『赤と青の星』 地下工場 1
案の定、小屋の奥には地下へと続く階段があった。
後ろ手にロープで縛られ、ルードに背中から拳銃で追い立てられたソラは、ゆっくりとその階段を下りていく。
やがて、目の前に巨大な空間が広がった。
「なんて大きい……」
それは、地下の空洞としては破格の大きさだった。建造中の宇宙船がまるまるそこに収まっている。
「ソラの予想した通りだよ。この〈赤の大陸〉はアルミニウムが豊富に採れる。そのほか、宇宙船の建造に必要な資源は採り放題だ。場所も腐るほどあるしな」
「いったいどこの誰がこんなことを。ルテボボではないでしょう?」
「……慧眼だな。でも、賢すぎる女は可愛くない」
「そう」
地下の空洞があまりにも大きいため、地上からの通路はキャットウォークのような有様になっている。目もくらむ高さだ。
「半年間の期間労働で雇った人たちは、ここで働かせているのね」
「ここだけじゃない。ボーキサイトの採掘場や、アルミの精錬所なんかもある」
ソラは空洞の底に目を凝らした。夜明け前の時間帯だというのに人が働いている。今時の造船工場は半自動化しているところがほとんどだというのに、ここでは驚くほど多くの人間が、しかも昼夜を問わず働いているのか。
「どれだけの人がいるの?」
「それは……」
ルードが口を開きかけたとき、通路の向かいから一人の男が近づいてきた。ルードとよく似た男だ。
「しゃべりすぎだ、ルード」
「ちい兄さん」
「この女か、俺たちのことをかぎまわっていたってやつは。あれだけの芝居をうったのに、なんで殺さない?」
芝居──つまり、ソラが予想した通り、あの墜落劇は仕込まれた茶番だったというわけだ。
「いい女なんだ。おれが面倒見るからさ」
ふん、とルードの兄が鼻で笑った。四人兄弟と言っていたから、「ちい兄さん」というのはおそらく三男ということになるのだろう。
「お前にどうにかできる玉には見えないがな。とりあえず、どっかに放り込んでおけ。王がいらっしゃっている。挨拶するぞ」
「え? 本当に!」
──王?
ルードはソラを小突くと、通路の奥まで急がせた。そこで粗末なエレベーターに乗り込み、再下層まで一気に降りる。エレベーターを降りたところでは、機械油まみれの屈強な男ふたりがなにやら作業をしていた。
「こいつを、牢に放り込んでおけ」
「これはこれは……へへへへへ」
男たちは、ソラを上から下まで舐めるように見て下卑た笑い声をあげる。
「おい、その女は俺のだ。手をつけたらただじゃ置かないぞ」
「へいへい」
「ソラ、何か言うことはないのか?」
最後にルードが名残惜しげに訊く。
「じゃあね、坊や」
「!」
エレベーターが締まり、中からルードの兄が爆笑する声が聞こえた。
ソラは油まみれの男たちに小突かれながら歩かされ、造船工場の隅にある薄汚れた倉庫へと放り込まれた。