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星の女王 ~ソラの物語~  作者: 夏乃市
赤と青の星
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『赤と青の星』 遺跡の丘

 エレベーターは、途中停まることなく最上階まで到達した。

 ソラは辺りに注意をはらいながら外に出る。そこは、ただ長い通路が続いているだけの場所だった。あまりひとが通らないのか、床に積もった砂埃がけっこうな厚さになっている。

 ソラは迷うことなく通路を直進した。そして、五〇〇メートルほど行ったところで、地上へと続く階段を見つけた。階段は幾重にもつづら折りになっていて、どれだけ昇ったのか分からなくなった頃、ようやくソラは日の光の下へと辿り着いた。

 そこは──

「なに? ここ……」

 ソラは、かつて受けたことのない衝撃を受けた。

 生れてから二十六年の人生で、大概のことは経験したと思っていた。良いことも、悪いことも、感動的なことも、衝撃的なことも。

 だから、どんな場面に出くわしても落ちついていられる自信があったのだが──

「凄い! 凄い凄い! これはすごい!」

 ソラは走り出した。

 ソラの目の前には信じられない光景が広がっていた。

 なんと言葉にしたらよいのか──あえていうなら、遺跡。

 そう、そこは遺跡だった。

「この柱は孔雀石かしら。こっちのタイルはトルコ石。ああ、あの青はラピスラズリね」

 砂岩の岩山に囲まれた空間に、色とりどりの石で作られた、精緻な遺跡が広がっていた。

 繊細なトルコ石のタイルが敷き詰められた碧い歩道。

 両脇に建つ、目にも鮮やかな孔雀石の緑色をした柱。

 大理石を削った謎の銅像が、白亜の身体で列をなす。

 歩道の脇にはベンチとおぼしきものまで用意されて、

 ラピスラズリの青や自然鉄の赤が彩りを添えている。

 でも、これは──

「あるはずのない遺跡……」

 どう見積もっても、この遺跡は千年を下らない年月を経ている。人類がこの惑星ルテボボを発見してからまだ二〇〇年。

 ならば、これらはいったい誰が作ったものなのか──

 ソラは、言いしれぬ興奮と、それから底知れぬ恐ろしさの両方にさいなまれながら、遺跡の中を歩いた。

〈赤の大陸〉が禁忌の地とされているのは、この遺跡が原因に違いなかった。

 この惑星を発見した者たちは、これを見てなんと思ったのだろう。おそらく、今のソラと同じように、興奮し、恐れおののき、そして──大陸ごと封印することとしたに違いない。

 そうして、今となってはこの遺跡は爆弾になりつつある。

 これが存在するということは、お前たちより先にここに辿り着いた者たちがいるはずだと、そういう難癖をつける輩がかならず現れるだろう。お前たちより先にここに辿り着き、どこかから遺跡をもってきた者がいるのだと――

 ソラは思う。これは、可能な限り早急に調査をする必要がある。宇宙大航海時代より古いことを確定し、さらにはこの惑星で作られ、この惑星に有り続けたのだと証明しなければならない。それが確定すれば、ルテボボの人々がここを隠す必要はなくなるのだ。

 この遺跡そのものを神聖視するのはいい。しかし、それが結果として今回のような事態を招くのなら、それは良くないことだ。それだけは、ソラは胸を張って断言できる。

 この素晴らしい遺跡が、ネリアの涙を招いたのだとしたら、それは悲しすぎるから――

 ソラは、大通りと思われる道をまっすぐ進んだ。その先には大理石の階段があった。

「祭壇かしら」

 ソラは神妙は面持ちで一礼をすると、階段を上がった。階段の上は広場になっていて、中央に大きな真四角形のレリーフが立てられていた。

「宇宙……」

 それは、宇宙を表したレリーフのようだった。

 星空を表すのは、黄鉄鉱の粒子がちりばめられた瑠璃色のラピスラズリ。

 真ん中に輝く水晶は、太陽を表しているのだろう。

 レリーフ下部には大きなルビーとサファイアが埋め込まれた赤と青の星、つまりはここルテボボが表されている。

 そして、上部には──

「ああ……」

 ソラは我知らず膝をつき、祈りのポーズを捧げた。

 黄金を使って宇宙の最上に刻み込まれているのは、まごう事なき女神──いや、これは──

「星の……女王」

 これを作ったのが人類なのか、それともそれ以外の存在なのか、それは分からない。

 でも、星の女王の存在を信じるものたちがここにいた。

 その事実だけで、ソラは涙が出るほどの感銘を受けずにはいられなかった。

 太陽の光が黄金の女王をきらきらと輝かす。

 ソラは両手を胸の前に重ねたまま、あきることなくその姿を眺め続けた。

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