『赤と青の星』 地下工場 2
牢と言っても、使われていない倉庫を牢屋代わりに使っているだけのようだった。トイレも洗面台もないこんな場所では、長期間ひとを放り込んではおけない。
後ろ手に縛られたまま床に転がされたソラは、男たちの足音が遠ざかっていくのをじっと待っていた。連行する際に胸や尻に無遠慮に触られ、油まみれになってしまったのがなんとも気持ち悪い。
耳を澄まし、表にひとがいなくなったことを確信したソラは上体を起こした。現状を確認するために周囲を見渡す。部屋には小さな灯りがひとつ。今にも消えそうな灯りだが、暗闇よりは数段ましだ。そして、部屋の隅にはバケツがひとつと、使い古したモップが三本転がっているだけ。
「トイレ代わり? まさかね」
ソラは自嘲気味につぶやくと、ドアへと目を移した。瞳には肉食獣のような輝きが宿る。
典型的なシリンダー錠がひとつ。
「さて……ろくに身体検査をされなかったのは幸運だったわ」
ソラはまず壁際まで移動した。背中を壁につけ、左手首に体重を乗せる。
「ぐっ……」
鈍い音と一瞬の痛みののち、はずれた左手首からロープが抜け落ちる。にじんだ涙はそのままに、ソラは今度は右手で左手首を押さえると、力一杯それをはめた。
「痛ぅ──……」
息が整うまで数秒。ソラはうずくまって痛みに耐えた。
続いて砂にまみれたズボンを降ろしたソラは、膣内へと指を入れる。
「ん……っ」
そこから取り出されたのは、小さな袋だった。手早く服装を整えると、ソラは袋を開けた。中には小さなナイフと、瞬発型電気雷管、電池、そして錠剤が二粒入っていた。
続いて、ナイフを使って上着の袖を裂き、それをひも状にして左の二の腕に強く巻き付けた。残った布を口にくわえ、深呼吸をして右手にナイフを構える。
つっ、とナイフが左上腕部を走る。皮数枚を裂いたその下には、薄い板状のものが埋め込まれていた。 ソラは指をつっこむと、強引にそれを引っ張り出す。痛みに涙がにじむが、叫び声を上げるのはかろうじて耐えた。血と脂にまみれたそれを床に放り出し、手早く傷跡を縛り上げる。現代の医療技術ならば傷跡を消すことなどたやすい。何しろ、これを埋め込んだ跡を完全に消してあったのだから。
傷の状態と手首の状態を確認して、ソラは錠剤を眺めた。痛み止めだ。飲みたい誘惑に駆られるが、これを飲むと逆に感覚が鈍ってしまう恐れがある。ソラは錠剤をポケットにしまうと、腕から取り出した板を手に取り、血塗れた包装を破いた。
プラスチック爆薬。可塑性をもつこの爆薬は、単体では安定していて爆発の危険は少ない。雷管と組み合わせることではじめて爆弾となる。
再びドアの外にひとがいないことを確かめたソラは、扉のシリンダー錠に爆薬を仕掛けた。雷管を差し、そこからつながるコードに電池を繋ぐ──
ぼんっ、という間の抜けた音がして、ドアの錠が飛んだ。大した威力ではないが、錠を開けるくらいなら十分だ。
さっきまで後ろ手に縛られていたロープで髪をくくり上げると、まるで狩をする猛獣のような足取りで、ソラは扉の外へと踏み出した。




