ち」
ルゲナ兄弟の長男が、ルードの首を後ろから押さえ込み、そのこめかみに拳銃を押しつけていた。