『赤と青の星』 対峙 1
「そのレリーフがお気に召したようですね、陛下」
背後から声がした。振り向くと、背の高い銀髪と男が、ルード以下四名の男を引き連れて立っていた。そのうちの一人は数時間前に見たルードの兄。顔と雰囲気から、他の二人もルードの兄なのだろうと見当がついた。
「あなたが……王とやら?」
「お初にお目にかかります。私は星河王。星河騎士団の首魁です」
「恥ずかしい名前ね」
「……」
銀髪の星河王は本当に恥ずかしそうだった。
「ええ、まあ。仮の名です。本名は勘弁してください」
「星河騎士団という名前も仮ね。ここ惑星ルテボボでのみ使っているのでしょう?」
「……」
ルゲナ四兄弟が動揺したようだった。
「崇高な使命の前には、名前なんてどうでもいいことです」
「あなた、武装宇宙船艦隊を使ったテロを画策しているのね?」
「テロじゃない!」と叫んだのはルードだ。「星河王は、戦争のない銀河を、国の垣根を取り払った人類の統一を目指しているんだ」
ふん、とソラはため息をついた。
「ずいぶんなお題目を唱えるのね。でもねルード、そのせいで泣いている女の子がいるのよ」
「女の子?」
「そう。儲け話に吊られて出かけていって、帰ってこなかったお父さんがいる。その女の子はね、いまでも夜な夜なお父さんを待っているのよ」
「くっくっくっ。一国の女王がずいぶんと感傷的なことをおっしゃいますね?」と星河王。「そんな話、どこの国のどこにだって転がっているじゃないですか」
「そうね。でも、私が気付いたからには、その根は根絶する。私はそうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていく」
ソラの瞳がひたと星河王に据えられた。まるで肉食獣のような輝きだった。
「そうですね。一応、武装宇宙船を造っていることは認めましょう。しかし、それがそのまま武装蜂起に繋がるのは短絡的じゃあありませんか? 私はここルテボボで宇宙船を建造する重工業会社を設立するつもりなんですよ。そうすれば、ルテボボの皆さんにだって仕事ができるし良いことだらけじゃないですか」
ソラが目を眇める。
「そういえば、〈放浪の銀狐〉とか呼ばれている詐欺師がいたわね。口八丁手八丁で各国から莫大な資金をひねり出して雲隠れするとか……たしか、本名は……」
「おっと、まあ私の正体なんてどうでもいいんですよ。ベルカルチャ女王陛下。しかし、陛下ともあろうお方が、こんなところでおひとりなんて迂闊にもほどがあります」
「私はいつだってひとりで行動しているわ」
「そうですか。まあ、でも」星河王は懐から黒光りする拳銃を取り出した。「ひとり旅もこれで終りです」
ひたと、銃口がソラに向けられる。
「しかし、うわさとは当てにならないものですね。どれほど凶悪な顔の女王様かと思いましたが、殺すのが勿体なくなるくらいですよ」
「そう」
「ひとつお伺いしますが、私と手を組む気はありませんか? 貴女となら宇宙全てが手に入りそうだ」
「お断りよ」
星河王が首を振る。
「残念です。ここで殺しておいた方が、後々差し障りがなさそうですね」
星河王が手で合図をすると、ルードを除いた兄三人も拳銃を抜いた。
「ちょっ……」ルードがたまらずに声をあげようとしたその瞬間──